side比企谷八幡
仗助「おっ?修学旅行先は京都?奇遇だな。俺達も当日は関西支部に視察に行くことになってたんだよ」
白々しい。中学の頃の日光では埼玉支部に、小学生の頃の東京・横浜には神奈川支部に出張とか言って来たじゃあないか!
いつの間に持ち込まれていたのか、湯沸かしポットがシュッと音を立てている。湯が沸いたことに気付いた雪ノ下は、雑誌の耳を丁寧に折る。
雪ノ下は雑誌を机に置いて立ち上がるとポットの前に移動する。……と、同時にいろはも前から持ち込まれていたコーヒーサーバーへと移動を始めた。
結衣「やったー!オヤツだ!」
いろはがカップと練乳を、雪ノ下が茶葉やらを準備すると同時に由比ヶ浜と小町は自分の鞄や備え付けの冷蔵庫を漁り、お茶請けのお菓子を取り出してくる。
いろは「ちょうど休憩時ですしね。あ、出張にはわたしとマチちゃんとハルさんも行く予定ですよー?」
小町「ほーんと、奇遇だねぇ♪お兄ちゃん♪」
戸塚「ホントに付いて来る気満々なんだね…」
材木座「どこまでやりたい放題を……」
呆れながらもそれぞれの手を止めた戸塚と材木座、更に川崎がため息を吐く。
雪乃「ジョルノ兄さんや空条博士もですか?」
雪ノ下がガラス製のティーポットに湯を注ぎ込むと、茶葉がゆっくりと踊り出した。ジャンピングと呼ばれる状態だ。それを確認しつつ、雪ノ下が承太郎達も来るのか確かめる。
いろは「多分、来ると思いますよ?雪乃先輩が読んでいる雑誌を会社の書棚に挟んであったのを確認しましたから」
ジョルノ…観光する気満々だな。
ジョセフ「逆に承太郎は仕事をする気満々じゃな。本業とアーシス関連の両面でのう」
ああ、論文の方もあるしな。となると、エンポリオやエルメェスさんも連れて来るかも知れないな。
いろは「承太郎らしいですね。真面目と言うか…」
いろははジジイ、仗助、ジョジョ、俺、いろはのマグカップにコーヒーを淹れ、更に俺のには練乳と砂糖も加える。マッカン仕様だな。
小町「小町は今日はエスプレッソの気分だね」
小町は小町でエスプレッソを自分で淹れ始めた。
リサリサはイタリア時代が長かったからな。たまに普通のコーヒーや紅茶よりもエスプレッソを飲みたがる時がある。小町が淹れるエスプレッソはジョルノのお気に入りだ。
いろは「はい、ハチ君。一息入れますよー?あと、休憩が終わったら東北支部とのクリスマス合同企画の最終決定稿のチェックをお願い出来ますか?」
八幡「了解。後で確認しとくわ」
すると、雪ノ下が用意した紅茶をふーふーと冷ましながら口を開く。
結衣「結局、ジョースターさん達が来るとして、何処に行くかもう決めたんですか?」
ジョセフ「これから決めるところじゃ」
八幡「どうせジジイ達次第だな」
俺がなげやりに答える。俺にとって修学旅行とは強制連行と変わらない。どのみちいつも通りだからだ。
仗助「修学旅行もよぉ、悪くないぜ?だってよぉ、俺がアイツと出会ったのだって、修学旅行の時だったんだからな」
そう言えば仗助とあの粋な店長とは修学旅行先で出会ったって話だよな。何でもスタンド使いがらみの事件に店長の友達が巻き込まれ、そして共闘したのだとか。
仗助「あいつ……あれからどうなったのかな……修学旅行って聞くと、思い出すぜ……。今度あいつに会ったら聞いてみるか。娘二人も大きくなっただろうし、たまには嫁さんにも会いに行かねーとな」
徐倫「是非ともあたしも付いて行きたいわ。問題児の扱い方とか聞きたいし」
仗助「ああ、教師だったっけ?あいつの嫁さんも」
八幡「問題児?ああ、文化祭といい、体育祭といい、問題だらけだったもんな」
徐倫「そうね。女装したりとか変装とかするバカがいたしね」
静「言われてるよ?ハッチ」
八幡「言われてるぞ?ジョジョ」
ゴン×2
徐倫「両方ともよ!この大馬鹿コンビ!」
いやぁ、これで今夜も安心して眠れる。
結衣「でもさ、うちの学校も沖縄とかがよかったなー」
由比ヶ浜が椅子に浅く腰かけて天井を仰ぎながら言う。
雪乃「いまの時期に行くのはどうかしらね…。あまりお勧めしないけど」
答えながら雪ノ下は窓の外に視線をやった。冷たい風が寒々しい音を立てて吹き抜けていく。いくら南国沖縄といえど、この季節に海だのの楽しみは期待できまい。
結衣「えー?でも、京都行っても結構どうしようもなくない?あの辺にあるのって寺とか神社だよ?それなら近所にもあるし…。いなげの浅間神社とか、いつでも行けるし……」
素敵なくらい由比ヶ浜らしい発言だった。聞いてると頭が痛くなる。まぁ、個人の趣味やらは人それぞれだから仕方がないとは思うが、それにしてもそれは流石にあんまりだろう。あんまりだぁ~!
雪乃「あなたは歴史の重みや文化的な価値というのをまったく考慮しないのね……」
ため息混じりに呟かれる言葉に、由比ヶ浜は即時反論の構えを見せる。
結衣「だってお寺行ってなにすれば良いかわかんないし……」
先ほど思った通り、由比ヶ浜の言ってることもわからなくはない。神社仏閣なんて興味ない奴らからしたらすこぶるどうでもいいものだろう。
それに雪ノ下。今のお前は、それだけじゃああるまい。
俺と仗助は互いに顔を見合わせ、ニヤリと笑う。
雪乃「することなんていくらでもあるでしょう?そもそも遊びに行くためのものではないのだし、歴史はもちろんのこと、この国の文化を直に見て、触れて…」
八幡「それもあるんだろうな。お前の場合は」
ご高説を遮るように口を挟む。そう睨まないでくれよ。
悪い意味じゃあない。むしろ、俺には羨ましくて眩しいくらいまであるんだ。
雪乃「あら?わかったような口ぶりね。では、他に何があるというのかしら?」
雪ノ下は少しムッとしたような表情になる。
仗助「雪ノ下からしたら、京都の神社仏閣は宝の山だ」
結衣「え?宝!?隠し金山とか!?」
違うよ。そういう意味の宝じゃあない。
そんな意味の宝なんかよりも、今の雪ノ下からしてみたら、そんな金銀財宝以上の価値があるだろう。
静「歴史、文化に基づいた建築法を直に見て、触れる。それが楽しみで仕方ない……ってところじゃあない?」
その通りだ。直に見て、触れて、文献なんかで感じることが出来ない価値。それは今の雪ノ下からしてみたら遥かに価値があるもの。興味があることに対する知識を得ることが何よりもの宝だ。温故知新……。チープな言葉だが、古いものの技術というのは、新たな物を作り出す下地となる。正に京都は雪ノ下にとっては宝の山なのだ。
雪乃「参ったわ……その通りですよ、東方社長。ジョースターさん。比企谷君」
雪ノ下は静かに微笑む。
眩しいな……しっかりと未来が見えている奴の笑顔と言うものは。
結衣「ゆきのん……カッコいい……」
八幡「それにな、雪ノ下程じゃあないにしても、俺達にも案外メリットはある。例えば社会の縮図だな。修学旅行というものは」
静「交通機関とか宿泊とか」
小町「また始まったよ……お兄ちゃんとジョジョお姉ちゃんのひねくれ理論が……」
いろは「始まると長いんですよね……」
徐倫「なまじ経験があるからこそ説得力があってたちが悪いって言うか……」
そう言うなよ。お前らだって経験あるだろ?
八幡「行きたくもない出張……」
静「会いたくもない接待客や部外……」
八幡「宿泊先の食べたくもない晩飯のメニュー、または毒殺を警戒して一切手を付けずに部屋で食べるカップ麺…」
静「研修旅行だって行きたくもないコースを回らされ、または企画して何度も何度も会議……」
八幡「大して楽しくもなかったクセにお土産だけは買わなければならず、重なる荷物と出費…」
静「帰ったら帰ったで成果をレポートにして提出しなければやらない苦痛……」
八幡&静「将来に向けてそういうことを学ぶのが修学旅行だ!しかも自己負担の出張!」
徐倫「生徒が楽しみにしている高校生活最大のイベントを暗澹たる物にすり替えようとするんじゃあない!」
ゴン×2
八幡&静「え~~?事実じゃあないですかー」
言い終えると全員が可哀想なものを見る目で見てきた。
いろは「出張とかとなるといつもはじまるんですよ…これ」
結衣「うわぁ。ヒッキーの修学旅行、超楽しくなさそう……」
戸塚「そこまでの裏を含めて旅程が組まれてるとは思えないけどね……」
困惑気味にみんなからツッコミをもらう。
材木座「だ、だが、もし八幡が言っていることが事実だったとしても、それをどう有効に使うかは我らの過ごし方次第だな」
八幡「む…確かにそうだな」
確かにどうカリキュラムなりノルマを課されても、それをどう感じるかはそれこそ主義や主張の勝手だな。
その反論に納得しかけていると、いろはが眉をハの字にしてカットインしてきた。
いろは「ハチ君…わたしとの旅行、楽しみじゃあないんですか~?」
八幡「何を馬鹿なことを超楽しみにしているに決まっているだろ。いろはと食事していろはと家族風呂に入って夜中は部屋を抜け出していろはの部屋で泊まりたいとまであるから戸塚は上手く誤魔化してくれ徐倫にくれぐれもばれないように頼んだよろしく」
静「もちろん私もお兄ちゃんと食事して祇園を楽しんだ後に家族風呂でイチャイチャしてお兄ちゃんの部屋で寝泊まりするから川崎も上手く徐倫お姉ちゃんを誤魔化してばれないように頼んだよろしく」
ゴン×2
徐倫「そういうのは本人のいないところで言いなさいよ。どっちにしても許さないけど」
八幡&静「バカな!じゃあ俺(私)達は何を楽しみに修学旅行を楽しめば良いんだ!?」
ゴン×2
徐倫「だから雪ノ下みたいに少しは建設的な事を考えなさいよ!」
八幡&静「建設研究志望なだけに?」
徐倫「Great grand-pa~~!うわぁぁぁぁぁん!」
Great grand-paとは曾祖父の事である。とうとうジジイに泣きついた徐倫。
沙希「空条先生いじりはそこまでにしておいてさ、ホントに何か楽しみは無いわけぇ?」
静「京都自体は好きなんだよね。うちら」
八幡「伊達に日光千葉村をしていない」
弥七の代名詞はあの一色に譲ったがな。
雪乃「意外ね……伝統や格式をゴミみたいに扱うのがあなただと思ったわ」
小町「それが逆なんですよ。何だかんだで歴史とか好きなんですよね。前世でオーバーヘブンの研究をやり尽くした上に、ウルフスの素性を調べるのに勉強したりしてるんですよ。伝説の解明とか」
まぁな、それが仕事や任務にも繋がっているのは皮肉としか言いようがないけど。
八幡「まぁ、その研究や伝説を調べたりするのも良いかもな。行きたいところに行けないのならそのうち一人で……」
いろは「は?」
八幡「………いろはと………」
小町「は?」
八幡「………いろはと小町と………」
静「は?」
八幡「………家族と行きます………いつもと変わらないじゃあないかよ………一人旅も出来ねぇのか……」
仗助「諦めとけ」
やりたいんだよなぁ……一人旅。ジジイや承太郎のように気ままにさ。旅行好きのジョースター家の気質が出てるのかね?
ジョセフ「まぁ、竜安寺の石庭とか見たいのう?ウルフスが現れたらその石で頭かち割るかも知れんがのう」
フラグになりそうだからやめろ。世界遺産を武器にするんじゃあない。
結衣「あたしは清水寺は見てみたいかも」
仗助「そこでウルフスが現れたら清水の舞台から叩き落とすかも知れねぇけどな」
だからフラグ立てるんじゃあねぇ!
沙希「後は京都タワーとか?」
徐倫「ウルフスが現れたら傾けちゃいそうだわ。通天閣を傾けかけたことあるし」
あの時はホント、大阪府を敵に回すところだったね。
雪乃「私は竜安寺の石庭や清水寺もそうなのだけれど、鹿苑寺、慈照寺あたりの有名ところは押さえておきたいわね」
結衣「ろくおんじしょうじ?」
八幡「スタンド使いにいそうな名前だな。花京院典明とか」
いろは「今日、海老名先輩がいなくて良かったですね?間違いなく三浦先輩共々ケンカになってましたよ?ちなみに金閣寺と銀閣寺の事ですから」
結衣「そ、そう言ってくれればいいのに!」
静「重要文化財と国宝だっつーの!勉強不足!」
材木座「八幡!金閣寺の金箔を盗むでないぞ!」
八幡「しねぇよ!金に困ってないわ!」
むしろ一戸建てと別荘を買ってもお釣りが来るわ!
雪乃「あとは、哲学の道とか…夜の寺社の特別拝観も予定が合えばいきたいのだけれど、修学旅行ではなかなか難しいでしょうね」
結衣「く、詳しい」
静「雪ノ下、あんたはじゃらんなの?」
雪乃「別に…京都の知識なんて一般常識の範疇でしょ?」
やたら詳しいな……と、思って見てみたら建設の本と共にじゃらんが置かれていた。
ホントに楽しみにしてるんだな。
結衣「ねぇ、ジョースターさん。三日目の自由行動、一緒に回れませんか?アーシスの記念旅行として!」
ジョセフ「んん?構わんぞ?毎度の事じゃしな」
おいおい、そこまで自由にやるかよ。まぁ、毎度の事だが、そんな修学旅行も良いかも知れないな…。
そんなときだ。扉が叩かれた。
静「どうぞ」
ジョジョが答えると、扉が開かれた。
そこに現れたのは意外な人物だった。この部屋に来るのは意外な奴ばかりなのだが、今回はその中でも指折りに予想外の人物だった。
戸部、大和、大岡のブラッディースタンド使い三兄弟の姿がそこにあった……。
←To be continued
はい、今回はここまでです。
修学旅行編……俺ガイル屈指のアンチ発生の分水嶺とも言えるイベントの始まりですが…。
果たしてどうなるのか。初めから肝心の人物がいませんけど。
それでは原作との相違点を
出されるお茶は雪乃の紅茶のみ→ジョースター家の人間はコーヒー好きが集まっているのでコーヒーも出される
いつもの事ながらジョースター家が付いて来る
八幡は他の班員が決めたルートをついて回るだけ→毎度乱入してくるジョースター家により浚われている
越後屋さんの藤崎忍と仗助の出会いについて触れる
雪ノ下は歴史や文化と共に京都の寺社の建築に興味津々である
八幡の修学旅行論に静が乗り、徐倫が突っ込む。さらにはいじりすぎて泣かれてしまう。
由比ヶ浜が京都の楽しみに八幡が戸塚とのお風呂や食事、同室について考える→八幡がいろはと、静が仗助との同室とかを企み、口に出す
一人旅を考える八幡→…に対し、結局はそれすら許さないジョースター家。特にいろはは許しません!
ここがポイント!
依頼に来たのは葉山グループ男子四人組→マイナス葉山
それでは次回もよろしくお願いいたします