side一色いろは
「おおおっ!」
スラピーに操られた男性がわたしに殴りかかって来ます。
いろは「はっ!」
わたしは男性の攻撃を上体を反らして回避すると同時にその男性の軸足を踏みつけます。
柔道の時にハチ君がやった反則の技術です。
足を踏む?子供みたいな真似?
こう考えた事はありませんか?それらの攻撃がほとんどの格闘技において何故反則か。
それは危険だからですよ。鍛え抜かれた格闘家だったとしても、素人の女性に足首を踏みつければ動きを止められ、致命的な隙を生み出します。
わたしのようにある程度訓練を重ねている人間がやれば、成人男性の足の骨だって砕く事が出来る。それが足踏みという技なんです。
だから反則であり、格闘技においても実戦を前提とした武道以外では禁じられているんです。それだって護身として使うか、もしくは戦場格闘技として使う以外には使用禁止です。
いろは「はっ!」
わたしは更に体重をかけながら相手の懐に潜り込み、鳩尾に肘を入れます。肘打ちがムエタイや骨法以外でも大抵が禁じ手なのはやはり危険だからですね。
非力な女性が最低限の動きで身を守る護身技としてはかなり有効なので、わたしはジョセフから教わりましたけど。
そして相手の腕を取り、肘を支点にして……
いろは「死ねぇ!」
投げます。
知ってますか?実戦における格闘では単発で技を仕掛けるなんて事は滅多に無いんですよ?
特に柔術をベースにしているCQCを始めとした実戦格闘技なんてのはその代表格とも言えます。
ハチ君なんて更に酷い技をやってたじゃあないですか。
もちろん、わたしも護身技としての連続技くらいは使います。これがハチ君なら投げながらエルボードロップを首に落としたりしますからね?
本城もそういう技を使いますけど。
『死ねぇ!』なんて言いつつも、わたしはそこまではやりませんよ?
え?『死ねぇ!』なんてわたしらしくないですか?
基本世界のイッシキ・イロハだって言っていましたからセーフです!
「ぐふっ!」
投げられて気を失う男性。
いろは「…………死ねぇ!」
「げほぉぉぉぉ!」
一応念のため下段突きの波動拳を鳩尾に入れます。
波動拳は某格闘ゲームの主人公が使う気の弾ではありませんよ?
本当の波動拳は攻撃に主眼を置く日本拳法の突き技です。技としてはこちらの方が歴史が古いんです。
ちょっと特殊な突き方をしますけど、その威力は絶大です。
やはり気絶した振りでしたか。
わたし、頭から落とすような投げ方はしてませんから。
キッチリ止めは刺しますよ?
小町「お姉ちゃん……止めを刺すにしても波動拳はやりすぎだよ……お姉ちゃんの力でも、下手したら死ぬよ?波動拳は危険なんだから」
いろは「エメラルド・ヒーリング。これで大丈夫です」
さて、更にわたしに群がってくる男の人達。
流石に複数を相手に一々格闘してられません。いきますよ?ちょー久々の……
いろは「エメラルド・ストライク!」
エメラルド・スプラッシュの下位互換技のエメラルド・ストライク。ダメージだけを見るならば、無理無理ラッシュの方が実は威力があるのです。
ですが、今わたしが相手をしているのは一般人。
エクセスや無理無理ラッシュではやり過ぎてしまう恐れがあります。
エクセスでは後遺症を残したり、殺してしまう危険性がありますからね。免疫力を暴走させるのはかなり危険なんです。
気絶させるだけが目的なら、ストライクの方が最適です。
事実、わたしと同じように戦ってる人達も同様です。
静&小町「
雪乃「匂いの概念を凍結……フリージング・ビーム!」
トリッシュ「ごめんなさいね。一時的に足をぐにゃぐにゃにさせて貰うわ。立てなければ、攻撃は出来ないでしょ?」
みんな自分の能力を最大限につかって民衆を気絶させていきます。特に器用なのが……。
由花子「気絶するまで、首を絞めさせて貰うわ」
由花子さんです。ラブ・デラックスで複数の人間の首に髪の毛を巻き付け、まとめて宙吊りにして気絶させるやり方は見事としか言いようがありません。
徐倫のストーン・フリーに応用出来ないですかね?
ジョセフやハチ君も一人ずつなら可能ですが、ここまで器用には出来ません。
髪の毛を操るラブ・デラックス。本当に単純ながらも強いスタンドですよね。
???「………吹き飛べ」
いろは「え?」
それは急に起こりました。普通に立って戦っていたわたし達が、急に真横に浮遊感を感じたと思った次の瞬間には地面と水平にとび、気が付けば倒れていました。
いろは「エメラルド・ヒーリング……何が起きたんですか?」
誰が何をしたのか……それが全くわかりません。
横牛の仕業でしょうか?でも、こんな能力を以前の横牛は使って来ませんでした。
何より、横牛らしき人物は今……
承太郎「オラオラオラオラ!」
横牛「ミノタウロス!」
血を流している承太郎と戦っています!
まだ他にスタンド使いがいるということですか!?
いろは「エメラルド・ヒーリング!」
自分の戦いばかりを気にしていて沙希先輩達の事を忘れていました。
わたしはダメージを負ってしまっている沙希先輩達にエメラルド・ヒーリングを施します。
そして、わたし達の方にも……。
今ので足を捻ってしまったのか、トリッシュさんと由花子さんが立てないようです。
マチちゃんやジョジョちゃんは自力の波紋でダメージを消しているようなので、立てているようですが…。
いろは「エメラルド……」
小町「お姉ちゃん!敵から目を逸らしたらダメー!」
え?
いろは「キャアアアアア!」
わたしの方に大きめの岩が飛んできて……
ゴン!
わたしは吹き飛ばされてしまいました……。
何が………起きて…………
いろは「がフッ!」
飛ばされたわたしは鳥居の角が背中に直撃し……背骨がバラバラに………あばらが心臓を貫いて………。
side比企谷小町
静「イーハ!」
ジョジョお姉ちゃんは倒れたお姉ちゃんに駆け寄り、そして状態を確かめる……。
そして、よろよろと力なく立ち上がる。
静「イーハ…………ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉ!」
小町「ジョジョお姉ちゃん……お姉ちゃんは?」
小町が声をかけると、ジョジョお姉ちゃんは小町に向き直り、涙を流しながら首を横に振る。
雪乃「そんな………嘘よ………一色さんが……そんな」
雪乃さんは顔を真っ青にしてわなわなと震える。
そうだよね。お姉ちゃんは新生奉仕部の立ち上げからずっと一緒だったもん。色々あったし、当初は対立していたけど、今は家族として雪乃さんはお姉ちゃんと接していたもんね。
由花子「許さないわ!良くもいろはちゃんを!」
静「………奴等を殺す……殺してやるぞ!全員まとめて殺してやる!かかってこいや!」
すぅ~……っと消えるジョジョお姉ちゃん。
小町「みんな。泣くのは後だよ………。今は目の前の敵に集中しないと……お姉ちゃんみたいな犠牲を出しちゃう……冷静にならなくちゃダメ……」
雪乃「小町さん………あなた……悲しくないの?一色さんがこんなことになって……」
雪乃さんが涙を流しながら訴えてくる。
小町「悲しいですし、悔しいですよ………でも、いつかはこんなことが起こると思ってたんです……小町達がいる世界は……こんなことばかりです。ある日突然、誰かが死ぬ………そんな戦いばかりをしていたんです。お姉ちゃんだって……覚悟はしていたハズです………」
トリッシュ「その通りよ雪乃。これが戦いなの」
由花子「…………ごめんなさい。取り乱したわ……」
雪乃「うう……一色さん………あなたの仇は……必ず取るわ……そしてもう、あなたを傷付けさせない。あなたを美しい姿のまま……必ず故郷へ帰すわ……あの千葉へ……」
sideなし
スラピーに操られた人間の中に、そのアメリカ人はいた。
ライオット・ライフタウン。31歳。
杜王町の事件の際、たまたま旅行で杜王町を訪れていた際に虹村形兆によってスタンド使いに目覚めた日本旅行が好きな心臓に障害を抱えるアメリカ人である。
彼は生まれつき弱かった心臓により、歩くだけでもハンデを負っていた。彼にとって、坂道を歩く、階段を上る等の作業は非常に苦行とも言えることだった。少し上れば息が切れ、休憩しながら上る。
心ない人間達は彼を罵り、バカにして追い越して行く。
そんな彼は常に思っていた。坂道なんて無ければどれだけ楽なのか。
本当に辛い者はもっといるだろう。だが、現在進行形で辛い者にとっては辛い現実に程度なんて関係ない。
気の持ちようと健康な者や恵まれているものは言うが、気の持ち方は良いようにも悪いようにもいくらでも転がるものだ。
不幸だと思っている者にしてみれば、他にもっと辛い目に遭っているものがいようが本人からしてみたら自分が今、本当に世界で一番不幸な人間だと主観で思う人間だって中にはいる。
ライフタウンもそういう人間だった。
そんなライフタウンが得た能力。それは杖の形をしたスタンド…パウダー・スノウだった。杖を傾ければ傾けただけ任意の物を半径10メートル以内の重力の働きを変える事が出来る。
その程度の能力では虹村形兆のお眼鏡に叶うことなど無く、ライフタウンはすぐに見捨てられ、旅行が終わればすぐにアメリカに帰った。
パウダー・スノウは虹村形兆には不要な能力であったが、ライフタウンにとっては夢のような能力であった。辛い坂道をまるで平地のように歩く事が出来るし、重い荷物を前方に傾ければ楽に運べる上に自分をも引っ張って貰える。使いこなせさえすれば生活が非常に楽になる代物だったのである。
そして、ライフタウンは利己的で自らの不幸に酔うタイプの人間ではあったが、悪人ではなかった。
スタンド能力を悪用して自分をバカにした相手に復讐したり、犯罪に手を染めたりするような人間ではなかった。また、体が弱かった故に他人と争うような事がなかったのも幸運だった。
そうでなければすぐにでもSPW財団の目に止まり、承太郎によって……今であるならアーシスのような存在に目を付けられていただろう。
だが、ライフタウンは自分の生活に困らない範囲内でしかパウダー・スノウを使うこともなく、スタンド使いであることを周囲に知られる事もないまま、平穏無事に生き残る事が出来ていた。
いつしか体は健康とは言い難いながらも昔よりは自由に動けるようになり、今回もたまった有給を利用して趣味の日本旅行にやって来たのである。
それがスタンド使いとしては幸運な人生だったライフタウンの不運である。
たまたま彼女と共に旅行でやって来た伏見稲荷。そこで横牛のスラピーの攻撃に嵌まり、操られてしまったのである。
スタンド使いはスタンド使いと惹かれ合う。そのルールからは逃れられなかったのだ。
一方でアーシス。
これまでと比べたら大した能力では無い筈のパウダー・スノウ。
だが、本来の歴史をある程度歩んでいないこの世界のジョースター達にとって、いくつかの不運が牙を剥いていた。
パウダー・スノウは本来のストーンオーシャンで敵対したとあるスタンドの劣化版のような物である。
ストーンオーシャンの首謀者であるエンリコ・プッチ。
彼のホワイト・スネイクが緑色の赤ん坊と融合して進化した第一段階の能力、C・MOON。だが、アーシスの面々は三度もエンリコ・プッチと戦っていながら、C・MOONと戦った事は一度も無かったのである。
一度目は5年前のこの世界のストーンオーシャン。この時は八幡がDIOだった故に緑色の赤ん坊が生まれる事は無く、プッチのスタンドはホワイト・スネイクのままだった。
二度目は三年前のアイズ・オブ・ヘブン事件。平行世界のジョースター邸で戦った時、C・MOONは更なる進化を遂げて『メイドイン・ヘブン』に更なる進化を遂げていた。中間点のC・MOONとは戦わなかったのである。
そして三度目は千葉村の時。その時は聖なる遺体となった八幡が緑色の赤ん坊を横取りした。
結果としてメイドイン・ヘブンに至るまでの第一段階であるC・MOONとは一度も戦わなかった事が第一の不運であった。もし戦っていたのならば、すぐにモードC・MOONを発動していただろう。
次の不運、それは現在この段階で同じくストーンオーシャン事件の際に重力に関係するスタンドと戦った徐倫とエンポリオが不在、または再起不能中であったことに起因する。
ジャンピン・ジャック・フラッシュ。唾を付けた物質を無重力状態にする能力。
もし徐倫がこの場にいたのならば、その時の事を思い出していただろう。徐倫がいなくとも、ジャンピン・ジャック・フラッシュの戦いを見ていたエンポリオが気絶していなかったのならば、パウダー・スノウの能力を看破していたかも知れない。
そして、第3の不運。いろはの死亡。
表向きには平静を取り繕っているが、アーシスの面々の動きには動揺や怒りによる乱れが生じていた。
それが大した能力では無いパウダー・スノウ相手に予想外の苦戦を強いられてしまうことになる。
←To be continued
静「ウルフス以外の敵がいないなんて、誰が決めたぁ!」
承太郎「モリオン化した時の決め台詞を言うんじゃあねえ!ヤバい状態だろう!」
いろは「スタンド能力の元ネタは青狸のリフト・ストックです。C・MOONではありませんからね?」
八幡「案外、C・MOONの元ネタもリフトストックだったりしてな……ていうか、死んだなんて嘘だろ?」
いろは「まぁ、わたしのスタンドの特性を知っていれば………わかりそうですけどね?いつものアレだって出てませんよね?」
名前の由来
パウダー・スノウ
青狸で出てきたリフト・ストックが元ネタ。杖を傾けた方向に射程内の範囲の重力を傾ける。正にC・MOON!
発想はストック→スキー→粉雪→パウダー・スノウ
ライオット・ライフタウン
実はライフタウンは神奈川の地名。神奈川県藤沢市の湘南ライフタウンから取りました。
さて、いろはの言ういつものアレとは何でしょうか?
わかった方はメッセージにて!
それでは次回もよろしくお願いいたします。