side比企谷八幡
1日1日と文化祭が近付くたびに、下がっていく気温とは裏腹に総武高校は熱を帯び始めていた。
朝からうちの教室はガタガタとやかましい。
机を並べ、組み上げて舞台が形作られていく。
ルーム長の指示のもと、小田だか田原だかがベニヤと段ボールで作った背景セットをたてる。
戸部、大和、大岡の三人がえっさほいさと、やけに気合いの入った飛行機のセットを運び込んできた。
川崎はヘッドホンしながらチクチクと衣装の直しをし、三浦と由比ヶ浜はくっちゃべりながら赤い造花を飾り付けている。
その数も足りないらしく、女子達が造花を作り始めた。なんかあれだ。ティッシュペーパーみたいなのを五枚くらい重ねて段々に折り重ねて真ん中輪ゴムでとめて一枚一枚ひっぺがして作るやつ。あれな。文化祭でおなじみのやつ。
戸塚と葉山は二人で台詞の読みあわせをしていた。
俺といえばUSBを忘れていたので取りに来ただけで、またすぐに戻らなければならないのだが、せっかくなので二人の演技を見ていた。
戸塚「今晩……君は、来ちゃいけない」
葉山「ぼくたちはずっと一緒だ」
儚げな王子さまの声に、「ぼく」はそれを支えるようにまっすぐな気持ちを伝える。
なかなか様になっているなぁ。内容はともかく。もしかしたらあのシーンで戸塚とアレなシーンをやっていたのか俺だったとしたならば…
スピードワゴン「今晩、ジョースターさんは来ちゃいけねぇ!」
ジョナサン「僕たちはずっと一緒だ……」
ゾワワワワワ……
いや、待てよ?
ジョナサン「く、来るな!ディオ!」
ディオ「ジョジョ!お前は永遠に我がフューチャーであり続ける!」
……前世が重なるシーンなのに、海老名補正がかかると別の意味に聞こえるのは何でだろう?
ジョナサン『あの場面をそう捉える君も既に色々と手遅れになりつつあるよ?』
DIO『や、やめろぉぉぉぉぉ!その場面をそういったシーンに改編されている平行世界がありそうだぁぁ!』
………ありそうだな。想像の分だけ平行世界は存在するからな。気持ち悪くなるからこれ以上考えるのを俺は止めた。
良くない想像をするので視線を外すと、その正面に海老名超プロデューサーがいた。やけにつやつやした笑顔をしている。
……今後、こいつと親戚付き合いしなきゃならんの?マジで?
え?何故かって?いろはが花京院家の親戚だからだ。それ以外の深い意味はないぞ?
海老名「YOU!出ちゃいなYO!」
どこの一昔前のラッパーだ。
何ーズ事務所だ?エビーズ事務所を作ってもSPW財団はスポンサーにならないからな?少なくとも関東支部は!他の支部にも注意を促そう。
八幡「や、文実あるから」
答えると海老名は丸めた台本でポン♪と肩を叩く。
海老名「そっか。残念だな。ヒキタニ君の「ぼく」と戸塚くんの王子、いいカプだと思うんだけどな。なんか前世のスピードワゴンさんとジョナサン・ジョースターを思い起こせそうで……はっ!これが前世萌えと言うやつなの!?ぶ腐!」
まるで吐血のように鼻血が出ていた。
同じシーンを想像していただけに生々しい。怖いわ…マジで。
三浦「だー!また始まった!海老名。ほら、チーンしなチーン」
騒ぎに気付いた三浦が飛んできて、造花を作るはずの紙を海老名の鼻に添える。予算の無駄使いはやめてくれね?
八幡『……『また』?』(アラビア語)
三浦『稽古の都度最低は1回』
八幡『それ、ちゃんと申告しろよ。海老名のティッシュ代』
三浦『あ……今回だけだし!細かいこと気にすんなし!』
八幡『………今回は見なかった事にしてやるよ』
三浦『サンキュ』
片手を上げてクラスの様子を確かめて立ち上がる。すると、セリフ合わせを終えた葉山がやって来た。
葉山「やぁ。こっちにいるなんて珍しいじゃあないか」
相変わらず爽やかな笑みを浮かべて葉山は話しかけてきた。アレ以来、こいつともこうして話すようになった。
八幡「
葉山「は?」
三浦「葉山、ヒキオは忘れ物だって言ったんよ。そしてヒキオ、アラビア語のままになってるし」
八幡「solo(つい)」
三浦「イタリア語はわからないから……」
八幡「……んんっ!内緒話をするときは結構役に立つんだよ。たまにしか使わない言葉の場合は咄嗟に切り替えるのはキツいけどな。ヒアリングは出来るんだが、喋りに切り替えるのは…」
葉山「……君の語学教室でも開けばそれだけで文化祭の企画になりそうだね」
八幡「英語だけなら由比ヶ浜以外のアーシスはネイティブ並みに喋れるな。スラングさえ気にしなければ」
葉山「正体を知るととんでもないな?君達は」
だろうな。第三者が聞いたら冗談にしか聞こえんだろう。
八幡「で、成長したスタンド能力はわかったの?」
葉山「……わからない。以前のオーラル・シガレッツとは完全に違うようだ。もしかしたらオーラル・シガレッツが成長したのではなく、違うスタンドかもな」
八幡「そうか。能力の解明は急いだ方が良い。スタンド能力が自分に害をなさないとも限らないからな」
チープ・トリックとかパープル・ヘイズとかはその典型だ。以前のオーラル・シガレッツだってかなり危険な能力だったしな。
葉山「わかったら君達に教えた方が良いのかな?」
八幡「差し支えなければ……だな。お前と相模は隊員ではないから、強制ではないが、万が一共闘するとかとなった場合、互いに能力を知っておいた方が相互支援がしやすい」
葉山「悪用するとは思わないのかい?」
八幡「お前はそんなことをしないだろ?それくらいの信頼はしているよ」
葉山隼人は悪人ではない。スタンドで舞い上がるような性格をしていない。
葉山「そうか……わかったら伝えるよ。スタンド使いはスタンド使いと惹かれ合う……だったよね?多分、俺達の前にも現れると思うんだ……ウルフスが」
八幡「対話を試みれば良いじゃあないか」
葉山「いじめないでくれよ………人間を滅ぼす事しか頭にない存在なんだろ?命懸けの対話なんてゾッとするね」
葉山が苦笑いをしてツッコミを入れて来る。
八幡「………間に合えば助けるわ。とはいえ、自分の力で戦えるようになれれば良いんだけどなぁ……」
葉山「時々訓練を付けてくれると助かる」
八幡「まぁ………専門家に頼んでおくわ」
葉山「それにしても能力か……以前のオーラル・シガレッツだったらウルフスとも共存出来たのかな?」
八幡「多分だが、通用しないと思う」
葉山「どうしてそう思う?」
ハーメルンの記録を見た限りでは、恐らくオーラル・シガレッツact1は通用しない。
八幡「露伴先生のヘブンズ・ドアーにはその手の能力があるのだが、ウルフスには通用しなかった。洗脳系の能力は恐らく通用しない……というのが俺達の見解だ」
葉山「そうなのか……」
八幡「だが、俺はact1の能力がオーラル・シガレッツに無くなってよかったと思っている。嫌いなものが好きになる。あの能力があるならば、世に争い事は無くなるかも知れない。だが、そんな物は……」
葉山「本物じゃあない………だろ?」
驚いた。こいつがそれを知ってるなんてな。
葉山「前の俺ならば、確かにどんな形であれみんな仲良くと考えていたのかも知れない。でも、それは違うんだなって思ったんだ。雪ノ下さんが変わってきたのを見たせいか、それともウルフスの関係からか……」
なるほど。本質は変わらないが、根が変わったのかもしれない。
みんな仲良く……それは理想だが、理想だけでは世の中は回らないということに気がついたのだろう。
相模にも必用なのだろう。
互いに忙しいので、俺達は話を切り上げる。
葉山の能力か。どういう能力なのだろうな。みんな仲良く……の本質から生まれる葉山の能力。興味があるな。
葉山「とりあえず、南の事は頼んだぞ。…………ジョースターさん達を怒らせない手段でな」
三浦「そんな真似したら、あーしらも許さねぇし?どんだけ苦労したと思ってるし」
八幡「川崎か……喋ったのは」
沙希「当たり前でしょ。ほら、さっさと行きなよ」
結衣「頑張ってね!ヒッキー」
はいはい。俺は忘れ物を持って教室を出る。
荷物も本来なら文実に持っていくのだが、ジョジョと相談をして三浦や海老名に預けることにした。
小中学生のように俺の鞄に何かしてくるやつがいないとも限らない。もう俺は総武高校という学校に何の期待もしないことにした。愛想が尽きたとも言える。
それなら三浦達に預け、後で仗助達に渡してくれれば良い。
この調子だと葉山は今日は文実に来ないだろう。
それに、本来ならそれが当たり前のはずだしな。
階段を降り、廊下を曲がり、既に通いなれた道順を行く。
ボルテージが上がっているのはクラスだけじゃあない。文実だって同様だ。
たどり着いた会議室もガヤガヤと色んな人が慌ただしく出入りしている。普段は閉じられているドアも今日は終始開けっぱなしだ。
中ではてきぱきと仕事を捌くジョジョと雪ノ下と相模がいる。あれ?一人足りなくない?
いろは「先輩おっそーい!」
突然いろはがカットインしてきた。どこから今、現れた?弥七がインストールされたの?
いろは「どこで油を売ってたんですか~?早く仕事を再開してください!立て込んでるんですから!」
いろはは俺の手を引いて副委員長の席へと連行していく。
時々お前の謎の能力がわからなくなる。
ツッコミを入れるためにいきなり現れるのは心臓に悪いのでやめてくれ。ホントに心肺停止したら君の人工呼吸でないと復活できないからね?」
いろは「………エメラルド・ヒーリングに決まってるじゃあ無いですか……流石に空気読んで下さい。この白い目の中でイチャイチャする気にはなれませんよ」
八幡「甘いな。空気は読むものじゃあない。壊すものだ」
いろは「わぁ、安定のいつも通りで頼れるぅ♪」
さてと、始めますか。陽乃さんも今日は来ていない。
流石に忙しいし、昨日は康一さんも顔をひきつらせていたって話だったし(承太郎から聞いた)。
さて、USBを差し込んで、昨日家でしていた仕事を読み込んで、大詰めを始めますか。
「委員長。ホムペ、テストアップ完了です」
相模「了解。比企谷、確認お願い」
八幡「了解」
一応は俺も既に点検してあるが、そう言っておく。
ハンドサインで相模にOKを伝えると
相模「うん、OK。本番移行をお願い」
1つ捌くとまた1つ。
「相模さん!有志のほう、機材たんない!」
きちんと主語を言えよ。
八幡「統制部は有志代表者と交渉。管理側の判断で貸し出し。報告はきちんと回せ」
相模「それでお願い!」
まどろっこしいが、今の文実はこんな感じで動いている。誰も彼もが俺達と口を聞くことはない。相模も判断を迷うような事だけは俺達を頼るようにして、可能な範囲内で対処マニュアルと照らし合わせながら捌き、急なトラブル等は俺達の窓口的なポジションをやっている。
なんだこれ?ホントに何だこれ?
相模もそう思っているだろう。ホントに何だこれ?大事な事だから三回言いました。
相模「有志のリハが長引いてるけど、オープニングセレモニーのリハは後に回す?」
八幡「そうだな。それで頼む。それにしても悪いな…訳のわからん状況になっちまって」
相模「アハハハ……それはうちのセリフだよ。依頼は失敗したけれど、フォローはしっかりしてくれたし…でも、良いの?こんな結果になって……」
静「もうこの学校の生徒には何の期待もしてないから。次の生徒会長に期待かな?」
いろは「何でしたら奉仕部が生徒会になるのも良いですね?」
八幡「その時は……支配してやるぞ!(総武高校の)人間どもよぉぉぉぉぉぉ!」
相模「こういう奴だったんだね……比企谷って……もっと冷めてる奴だと思ってた……」
雪乃「付き合って見ると面白いでしょう?でも油断してはダメよ、相模さん。時々味方をも騙すことがあるから」
静「失礼な。週に一、二回程度でしょ」
相模「充分多い気がする……」
八幡「安心しろ。主な被害者は徐倫だ」
ゴンッ!
徐倫「………こういう奴よ、相模。気を付けなさい。あんたもいじられる素質を充分に持ってるから」
静「おおっ!さすが徐倫お姉ちゃん!相模の素質に気が付いたか!」
相模「ホントに不安……うち、早まったかも……」
八幡「ホントにな。葉山グループなだけに……」
ザ・ワールド!(アーシスと相模限定)
あれ?
徐倫「オラァ!」ゴンッ!
いろは「無理ぃ!」ゴンッ!
静「ドラァ!」ゴンッ!
雪乃「うりゃぁ!」ゴンッ!
相模「えっと……うちはどうすれば?」
徐倫「こういうときは遠慮なくやっちゃいなさい。それがアーシス流よ。スタンド使いとしての嗜みよ」
相模「なら……遠慮なく……そいやぁ!」ゴンッ!
全員から拳骨をもらい、俺は机の上で
熱狂と青春の裏で、欺瞞と虚構が入り交じった歪な文実が作り出した祭典。
それの開幕まであと僅か。
ついに明日から文化祭だ。
←To be continued
はい、今回はここまでです。
今日は大晦日ですね?地方によっては元旦に食べる習慣があるようですが、年越しそばは食べましたか?紅白は見てますか?
ここからやるはずだったドンパチもやってしまい、相模も葉山も変わりました。
故にかの名シーンも改編するしかなく……。
でも、良い感じで文化祭が終わりそうな感じに仕上げたいと思います。
それでは原作との違いを。
戸塚と葉山の練習に八幡は嫉妬する➡️本作八幡はそれほど戸塚スキーではないので特に何も。代わりに第1部ネタを挿入
葉山との今後の事についての会話を追加
相模は人形のように座るだけ➡️機能している
相模が本当のトラブルを起こすのはこれから➡️ドンパチは終わっています。相模も味方と同じような扱いを受けるようになる
文実の様子に最後のオチを付けた。
超原作改編イン文化祭編!後は祭りを書くだけです!
来るなら来いやぁ!第四章の猛者どもよぉぉぉぉぉぉ!
オマージュよぉぉぉぉぉ!
それではよいお年を♪(執筆日2018年11月17日22時半。一月半のストックです♪)