やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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タイトル通りですね


ここが原作の……の登場回手前

side比企谷八幡

 

戯れに開かれる程度のちょっとしたお遊び。

表向きはそんな軽い気持ちで開催されている柔道大会は思いの外、参加者も、またギャラリーも集まっていた。

夏休み前という時期が逆に良かったかもしれない。

これからしばらく、1ヶ月ちょっとは学校を離れる事になる。俺は二度と戻らない可能性があるがな。

その前に一盛り上がりするには丁度よい規模のレクリエーションだと生徒から受け止められたらしい。

柔道場自体、さして広い施設でもない。そのお陰で立ち見が出て、盛況ぶりを演出することができた。

その柔道場の上座付近で待機していた城山が、全体を眺めまわす。あまり表情の豊かなタイプではなさそうだが、このときだけは感じ入るものがあったらしい。

 

城山「まさかこんなに集まるとは思わなかった。助かる。ありがとう」

 

礼を言われたがまだ何も、誰も助かっちゃあいない。

やるのはこれからだ。そして、やったあと礼を言われるとは思えない。

だから、その事には触れず、他の話をした。

 

八幡「それより、今日は先輩はちゃんと来るんだよな?」

 

城山「ああ。言われた通り、ちゃんと呼んだ。多分もうじき来るはずだ」

 

来てくれるなら良かった。この点だけは俺達でどうすることも出来ないので、城山に頼るしかない。確実性に乏しく、むしろ先輩が来るかどうかが最大の懸念点だった。

城山のおかげで、どうやら先輩はこの大会のド頭から見ることになりそうだ。となれば、先輩はどういう反応をするだろうか。遊びでやる柔道に対してどういう価値観を持つ人間なのかまではわからない。少なくとも、俺は遊びでやる戦いには何の価値観も見出だせない。戦いは常に非情だったからな。

生きるか死ぬかの戦いに…ルールなんてない。

 

八幡「これについてはなんか言ってたか?」

 

城山「…いや。だが特に怒っているふうでもなかった」

 

城山はその先輩とのやり取りを思い出しているのか、一語一語確認するようにいう。取り敢えず、否定的な態度は取られてないらしい。

わざわざ自分が引退した部活に◯◯◯◯くらいだ。閉鎖的な組織を好む気質かと危惧したが、それほどでは無いようだ。

まぁ、一応新規の部員獲得のためというお題目もついている。それくらいは大目に見てくれるのかも知れない。

 

八幡「そうか、ならいい。後輩がちゃんと頑張って部を盛り上げてる姿、見せとかないとな」

 

城山「そうだな」

 

城山はふっとはにかんだらしい。顔が元々じゃがいもみたいなので、その辺りはどうも判別がつきづらい。

 

八幡「ま、盛り上がるといいな」

 

城山「それよりも、お前の方が心配だ……反則のオンパレードは勘弁してくれよ?」

 

八幡「大丈夫だ。俺向きの技の研究は、漫画で得たさ」

 

うん。あれが有効なんて初めて知ったよ。

 

城山「二段巴投げとかじゃあ無いよな?」

 

八幡「いや?至って柔道教本に載っている技だぞ?」

 

城山「ならいい。じゃあまた後でな」

 

俺は城山と別れ、上座から離れると、入り口付近へと向かう。

そこでは長机を出して、出場チームのエントリーを受け付けている。ちょうど今はジョジョが珍しく携帯を弄くりながら座っていた。いろはなら良かったが、今日は出勤だものな…。

出場チームは全部で八チーム。

俺と戸塚と材木座のチーム。そして柔道部のほうから出してもらっているチーム以外は先着順で締め切ってしまった。

数が多くなると収拾がつかなくなるし、何よりだれる。

楽しい時間ほど体感的に短く感じられる。であれば、短く設定しておいた方が、濃密さも相まって楽しく感じられるかもしれない。逆説的な演出だ。

あとはほら。失敗しても早く終われば幸せだからね。

 

八幡「ぼちぼち開始時間か」

 

ポチポチと携帯をいじっているジョジョに話しかけると、ジョジョは携帯から顔を上げずに答える。見ると、仕事用の携帯で指示を出しているらしい。ジョジョらしいな…。

 

静「うん。葉山が来たら、みんな来るんじゃあない?」

 

教室の中での盗み聞きでは、一旦部活を抜けてくると言う話だ。遠距離タイプのハイエロファントって便利だね。

ちらりとトーナメント表に目をやる。

雪ノ下がエントリーされたチームを書き込んでいく。俺達のチームとちょうど真逆に、柔道部が配置されていた。

これで決勝までは反則負けにはならないだろう。

 

静「ハッチ」

 

八幡「ん?」

 

静「言われた通り、両端にしてあるけど、これってハッチ達が勝ち上がらないと結局、計画通りにはならないんだよね?反則とか大丈夫?」

 

八幡「材木座と戸塚だからな。大丈夫だろ?」

 

静「ハッチ…これって頼りになるの?嫌な予感がするんだけどさ」

 

ジョジョは俺が参考にした漫画をひょいっとつまみ上げる。

 

八幡「大丈夫だろ?教師のやっていた事くらいのマネは簡単に出来る。それに、負けたらエキシビションでも何でも組むさ。それでも成立するんだ。とる手段が変わるだけで、やろうとしてることは変わらねぇよ」

 

静「ま、どっちにしろ後味の悪い結果になるしね」

 

八幡「いつもの事だろ。特にパッショーネ関係じゃあ」

 

静「言えてる」

 

イベントに先輩が来ることが目的だからな。主釣りも終わったも同然だ。このイベントは新入部員獲得の為のPRの場であることは確かだが、それは一側面でしかない。

もう一つの側面は、先輩の始末…じゃあなく、排除だ。まあ、柔道部OBとしての名目としては始末といっても過言じゃあないが。

その為に必要なのは先輩の権威失墜。この場に、この高校に顔を出し辛くなる程度のダメージを与えてやれば良い。過去の栄光に逃げている者にはそれがお似合いの末路だ。呪うなら…覚悟がなかった自分を呪え。

その手段ならいくらでもある。

 

雪乃「そろそろ時間ね」

 

雪ノ下が時計を確認して言った。俺も釣られて時計を確認すれば確かに定刻だ。

それに合わせたかのように入り口が騒がしくなった。

葉山グループの到着か。

 

戸部「テンション上がるわー」

 

戸部の声が一際大きく聞こえる。

葉山が俺の姿を見つけて足早に駆け寄って来た。

 

葉山「済まない。遅くなった。ヒキタニくん。今日は君に勝つ」

 

材木座「問題ない!定刻通り、只今参上したな!葉山」

 

お前は勇者◯急隊か!

 

八幡「まぁ……俺に勝つのは…難しく無いだろうが…気を付けろよ?俺と当たったら」

 

葉山「え?それってどういう…」

 

八幡「俺、柔道の負けって全部反則負けなんだわ。柔術の技は、柔道では反則技になるものが多くてな?俺の得意技って、反則に該当するんだよ。柔道に興味ないから何が反則かもわからなくてな……」

 

葉山「き、君らしいというか……」

 

葉山が顔をひきつらせる。まぁ、なるべく怪我だけはさせないようにするわ。

とにかく、役者は揃った。ようやく、総武高校最強を決める、S1グランプリが開幕する。

 

キングクリムゾン!

 

城山の挨拶も終わり、そして間もなく第1試合が始まる。柔道部と、泉達のチームだ。

泉達は善戦するものの、畑違いから惜敗した。よくやったよ。泉。

 

泉「負けちゃったな……。だが、俺達の役割はもう終わっている。後はお前たち次第だな。ジョジョ」

 

八幡「ああ。ありがとな。本当に助かったわ。ポコ」

 

泉「良いさ…これでもまだ前世やテニス部の恩は返しきれていないからな。また何かあったら頼ってくれ」

 

泉達テニス部は微笑んで去っていった。爽やかな奴だ。

第2試合だった葉山たちのチームも無事に2回戦の準決勝に進出。順位上では泉達に勝ったが、やはり直接対決をしたかったらしく、葉山は残念そうにしていた。

第三試合も終わり、俺達の初陣だ。何気に大会という形式では初めての参戦だな。ボー◯ーの世界や◯花の世界ではエキシビションとして何度もやったが、この空気は馴染めん。実戦でやり続けたからな…。いまいち場違いかんが抜けないんだよ。裏の世界に染まりすぎたかな?

 

八幡「順番はどうする?」

 

順番も重要だ。勝ち抜きではなく、総当たり戦。一応は全員が試合をする。

 

材木座「我が先鋒に行こう。能力的に我が一番向いておらんからな」

 

戸塚「良いんじゃあないかな?まぁ、適当に頑張ってよ。僕が中堅をやるよ。八幡は大将だね?」

 

相変わらず戸塚は材木座には厳しいな…。前世の因縁って奴だからだろうが…。

俺は材木座に同情的に肩を叩くと…何やらぬめっとした。こいつ、両生類か!痩せたとはいえ、まだ材木座は余計な脂肪分があるからな。

 

礼をして畳から出ると、すぐに先鋒戦が始まる。

俺達が見守る中、材木座は俊敏に動く。見た目と違って材木座は動きが速い。ガンズ・アンド・ローゼズがなくともこれくらいは生身で出来る。相手もそこそこ動ける人間で組み手争いは同時。だが、例のぬめりにビックリした相手はすぐに手を離す。気持ちはわかる。俺も汚れに慣れていなければ同じ反応をしただろう。今では下水の汚れも気にならなくなったがな。嫌な慣れだ。

ふ…スタンドバトルも競技も、嵌まってしまえばものの数ではない。俺達は何度もそういう経験をしてきた。

そして、材木座はその隙を逃さない。ジジイ仕込みの体落としで見事に一本を取る。どんな勝ち方でも、勝ちは勝ちだ…。卑怯汚いなど、実戦では言ってられないからな。

周囲のどよめきの中、材木座が悠々と戻ってきた。

 

材木座「我がドイツの格闘技は世界一ぃぃぃ!どうだ八幡!」

 

八幡「いや、凄いな…」

 

あの汗が。そしてドイツ関係ないから。

材木座が垂らした畳の上の汗を処理している柔道部の皆さん…。ご愁傷さまです。

 

戸塚「じゃあ次は僕の番だね?」

 

戸塚が前に出ると、相手の選手はポーっと顔を赤くした。わかるぞ…戸塚の表情は男を惑わせる。

 

戸塚「よろしくね☆」

 

「あ、ああ…」

 

あ、結果は見えたわ。戸塚は開始早々に敵に肉薄する。か弱そうに見えて鍛えてるからな。それに面を食らった相手。だが、相手が反応する前に……

 

戸塚「そいやー!」

 

ダァン!

 

戸塚の背負い投げが一閃。試合は驚く早さで終わった。

柔道場は一瞬静まり返った後に、割れんばかりの歓声が響く。

ホール・シンクスを使わずに倒したか。

これで一回戦は勝ちが確定する。さて、最後は俺だ。

 

「くそっ!せめて大将戦くらいは!」

 

ふ……。あの漫画の技を試す時だ。

 

審判「始め!」

 

八幡「コオオオオオ……」

 

波紋で身体能力を高め、一気に肉薄。そして相手の胴着を掴む。鳩尾付近を掴んで……。

 

「ゲフッ!」

 

そこに一発拳を決める。そこで相手は白目を剥く。

ギャラリーには普通に組んだようにしか見えないだろう。そして、体さばきで投げる。

空気投げ…または隅落としという技巧派のわざだ。

 

ダァン!

 

相手は受け身も取れずに畳に沈む。まあ、怪我しないように上体を少し浮かして沈めたから大丈夫だ。

 

審判「い、一本?………いや、反則!」

 

え?何で?

漫画ではこれでありだったんじゃあないの?

 

審判「相手への直接打撃を確認!大将戦は反則負け!」

 

えー!これでもダメなのかよ!

 

静「嫌な予感が的中したよ……」

 

ジョジョが「コー◯ローまかりとおる 柔道編」を見ながら呟いた。

え?あれの第13柔道部はこの方法で勝ち上がっていたじゃあないか!何故ダメなんだ!

周囲からのブーイングの中、俺はとぼとぼと自軍へと戻った。味方からも白い目を向けられながら。

やはり俺が柔道をやるのはまちがっている。

やはり俺がルールに縛られるのはまちがっている。

 

ゴン!

 

徐倫「あんたがキチンとルールを理解してないからでしょうが!このバカ!」

 

ですよねー?

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。

この落ちは読めましたか?コータローは今から20年前までにマガジンで掲載されていた漫画です。
第13柔道部は審判から見えないように巧妙に反則をやっていたから反則負けになっていなかったということです。
柔道編をやるにあたり、このネタは考えていました。また、二段巴投げは「柔道讃歌」という漫画の主人公の技です。

それでは次回もよろしくお願いいたします。

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