やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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下準備

side比企谷八幡

 

次の会議に向けて準備をする傍ら、その他調整事も決めていかねばならない。委員会内の決裂はそれはそれとして、首脳部側の実務関連も同時に進めないと、体育祭そのものが回らないだろう。やれば、の話になるがな。

翌日には懸案事項となっている目玉競技の部分を詰めることになっていた。

大きな課題はとしては2つ。

1つはチバセンの衣装についてだ。これのコストカット案と作業量を減らすためのアイデアを出さなければならない。

これについては先日の会議の後で材木座とおおよそのあたりは付けてある。

放課後、いろはと共に奉仕部の部室に向かう。

今日は予備校はなかったはずだ。

 

いろは「でも、受けてくれますかねぇ……」

 

八幡「まぁ、そればかりは本人次第だな。強制も出来ないし」

 

奉仕部の前に到着すると、丁度ジュースでも買いに行っていたのか、青みがかった黒髪を揺らしてターゲットがやって来た。

川崎沙希は普段と変わらず、どこか倦怠感を漂わせていた。これは本人の持つ雰囲気であって、本当に倦怠感を持っているかどうかは話は別だが。

 

沙希「??比企谷と一色、今日は珍しくこっちに来たんだね。で、どうしてそんなところでたってんの?入るなら早く入ったら?」

 

空々しく「やあ」、とか「よっ」とか「あのー」とか「えっと」とかわざわざ声をかける必要もなく、川崎は

普通に声をかけてきた。

 

八幡「いや、お前に用があったんだよ」

 

沙希「あたしに?珍しいこともあるもんだね。で、何?」

 

この人に睨まれると相変わらず声がでない。一度盛大に負けたことが個人としての優劣を決定つけてしまったのもあるかもしれない。それ以前に師匠だしね。頭が上がらなくて当然か。

 

八幡「ジジイの所で勉強か?」

 

尋ねると川崎はキョトンとする。そして呆れたようにため息を吐く。

 

沙希「そうだけど?いつも通りだよ。ジョセフ・ジョースターの所で勉強見てもらうつもり」

 

だから?と言いたげに川崎はまっすぐ見てくる。お互い口数が多い方じゃあないし、にらみ合いでもしているのかと思ってしまう。

 

いろは「………いつまで見つめあっているんですか」

 

いろはにジト目で言われ、ハッとなる。

 

八幡「お前これから時間ある?」

 

いろはのツッコミのおかげで俺もだいぶ話しやすくなり、ようやく本題の序章に到達することができた。

尋ねると川崎は担いでちょっと考えるような間を取ってから。

 

川崎「あるけど?修行でも付けてもらいたいの?」

 

良かった。アーシスの任務や予備校や家の事やとこいつも中々忙しいから、時間が空いているかどうかは不安だったんだ。

だが、これでお願いがしやすくなる。とはいえ、なかなか負担のあることなので、あまり軽いノリで言えることではない。俺は、普段よりも誠意を込めてお願いしようと思った。

 

八幡「服を、作ってほしい」

 

そして、いろはと川崎が時間が止まったかのように固まった。ザ・ワールド!

二人はポカーンと口を開け、何度か瞬きをした。数秒たってようやく俺が何を言ったのか理解できたらしい。

 

いろは「確かにそうですけど、言い方が……」

 

沙希「はぁ?何であたしがあんたの服を?それこそ一色や雪ノ下の姉にでも頼みなよ」

 

バカを見るような目で言われてしまった。

あー、誠意はあっても言葉が足りなかったか。

 

八幡「あー、言葉が足りなかったな」

 

いろは「ですです。あれじゃあプロポーズですよ。思わず無理無理ラッシュするところでした」

 

八幡「もういろはにプロポーズはしてるだろ。既に夫婦とまで言える」

 

いろは「そう言うところ、ずるいと思いますよ?ハチ君」

 

沙希「夫婦漫才を見せるなら、それこそジョセフや東方会長に見せてくれない?面白くもないし。用はそれだけ?」

 

いろは「ちょちょちょ!これからが本題ですよー!ハチ君じゃあなくて、わたしから言います!」

 

話を切り上げて部室に入ろうとする川崎の腕を取り、慌てていろはが呼び止める。

 

いろは「ハチ君のじゃあなくて、体育祭の種目で使いたいんです!全部じゃあなくて良いんで、作り方とか教えてくれれば良いんで!」

 

沙希「ああ、体育祭のね。最初からそう言ってくれる?何かと思ったし、何よりあんたにプロポーズされてもかなり困るよ。今さら一色と関係を解消してもトラブルしか起きないでしょ」

 

八幡「いろはと婚約解消!?俺に死ねと言ってるのか!?」

 

いろは「そこまで悲観しなくても……」

 

沙希「むしろベタぼれなのは比企谷の方だったのは意外だったよ……そっか、運営委員の件で頼みに来たんだね」

 

相変わらずツェペリさんらしい冷静な方で。

それに、体育祭と聞いてすぐに大半を理解してくれたらしい。

まぁ、この数日はそれでいなかったからな。

 

沙希「委員会ね。前もそんな事やっていたけど、よくやるよ。代行がいるとはいえ、そんなに暇な立場じゃあないだろ?」

 

八幡「業務の引き継ぎは出来てるからな。層の厚さが自慢なんだよ。なにより、命令している仗助の人望の厚さもあるかもな。楽しい体育祭を期待されれば頑張りたくもなる。顧問が徐倫や朋子さんだしな」

 

沙希「家族の為……か」

 

川崎はふっ……と笑う。

 

八幡「どうした?」

 

沙希「前世は家族を…父親を吸血鬼にした石仮面を憎んだツェペリ男爵は、波紋の道に進んだ。それが家族の為と思っていたけれど、結局は家族を捨てた行動だった。それが息子や孫のシーザー…大志の前世を狂わせた。それを思うと今でも後悔しているよ」

 

八幡「だから今は家族を大事に……それこそブラコン、シスコンと思うくらい、家族を大事にしているじゃあないか」

 

川崎はまたふっ…と笑った。

 

沙希「いいよ」

 

八幡「ん?」

 

沙希「服のこと。最近はわりかし暇だし、家族の為に頑張っている仲間の助けになるのなら、喜んで協力するよ」

 

いろは「ありがとうございます。では、一時間後くらいに会議室で良いですか?」

 

沙希「ちょっ!今日なの!?」

 

いろは「え?でも暇だって言っていたじゃあないですかー。善は急げとも言いますしー」

 

沙希「あんた……その言質を取ったら即利用とする性格には脱帽するよ。ホントにあのエリナ?まったく……わかったよ」

 

それ以上言い募ることを諦めて、川崎は深くため息を吐くと不承不承の体でそう言った。まぁ、今日いきなりって言うのも酷かったが、こちらもそう時間があるわけではない。申し訳ないが、ここは協力してもらおう。

 

いろは「すいません。そのうちお礼はしますから」

 

沙希「……別にいらない」

 

恩に対しては対価を払うべきと思ったが、川崎はそう言って顔を背けた。タダより高いものは無いんだよなぁ。

 

 

 

適当に時間を潰してから来るという川崎と別れて、俺といろははミーティングへと向かう。お互い声ははっさない。沈黙が重苦しくない。ゆっくりと歩くなかで、互いの存在を感じながらまったりと共に歩く。それが出来る相手というのは、やはり本物なのだろう。穏やかで静かなわずかな時間の幸せ。だが、それもすぐに終わる。

 

いろは「終わっちゃいましたね」

 

八幡「そうだな……」

 

名残惜しいが、いつまでもダラダラしてはいられない。会議室の扉を開いて中に入ると、既に主要なメンバーは揃っていた。

委員長の相模、めぐり先輩、ジョジョ、雪ノ下に由比ヶ浜、そして生徒会役員達である。このミーティングの主な議題は『棒倒し』における大将役の選出だ。

これについては白組の最有力候補は既に葉山と決まっている。困っているものを見捨てないのが葉山隼人という人間だ。このことはあのゴミの一件や、何よりもウルフスの件を見ればわかる。多分、力を貸してくれるだろう。後は赤組の大将を決めるだけだ。

そして、この競技のことであれば遺憾ながらこの人の協力を仰がないわけにはいかない。

専任アドバイザーこと、海老名姫菜の登場である。

 

海老名「はろはろ~」

 

意味不明な挨拶と共に海老名は悠々と会議室に入ってきた。

 

結衣「姫菜、やっはろー!」

 

挨拶を返す由比ヶ浜に軽く手を振り、海老名はそのまま手近な椅子に腰掛けた。そこへめぐり先輩がねぎらいの声をかけた。

 

めぐり「わざわざごめんね?」

 

海老名「いえいえ。それで今日は『棒倒し』の大将について決めるんだっけ?」

 

海老名はめぐり先輩へ微笑み返すと、そのままジョジョへと視線をスライドさせて、早速本題へ入った。

 

静「そうだね。白組の候補については葉山で問題ない?それで良いなら、委員会から正式にオファー出すけど」

 

ジョジョが確認すると、海老名がうんうんと頷く。

 

海老名「うん、良いんじゃあないかな?葉山くんがやるって言うかわかんないけど」

 

相模「まぁ、やってくれるはずだよ?協力出来ることがあればやるって言ってくれたし」

 

八幡「葉山ならやるだろ」

 

俺が言うと海老名はキランと眼鏡を光らせて前のめりになった。ついでに口元ではジュルッとよだれも輝いていた。

コレがあるからこいつイヤだ!

 

海老名「おや、何か信頼感が…」

 

八幡「ちげぇよ」

 

俺は引くが1割で呆れが1割、呪いの恐怖で8割とで拒絶100%で答えた。

葉山隼人はみんなの期待を答えなければならないというザ・ワールドならぬザ・ゾーンという謎能力を身に付けてしまった。

かつてのことなかれ主義とは違うだろうが、自分で出来ることには何でも力を貸してしまう性格だ。だから大抵の事は引き受けてしまう。

 

八幡「文実でもそうだが、手伝える事無いかって言ってくるような奴だ。だからやるだろ」

 

静「ま、そこでヤマピカリャーしないのはハッチじゃあないしね。言質は取っていると」

 

八幡「そう言うことだからそこの呪いのヤマピカリャー何とかしてくんね?」

 

言い方なんて今さらだ。普段の方が詐欺師扱いされているくらいだしな。

 

静「なら話は早いね。相模、今日にでも連絡しておいてくれない?」

 

相模「了解」

 

言うが早いが携帯を取り出すと、相模はメールを打ち始める。とりあえずここのホットラインが有る限りは葉山が白組大将になるのはほぼ確定だろう。

ここまでは想定通り。問題のもう1つも多分通るだろう。

ジョジョがサングラスを目にかけると、紙を手に取る。そこには生徒会役員達が作ってくれていた赤組白組に分けた生徒達のリストがある。

 

雪乃「後は赤組の候補ね……」

 

八幡「まぁ、対になるわけだから、葉山と釣り合いが取れる人間が良いだろうな」

 

全校男子が参加する目玉競技だ。その大将ともなれば人望と知名度がある奴の方が良い。葉山はその点では文句の付けようがない人材だ。神と悪魔の世界の騎士と同じだと思えばいい。それに匹敵する奴とするならば、うってつけの奴がいる。

俺がそいつの名前を口にしようとすると、海老名がはいっと元気よく手を上げた。ふんっと荒い鼻息で眼鏡を曇らせて勝手に喋りだす。

 

海老名「ヒキタニくんはすごくバランスいいよ!受けと攻めのバランスが!受けの茄子と見せかけて攻めの茄子だよ!ドSだよ!」

 

ツッコミきれん!ストッパーの三浦がいないしな!

 

八幡「候補は既に俺が考えている。泉だ」

 

めぐり「泉くん?あ、確かに!」

 

今年の夏のインターハイで全国制覇を成し遂げ、学校でも有名になっている男、テニス部副部長の泉。また、俺を除けば葉山がライバル視している男は泉の他をおいてない。

あのテニス勝負の時には泉は葉山と戸部の二人を相手に勝利しているのもポイントだ。

 

海老名「泉っちかー。確かに!戸塚っちも考えたけど、戸塚っちは既に一般生徒とは区別しないとねー。泉っちならカップリング的にも悪くないかもね♪」

 

八幡「もっとも区別しなくちゃならんやつを真っ先に候補に上げといて言うな。泉ほど赤組大将に相応しい奴はいないだろ?あとカップリングとか言うな」

 

戸塚も悪くはないが、葉山なら泉との再戦を望むだろう。

 

いろは「泉先輩なら、ハチ君のお願いを二つ返事で了承するでしょうし、お願いしてみませんか?」

 

雪乃「賛成だわ」

 

結衣「さんせー!」

 

修行仲間の泉が候補になって嬉しいのか、雪ノ下と由比ヶ浜が明るく声を挙げる。他のみんなも異論はないらしく、パチパチと拍手が鳴った。

その音に混じってコンコンと扉がノックされる。

どうやら約束していた通り、川崎が来てくれたようだ。

後は「チバセン」の衣装について川崎のアドバイスをもらいながら決め込んでいけば、懸案となっていた目玉競技についてもこれでおおよその目星がつくことになる。

これで準備は整えられ、さいは投げられた。進むしかない。

さあ、鋭い目で次の手を打ち、反抗の時間となるだろう。

 

←To be continued




さぁ、八幡の時間が開始されます。


それでは原作との相違点を。

八幡は教室で帰る前の川崎に声をかけた➡️いろはと八幡は奉仕部の前で声をかけた。

八幡は川崎にどう声をかけるべきか迷う➡️普通に声をかける

川崎はバイト、予備校、家事で忙しい➡️アーシスの訓練、予備校、家事で忙しい

川崎は文化祭での八幡の「愛してる」発言で八幡を気にしている為、服を作ってくれという発言に取り乱す➡️もはや川崎は八幡がいろは一択なのを知っているので取り乱すことなく、ただただ語彙不足に呆れる

川崎はなぜ八幡が委員会とかに積極的なのかわからず、質問を投げ掛ける➡️八幡が家族の為に一色懸命なのを理解して、共感する。

赤組の大将は戸塚➡️泉になる。テニス部は部員こそ少ないが、全国制覇を成し遂げ、エースの泉と部長の青葉は学校内でも注目されている。


それでは次回もよろしくお願いいたします。

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