side比企谷八幡
ココ・ジャンボの中に入って由花子さんに運んでもらったので当然であるが、誰にも見咎められることなく通りを曲がったコンビニに辿り着く事が出来た。
せっかくいろはとの夜の散歩を楽しもうかと思っていたのに…。
いつもの習慣で雑誌コーナーをぐるりと流す。
えっと…サンデーGX、サンデーGXっと……。ついでに新聞も買っておくか。
社会面のチェックをしておかないとな。ウルフスにかかりきりとは言え、普通のスタンド使いが起こす事件も見逃してはならない。
………将来、承太郎の後を継ぐのも良いのかもしれないな。学者の方じゃあ無くて、スタンド使い専門のエージェントの方。
先程話題に上がった奴が雑誌を読んでいるのがわかったが、わざわざ邪魔をする必要もあるまい。
敢えて無視して目的の物を探す。
すると、その人物から高圧的な声が降りかかってきた。
「ヒキオじゃん」
すごい大好きなのだが、すっかり買うのを忘れていたサンデーGXを見つけ出す前に逆に見つけられてしまった。
比企谷とディオを掛け合わせたパンチの効いた皮肉を込めた『ヒキオ』と呼ぶのは一人しかいない。
ドロリとした目で俺をヒキオと呼んだそいつ、三浦優美子は俺には目もくれず、雑誌を眺めていた。
八幡「こっちに目も向けずに何で声をかけて来たんでしょうかねぇ?モハラさん」
ちょっとした仕返しにモハメドと三浦をかけて『モハラさん』と呼んでみる。
三浦「変な名前で呼ぶなし」
八幡「じゃあアヴドゥルと優美子をかけてアヴ子さん?」
三浦「虻や油みたいに聞こえるから止めてくんない?燃やすよ?」
相変わらずこちらを見ないで雑誌を眺めて淡々と言う三浦。普段は激しいツッコミをしてくるこいつが静かに抗議をしてくるあたり、案外本気で嫌がっているのかも知れない。
まぁ、雨が降ったら「あ、雨だ」と言うくらいの感覚で声には感情が籠っていない。
三浦は案外距離感を掴んで話してくる。教師や保育士に向いてるよな。三浦って。
三浦の方へ顔を向けず、俺はGXを拾い上げる。そのままパラパラとめくっていく。
三浦「あんさー、あんたら隠し事、してるよね?」
いきなり言われて背中が跳ねた。
口調が怖い。三浦のほうへ顔を向けたが、三浦は相変わらずファッション雑誌を選んでいた。
だが、俺がそっちを向いたことを気配で察しているのか、一方的に話を続ける。
三浦「あんま姫菜にちょっかい出すの、やめてくれる?」
不機嫌なのか、俺と目を合わせる気が無いのだろう。三浦の視線はページから離れていない。
ぺらっともう一枚ページがめくれた。
三浦「聞いてんの?」
半分無視を続けていた俺だったが、改めて言おう。カスであると!って違うだろ。アホなことを言える空気でも無かったし。
八幡「聞いてる。それに別にちょっかいを出してるわけじゃあない」
少なくとも俺は。出してるのは戸部本人だけだ。
俺達は知っているだけに過ぎない。
三浦「出してるでしょ。少なくとも出しているのを知っていて見て見ぬ振りをしている。見てればわかるし」
すっと三浦が雑誌を閉じた。ようやく俺に向き合って話をする気になったらしい。
三浦「依頼?あんたらがそう言う依頼を受けるとは思わなかったし。身内を売るとか。迷惑なんだけど」
いうと、三浦はその隣の雑誌を手に伸ばした。輪ゴムで留められているのを丁寧に外して、またページを開く。って、それはやっちゃダメ…………。いや、普段から俺らも似たような事をしてるか。あんたよりはマシじゃんとか言われて撃沈するだけだな。うん。
八幡「迷惑か。一言だけ言えば、依頼そのものは断っている。だが、個人的にアプローチするって言うならば、俺達に止める権利なんてねぇだろ。それが本気だって言うならば、尚更な。後は個人同士の問題だ。誰かのメリットが誰かのデメリットなんつーのはよくあることだ。ディオのメリットがジョースター家にとってのデメリットだったようにな。少なくとも、傍観しているだけという事で恨まれるんなら、その覚悟は出来ている。少なくとも奉仕部としては止めない。諦めろ。それにお前が直接的な被害を受けてるわけでもない」
三浦「はぁ?なにそれ。なんだかんだ言って、あんたはあーしらの仲間だと思っていたのに」
会話とも言えない稚拙な会話の中で、初めて三浦が俺を見る。敵意に満ちた女王の瞳。スタンドバトルを挑んで来そうな空気だ。
八幡「仲間だと思ってるよ。それに、わかってるとは思うがここで仲間同士のドンパチは勘弁してくれ。互いに無事では済まないし、ウルフスが来たらどうするんだよ。確かに弱ってる俺ならば倒せるかも知れないが、俺だってタダでやられるたまじゃあない」
三浦「………ちっ!これから被害を受けんの。つぅか、あーしらがドンパチしかけた段階で既に被害を受けてるようなもんっしょ」
そう捉えることも出来るか。予想外の言葉に少し戸惑った。三浦の事だから、今現在どれだけ自分が迷惑を被っているかを高圧的に話し、俺は適当に流して終わらそうとしていたのだが、当てが外れた。
俺まで含めた上での未来形で言われるとは思わなかった。でも、アヴドゥルならそうか。
三浦はアルカナタロットカードの塔のカードを出した。
三浦「タロットの意味はわかるっしょ?」
八幡「スターダスト・クルセイダーズは大アルカナとエジプト9英神で成り立っていたからな。それくらいは解る」
正位置で破壊、破滅、崩壊、災害、悲劇、悲惨、惨事、惨劇、凄惨、戦意喪失、記憶喪失、被害妄想、トラウマ、踏んだり蹴ったり、自己破壊、洗脳、メンタルの破綻、風前の灯、意識過剰、過剰な反応。
逆位置で緊迫、突然のアクシデント、必要悪、誤解、不幸、無念、屈辱、天変地異。
どちらの意味でも碌な物じゃあ無いのが塔の暗示だ。
三浦「あんたさ。今の状況がわかってんなら、結果がこのカードのようになるのはわかってるっしょ。それに、海老名と付き合ってんならわかりそうなもんっしょ?」
八幡「誤解を招く言い方止めてくんね?あっちにいろはと由花子さんがいるから。現在進行形で正位置、逆位置両面の効果が発生するから」
やっと話が落ち着きそうなのに混ぜ繰り返すの止めて欲しい。マジで塔の暗示が的中してしまう。
三浦「何勘違いしてんの?きも。そうじゃあなくて、海老名と話してたらわかるっしょ?きも」
……もう一回付け足さなくてもよくね?
修学旅行直前からそういう話とドンパチばかりだから意味を取り間違えた。交遊関係的な意味ね?
まぁ……大体わかる。
八幡「あいつは空気を読まないで合わさせる。どこまでも俺達らしいな。お前の方がむしろ空気を合わせてるくらいだもんな」
実際のところ、こと空気に関しては三浦と海老名は表向きとは違って逆なのである。
三浦「うっさい。でも、わかるっしょ。あーしらはジョースターの元に集まってるから器用に何とかなってるだけだって。海老名もそう。器用に立ち回って道化を演じて」
ジジイなんて特にそうだ。実に上手く立ち回り、時には道化を演じて我が強い俺達を上手くまとめてくれている。
海老名もそうだ。周囲に自身のキャラクターを許容させることで、適当な距離感を保っているのだ。
本当に変人なわけではなく、「変人」として扱われているだけに過ぎない。
……というか、スタンド使いって基本的に変人しかいないんだけどね!
三浦「海老名、黙ってれば男受け良いから、紹介してくれって奴結構いんの」
八幡「お前に?命知らずだな」
三浦「性悪コンビに言われたくねーし。ジョジョだってそんなもんっしょ!」
さもありなん。
三浦「で、一応話を通そうとするとなんだかんだ言って拒否ってさ」
八幡「お前が?」
三浦「燃やすよ?」
だってキャラじゃあないだろ。
三浦「あーしも結構しつこく勧めたわけ。そしたら、あいつなんて言ったと思う?」
八幡「想像がつかんな」
俺は個人として海老名と関わることは殆どない。ディオとして直接手をかけたこともあるからな。
三浦「『あ、じゃあもういいや』って。笑いながらそう言ったの。超他人みたいな感じで」
三浦の言ったその言葉は、やけにリアルに脳内で再生された。花京院典明の人生は孤独だった。スターダスト・クルセイダーズのメンバーが初めて孤独を癒せる存在だっただろう。故に一歩引いた一線を作ることも慣れていて、そこを踏み越えさせる真似はさせない。
三浦「最近、その本当の理由もわかったけど。それをわかってなかったあーしに愛想を尽かせかけたし」
何の事だろう。三浦が話さないのなら、俺が知るべき事では無いことなのかも知れない。
三浦「あーしさ、今、結構楽しいんだ。でも、海老名が離れていったら今みたいには出来なくなるかもしんない。いや、海老名だけじゃあない。あんたらがやらかすバカバカしい事を一緒にやってる今が大好きなんだと思う。誰一人失いたくないって思う」
八幡「ありがとうな。千葉村ではそれで助けて貰ったし、それしかかける言葉がない」
三浦「そう思ってんなら、これ以上は余計なことはしないでくれる?」
三浦は案外本質を見ている。海老名を失いたくないという想いもそこに込められている。
三浦の想いは眼差しにしっかりとある。
だから、おれも誠意をもって答えよう。
八幡「俺達は本気で何もしていない。戸部を助けることも、邪魔することも。それに、戸部は戸部なりの本気で海老名に対して好意をもって、覚悟をもって事に臨もうとしている。それを邪魔するなんて、俺には出来ない」
本気であるなら、それを止める真似は出来ない。
八幡「それに心配はないだろ」
三浦「何でそう言えるわけ?あんたの心配ないって言葉は、どれだけあーしらを裏切ってきたん?」
これまでの事を考えれば当然の反応だ。
千葉村、文化祭、体育祭と俺はペテンを重ねすぎている。止められている身を切る真似もしているしな。信頼にしろ信用にしろ、それは共通理解を得てからひとつひとつの物事を確実に積み重ねて初めて、信じて任せる事ができるのだ。
俺と三浦の間にはそんな信頼関係を逆の意味で積み重ねている。
三浦「あんたの大丈夫は、ある意味で信頼してる。何が何でも目的を果たすっていう意味では。でも、それはあんた自身の先を見据えていない。簡単に自らを切り捨てる。あーしはそれが一番気に入らない」
八幡「その辺は信頼してくれてるって事ね。けど、安心しろ。今回の俺は本当に何も動かない。ウルフスの猛攻でそれどころじゃあない。自分の事で精一杯だ戸部の事については葉山に何か考えがあるんだと思う」
三浦「隼人が?まぁ、この二日間の隼人の行動は頑張っているからね。少なくとも、ヒキオよりは信頼できるかな?」
八幡「それに、強引な手段に出ようものなら俺だって戸部を止める。海老名は俺にとってだって仲間なんだしな」
三浦「やり過ぎんなし。まぁ、仲間想いは信頼してるから」
そう言って三浦は笑った。
←To be continued
はい、今回はここまでです。
三浦回でした。
それでは原作との相違点を。
三浦のヒキオは八幡に対しての無関心からくる適当な呼び方→比企谷とDIOをかけた……以下略
ヒキオに対して特に反応しない→やり返す
依頼を受けている原作八幡達に対して三浦は「何してるわけ?」と聞く→依頼を断っているが、特に戸部のアプローチを見てみぬ振りをしている八幡達に「隠し事をしている」と聞く
輪ゴムを外して雑誌を立ち読みしているのは原作通り
↑に対して八幡はツッコミを入れないのは三浦が怖いから→それ以上の事を普段からやっているから。自業自得
誰かのメリットは……の部分にジョースター家とDIOの事情を加味
三浦の抗議に仲間であることを加味。仲間の被害は全体の被害では無いのかという意味も含まれている
アヴドゥル設定のタロットカードのやり取りを加筆
『付き合う』の意味を履き違えるのは原作と同じ。相手が結衣→海老名
海老名の花京院設定を掘り下げる
男受けする海老名の周囲と三浦の行動を黙って聞く八幡→茶々を入れる八幡
海老名の『もういいや』には原作とは違う理由があり、三浦は気がついているが、八幡は気が付いていない
葉山グループの今が楽しいという三浦→葉山や相模を交えたアーシスの今が楽しいという三浦
原作八幡と三浦には互いの積み重ねがない→積み重ねはあるものの、それは全てペテンや味方を騙すようなやり口なので信用がない
原作三浦は葉山が好きなので、葉山の名前を出されると無条件で信用する→最近の葉山の行動に対して見直しており、少なくともペテンモードの八幡よりは信頼を得ている。
それでは次回もよろしくお願いいたします。