やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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文化祭で触れた7.5巻の柔道編です。
過去の思い出話として短編も逐一入れていきます。
この話を盛り込む人は珍しいのではないでしょうか?
それではどうぞ!


第5章ー外伝 「聖地レクイエムの前日譚。柔道編」
いまだ彼らは帰るべき場所を知らない


side比企谷八幡

 

文化祭も終わり、次のイベントと言えば体育祭だ。

文化祭もそうだが、体育祭では俺達も結構気を使う。

特に俺とジョジョは。

何故かって?そりゃ波紋の戦士が本気を出したら体育祭にならないからだ。

それに、実はいろはも結構注目されたりしている。

 

相模「そう言えばさ、あのトロッコでは一色さんも恐れられていたね」

 

いろは「柔道部の一件があるからじゃあないですか?」

 

めぐり「あ、その話を詳しく教えてくれる?生徒会でも柔道部の一件は問題になっていたけど、奉仕部が柔道大会を開いていたよね?それってどんなことだったの?報告も比企谷君の煙に巻いたような適当な内容だったし…」

 

八幡「そうですね……あれは期末が終わってすぐの頃だから………」

 

 

そして時は第3章の頃に巻き戻る。

 

 

side比企谷八幡

 

定期テストも終わり、梅雨も明けた。

長雨こそなくなったものの、それでも帰宅時を狙ったかのように降るゲリラ豪雨が頻発している。それもこれも常に肌に貼り付くような湿気がこの空の下に充満しているからだろう。

特に海岸沿いに位置するこの総武高校は海からの湿気がもろに運ばれてくる。湿った潮風は自転車や塗料が剥げてむき出しになった鉄柵を錆び付かせていた。

そんなじめりとした空気だが、大抵の生徒にとっては気分だけは高揚しているだろう。

夏休みを目前に控えた今の時期は、遊びの予定目白押しのリア充のみならず、学校から解放される季節だからだろう。

もっとも、俺は学校という牢獄から解放されても、ブラック企業からは解放されないのだが。それに……

 

八幡(神の聖地にて……原石は消える……か)

 

俺にはこの運命が待ち受けている。川崎の前世であるツェペリさんですら避けられなかった運命に抗う手段を俺は知らない。

夏の魔力……。時に暑さは人をおかしくするが、柱の一族もそうなのだろうか?

最近の俺は自分でもわかるくらいに行動がおかしい。全ては夏の魔力のせいにしているが、周囲も薄々は感じ始めているだろう。

校舎裏と新館の間は日陰になっているおかげで他の場所よりいくらか涼しい。俯瞰すれば口の字のように四角く囲まれた校舎に対して、ちょろりと一本余計に足されたこの新館は、一般生徒達にはあまり馴染みのない場所だ。体育館の下にある武道場、運動部の部室くらいであれば人通りはあるのだろうが、それも昼休みのせいで人はいない。

おかげで俺と、もう一人の他は誰もいない。

昼休み、夏休みを前に浮き立つ生徒達。

風にのってほのかに届く潮の香り。

そして人気のない校舎裏。

二人きりで過ごす、秘密の時間。

こういう言い方をするとまるでいろはとの一夏の青春にも聞こえる。

だが、現実はさに非ず。

いや、却って好都合かもしれない。

運命の事は、いずれ皆が知ることになるだろう。

そうなれば、あれの入手は困難になるはずだ。そうなる前に手を打っておく必要がある。

 

材木座「くっくっくっ、よくぞ参った。我が宿敵。八幡!」

 

芝居がかったアホほどウザい話し方に返すのは、やる気のない俺の声。

 

八幡「例えスタンド使いと言えども、貴様の血を吸う気にはなれんなぁ、剣豪大佐の材木座」

 

相棒の演技力とは月とすっぽんの、タレントや映画監督が声優やったってもうちょっとマシに喋るだろうなってくらいに棒読みで言うと、相対していた材木座がすっと構えを取る。ゲロスパークウザい…が、今は我慢だ。

実際には俺と材木座が二人きり、校舎裏の陰で人に見られないように誰もいない場所に逃げ込んでいるだけ。

いつもの場所でいろはやジョジョと和やかに昼食を食いながら、泉たちの昼練に付き合ってテニスをしている戸塚を眺めていたら、材木座に捕まってしまった。

そして、材木座の小説のプロット案を聞き、中二病ごっこに付き合わされている。

だが、渡りに船だ。こちらの用件も済ませよう。

 

八幡「そんなことよりもだ材木座。おまえ、案外工作とか得意だって聞いたんだが本当か?」

 

材木座「ふむ?まぁ、結構得意な方ではあるが……何か自分に頼み事か?ジョセフの義手は確かに我が色々作ったのだが……」

 

八幡「ああ。この写真の物を図面通りに作ることは可能か?」

 

材木座「はぼん?これは……矢か?自分にとっては造作も無いことではあるが……」

 

八幡「是非とも作ってくれ。それも、ジョースター家や露伴先生にバレないように」

 

それを聞いた材木座は眉を潜める。

 

材木座「ジョースター家に内緒とな?何を企んでおる?よもやお主、また空条先生に良からぬ事でも企んでおるのではないだろうな」

 

良からぬことかどうかはわからん。だが、運命を知れば、ジョースター家はあれを俺の手に渡すような事はしないだろう。

今ならばまだ、あれは研究の為だとか適当な事を言えば貸し出しの許可を得ることができる。

 

八幡「いや、研究の為だ。だが、これは露伴先生もいい思い出が無いものだからな。心配させないように模造品で色々試したいと考えてるんだよ」

 

我ながら苦しい言い訳だとは思う。

 

材木座「ふむ。自分と八幡の仲だからな。その依頼、この剣豪大佐がしかと承った」

 

八幡「なるべく早く頼むぞ」

 

そうすれば、俺はあれを手に入れることが出来る。もし予言の通りに事が進めば、俺は消える……。

自らが消えるとわかっているのに、その運命を加速させる真似を自分でやるというワケのわからないことをやっているが、予言の目覚める神が雪ノ下なら……救わなくてはならない。

生き残る真実は……輝かしい未来の奴で良い。消えるべき真実は、邪悪の化身であるべきだ。

そんな事を考えて視線を変えると、奇妙な光景が見えた。

いや、スタンド使いのアレコレじゃあない。

柔道着姿の男子、数人が肩を落としてトボトボとこちらに向かって歩いてくる。柔道着なんてずいぶんと威圧的な風貌のくせして弱気そうに見える。

わざわざ昼休みに練習するなんて、わが盟友戸塚と泉率いるテニス部、そしてはたから見たらなんの為の訓練をしているのかわからない奉仕部くらいのものだと思っていたが、うちの柔道部もそうだったのだろうか?

だが、様子が明らかに違う。泉達は爽やかに、楽しそうに練習しているもんだが、俺の横を通りすぎる柔道部連中は違うらしい。

まぁ、それは仕方がない。戸塚や泉達は黄金の精神を持った特別な存在だ。

一方、特別でも黄金の魂の持ち主でもない柔道部連中の顔には生気が宿っておらず、歩き方だってゾンビのようにやけに疲れた表情だ。具体的には俺が会社やパッショーネにドナドナされるときの表情。まだアイツが操る屍生人の方がましである。

そのまま件の柔道部をチラ見していると、材木座もそれを見たのかふむぅと首を捻っている。

 

材木座「なにやら怪しげな一団であったな」

 

八幡「俺達アーシスがそれを言うか?」

 

材木座「だが、まだ柱の一族が率いる吸血鬼達の方が覇気があったぞ?」

 

八幡「その吸血鬼が産み出した屍生人の方がましだったな」

 

材木座「屍生人?」

 

八幡「ああ、柱の一族にとっては吸血鬼がその役割だったからな。屍生人ってのは吸血鬼が生み出したゾンビの事だよ。四年前も手を焼いたがな」

 

マジでアイツが操る屍生人は柱の一族が生み出した吸血鬼よりも上だった。あいつの程では無いにせよ、俺の前世のディオが生み出した屍生人だって、カーズの部下の吸血鬼とは互角だったように思える。ディオの血統は何でそういうのに優れてるんだろうな?

 

………この半月後にはまた屍生人と吸血鬼、異世界の柱の一族や異界の真祖や悪魔となったデイウォーカーと関わり、そしてアイツ本人と一体化するとは夢にも思わなかったが…。

 

材木座「ふむ。そんな存在までおったとは思わなかったが…自分には吸血鬼など雑魚としか見えんかったゆえ。むしろDIOに負けたジョセフに不甲斐なさを感じたぞ」

 

八幡「ケンカ売ってんの?俺、そのディオの転生なんだけど?」

 

ディオを擁護するつもりはあまりないが、かと言って自分の前世をバカにされればさすがに腹が立つ。

もっとも、材木座のこの手の失言に一々腹を立てても仕方ない。それが材木座義輝という男なのだ。こちらが折れてやるべきだろう。

 

八幡「そういや、お前、武道選択、剣道にしたんだな」

 

俺たち二年生は今の時期、体育でちょうど武道をやっているのだ。柔道か剣道、どちらかを選択しなければならない。

が、剣術は陽乃さんから仕込まれているし、むしろジョナサン時代からの経験からソードの方が相性が良い。たまにポルナレフさんからレイピアも教えてもらっているし、俺が一番得意としている武器は銃剣だ。銃剣と剣道では動き方が全然違うので、正直意味がない。

一方で柔道はその源流の柔術をジジイから仕込まれている。やはり動きが柔道の技に比べると、すこし違和感がある。柔道は投げ、絞め、関節と別々に行うのに対し、柔術はそれらを複合的に行う技が多い。

どちらでも良かったが、スタンドにせよ生身にせよ突発的に戦闘が発生することが多く、必然的に素手で戦う俺としては柔道を選択したのだが、そこに材木座の姿はなかったので、消去法的に材木座は剣道選択ということになる。

 

材木座「ほむ、左様。剣道だ。当然の事であろう。それがどうかしたか?」

 

八幡「いや、……お前とペア組まされる人間が可哀想だと思って」

 

実際、ただの体育だって一般人とは身体能力に差が出始めている材木座だ。それが剣道ともなると陽乃さんから手解きを受け始めた為に余計に手がつけられなくなる。

 

材木座「心配無用。自分の力を一般の生徒に向かって使うわけにはいかぬからな。抑えておる」

 

八幡「ああ、そうしろ。間違ってもメタルブレードを使うんじゃあないぞ」

 

あれはもはや真剣だ。アヌビス神程ではないにしても切れ味は抜群に高い。

まぁ、材木座も力の加減がわかってきたのか、その手の騒ぎが起きているという話は聞かない。単に俺に一般人の友達が泉や青葉達くらいしかいないのもあるから聞く機会がないだけかもしれないが。

 

材木座「八幡、貴様こそどうしているのだ?」

 

俺の態度が不満だったのか、材木座が、口を尖らせて聞いてくる。だが、俺の答えはシンプルだ。たった一つのシンプルな答え。

 

八幡「お前は俺を怒らせた」

 

材木座「は?」

 

って、なに承太郎になってんだ?しかも、それ、俺がディオの時に言われたことばじゃあないか!

 

八幡「柔道部の人間が相手してくれんだよ。後はずっと受け身の練習をさせられてる。死人を出さない為とか何とか…柔道に当て身って無いんだな」

 

材木座「いや、普通は無いだろ!」

 

八幡「バカな!柔術にはあるし、古式柔道には確かにあるぞ!」

 

材木座「公式では無くなっとるわ!貴様は大学出のクセに常識が欠落してないか!?」

 

なん……だと?当て身があるからこそ崩しが容易なんじゃあないか!

 

材木座「自分も体育教師の判断に賛成だ……本当に貴様の力は人を殺しかねん」

 

殺したことがありますけど何か?

材木座は額に汗をたらしながら言う。それが暑さによる汗なのか、冷や汗からくる汗なのかまでは判別できんが。嘘による汗はかつてパッショーネにいたジョルノの上司が味で判別できたらしいが、さすがにそれこそ嘘だろ。(この段階ではブチャラティの転生である留美は未登場なため、八幡は信じていない)

それに、柔道にしろ他のスポーツにしろ、体育で特定の競技をやる場合、その部活の人間が貧乏くじを引くのは宿命だ。見本を見せてみろとか言われるし、用具の準備や片付けまでやらされる。これらの時間外労働がまかり通っているのが体育会系の闇である。運動部は社畜予備軍としてもっぱらの噂だ。俺の中で。有望なのはとっとと財団に引き入れよう。

なので、柔道部が俺の餌食……ではなくサンドバッグ…でもなく相手役なのはやむなし。…そのせいで暗い表情していたの?これからも実験台よろしくね?(反省する気まったくなし)

が、俺の存在があろうがなかろうがこの風習は変わることが無いだろう。

柔道部の人には悪いが、今しばらく厄介になろう。実験台として。命までは取らないから安心してくれ。

開き直るとちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。あ、いろは達を放置していた。LINEにはお怒りのメッセージが入っている。後でやられるな、こりゃ。

 

八幡「ジョジョ達がお怒りだ。俺は教室に戻るから」

 

言って、ひきずを返すと、当然の如く後ろから足音が続く。

 

材木座「はもん。では、参ろうか」

 

八幡「波紋疾走(オーバードライブ)

 

材木座「げぶぅ!何をするのだ八幡!痛いじゃあないか!」

 

え?自分ではもんって言ったじゃあないか。だから波紋を食らわしてやったのに何が不満なんだよ。

 

材木座「ただの俺のクセだ!今後は間違えるでないわ!疾走(ドライブ)するなら早く戻るぞ!疾く!」

 

え?「一緒に帰ると友達に噂されて恥ずかしいし…」

 

side藤○忍

某喫茶店店内

 

忍「っくしょい!気のせいかしら?今、詩織ちゃん(元祖ギャルゲーのメインヒロインの名言)みたいなモノローグが聞こえた気がするわ」

 

光「気のせいじゃないの?私には何も聞こえなかったよ?」

 

妻の光がそう言うからにはそうなのかも知れないわね。

それにしても、詩織ちゃんはともかく、沙織ちゃんは全然帰ってこないわね。今頃どうしてるかしら?

 

光「そう言えばさぁ、私の生徒がクセモノ揃いで大変なんだぁ」

 

忍「大丈夫よ。たまに来る空条聖子(ホリィのあだ名)さんのお孫さんなんて、苦労しているそうよ?それに比べたらマシじゃないの」

 

光「それって、忍ちゃんが四年前に助けた空条徐倫さんでしょ?よく愚痴を言いにきてるじゃない。あんな豪傑な人を苦労させてるってどんな生徒なの?」

 

忍「八幡ちゃんとジョジョちゃんよ」

 

光「あ~……あの子達は確かに…捻くれてるというか、伊集院さんや紐緒さんに匹敵するよね……そりゃ苦労するよ……ジョジョちゃんなんて昔は詩織ちゃんみたいに可愛かったのに、何であんな性格に……」

 

ジョセフのクソジジイと八幡ちゃんのせいね。

まったく…八幡ちゃんはともかく、あのジジイは…。

ホリィさんがまともに育ったのは、スージーさんのお陰よね?

そう言えばスージーさんも転生したって聞いたわ?いつかは会ってみたいものね。

 

『煌めく朝日♪窓辺のラジオ♪』

 

あら?誰かしら?こんな営業時間中に電話をかけてくる人は?

……珍しいこともあるものね、まさかあの世界の住人が電話をかけて来るなんて……。

あの子なら、こっちの都合なんて考えてくれるはずないわね。妙に納得しちゃったわ。

 

忍「久しぶりね、霊夢ちゃん。珍しいわね?え?異変が起こる?それに協力してほしいですって?相変わらず勝手ね」

 

『神の聖地にて、最後の黄金の精神と再会せしとき、新たなる神が誕生し、隠者と世界は鎮魂を奏で、世界をあるべき姿に戻し、砕け、原石は消える。消えた原石は聖なる遺体となりて5つの黄金の精神と混ざり合い、愛の聖痕と星の聖痕と共に異変へと立ち向かい、5つの世界を救う』

 

この時はまだわからなかったわ。

その予言が八幡ちゃんの事で、あまりのショッキングな事件のプロローグになるなんて思わなかったわ……。

運命の歯車が動き出す序章は……この時から始まっていたの…。

 

←To be continued




時期的にはめぐりと出会うか出会わないかの頃です。


それでは原作との相違点。

八幡も夏休み前で浮かれている→千葉村前で、既に運命の事を理解している。

材木座とのやり取りはダイの大冒険ネタ→ダミーの矢の作成依頼。

戸塚の自主練→戸塚はテニス部を退部しているので、後任の泉の練習に付き合っている

柔道部の団体に屍生人や吸血鬼ネタを挿入

八幡は親から剣道を選択するかもと言い、小遣いをちょろまかした→学費、小遣いは自分の給料で賄っているのでそのネタはカット

材木座は原作でも「はもん」と言う→…ので、本当に波紋を食らわせた

『一緒に帰ると友達に噂されて恥ずかしいし』は八幡が本当に原作での地の文で言った→……ので、越後屋様のキャラが登場。ついでに第3章~第4章の忍のプロローグへとなった。


それでは次回もよろしくお願いいたします。

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