side静・ジョースター
文化祭前の放課後の教室はバタバタしている。この作業時の声の大きさ、参加人数の多さがそのクラスの充実度を表しているのは間違いない。
男女で会話をする際、男子がウケを1つとった数を1青春ヒット(Sh)とし、作業をしている時間を1青春時間(Sh)で表し、 二つの値を掛け算した数値、青春主人公度(Sh)を競い合うのだ。単位が全部同じでわかりづらい。
屍生人に襲われる「ジョジョの奇妙な冒険・第総武高校バイオハザード部」とかなれば面白いんだけど。
あ、ある意味で千葉村がバイオハザードだった。
アホな事をハッチばりに考えていたら、2-Fに到着した。
うちのクラスは中々のShである。演劇ということもあり、机を組み合わせてステージを作ったり、片隅では衣装をチクチク縫っていたり、またはしっこでは演技の稽古をしている。
女子「もう男子、ちゃんとやってよ!」
大岡をはじめとする男子数人が女子に怒られていた。
相模もいる。ホントにこいつは何がしたいんだろう。
まぁ、この相模がいたところでこっちの作業上たいした役には立たないから別に良いんだけどさ。せめて能力さえわかればなぁ。
三浦にアイコンタクトを送ると、首を振る三浦。
まだわかんないかぁ。
教室を見渡してみるとクラスメイト達はいつもの制服姿ではない。
完成していたのか。
あの恐るべき精神破壊兵器、クラスTシャツが…。
ハッチのアイラブ千葉並みに精神破壊兵器が。
クラスTシャツ。要するに文化祭のときに各クラスが作るTシャツである。まんますぎてこの説明がホントに不要。
恐らくはそのクラスの団結具合、仲良し度、文化祭への盛り上がりをアピールする、またそのよき思いでの品として形に残す、青春の証拠品を作るという意味合いがあるんだろう。
このクラスTシャツだが、何故か全員のニックネームが背面プリントされることが多い。これは私達の経験上からも明らかだ。
今回もみんながニックネームで書かれている中、私とハッチだけは「比企谷クン」、「じょーすたーサン」と普通に本名プレイである。まぁ、三浦とかに「DIO」と「ジョジョ」にするか?と聞かれたけど丁重に断ったわけだが、もう少し何とかならなかったのか?と三浦に言いたい。
ニックネームや平仮名で書かれているのが大半の中、ハッチの漢字というのが異質さを際立たせ、わたしのジョースターも無理に平仮名にしているのもムカつく。
もっとも、下手な人間にニックネームで呼ばれたくは無いので別に良いけどさ。
ハッチも私も普通で頼むとか言ったわけだし。
クンとサンだけはカタカナで書かれ、なんとか馴染ませようという先方の苦労が偲ばれる。
その見当違いさに一言ものもうしたいけれど。
ま、今さらだから良いけどね?
いっそ野球のユニフォームみたいにローマ字で書いたらどう?私の「ジョースター」が正確に書ければの話だけどさ。文化祭が終わったら速攻で雑巾にしたろう。質があんまり良くないから寝巻きにもならないし。
教室の中で由比ヶ浜の姿を探す。
えーっとガハマガハマっと。
と、視界に飛び込んで来たのは性別を間違えた姿。
中性的なクセに中身はチンピラという存在がいた。
ダブダブのコートの袖を余らせ、指先だけをちょこっと出している。『星の王子様(腐)』の衣装を着ている戸塚だ。今はちょうどズボンの裾上げをしているらしく、折り返した裾にまち針がささっている。
所在なげに立っていた戸塚が私に気付くと、袖からはちょこりと出た手を振ってくる。
戸塚「あ、静ちゃん。おかえり」
静「……ただいま」
最近戸塚は私を静ちゃんと呼んでくる。
それが前向きな理由なら私も大歓迎だが、実はそうではない。
戸塚にとっての「ジョースター」さんとはジョナサンただ一人。つまりはハッチただ一人である。
それ以外のジョースターはパパであれば「ジョセフさん」と言うように名前で呼ぶ。
戸塚なりの区別であるようだ。
戸塚「あ、そうだ!」
戸塚は何か思い出したかのようにパタパタと駆けていく。鞄から何かを取り出すと、また足早に戻ってきた。途中、コートの裾をふんずけて私の胸にダイブ!させるわけもなく、アクトンでしっかり受け止めて立たせる。
例え事故でも直接ダイブはお兄ちゃん以外に認めません!
戸塚「あ、ありがと……色々な意味で助かったよ」
静「いえいえ♪それで?」
戸塚「これ、ありがと」
差し出されたのは一冊の本。
この間貸した原本版の露伴先生直筆イラスト付きの『星の王子様』の文庫本だ。もう何度となく読んだせいでカバーの端は擦りきれ、本体もちょっと汚れてる。そう!一番重要なカバーが擦りきれてる!私としたことが一番重要な露伴先生の書き下ろしカバーを擦りきらせてしまったのだ!
露伴ファンには断罪ものだ!私は三國一の大罪人だ!
戸塚「それで、何かお礼を考えたんだけど…」
戸塚は少し気合いを入れるように、うん、と大きく頷くと、見上げるようにしてまっすぐ私を見つめてきた。
いや、ちょっと。誤解されるから止めてくれない?
戸塚「あの……静ちゃんって何か好きなもの、ある?」
お兄ちゃん。
危うく即答しそうになっていた。むしろ、「お」まではもう言っていた。
静「お………お構い無く」
どうにか誤魔化しつつ答えると、戸塚は小さく腕を組み、うーんと真剣に悩み始めた。
戸塚「そうなんだ……じゃあ好きな食べ物とか好きな本とか、あと……好きなお菓子とか欲しいもの、教えて欲しいな」
お兄ちゃん。
またしても危うく即答しそうになっていた。というか、「おに」までは言っていた。
静「鬼みたいに甘いものかな?」
甘いものが嫌いな女子はいません!むしろ日本の甘味はちょっと上品すぎるんだよね!たまにアメリカの極悪な甘さが欲しくなるんだよー!MAXコーヒーくらいかな?アメリカの極甘に着いてこれるのは。
戸塚「ああ、静ちゃんってアメリカ出身だもんね?時々マカデミアナッツみたいな激甘な物が欲しくなるんだ。今度何か持ってくるね」
戸塚が笑顔でそう言うと、戸塚を呼ぶ声がした。裾あげの準備が整ったらしい。戸塚がそれに返事をすると、私に向き直る。
戸塚「じゃあ、行ってきます」
静「いってらっしゃい」
戸塚「八幡にも根詰めすぎないようにって言っておいてね?ポルナレフさんの件については僕たちも頑張るから!」
あの程度じゃあハッチにとっては根を詰めた内には入らないけど、とりあえず了解。
手をあげていった戸塚に答えて、私はそれを見送る。こういう友情も良いね。
一人になって改めて教室を見渡す。
戸塚とのやり取りで時間を取ってしまったが、私の本来の目的は別にある。
えっと……ガハマ。あ、いた。
静「由比ヶ浜ぁ~」
どっかで買い出しでもしてきたのか、アイスをかじりながら紙っぺら片手に何事か打ち合わせをしていた様子の由比ヶ浜が顔を上げ、こちらに向かって歩いてくる。
結衣「あれ?スタッチ?仕事終わったの?」
静「仕事ってのは辞めることはあっても終わることは無いんだっつーの」
結衣「何言ってんの?」
馬鹿を見るような目で言われた。
オッケー。入社したらこの言葉の意味を骨の髄まで味あわせてあげるよ!後悔すんなや?あ?(# ゜Д゜)
懇懇と社畜の恐ろしさと悲しさを説くよりも体験してもらった方が手っ取り早いしねぇ!
将来の(パワハラ)業務計画を練りつつ、時間に余裕があるわけでも無いので、面倒事をさっさと終わらせることにする。
静「まだ仕事。それよりこれ、教えてくれる?今日中に出さないといけないの」
結衣「急ぎ?葉山くんとかそっちにいる?」
そっちというのは文実の事だろう。
静「うん」
結衣「ならそっちでやろうよ。ここ騒がしいし、そろそろ演出打ち合わせで呼ぼうと思ってたし」
そんな会話をしていると、背後の相模が声をあげた。
相模「あ、私もそろそろ実行委員にいかないと」
ホント、こいつは何が目的なんだろ?
仕掛けてくるなら早くしろっつーの。
←To be continued
今回はここまでです。
特にとくひつすることは無いですね(^_^;)
相違点
視点は八幡→静
ちゃんとやってよ発言は相模→○○○○が真面目にやれ?ありえません
クラスTシャツは比企谷クン→と「じょーすたーサン」
八幡が思わずいったのは戸塚の「と」と「とつ」→「お」と「おに」
戸塚はこけそうになって八幡の胸に飛び込む……のを八幡が想像した→本当にこけそうになったがアクトンで防いだ
八幡は普通の文庫本の星の王子さまを貸した→静は露伴書き下ろし原本の特別バージョンの星の王子さまを戸塚に貸した
時々忘れがちになるが、静は7才(正確には8才)まではアメリカ育ち
社畜の事を懇懇と語ろうとした八幡→実践で体験させてやろうと将来に黒い想いを馳せる静
原作では葉山グループの由比ヶ浜達三浦グループ→こっちでは性悪コンビグループの由比ヶ浜達三浦グループ
結衣の葉山の呼び方は「隼人くん」→「葉山くん」
これでもまだ6巻の真ん中辺りなんです(^_^;)
6巻が終わる頃には年が明けてそうですね。
ウルフスも出す予定ですし。
それでは次回もよろしくお願いいたします。