やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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修学旅行編です。


第5章ー4「ジョースターの旅は波乱に満ちているのはまちがっている。修学旅行編」
比企谷八幡は千葉村の夜を思い出す。


side比企谷八幡

 

女の子は薄着より厚着の方が実は可愛いんじゃあないか。そう思うような季節になった。

波乱の文化祭も終わり、激動の体育祭も終わると、あと二月と経たず今年も終わってしまう。

一気に気温が下がり、涼しいというよりは寒い風が吹き抜けていた。海沿いに立つこの学校ではなおさらのことだ。

更にいえば、俺達の周囲はいっそう寒々しい。

教室の真ん中、台風の目のような位置にある俺とジョジョの席の周囲は空白域さながらで、いつものメンツ以外は誰も寄りつかない。日本人の習性なのだろうか、みんな隅っこが大好きだ。電車でもバスでも端っこに座りたがる。

そんなわけで教室の中心に位置する俺達の周りには誰もいない。

まぁ、いつもの事である。いつもと違うのは視線の質。

認識しないのではなく、意図的に匂わせる「意識などしていない」とわざわざ宣言するかのような視線。腫れ物やニトログリセリン等を扱うような視線はこれまで通りなのだが、そこにこれまでにはない悪意という意識が含まれるようになった。これは元々想定している事だったから問題ないといえば問題ないし、鬱陶しいといえば鬱陶しい。

しかし、そこに直接的な攻撃は含まれない。

あのハチャメチャな特別競技や、チバセンや棒倒しなどで見せた運動力により、こいつらはただ者ではないという認識もより強まったからだろう。

どこから放たれた視線なのか確かめようと見返してみれば、バッチリ目が合ってしまう。

そんな視線に対しては逸らさないのがジョースターやパッショーネの流儀。悪意の視線から目を逸らすという事は負けを意味し、強いては相手につけこまれる。

となれば、向こうが視線を逸らすのが普通だ。

現に今もそうだった。

だが、向こうが民意で優位に立っているときはそれだけで終わらないらしく、サッと逸らした後は、周りと固まり始めてヒソヒソと始める。

 

「やば、なんか睨んでるんだけど……」

「ヤバイよ……ヤンキーなんか束になっても敵わないらしいし…」

「潰されたヤクザの事務所もあるっていうじゃん」

「マジでやば、キモッ!」

 

くらいの小粋なジョークを織り交ぜたウェットに富んだ会話。救いのないのはほぼ事実であるところがまたパンチが効いている。ホントにパンチを飛ばしてやろうかと本気で思ってしまう。もしくはジョルノにやられる辛味と香辛料が効いた意味でのパンチがを利かせてやろうか?と思い悩むほどだ。

覚悟が決まっていることと、それを何とも思わないとではまた別の話である。鬱陶しいものは鬱陶しい。三浦なんかは不機嫌のカツカツが鳴り止まない。

なにこれ、パンダちゃんなの?いや、パンダなんかは好意の視線を送られるもんな。ならばかなり古いけどウーパールーパーやシーモンキー?今の時代に通用するかな、これらのキモカワ系生物。忍野八海の人面魚とかなんかはなおのことわからないか。

ーーと、そんなアホな事でも考えないと中学の時の二の舞になる。具体的に言うとエア・サプレーナー島やパッショーネ送り。

実際に心が折れそうだ。超人硬度や肉体硬度でいえばダイヤモンド級を誇る俺だが、ダイヤモンドは引っ掻き傷に対して強いだけであって、ハンマーでガツンとやれば実は割れやすい。

承太郎はダイヤモンドは砕けないとか言っていたが、そのダイヤモンドである仗助だとてプレッシャーに弱かったり、あの世界では死にかけたりと、クレイジー・ダイヤモンドも砕けるのである。杜王町の人間を敵に回す発言だな……。

だが幸いなことに、当初の目的である相模のアンチから逸らすことには完全に成功している。特に体育祭の事に関しては恐怖を乗り越えて俺達に対抗した件が大きい。そして鬼の文実、体運の副委員長に対抗する度胸もないのか、みんなが関心を寄せるにはあまりにもリスクが大きい過ぎる関係も手伝い、すぐに別の事に移っていった。

腫れ物に興味を持つのは得策ではない。世の中、そんなものよりも楽しいことはたくさんある。

後方の席からはゴリラのドラミングよろしく、自分の存在を誇示せんとする大声の会話が交わされていた。ちなみにドラミングを日本語訳にすると「ドラミってる」だ。どら焼き大好きな青狸の妹だ。メロンパンが大好きなハイスペック妹だ。是非とも小町と対決してもらいたいまである。

そんな小町ってる会話のるつぼの中で、自分達の存在を主張しようとする話し声はよく通る。ちらりと視線を向ければ元ブラッディースタンド使い三兄弟の戸部、大岡、大和の三人組は机に腰かけていた。椅子があるんだからそっち使えよ…。

 

戸部「っべ、修学旅行どーする?」

 

戸部が話を振れば大岡が手を高々と挙げて応える。

 

大岡「京都じゃん?USJで決まりだろ。USJ!USJ!」

 

大和「それ大阪やないかい」

 

戸部「出った!本場のツッコミやで!」

 

うわぁ。大和の落ち着いた低い声のツッコミに、戸部がはしゃぐ。正直、聞くに堪えない気分だ。関東人の下手な関西弁の真似事は灰皿でぶっ叩きたくなると関西支部の人がよく言うもんな……。舐めとんのかと。

関東人の関西弁ほど微妙なものはない。許せるか許せないかで言えばギリギリギルティ。仲間内の相模のラスト・ノートact2でぶっ刺されるよ?

そんな俺の心中など知る由もなく、三人は楽しげにお喋りを続けていた。時折、女子のほうへ向ける「俺ら今面白い話してね?」みたいな視線が浅ましくも微笑ましい。三浦と由比ヶ浜の三人で話している当の海老名は気付いているのかいないのか、何の反応もしていないが。

 

戸部「つか、大阪まで出るのめんどいでしょ」

 

大岡「せやな」

 

やけに襟足を引っ張りながら言う戸部に大岡のどや顔がキラリと光る。が、そこは冷静沈着鈍重の大和。まったく拾うことなく、黙考してから狙い済ましたかのように言う。

 

大和「戸部だけ行けばいいんじゃね」

 

戸部「っかー!俺だけハブとか!それナニスターさん?ナニタニくん?」

 

八幡&静「あ?」

 

戸部「やべっ!」

 

反応した俺達に笑いかけていたクラス全体が凍りつく。

いい加減、うんざりだな。戸部のこの怖いもの見たさ的な性分。

とまぁ、最近の扱いはこんなものだ。正面きってこない代わりにこそこそとこういう扱いを受けている。どこまでが言って良い、扱って良い境界線かを探りながら一つ一つネタとして入れてくる。

彼らにしてみればいじめではなく、いじり。いじめてません、からかっちゃっただけでーすというあれだ。総武中学出身の連中がいたのなら、積極的にそれも止めていただろう。そんな言い訳なんてお構い無く、イタリア旅行にご招待したからな。

「ネタだろ」の一言が来ようものなら、こっちも「ネタだろ」と言い返し、ガタガタ震える相手を「笑えよ、ベジータ」と言うセルさんばりに見下ろして笑ってやったものだ。相手はベジータばりに「あ、お、お…」と俺達と自分の手を交互に見比べて絶句していたが。

ホント、折本事件と相模事件はよく似ている。違う点と言ったら俺達が動くか動かないかの違いでしかない。

そして、なぜ彼らがこんな行動に出るのか。受け入れる為だ。受け入れられない何かを受け入れるには、笑い話にするのが常套手段だ。

一時期こそ、相模シンパの熱心なロビィ活動もあり、俺達に向けられる嫌な視線や相模を英雄扱いする仲間意識も見られたが、今は「ジョースター一派をネタにしよう」ブームの到来だ。ジョースター家はいつでも時代の寵児だな。後はディオも。

 

DIO『間抜けが!一緒にするんじゃあない!』

 

………事実だろうが。いつでもジョースター家のブームはディオが絡んでいたじゃあないか。あ、俺だ。

既に事の発端である相模の事は忘れられ、ただ単にその出来事の搾りカスである。ジョセフの血のように。直接的な事が出来ないなら、ジョースター一派はこのように扱うという事例だけが残った。

こうした形骸化した儀式はまんま宗教的な儀式に置き換えるとわかりやすい。かつては由緒なり謂れなり元ネタなりあるはずだった行いが、元々の意味が忘れ去られている。例えば盆踊りとかクリスマスとかジョジョ立ちがブレイクダンスだったとか由来をよく知らずとも皆が楽しみ、受けいられているのと同じだ。元々サンタクロースの元ネタであるセント・ニコラスとキリストの生誕を祝うクリスマスを祝うのと、サンタクロースは元々緑のポンチョを着ていたのをコカ・コーラグループが自社のシンボルカラーである赤をクリスマスに合わせてセントニコラスの伝説を便乗させたとか……。そういうのを知っている人間は意外に少ない。

それらはやがて、集団のアイデンティティや、1つの文化となり、その集団の結束の再確認、再認識の為に行われる。

そして、多分そのうちこれも忘れられる。

だが、クラス全体が修学旅行を前に盛り上がっている今、それが最高潮だった。

戸部達はごくたまに「ナニスター、ナニタニくん」とか言いながらも、次第に話題をシフトさせていく。ていうか、俺、その呼び方を許してるのは海老名と葉山だけなんだけど?

 

大岡「っつーか、修学旅行かー、やべぇな」

 

大和「ヤバイな」

 

何がだよ…と突っ込みたいが、聞くだけ無駄だ。言っている本人達だって認識の統一なんてされていないだろう。やばいという認識が同じであれば何だって構わないのだろう。ノリとはそう言うものだ。

 

大岡「そういや、お前さ。戸部、お前、アレどーすんの?」

 

大岡が聞きたくてしょうがないと言うようにそわそわしながらしながら話を振ると、戸部はどこか照れた様子ではにかんだ。

 

戸部「って、聞いちゃう?聞いちゃうかー。それもうあれでしょー。決まってるでしょー」

 

キーン………。

 

八幡(う……何だ……この頭痛は……)

 

千葉村?二度に渡って助けてくれたあいつと、あいつの仲間達から聞いたあの話?

 

由比ヶ浜に似た声『実は………が時々様子を見に行ったりしてたんだよね。それである程度は事情を知ってるっていうか…』

 

警視総監の娘『文化祭、修学旅行で奉仕部がバラバラになりかけた時期が秋頃にあったようです』

 

いろはに似た声『葉山さんってご存知ですか?』

 

………葉山が関わっている何か……それで奉仕部がバラバラになりかけた時期に突入した?

 

雪乃『あなたのやり方……嫌いだわ』

 

結衣『もっと人の気持ちを考えてよ!』

 

文化祭で横牛を倒したとき、雪ノ下や由比ヶ浜から言われたこの言葉……。それが修学旅行に関わった何かに関係した事柄が前倒しになったという事だけは覚えている……だが、忘れまいとしてもそれがいつのまにか、掌に集めた水がこぼれ落ちるように徐々に消えていく。

メモを残していても、その事柄はいつの間にか消しゴムで消したかのように消え、ヘブンズ・ドアーで記しても同じ………。その時期をすぎるか、または文化祭の時のように何かがきっかけで一時的に思い出す事はあっても……。

だが、これだけは思い出した……。

 

戸部「……っていうか、決めるでしょ」

 

戸部の言葉に、大和と大岡はおーっと感嘆の声を上げる。だが、悪いな…。何をかはわからん。だが、どんな内容にせよ、その何かは決めさせねぇ…。いけない薬なら、イタリアンギャングに止めてもらう。そして芥子畑は潰す。既に言語がガンギマッちゃってるけど、それが戸部のクオリティーだが。

そっからは先程とは打って変わって、密やかなものになった。どうやらあまり人に聞かれたくない話らしい。まぁ、普通はそうだろうが……。

 

静「ハッチ……さっき……」

 

八幡「ああ……断片的にだが、千葉村での警告を思い出した……。修学旅行で何かがある……」

 

俺達はそのまま思考の海へと入る。

 

結衣「やっはろー。どうしたの?二人とも、真剣な顔をして?」

 

由比ヶ浜が上から覗き込むような形で話しかけて来た。

 

静「……ねえ、由比ヶ浜。千葉村でのあの女子会の事を覚えてる?」

 

結衣「え?千葉村での女子会?あ!覚えてるよ!?ほら、あの世界のヒッキーと幼なじみの馴れ初めとか、ゆきのんのお姉さんと幼なじみのアレとか!優美子が行った世界とか、会長が行った世界とかの馴れ初めとか、あ!ゆきのんが行った世界の人達の話は面白かったよね!?」

 

八幡「そう、そのあいつの世界のから聞いた……お前やトリッシュさんの声に似たあのギャングの娘から聞いた話の事を思い出してるんだ」

 

結衣「ち……千景ちゃんだったっけ?あ、あの子の話もすごかったよねー!」

 

静「○棘。何度も会ってるじゃあないの。で、何を思い出した?」

 

期待の眼差しで由比ヶ浜を見る俺達だったが…。

 

結衣「塀を乗り越えて落ちてきたところをお姫様抱っこで抱き止めたのが出会いとか、恋人を演じるとか、そして色々な事件!もうドキドキだよね!?また会いたいなぁ……」

 

ダメだこれは……既に頭が恋愛脳になってやがる…。ウルフスの事とかぶっ飛んでるんじゃあないのか?しかも所々が微妙に違っているぞ。

 

静「ごめん、由比ヶ浜……今の忘れて……」

 

結衣「あれ?その事じゃあないの?あ、それよりもさ、今日は部活、行く?」

 

八幡「ああ。厳密に言えば仕事に……だがな。文化祭や体育祭の遅れを取り戻さなくちゃあならんしな」

 

結衣「そっか。じゃあまた部室で。優美子と姫菜は用事があるから今日は来れないって」

 

静「相模と葉山は?」

 

結衣「さぁ………。さがみんはアーシスとの契約だから来るはずだけど、葉山くんは部活じゃあないのかな?じゃあ後でね?」

 

そう言って由比ヶ浜は三浦達の所へ戻って行った。

三浦は相変わらず不機嫌そうだったが、俺達をちらりと見ると、再び携帯に目を落とした。

 

海老名「…………」

 

そして、海老名も同じく携帯に目を落とす。

二人も俺達と同様に何かを考えているようだった。

 

←To be continued




はい、修学旅行編の開始です。

多重コラボの影響により、始めから原作とはかけ離れ始めました。果たして例の依頼はどうなるか!そして、ウルフスは!?


それでは原作との相違点を

悪意は八幡一人に注がれている→静と八幡がメインにいじりを受けている

八幡は面と向かって色々言われている→体育祭の事もあり、影で言われている

ベジータネタを改変

クリスマスとサンタの関連性を加筆

戸部の「決める」を大して気にしない→千葉村の事を思い出す

由比ヶ浜との会話を加筆する

それでは次回もよろしくお願いいたします。

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