やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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さらば京都。修学旅行編終結

side比企谷八幡

 

京都駅の屋上からは京都の街並みが一望できる。

近代的な建物と神社仏閣が入り混じり、そこへ人々の営みが溶け込んでいる。

千年前と変わらぬ街とて、その有り様は日々変わる。

千年王城と謳われようと変化していく。しかし、いつしか完全に変わることもあるだろう。それは例えばジョースター家とSPW財団との関係。例えば閣下と俺達。

そしてメイドイン・ヘブンが無くともいずれは一巡する世界。宇宙。

修学旅行最終日。

新幹線を待つ僅かな時間。俺は土産物を冷やかすこともせず、ここで人を待っていた。

わざわざ外階段を登ってくる人の姿がある。宿を出るときにロビーで新聞を読んでいたそいつにこっそり耳打ちをしておいたからだ。

別の奴には既に俺は呼び出されているしな。

 

承太郎「待たせたな」

 

俺が呼び出した人物は杜王町事件で着ていた時の服装、白いコートと白い帽子を被ったジョースター家の当主、空条承太郎だ。

 

八幡「なぁ、昨夜。あの規格外が出てきた」

 

承太郎「規格外?ああ、あの世界の……それで?」

 

八幡「今回に限って何で承太郎が付いてきたのかが疑問に思ってな……本人に聞けって言われた」

 

承太郎はそこで嘆息する。

 

承太郎「京都にじゃあなく、正確には関西に用事があった。財団の調査の結果についてな」

 

財団の調査?関西で気になることが元々あったってことか?

 

承太郎「2年前のあの事件、覚えているか?」

 

2年前。覚えてないわけがない。

俺達の後始末の不手際が起こした悲劇。1つのいなか町が木っ端微塵になってしまったあの事件は……忘れたくても忘れない。

 

承太郎「最近、あそこをうろつく奴らがいるという報告を受けてな………」

 

あの街に落ちた隕石はスタンド使いを生み出す矢と同じ材質を持つ物だった。あれを世に出すわけにはいかなかった俺達アーシスは、物質を空間ごと消すことができる億泰さんを中心に始末した。

それこそ瓢箪形になった湖の湖底まで潜って徹底的に消す。学者などからは強いクレームがきたが、SPW財団はそれを強行した。金を使ってマスコミの意識を剃らし、世論を別の方向に誘導して。

もうあそこには何もないはずだ。そんなところをうろつく奴がいるとしたら……。

 

承太郎「ウルフス……だろうな。いたのは」

 

あの隕石を使って何をやるつもりだったのか……意図がまったく読めない。ウルフスの考えなんてわかるはずも無いのだが。

 

承太郎「ウルフスは関西を拠点にしてあそこで何かを手に入れようとしていた。そこに俺達が入ってきたから襲って来たのだろう。財団の職員も襲われたようだ」

 

八幡「職員の方は?」

 

承太郎は黙って首を振る。

………そうか。やられたのか。俺達が複数でかかってやっと1体を何とか倒せるのがウルフスだ。一般の職員や支援部隊の人間ではかなう訳がないか……。

 

承太郎「3年前、あれを完全に破壊したのは良かったのかも知れないな。スタンド使いを生み出す矢と同じ材質、同じウイルスを含んだ隕石だ。ウルフスにあの矢と同じものが渡ったのならば、何を企んでいたとしても碌な結果にはならなかっただろう」

 

同時に引っ掛かりを覚えなくもない。ならば現存している俺達が管理している矢を狙ってこないのは何故なのか?と言うことだ。

マリアナ海溝に眠っている一本についてハーミット・アメジストで念写してみるが……。動きは無いようだ。何が狙いなのかがさっぱりわからない。

理由はわからないが、ウルフスがたくさん関西にいたのはそういう事か……。俺達は意図せずに奴等の庭に飛び込んでしまったと言うことになる。今回はジョースターのみんながいなければ本当に危なかった。

 

承太郎「あそこの守備は強化しておく必要があるだろう。だが、俺達への攻撃の手を緩めるとも思えん。対策と戦術の練り直しは必須になるな」

 

八幡「………岐阜の調査よりも俺達の身の安全を優先してくれたこと、感謝するよ」

 

承太郎「ふ………それはジョルノにも言ってやるんだな。アイツも本来なら俺と同じように岐阜の調査をやるはずだったからな。結果としてお前たちを優先して良かった」

 

承太郎達が岐阜の調査を優先していたら、恐らくは誰も助かっていなかった。特に最後のオロチは間違いなくやられていただろう。

 

八幡「ありがとな……叔父貴分」

 

承太郎「少し気味が悪いぞ。素直に感謝するお前なんてな。それに、まだまだ戦いはここからだ。気を抜くのは早い」

 

八幡「わかってるよ。で、その後の事はどうするんだ?」

 

承太郎「それは何の事についてだ?」

 

色々ある。

 

八幡「さしずめ関東に帰った後、俺達がウルフスを倒した後、そして…………海老名の事だ」

 

承太郎「関東に帰った後は戦術の見直しと葉山達の強化、それに連携を中心にした訓練だな。ウルフスを倒した後についてはアメリカに帰って元の生活に戻るだけだ。海老名については……」

 

承太郎はそこで言葉を区切る。

 

承太郎「正直に言えば驚いた。あの花京院である海老名がまさか……とな。だが、俺は一度結婚は失敗しているし、どちらの仕事柄としても側にいることは出来ない。なにより、俺は海老名を大切な仲間としてしか今まで見ていなかった。急にこんなことを言われてもな……」

 

承太郎にしては珍しく歯切れが悪い。しかし、その他の有象無象に比べたら海老名は承太郎の孤独な家庭環境を変えてくれるかも知れない。承太郎は歳の差を気にしているかも知れないし、離婚経験とそうなった理由を考えれば簡単には割り切れないのも事実だ。

だが、海老名もそれは考えた上で…承太郎を好きでいることに決めたのだろう。

 

八幡「まぁ……お前の気持ちはともかくとして、回りがうるさいんじゃあ無いのか?特にジョジョやいろはとか、徐倫とか。なんてったって……」

 

仗助と静の外堀を完全に埋めたんだしな。

俺といろはのことも。

 

承太郎「ヤレヤレだ。煩わしい事になりそうだ……話はこれで終わりか?」 

 

八幡「ああ。ありがとな。承太郎」

 

承太郎「最後まで気を抜くんじゃあないぞ」

 

承太郎は帽子を被り直して去っていく。

………そして。反対側から代わりの人物が入ってきた。

 

海老名「はろはろー」

 

たった今、話題に上がった海老名がいろはを伴って現れる。

肩までの黒髪に赤いフレームの眼鏡。薄いレンズの奥にある瞳は澄んでいる。顔の造作も身体のパーツも濃い印象だった前世の花京院とは真逆の小造りな印象を受ける。黙っていれば図書室のカウンターにでも座っていたらそれはもう見事に絵になるだろう。

隣に佇むいろはには負けるがな。とはいえ、それは俺の個人的な感情なのだが。

 

海老名「承太郎と話をしていたんだね」

 

八幡「覗いていたのか」

 

まぁ、魂が元に戻った事で波紋も元に戻り、得意の気配の察知も戻っていたから誰かがいたのはわかっていたのだが、個人の特定までは出来なかった。まだ鈍っているようだ。

 

海老名「それはお互い様だよ。夕べの私と戸部っちのこと、覗いていたでしょ?」

 

まぁ、海老名なら気が付かない訳がないか。

 

一見陽気で、けれどその実百戦錬磨で警戒心は強い。あの場で素直に俺達が宿に戻ると思う奴ではないか。

 

八幡「さすがに承太郎は意外すぎたよ。なぁ?」

 

いろは「うーん……わたしはもしかしたら……くらいの気はしてましたよ?」

 

そうなの?色恋が混じると相変わらず俺は鈍感だな。

基本世界の比企谷八幡はそういうのは敏い方だったのだが。

 

八幡「色々と厳しいんじゃあないのか?それこそ、戸部とか同世代で手を打つ方が楽だと思うがな?戸塚とか」

 

海老名「無理無理。ヒキタニ君はさ、そんな妥協をする私なんて想像出来ないでしょ?そういう妥協をするようならジョースター家の今は無いし、DIOだってウルフスにたどり着けなかったよ」

 

確かに。言っておいてなんだが、その妥協をするような家系ではないな。ジョースター家もその仲間も。

 

八幡「それで普段からの男避けで腐女子アピールか?」

 

海老名「そうそう♪承太郎はそういうのに偏見とか無さそうだしね。私、腐ってますから」

 

演技によるアピールだけじゃあなく、モノホンで腐っていそうだしな。

 

いろは「なら、仕方ないですね?」

 

海老名「そう、しょうがない。普通のひとには理解できないし、海老名姫菜の表層だけしか見ない人には理解されたくない。だから普通の人とは上手く付き合えないの。花京院典明の時だってそうだったしね」

 

それはスタンド使いとしての事なのか、自身の事なのか、趣味の事なのか……。それら全てだろう。

俺達もそうだったしな。

三人とも薄い笑いを交わすと、海老名は眼鏡をすっとあげた。レンズが反射し、その眼差しがわからなくなる。

 

海老名「私、承太郎がいなければヒキタニ君を狙っていたかも?いろはちゃんや小町ちゃんと睨み合ってたかな?」

 

いろは「はぁ?」

 

八幡「わざと修羅場を作るな。その気も無いくせに。絶賛、一番憎い相手だろうが。間違ってもそれはない」

 

前世の事情を知っていて、傍で聞いていたならば吹き出してしまいそうな酷い冗談だ。

海老名は舌先を出してアカンベーとも取れる態度を出した。

 

海老名「あはははは。レロレロレロレロ……だね。でも、有象無象に比べたらヒキタニ君はまだアリだよ。まぁ、戸塚ッチやシュトロハイムくんとかいっぱいいる仲間達の中での末席に……くらいだけど、仲間としては嫌いじゃあないよ」

 

八幡「奇遇だな。俺も仲間としてなら海老名は嫌いじゃあない」

 

いろは「わたしもそんな二人が嫌いじゃあありませんね」

 

嫌われたら困ります。

互いに胸を張り、そして吹き出した。

 

海老名「私ね、今の自分とか、自分の周りとかも好きなんだよ。こういうの、エジプト以来だったから。無くすのは惜しいなって。今いる場所が、ジョースター家が、アーシスの人達が好き。だから、誰もいなくならなくて良かった」

 

海老名の視線は遥か遠く、大階段の下へと向けられている。俺には何も見えないけれど、そこはさっき承太郎が降りていった先だ。アーシスのみんながいるのだろう。

その階段を降りていく海老名は注意深く足元を見ながら去り際に付け加えた。

 

海老名「今度こそ、みんなで一緒に帰るよ。最後まで、誰も失わずに……花京院典明のようには絶対にならないしさせない……ヒキタニくん、DIOであった君も含めて……」

 

遠ざかっていく海老名の小さな背中を黙って見送る。

かけるべき言葉はなかった。罪を許されたのだろうか?

変わることが悲しいことはあるかも知れない。変わることで手に入れ、失うならば変わらない方が良かったと嘆くかも知れない。

だけど、俺が手にいれてしまった物は今さら失うには温かく、かけがえの無いものばかりで……。

 

八幡「気が付かない内に大切になっていたものもあるんだよな。ポルナレフさんのように、失ってから気が付くものもあるんだろうな……今の俺には。DIOには何も無かったから気楽だったのに……」

 

いろは「失わないようにするしかありませんね。京都は……無くしかけた物がたくさんありましたから」

 

今回は奇跡的に何も失わずに済んだ。だけど、これから先はそうであるとも限らない。

 

八幡「強く……ならなくちゃな…もっと狡猾に、もっと臨機応変に……」

 

きっと、今回の戦いで、一番それを強く感じたのは俺だった。

 

←To be continued


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