やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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第3章時代です


例の先輩

side比企谷八幡

 

城山達、柔道部が奉仕部へやってきた翌日の事だ。

俺、ジョジョ、いろは、雪ノ下、由比ヶ浜の五人は柔道部の練習を覗き見させてもらうことにした。

柔道場は体育館棟の一階にある。風通しを良くする為なのか、足下に窓が設置されているので、外から回り込んでこそっと見ていた。スタンドで見るのも手だったが、どこで奇襲を受けるかわからないのでやめた。

高校の部活動と言えば爽やかなイメージが想像されるものだ。

飛び散る汗、黄色い歓声。そして感動の涙。

そういう素敵な青春グラフィティを想像する。

少なくともジョナサン大学時代のラグビーではそういうものだった。ディオは冷めていたが。

だが、現実は違った。

絞り出される汗、ほの暗い悲鳴。そして、ただの涙。

百年前のイギリスの方がまだ青春している光景だった。

数少ない柔道部員達は血反吐でも吐きそうな勢いで部活動に勤しんでいた。

まったく楽しそうじゃあない。

その最たる原因は例の先輩にありそうだ。

柔道着に身を包んだひときわいかつい男。ジョースター家のように良い体格をしている。少し太めだな。俺よりは多少体格が大きい。

その男は上座にでんと構えて部員達の練習を眺めていた。

といっても、やっている練習はひたすら走らせているだけだ。

城山とその他数人が延々と柔道場の中を走っている。基礎体力の向上はどの競技にも必要なのだが、この猛暑ともいえる時期に蒸し蒸しした柔道場を走るのは異常な光景だった。普通はランニングなんかは外のコースを走らせるべきなのだが、これは熱中症が心配になる。

先輩とやらはちらりと時計に目をやると、おもむろに立ち上がった。

 

先輩「そこまで。遅れた奴らは遅れた秒数だけ追加で走れ。後は乱取りを始めるぞ」

 

そして休む間もなく、稽古が始まる。

おい、水分補給の時間とか与えろよ。本気で熱中症になるぞ。

 

結衣「うわ、アーシスの訓練よりも厳しいかも…」

 

一般的な意見を取り入れる為に連れてきた由比ヶ浜が顔をしかめて言う。

 

いろは「内容的にはアーシスの訓練の方が中身が濃いですが、健康面や安全面をまったく考慮されていません。指導者としてはどうなのかと思いますね」

 

元看護師のエリナの転生、いろはがそれに続けた。

アーシスの訓練は確かに厳しいが、効率的に力を付け、そして安全面を考慮した内容をとりいれている。最低限の体力は取り戻すくらいの休憩は入れている。波紋の戦士は話は別だが。

だが、科学的なあれこれはともかくとして、ここまではただの厳しめの部活のようにも思える。もっとも、これは常識が欠落した俺だからそう思うのかも知れないが。

思っていたのと少し違うか?と、またしばらく見ていたが、かかり稽古からは明らかに雰囲気が変わった。

 

先輩「へたくそ!お前は死ぬまで走ってろ!」

 

荒々しい声で投げつけられる言葉。

 

先輩「一回掛けられないと勉強になんねぇよな?俺も先輩達からそうやって教えられてきた。体で覚えなきゃ身につかねぇからな」

 

半分は同意だ。だが、これは指導とは程遠い一方的に掛けられる技。

百聞は一見に如かず…一験は百見に如かず…だが、体で覚えさせるというのはそういうものではない。どういう理屈でどうなるのか…それを説明しながらならともかく、ただ掛けられているだけではわからない。

 

先輩「お前らこれくらいで泣き言を言っていたら社会に出て通用しないぞ。高校の部活なんて楽なもんなんだ。世の中ってのはもっと厳しいからな」

 

延々と続く説教。

 

静「ヤバい。本当の社会の厳しさをあの男に見せたくなってきた。実地で」

 

ジョジョの言葉に俺も首肯する。

たかだか大学の部活動を知っているだけで何を社会の厳しさを解いてやがる。確かに社会は理不尽な事が多い。それはSPW財団だとて同じだ。むしろ大きな会社であればあるこそ、しがらみが大きい。ギャングの世界も然りだ。

この柔道部よりも厳しい部活はあるし、社会はもっと理不尽に溢れている。体験している俺だってそれは理解している。

あの先輩に服従している姿だとて、社会にはごまんとある。

だが、この光景はどちらの姿も見ていて気分の良いものではなかった。建設的なものなど何もない。嫌なものを避けるのは人として当たり前の事だ。ただ、それが認められないのは疑問だ。

彼らは俺達のように望んで戦いに身を投じた者ではない。ここまで強制的に何かを強いられる謂れはない。

我慢を強いられた分だけの対価があるとは思えない。

だから、この現状から去った人間を責めることはできまい。責めるべきは、去った人間を責める風潮だ。

これで元いた人間を戻す案は消えた。

 

雪ノ下「もう充分ではないかしら?」

 

静「ええ。現状は確認出来たね。もういい?ハッチ、イーハ」

 

ジョジョの言葉に俺達も頷き、踵を返して部室に向かい始めた。小町が仕事で助かったな。これでいたら乱入しかねなかった。案外直情的な性格だからな。

これで現状がわかった。後は対策だけだな。下手に社会を語ったつけは…払う覚悟があるのか?吐いた唾を呑み込むんじゃあないぞ?

 

キングクリムゾン!

 

部室に戻ってくるとようやく人心地着いた。外にいたこともあって、涼しい室内に戻ると、まるでこの部屋が快適な場所に思える。社畜になる場所だけどな。

部屋に戻るついでに買ったキンキンに冷えたMAXコーヒーを飲みつつ、まずは柔道部の印象について整理する。

 

仗助「お疲れさん。じゃあ、見てきた報告をまとめあってみろ」

 

仗助が仕事の手を止めて聞く体勢に入る。

 

八幡「ぶっちゃけ、どう思う?」

 

雪乃「どうと言われても…。他の柔道部を知らないから比較は出来ないのだけれども、アーシスの訓練と比べても健全な感じはしなかったわ。あれは科学的な事とかも考慮されているもの。波紋の修行は別として」

 

激しく同意だな。比較検討は重要な要素だが、俺達のあれとは比較するまでもない。俺達のあれは柱の一族やウルフスに対する対抗手段の一環だ。それと比べても雪ノ下は異質と受け取ったのだろう。

由比ヶ浜の回答も同じだった。

 

結衣「ああいうのは無理。だってただ精神論をぶつけるだけだし」

 

競技に対するイメージ、部員、先輩、練習風景など、色々な見解が含まれての総合的な意見だろう。

 

結衣「ヒッキーやスタッチ、いろはちゃんは?」

 

静「合わないね。好きじゃあないかな?」

 

八幡「日本の体育会系は好みじゃあない」

 

いろは「あれではアーシスの訓練の方がましですね」

 

少なくとも総武高校の柔道部の在り方は俺の肌には合わない。

 

雪乃「珍しく意見の一致を見たわね」

 

戸塚「アーシスの人間から見ても異質って…よっぽどなんだね」

 

沙希「科学的な理論を無視した波紋の戦士から見ても異質ってことは…ジョジョ。何か問題点を見たね?」

 

まあな。ここまで見た限りでは、あの先輩は…。

 

いろは「部員の募集ってのが依頼の内容ですけど」

 

ジョセフ「その様子じゃあ、焼け石に水じゃという見解じゃのう?」

 

ジジイの言うとおりだ。受けた内容はその一点のみ。他は請け負っていない。取り組むべき内容はそれだ。まぁ、勝手に動くかも知れないがな。

 

八幡「まぁ、勧誘はやらないとだな」

 

それはそれとして、今ある依頼はそれだ。

 

静「そうなると、まずはイメージアップから?だけど、あれのイメージアップって……」

 

ジョジョの言いたいことはわかる。とは言え、総武高校柔道部に限らず、柔道というスポーツ自体が良いもの、メリットの多いものだと伝えなければ今から新入部員を集めるのは難しかろう。

順当に考えてもイメージの底上げは必須だ。

 

結衣「あ、柔道をするとモテるって宣伝するとか?」

 

安直かつ非現実的な…。目をキラキラさせて言ってるが、そんなものは聞いたことがない。

 

八幡「言われて信じるか?お前」

 

三浦「結衣…あーし、ペ◯ングのイメージしかわかないし」

 

結衣「今のなしで……」

 

海老名「男達がくんずほぐれつ……わたし的にはありかもね♪」

 

三浦「オメーは黙ってろし!」

 

昨日は鼻血を噴出させて悶絶してやがったしな。この女は一色さんや花京院の両親に紹介する前に矯正施設に入れるべきなのか?

由比ヶ浜のモテる…確かに何かを始める際、モテそうだからというのはすぐに理由に上がってくる。バンドしかり、サーフィンしかり、スノボしかり、仕事しかり。だが、冷静になって考えてもらいたい。何かのスポーツをしているからモテるとか、バンドやってるからモテるとか、会社の支部長をやっているからモテるとかそういうのではないのである。

モテる奴は何をやってもモテる。むしろ承太郎や仗助のように不良なのに何もやってなくてもモテる。ヒモをやっていてもモテる。逆にモテない奴は何をやってもモテない。ソースは俺。いろはに感謝だな。モテない奴の心理に達してしまうので、その釣り方は効果がない。

他の釣り方は何だ?

 

材木座「ダイエットとかどうだ?」

 

確かにこの数ヵ月で材木座は相当痩せた。中二病特有のオタク臭さがなければ結構なイケメンだし、こいつの意見には重みがあるが…。

 

八幡「昨日の牛丼の話を聞く限り、あいつらは食うのも練習のうち、みたいなバリバリの体育会系だからな…」

 

激しい運動を伴うスポーツは体も資本だ。だから、強靭な肉体を作り上げるためとカロリー接種の両面からかなりの食事量を取る。スポーツの世界では食うのも才能の一つなんだとか。俺には理解できないが。

更に由比ヶ浜も自分の体を見て

 

結衣「結構筋肉付いちゃったな…」

 

といった。その辺は諦めろ。

だが、この反応だと、筋肉も魅力的な材料にはならなそうだな。昔は重要な部分だったのにな。時代は変わったものだ。

ジョジョがサングラスのレンズを拭き取る。思考の切り替えを行う際の癖だ。

 

静「アップというよりは、根本的なイメージを変えないとダメなんじゃあないの?」

 

そう結論付ける。まぁ、ここで簡単に結論が出るようならば、とっくの昔に柔道界の偉い人が実践している。花形選手を育て、世界柔道やオリンピックで活躍させて、「帯を◯◯っとね」とか「YAW◯RA」とか人気漫画を出して、田◯選手を便乗させて。露伴先生に出して貰うか?やらなそうだな…。それならば柔術を参考にした漫画を書きそうだ。

だからこそ、それなりに柔道はメジャーなのだが、逆を言ってしまえばそれが限界とも言える。

 

材木座「固定観念はそうそうひっくり返らんであろう」

 

結衣「うーん…。漫画や小説にする?」

 

露伴「僕は書かないぞ?それに、そんな長い目で取り組むべき問題でもないだろう?」

 

さっきもそれで却下した。ところで露伴先生は何でここに?城廻先輩に呼ばれたのか?

 

結衣「うーん……中二や露伴先生がそう言うんじゃあ仕方ないね。じゃあ、取り敢えず地道に勧誘かなぁ」

 

正攻法だろうが、正解ではないな。

 

沙希「単に募集しても集まらないよ。それで集まるなら、新入生が殺到しているはずだよ。あたしら波紋の戦士のようにね」

 

男子でも柔道に興味がある人間は決して少ないとは思わないが、実際にいざやるとなると、後押ししてくれる理由や環境がないとなかなか踏み出しづらい。それに、途中参加はハードルが高い。

 

三浦「あと、スポーツだと実力差もはっきり出るから二の足を踏む人間は多いし」

 

流石は全中女テニス界の女王。言うことに重みがある。

 

雪乃「三浦さん。つまりは今からでも強くなれるという点を強調したいのね?」

 

三浦「yes I am」

 

熱い性格の三浦らしい意見だ。

 

雪乃「であれば、柔道部の実力が大したことないへっぽこであることを印象付けつつ、時期外れでも目立つような勧誘方法を考える必要があると言うことね」

 

おまえ、大分俺達に毒されてきてね?あ、けっこう元からかも。

しかし、課題点こそ浮き彫りになったが、解決には程遠い。

それらを上手く満たすとなると、一筋縄ではいかないだろう。

どちらにしろアピールする方法が問題か。しかし、へっぽこさが魅力というのはなぁ。

というか、俺達幼なじみーズは既に見えているが、ここは雪ノ下達の成長を促しておくべきかもな。俺がいなくなった後を考えると…。

俺が暗くなっていると、由比ヶ浜が手をあげた。

 

結衣「はい!はいはいはいっ!」

 

静「はいっ!由比ヶ浜!」

 

ジョジョがノリでズビシィッ!と指を指す。

すると、由比ヶ浜は立ち上がり、満面の笑みを浮かべた。

 

結衣「イベントは?結構インカレ系のサークルとかあってさ。そういうところって人が集まるんだって」

 

ん?インカレ?

 

雪乃「イン、カレ?…カレー?」

 

静「インドカレーの略?」

 

誰か説明バクシーン(恵んで)

 

三浦「インターカレッジの略だし。インドカレー…たまに食べたくなるんだよね?あーし」

 

アヴドゥルはそっち系出身だからな…。

 

静「ああ、大学間交流のことね?日本の略し方はいまいち付いていけない時がたまにあるわ…」

 

結衣「そうそう、大学のサークルとかでもいくつかの大学の人達が一緒になってやってるところがあるんだけど、そういうのって大学内だけじゃあ人数集め辛いから色々イベントやるのね。結構高校生に声をかけてるところもあるらしくって」

 

なるほど。日本拳法とかもたまにあるらしいからな。自衛隊とかとも協力している所もあるらしいし。

っていうか、何か恐ろしい話をしてないか?日本の大学生ってそんなのばかり集まってんの?遊びに全力どころか、わざわざ高校生まで集めにかかってるって…。インカレサークルとかカス男やビッチの巣窟(偏見)?俺が通わされた大学にはそんなのなかったぞ?(あったけどそんなのに関わる暇がないくらい課題がびっしりだった英才教育故に知らない)

由比ヶ浜もそういうところに行ってるの?

同じ事を思ったのか、材木座が顔をしかめる。そんな材木座の顔を見て由比ヶ浜があわてふためく。

 

結衣「あたしは行ってないから!他の学校の子に聞いただけ!」

 

材木座「う、うむ…」

 

材木座は返事をするものの、にわかに信用していないのか、疑念の眼差しを向ける。

 

結衣「なんかそういうの行くの怖いし…」

 

そう言うと、材木座もホッとした顔になった。

ははーん……。そう言うことね……。

頭を切り替えて考えれば、人を集めてイベントは良いかもしれん。

 

戸塚「イベントってなにやるの?」

 

結衣「例えば以前のテニス勝負みたいなのとか?」

 

あれはイベントというよりはハプニングだったけどな。だが、確かにあれはあれで一つのイベントだった。その後の三浦と海老名との決闘の方が印象に残ったけどな。

 

三浦「うーん。だったら柔道大会とか?」

 

海老名「良いねぇ良いねぇ~!確かにそれは人が集まるよ~♪」

 

言っていることはまともな筈なのに、思考に邪な物を感じるのは気のせいか?

しかし、なるほど。軽い感じのお遊びか。確かに地域の柔道教室でもそういうのは結構やってるよな?中には警察の柔道でも。

 

雪乃「学校の許可が降りるかしら?」

 

発案事態には異議が無いようだ。

 

仗助「やるなら任せろ。PTA会長として掛け合ってやるぜ。この学校は部活に関しては緩い。遊戯部や奉仕部の存在が良い例だろ?それに、茶道部とかは結構お茶会とかでやっているじゃあないか。俺から口を利けばすんなり通るはずだぜ?」

 

事の成り行きを見守って黙っていた仗助が口を開く。相変わらず頼りになる兄貴分だ。

確かに茶道部なんかは部外者を招いたプチイベントを開いているようだ。

イベントね…。良いんじゃあないの?

 

←To be continued




はい、中途半端ですが、今回はここまでです。

昨日は節分でしたね?豆は撒きましたか?恵方巻は食べましたか?
去年も同じ事を書いた記憶があります。確かマライア戦でしたか?第二章でアラフィフのセクシーシーンを書いた記憶があります。
気がつけばこの作品を始めて一年が経ちました。こうして続けていられるのも皆さんのお陰です。これからも完結に向けて頑張ります!

柔道部編は番外編なのに案外長引きそうですね。本来なら刊行順に追って番外編をやる予定でした。ですが、実はこの話、とある人物の初登場回なのです。ウルフスとの戦いは気になるところでしょうが、もう少しお付き合い下さい。

それでは恒例の。

柔道部の見学は八幡、雪乃、結衣→プラス静、いろは

八幡はジョナサン時代のラグビー部を思い出す

八幡から見て柔道部の先輩は体格が良い→度々書いているが、本作の八幡は鍛えているので体格が良いので先輩はそれほどには見えない

雪乃は他の体育会系の部活を知らないので比較が不可能→ある意味ではアーシス前線基地である奉仕部は下手な体育会系よりも厳しい訓練がある。

八幡は社会を知らない→裏社会を含めていやというほど見てきている

事あるごとに社会の厳しさを語る先輩に怒りを覚える八幡

この段階で八幡は既に先輩の事情を見抜いた

既存の漫画ネタを加筆

原作では由比ヶ浜と材木座は他人同然→互いに惹かれあい始めている。というか、第5章の段階で付き合っている。

学校の許可は多分下りるという予測→さらに仗助が後押しする。

それでは次回もよろしくお願いします。

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