やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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少女達の熱き戦い

side比企谷八幡

 

疲れも大分取れてきた。

いろはの大将騎姿をじっくり拝むことは出来なかったが、是非とも後で二人きりの時に見せてもらいたいものだ。

今はジョジョと二人で両陣営の熱い戦いに期待しよう。

これは競技であると同時に一つの戦いだ。

互いのメンツも中々面白い。

校庭に紅白それぞれの陣営が一列に並んだ姿はなかなか壮観だった。中でも大将騎はひときわ目を引く。

我らが赤組の大将騎はいろは、雪ノ下、そしてめぐり先輩だ。対する白組は三浦、川崎、海老名。

朋子さんや徐倫の話では、あのゴタゴタした会議の後ではチバセンの大将まで選出している時間が無かったので、ほとんどアーシスで済ませてしまった。

まぁ、めぐり先輩は言うに及ばず、三浦達にしてもいろは達にしても全校的な知名度があるから問題はなかろう。川崎も普段は大人しくしているが、普段から俺達と行動を共にしているし、性悪コンビを押さえられる数少ない人物として注目を浴びているし、見た目の印象だって彼女達に引けを取らない。何よりも今回の体育祭では力を押さえていてもやはり波紋の戦士の力を押さえきれずに数々の競技で注目を集めていた。

本人は嫌がったそうだが、もはや手遅れだろう。

大将騎が組み上がると全騎の準備が整った。

そこで、場内のアナウンスがキーンとハウリングする。

 

戸部『あー、あー、あー』

 

マイクテストの声が聞こえてきた。

これまでは三浦や海老名が中心となり、適当だが華の実況解説が行われていた。しかし、次の競技『チバセン』はジョジョを除く女子全員が参加することになる。なので、ここで放送席の人間も入れ替わりだ。

相模に命令されたのだろうか、放送席にはいつもの元ブラッディースタンド使いの三馬鹿が座り、マイクを握りしめている。

 

大岡『さぁ、体育祭もいよいよ大詰め、ここまでは白組が優勢。我らが葉山隼人と川崎沙希の活躍を大きな得点源に、試合を有利に進めて来ました!』

 

妙に白組寄りのアナウンスだな……。我らがって……。さすがは童貞風見鶏の大岡である。中立性がまったくない。

 

大和『だが赤組も負けていません。テニス部の泉正純が劣勢ながらも食らいつき、さらには生徒会長の城廻めぐり先輩や雪ノ下雪乃の活躍もあって大きくは離されていない』

 

一方で同じ白組でありながら大和が重々しい声で赤組もまだ負けていない事を告げてフォローする。

両陣営のテンションが高まってきたところで、ひときわ騒がしい声ががなり立てた。

 

戸部『いよいよ今回のメインイベント、女子対抗の千葉市民騎馬戦、略してチバセンでーっす!』

 

戸部の謎のアナウンスに場内がざわつく。そりゃいきなり『チバセン』なんて言われてもなんぞやって感じだよな?

 

大岡『さあ、両陣営、大将騎が出揃いました。このチバセン、大将騎を倒した数で勝敗が決します』

 

大岡の簡単なルール説明がある。大将騎はそれぞれ三騎。これを守りつつ、相手の騎馬を崩すか鉢巻きを奪うかしていくのだ。

両陣営が睨み合うと緊張が高まっていく。

スタートの合図を務めるのは朋子さんだ。手に法螺貝を携えている。それをワクワクした顔で構えた。ああ、あの人は案外ああいうのが好きだからな。伊達にジョースターではない。

そして大きく息を吸うと、勢いよく吹いた。

ぷおおおおお~という音色が高らかに響くと、両陣営が一気に駆け出していく。

 

大岡『チバセン、勝負の火蓋が切って落とされました!』

 

大岡の実況を聞きながら、軍勢の動きを目で追っていく。

白組は短期決戦で決めに行こうとしているのか、大将騎の動きが活発だ。それぞれの狙いを定めてマッチアップしていく。

川崎らしくないな……指揮官は三浦か。

最初に仕掛けたのは川崎だった。

 

川崎「一色に注目がいくが、波紋の戦士として力を付けているのは城廻先輩。あんただ。あたしの目はごまかされないよ」

 

川崎は相当自信があるのか、周囲に展開されている自軍の動きすら気にせず、真正面からめぐり先輩に突っ込んでいく。

白組からしてみたらめぐり先輩は大将騎の中では一番狙いやすいかもしれない。そのほんわかしたイメージからするとちょっと当たっただけでも即崩れてしまいそうに見える。川崎の馬をしている人間達からすればそう考えているだろう。

だが、真実はさにあらず。

意外かも知れないが、めぐり先輩は最近では初級レベルの波紋を修行中であり、中級の大志を猛追している。それは千葉村やあの世界、そしてハーメルンとの戦いで苦い思いをしためぐり先輩が積極的に小町の指導の元で真面目に修行をしてきた努力の結晶だった。

川崎がいろはや雪ノ下よりも先にめぐり先輩を狙うのはある意味では正解だろう。

だがな、川崎。違うな!間違っているぞ!

 

めぐり「みんな、よろしく!」

 

めぐり先輩は生徒会が無いときや修行以外では普段は露伴先生の所にいる。そうなると必然的に露伴先生の弟子である材木座とも一緒にいることが多い。それは何を意味するのか…。

 

沙希「しまった!囲まれた!」

 

そう、戦術が学べる。そしてめぐり先輩は川崎が自分のところに来ることを予想していたのだ。だからこそ、力で負けていても戦術で上に立とうとする。

そして、周囲もめぐり先輩を守ろうと頑張る。めぐり先輩の人徳がなせる業だ。

格下相手だからと油断したな?川崎。

露伴先生の嫁は着々と力を付けてきているぞ?何よりもスタンド使いの戦いに巻き込まれる以前からめぐり先輩は県下有数の進学校で生徒会長をやっていたし、その人徳が陽乃さんを惹き付け、その指導を受けていたんだ。ただの人であるわけがない。

更にめぐり先輩はスタンドも活用する。

 

めぐり「シンデレラ・ハーヴェスト!」

 

沙希「くっ!ここでスタンドを使ってくるなんて!シンデレラ・ハーヴェストはサマーハプノとは相性が悪すぎる!」

 

飛ばすなめぐり先輩……川崎は群がる赤組の騎馬とシンデレラ・ハーヴェスト、両方を相手にしなければならなくなり、引くに引けない状況に陥った。

 

沙希「ちっ!舐めてたよ!めぐり先輩がここまで厄介だったなんて!」

 

予想外の川崎の苦戦。それが白組の騎馬たちの不安を煽る。

ナイスだめぐり先輩。川崎を釘付けにしたのはかなり大きい。

 

ジョセフ「ほう……意外じゃのう。めぐり君が沙希を押さえるか…」

 

八幡「らしくないな、川崎。能力に恵まれず、工夫でこれまで戦ってきたお前が、こんな単純な手に引っ掛かるなんてな」

 

ジョセフ「大将を囮に敵の最大戦力を誘き出すなんて、創作では数あれど、実際にやろうとするものなんてはそうそうおらんわい。鈴美君は、相変わらず見た目と違って度胸が座っとるのう。吉良の最期でもそうじゃったわい」

 

八幡「らしいな……川崎が嵌められるくらいにめぐり先輩は強い。力でもなく、策だけでなく…。人望が、座った根性が、努力が……めぐり先輩の力だ」

 

とりあえず最大戦力の川崎を押さえ込んだめぐり先輩は膠着状態に陥った。

すると今度は別の場所から奇声が響く。

 

海老名「んふふふ、いーろーはーちゃーん。春頃のやり直しだよー?リベンジだよー?」

 

奇声の主はやはりと言うべきか、最凶の呪いのデスメガネ、海老名姫菜だ。なかなかたくましい女子陣によって構成された騎馬に乗り、砂塵を巻き上げながらいろはに突進してくる。

 

いろは「来ましたか…来ると思ってたんですよ!海老名先輩!皆さん!180度転回!逃げるんですよォォォ!」

 

突進してくる海老名に対していろはがとった手段はジョースター家の十八番、逃げる。

これには相手方も度胆を抜かれたのか、キョトンとしてしまう。いろはなら正面から挑むと思っていたのだろう。だがな、海老名よ。お前も甘い。テニスコートでの戦いの時にもお前はいろはに策で負けただろ?いろはも逃げながら次の手を打っているんだよ。

 

N・E「もらいましたよ!おじさん!」

 

海老名「へぇ、射程の長さを利用して味方の騎馬に紛れ込ませてナイチンゲール・エメラルドを潜ませていたなんてね。考えることは同じだったんだ。いろはちゃん?」

 

いろは「ストップです!皆さん!ハイエロファントの結界!いつの間に!」

 

海老名「ふっふっふっ……何度も策で私に勝とうだなんて甘いんだよ?いろはちゃん。私だってスターダスト・クルセイダーズのメンバー。何度も策でDIOの刺客をはねのけていないんだから」

 

やるな海老名。ナイチンゲールにはないハイエロファントの特性を生かして結界を張っていたのかよ。ジジイ譲りの抜け目の無さはしっかり花京院にも伝わっていて、それが海老名になっても受け継がれているのか…。

そう言えば花京院はディオもザ・ワールドを使わざる得ない程の頭脳プレーを見せたな。

 

海老名「スプラッシュには的確にいろはちゃんだけを狙える精密さは無いから、飛び道具は撃てないけど、下手に動いたらハイエロファントの結界に躓くよ?いろはちゃん?」

 

いろは「く……敵に回ると相変わらず厄介ですね…でも、スプラッシュは撃てないならこちらが有利なのは変わりません!」

 

ナイチンゲールはハイエロファントの結界に囲まれて身動きができない。必然的にいろはは海老名と一騎討ちをしなくてはならなくなる。

 

海老名「結衣の騎馬を他の騎馬に紛れ込ませる作戦も中々上手い作戦だったけどね?性悪コンビに鍛えられたからかなー。読めちゃったんだよね、その作戦。だから結衣も封じさせてもらったよ?」

 

見てみると、大将騎ではない別の一騎討ちが始まっていた。由比ヶ浜と相模だ。

 

結衣「さがみん邪魔!いろはちゃんを助けに行けないじゃん!」

 

相模「行かせないよ!結衣ちゃん!遥!ゆっこ!結衣ちゃんは強いけど、比企谷達みたいに規格外じゃあないから押されないで頑張って!」

 

遥「うん!意地でもまけない!」

 

ゆっこ「南ちゃんも頑張って!」

 

能力で勝る由比ヶ浜に対して相模はチームワークで対応する。スタンドも互いが一撃必殺の能力故ににらみ合いをするので精一杯らしい。由比ヶ浜は相模の騎馬に押さえられていろはを援護しに行けない。

というか、結局仲良直りして同じ騎馬を組んでるんだな?相模達は。

 

いろは「ならば、直接海老名先輩を倒すまでです!」

 

海老名「私本体なら楽勝とでも?甘いよ!」

 

互いに取っ組み合ういろはと海老名。だが……。

 

海老名「私だって打倒DIOに向けて子供の頃から鍛えていたからね。一般人同士なら負けないよ?子供の時から鍛えていたのは幼なじみーズだけじゃあ無いんだよ。私や優美子が大将騎をやっているのはいろはちゃんと同じ理由なんだよ?」

 

いろは「く……甘く見てました……海老名先輩…」

 

海老名「よく言うよ。騎馬の不利をエメラルド・ヒーリングでカバーして……やっぱり一筋縄ではいかないね?さすがだよ、いろはちゃん」

 

これは意外だった……。今度はいろはが海老名に押さえられている。

海老名本体も強いじゃあないか。伊達に千葉村やあの世界を生き抜いていないな…。波紋使い以外がいろはを押さえ込むことが出来るなんて中々ない。

川崎さえ何とかすれば海老名や三浦はいろはが何とかすると見ていた俺の計算が甘かった。

大将騎が率先して個別撃破に動くという展開は見た目にも分かりやすく派手で、観衆は声を上げて応援している。

しかし、スタンド使いたちによる戦術によって実際には高度な策と策の応酬だったりする。

 

大岡『各大将同士のつばぜり合いが続きます!おおっとまたもや大将同士のぶつかり合いだ!』

 

大岡の実況も相まって、わーわーと盛り上がる中、観衆の注目は残る大将騎へと移っていく。各大将同士の中でも鋭い動きを見せている雪ノ下だ。

これも意外だった。川崎やいろはに埋もれているが、雪ノ下も元々は合気道を修めており、なおかつジジイによって鍛えられている。そして最近修得した波紋だ。

立ちはだかる他の騎馬を通過点として捌き、的確に相手の鉢巻きを掠め取っていく。いろはを封じられた今、戦場の旋風となっていたのは雪ノ下だ。

だが、その快進撃も立ちはだかる最後の大将騎によって止められてしまう。三浦だ。

海老名があの実力だ。その相棒でもある三浦が弱いわけがない。標的である雪ノ下を視界にとらえつつ、三浦も群がる赤組の騎馬を的確に、かつ迅速に処理していく。

 

三浦「いつかはきちんとした場所であんたとやりあいたいと思ってたんよ。雪ノ下」

 

雪乃「奇遇ね。私もよ。三浦さん。数ヶ月前までの私だったら、あなたの足元にも及ばなかった。今のわたしがどれだけあなたに食らいつけるか……楽しみだわ」

 

三浦「言葉とは裏腹に、負ける気なんて更々ない系って感じじゃん?」

 

雪乃「当然」

 

ぶつかり合う雪ノ下と三浦。

熱い戦いににやりと笑う三浦、対する冷めた表情の雪ノ下。

炎と氷の女王対決に注目が集まる。

二人はまるで図ったように同じタイミングで突撃を開始した。三浦は荒々しく、大地を踏み鳴らしながら。雪ノ下はしずしずと降る雪の如く、音もなく。

そして激突する。

交錯した瞬間に三浦の体が浮いた。

 

三浦「!!このまま進めし!」

 

遠目にはただすれ違っただけ。だが、俺はこの動きをよく知っている。俺やいろは、幼なじみーズの得意技。当然陽乃さんも得意としている技は、雪ノ下も使いこなしていた。

だが、マスターアジアだったのは雪ノ下だけではなかった。三浦もまた、マスターアジアだった。

このまま進めと言った三浦の騎馬は言われた通り、そのまま進んだ。

一方で隅落とし……いわゆる空気投げを食らった三浦もアクションをしていた。

投げに逆らわずに自ら飛び、宙返りして自らの騎馬に着地する。雑技団みたいな真似を、しかも素人の騎馬でそれをこなすとは……。やるな、三浦。

 

雪乃「猫柳!」

 

三浦「ああ、柔道大会でヒキオが適当に付けた名前だったっけ?まぁ、原理は同じだし。自分で跳んだという点ではね」

 

三浦が猫柳(笑)を使ったのが意外だったのだろう。完全に意表を突かれた雪ノ下が目を見開く。

 

雪乃「あなたがそれを使えるなんてね…」

 

三浦「さっき海老名が言ってたっしょ?あーしらは打倒DIOを掲げて子供の頃から鍛えていたって。女テニ全中チャンピオンなんて肩書きは、その過程の中でついたおまけに過ぎねーし。あーしらは、一色と同じだと思えし。ジョセフ・ジョースターさんの技術を使えるだけの下地なら、あーしらだって充分にあったし。技術に優れてんのが自分だけだと思うなし」

 

今度は三浦が冷めた目を雪ノ下に向け、雪ノ下がニヤリと笑う。

 

雪乃「そうでなくては張り合いがないわ。三浦さん。それでこそよ、エンジェル・ダスト」

 

三浦「ふーん。やっぱあんた、面白いじゃん。普通なら得意技を封じられれば悔しがるっていうのに、あんたは悔しがるどころか逆に闘志を燃やすなんてね。本気でいかせてもらうし!マジシャンズ・レッド!」

 

今度は雪ノ下が仕掛ける。エンジェル・ダストの氷の拳を、マジシャンズ・レッドが迎え撃つ!

 

雪乃「マジシャンズ・レッドの炎に、仲間の騎馬が持つのかしら?」

 

三浦「そっちこそ、似たようなもんっしょ。腹の探り合いはここまでにして………後は純粋な技と力でやりあうっしょ!雪ノ下ぁ!」

 

雪乃「望むところよ三浦さん!今の私は……簡単には負けないわ!」

 

戸部『これは意外!川崎の勢いを止めた城廻先輩の策と人望!一色の一方的な勝ちで終わると思いきや、一色と同レベルの技と力を持った海老名さん!それを助けに入ろうとし、互いに激闘を始めた相模と由比ヶ浜!更に炎の女王と氷の女王対決は読めない!どちらも凄すぎる!』

 

 

 

 

八幡「あーあ……何であんな素晴らしい戦いの場に俺達は段ボールの中に入れられてるんだろうな」

 

静「だよねぇ……血が疼くよねぇ」

 

ホントに……世の中不公平だ。

あの面子とは普段からそれなりに訓練を重ねてきてはいる。だが、いまこの場における戦いはみな、真剣そのものだ…。訓練では決して起こり得ぬ、実戦にも似た空気とライバルとの決戦……。

本当に……俺もあの場に加わりたかった……。

ただ見ているだけしか出来ない。

それが悔しいと……思ってしまった。

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。

予想外に熱い展開になりました。


それでは原作とのそういてん

由比ヶ浜が大将騎の1つ→いろは

川崎の勢いにめぐりがたじろぐ→予想の範囲内。策を立てて迎撃

海老名の突撃に逃げる由比ヶ浜→作戦として逃げるいろはだが、策は読まれ、技と技の応酬になる

三浦は空気投げで撃沈→アヴドゥルがそこで終わるなんてあり得ない。互いに死力を尽くすべくげきとつする。

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