side空条承太郎
オロチ「な、ナニィ!」
ふ………見事な演技だったぞ。戸部。
途中でバレやしないかとヒヤヒヤしたがな。
何故戸部が無事だったのか。そして俺はこの結末を読めていたのか……。
観察した上で予測した。というべきか。
気が付いたのはオロチに殴り飛ばされた後、三人娘にオロチの攻撃が向けられ、それを戸部が庇った時だ。
あの時には既に戸部は工夫し、作戦を実行していた。
俺が違和感を感じたのはその時だ。そして庇ってバリアを戸部が食らった時に違和感は確信に変わった。
戸部がダメージを受けていないことに。
攻撃を食らったとき、戸部はスタンドを出していなかった。
いや、出していないように見せかけていた。戸部は己の体に重ねるようにしてスタンドを出していたんだ。
オロチは言っていた。スタンドを展開していない部分ならば反射の力は使えない……と。
だから戸部は考えた。だったらスタンドを出しているように見せなければ良い……と。
そして、すぐに反射をさせないように……圧縮したバネをそのまま維持するように、エネルギーを溜めて我慢していたんだ。
そして牙を剥くタイミングを図っていた。敵から受けた攻撃を溜め込んで、そして一気にバネを解放するタイミングを。
act2に変化したわけではない。反射の力を応用した戸部なりの工夫だ。俺はこいつを甘く見ていた。理解力が無いかも知れないなんてとんでもない。瞬間的に理解しやがった。
俺もまだまだ人間観察が甘いな……ヤレヤレだ。
side戸部翔
はぁ……はぁ……こ、コレが俺なりの工夫っしょ。
俺のノースアイランド・サードの能力は受けた
受けた衝撃をスタンドの中で蓄積し、そしてやり返していたんだ。
空条博士に工夫しろって言われたときにピンときたんよ。今までは即相手に反射指せてたっけど、溜めて任意のタイミングと方向に返せねぇかなって。
で、オロチに殴られた時に試してみて出来たってわけっしょ。
後はそれをオロチにぶつけるだった。そして空条博士は俺の考えを正確に理解してくれたんだべ。
一言も言葉を交わしてねーのに俺の考えを俺の状態から察してくれるなんて、マジで空条博士はすごすぎっしょ!すげーわー、痺れるし憧れるわー。
そう言えば海老名さんはさっき……。そっか……この人が……。
俺なんかじゃあ当て馬にもならないっしょ。役者が違いすぎるわぁ。
さて、空条博士に……
戸部「あれ?」
急に体に力が入らなくなり、俺はそのまま倒れた。
承太郎「戸部……」
戸部「大丈夫っスよ。ちょっと躓いただけッスから」
俺は立ち上がろうとすっけど相変わらず体に力が入らない。それどころかめっちゃ痛い!
承太郎「無理をするんじゃあない。バネは自分の許容量を越えて長時間圧せられれば壊れてしまう。お前のやったことはそれだ。一時的に自分の基本スペックを遥かに超えるエネルギーを溜め込んだんだ。お前の体が持つはずがない。死んでいてもおかしくなかった」
確かに失敗した時に受ける痛みは覚悟してたけど、そういう意味での覚悟はしてなかったわ~……。今になって震えがきたわ~……。
承太郎「ヤレヤレ。覚悟の方向性を間違えていたのか。てっきりこっちを覚悟していたと思っていたぞ」
空条博士がため息を吐きながら言う。俺、呆れられちゃった系?怒られる?
承太郎「少し方向性は違ったが、お前の覚悟はしっかり確かめさせて貰った。俺達ジョースター家は覚悟を決めたものを認め、尊重する。良くやったな……戸部」
いつもしかめっ面か無表情の空条博士が俺に微笑みかけてくる。
べー………コレがオタクの奴が言うニコポとかナデポとかってヤツ?ひとかどの人間にやられると落ちるわぁ。空条博士に惚れるわぁ。海老名さんが喜びそうだわぁ。
承太郎「戸部。後は任せろ……」
戸部「うす………すんません……」
そこで俺は意識を落とした……。
戸部翔(ノースアイランド・サード)…
side空条承太郎
承太郎「本当に良くやったぞ……戸部」
さて……戸部のお陰で満身創痍となったオロチ。
俺の力と自分のパワー、能力をしこたま食らったんだ。もはや何も出来まい……。ヤレヤレ、本気でヤバい相手だった。ここまで死の危険性を感じたのは吉良やプッチ以来か?
まともにぶつかり合ってここまで苦戦したのはDIOの野郎くらいか……。
承太郎「これで終わりだ……オロチ」
オロチ「感服しましたよ。あなたと戸部翔のやりとり。よもや『オロチ』として強くなった私がここまでやられるとは……本気で終わるかと思いました」
承太郎「なんだと……まだ何かあると言うのか?」
オロチはニヤリと笑う。
オロチ「私が蛇であることが不運でしたね」
ぬるり……。
奴はまるでぬいぐるみから中の人間が出てくるように外皮を剥ぎ、中から無傷の奴が出てきた。
脱皮………だと?
オロチ「私にこの能力を使わせるとは……誇って良いのですよ?空条承太郎博士」
野郎………奥の手を隠していやがったのか。
これまでの奮戦が全て無駄だったとはな。
オロチ「いやはや。この能力は本当に奥の手でしてね。年に1度しか使えない、本当の奥の手なのですよ」
こちらの手札である戸部が既に再起不能だ。能力をペラペラ語るのは余裕の現れなのか……残念だがもはや打つ手がねぇ。
カラン……
いや、俺の足元で気を失った戸部から何かが……これは、矢か!
俺が矢を拾い上げる。
最後の最後でやはりこれに頼るか…。
オロチ「おっと。これは剣呑ですね。今日のところは退かせて頂きますか」
何っ!?
オロチ「今はこれを持ち歩いていますから、万が一にでもこれを破壊されては困るのですよ」
オロチは金色の矢を取り出した。あれがウルフスを生み出す……。
オロチ「もっとも、万が一を考えて……の事ですからこのまま戦えば私が勝っている可能性の方が高いですがね」
それは事実だろう。ヒュドラとオロチ……こいつらは今まで出てきたウルフスの中でも本当に別格だ…。
オロチ「それではまた次の機会を楽しみにしていますよ?空条承太郎博士」
ブワァ!
奴は一陣の風を残して姿を消した。
不完全燃焼で終わったが、これで良かったのだろう。
俺はまだレクイエムを試したことがない。何が起こるかわからない以上、体勢を立て直して次の機会を伺うべきだ。
だが…………。
承太郎「奇跡と気紛れで誰も死なずに済んだが、これは実質的に敗北……だろうな……」
これが本当の意味での敗北か。あいつにヒュドラ、それにまだ亥や午、酉のウルフスの正体が読めない。
出来ればオロチやヒュドラ級では無いことを切に願う。
この空条承太郎ともあろうものが、こんなことを考えるほどヤバい相手とはな……ヤレヤレだ。
side立場辰
ふぅ……様子見のつもりが脱皮を使うことになるとは。ヒュドラの事を笑えませんね。
ユニコーン「戻ったよ。こっぴどくやられたようだね」
オロチ「ええ。ところでどうでした?」
ユニコーンにはあるものを探してもらっていました。我々が京都……いえ、関西に集中していたのもその為です。ジョースターの事よりも重要な事でしたから。
ユニコーン「二年前の『岐阜』って所に落ちた彗星。調べて見たところさ、やっぱり同族の欠片だったよ」
やはりそうでしたか。我々宇宙意思の力を感じていましたから……。
オロチ「そうでしたか……それで使えそうでしたか?」
ユニコーン「あれはダメだね。僕たちの矢を作れるような部分は見付からなかったよ。ブラッディ・アローの素材になりそうな部分もね」
残念な事です。もし我々の矢の素材になりそうな物でしたら今の矢のスペアを作れそうでしたのに。そうなると完全に邪魔な代物ではありませんか。
オロチ「では完全に破壊するしかありませんね」
スペアに出来ないとなれば岐阜に落ちた隕石は我々とは別の同族の素材であるということ。我々の餌場であるこの星を横取りに現れたような物です。
ユニコーン「それはやっておいたよ。というよりも、調べてみたらそれは殆どジョースター達が既にやってあった」
オロチ「ほう?ジョースター達が」
そうですか。知らぬとはいえ、ジョースター達が始末していたのですか。
ユニコーン「原因とSPW財団が介入してきた理由を探るのに時間がかかっちゃってさ。どうやら元々岐阜に落ちた隕石はSPW財団の不始末が原因だったらしいよ。はい、コレが調査結果をまとめた資料」
オロチ「お疲れ様です。しばらくお休み下さい」
ユニコーン「そうするよ」
ユニコーンが撤収した後にその調査結果を見る。
ほほう、5年前の空条徐倫がアメリカで倒した隕石を呼ぶスタンド使いが原因でしたか。
本人は岐阜で能力を使ったその時に死んだようで、現地の住人500人を巻き込んだ大惨事に発展。元々SPW財団の不始末によって起きた事件だった故に財団が復興や隕石の破壊に介入。隕石の破壊には杜王町の『虹村億泰』の空間を削る能力で破壊しており、隕石の湖の底に沈んでいる一部しか残されていなかった。
……なるほどなるほど。後はその残骸を始末することに力を注いだ方がよろしいですね。一月くらいはかかりそうですか。
ジョースターの事よりもそちらの方が重要ですからね。
それまでは力を付けている事ですよ。ジョースターの一族の皆さん。
立場辰(オロチ)…撤退
アーシス…事実上、オロチ一人に敗北
←To be continued