side雪ノ下雪乃
やってもやっても減らないものは何?
仕事。
虚ろな目でパソコンに向かいながらそんなことを考えていたわ。
いったいいつから議事録の作成まで私の中の仕事になったのかしら?確か議事録については記録雑務担当の上和田先輩がやっていたはずなのだけれど。
八幡「おーい、記録雑務ー。先週の議事録が提出されてないぞー」
SPW財団関東支部支部長であり、今年度の文化祭実行副委員長様の邪悪の化身様のたった一言から全てが始まったわ。
責任者は誰?休み?じゃあ次の人は?その人も休み…。じゃあその次は……次……と、辿っていき、ついには私の番になった。
はぁ……。いつかはこんなことになるとは思っていたわ。比企谷君も仕事となったら鬼ね。戦いの時と変わらない鋭い目で私にやれって言ってきたわ。
私は念のために作成していた議事録を提出する。
普通だったら対応出来ないと思うわよ?最悪の場合はでっち上げの報告がされるわね。私に作成を命じた比企谷君だったらそうするかしら?
「鋭意進行中」とか「進捗は別紙参照」とか「適宜調整」とか「諸々取りまとめる予定」とか凄く適当な単語を書き連ねて、「責任は責任者に取らせる」とか言って。
……やりそうだわ。そしてジョースターさんと向かい合いながら
八幡『こんなんでよくね?』
静『良いんじゃあない?責任者が全部悪いんだし』
八幡『だよな?秘書の責任も責任者がもつものだよな?』
静『そうそう♪その為の責任者だっつーの』
ゴン×2
徐倫『碌でも無いこと考えてない少しは真面目に思い出しながら作りなさいよ!(英語)』
八幡『いや、作ってありますよ?一応は。でも素直に提出するのも癪ですし、どうせ手柄は持ってかれるでしょうから……』
静『名誉の手柄ではなく、汚名の責任を係に進呈します』
ゴン×2
徐倫『とにかくそれを素直に出せ!』
八幡『え?イヤです。出すとしてもアラビア語で最初に書いて』
静『私が途中からイタリア語で書きます。何なら文法を一切無視してアラビア語、イタリア語、英語、日本語、ドイツ語、フランス語で書いて更にカオスにしても良いですよ?』
ゴン×2
徐倫『あんたら、雪ノ下を困らせてどうすんだ!何か雪ノ下に恨みでもあるわけぇ!?』
八幡『え?趣味です』
静『もちろん、空条先生いじりも含めて』
プッツン
ー☆ー
八幡&静『あ、やり過ぎた』
徐倫『とっととちゃんとした議事録をプリントアウトして提出しやがれ!オラオラオラオラオラァ!』
八幡&静『ギャアアアアアア!ツッコミにスタンド使うなっていつも言ってるっつーのぉ!』
いろは『これ、回復しなくても良いですよね?』
とか言って空条先生を巻き込んでドタバタ劇をするとおもうわ。
あの二人なら絶対にやりそうね。
ポルナレフさんの事がなければ…だけど。
私は議事録を提出しながらその光景を想像してクスクスと笑ってしまう。
八幡「おい…何か失礼な事を考えなかったか?」
あら?勘が冴えている比企谷君らしいわね。
雪乃「気のせいよ。ちょっと休憩させてもらうわね?」
八幡「ああ。しかし流石だな。念のために自分で議事録の作成をやっていたとは思わなかった」
雪乃「今回の文実のやる気のなさは異常よ。備えていて当然だわ。比企谷君も同じでしょ?それを素直に出さなくて、ジョースターさんと悪ノリして、空条先生をからかいすぎて怒らせそうだわ」
八幡「さあな。まぁ、雪ノ下の言うとおり、文実にやる気が無いのは同意だな」
徐倫「まったくよ。でも、まだあたし達教師陣が動かなくていいの?さすがに見てられなくてヤレヤレだわ」
八幡「ええ」『万が一、ポルナレフさん達の魂が奴等の手に落ちていたならばと考えるとな……まぁ、人の命が関わるのなら、最悪は見捨てる選択肢を選ぶけどな(人前なのでタメ語を話すときは英語)』
徐倫『あんたのことだから鬱憤を溜めて一気に牙を剥けそうね。むしろそっちが心配よ』
八幡『当然』
徐倫『気持ちは分かるから止める気は無いけど、ほどほどにしなさいよ?あんたってば怒るとやり過ぎるから本気で心配なんだよねぇ』
比企谷君や一色さんの厳しさのせいで心が折れた人もいるけれど、それだって比企谷君を怒らせた事にあるせいだと思うわ。でも、比企谷君もいまだに見つからないポルナレフさん達の事に関してイラついているから過剰に厳しいというのもあるせいね。
あの人もあれから何も仕掛けて来ないし……。
本人に成り済まして何をするつもりかしら?
それに、比企谷君の幼なじみ達には人質は意味を成さない。
『見捨てる』という一見非道に見える行為すらも敵を怯ませて人質救出の隙を作り出したり、人質は効果がないという情報を敵性勢力に与えたりして人質を取られる危険性を減らしたり、最悪はあの世界で研究員を倒す時のように数を優先させたり……。(4-5参照。八幡に人質を取るという行為は本当に意味がありません。例えそれがいろはだったとしても。それは互いに納得しています)
比企谷君はプロですらドン引きするくらい非情な判断を下す時があるから怖いわ。それが一色さんや小町さんも含めて徹底しているようだけれども。
八幡「報告は受理しておく。お前のやった仕事なら間違いないだろうしな」
雪乃「あら。出会ったときとは違って信頼されたものね?」
八幡「まあな。助けに来てくれたしな。その節は悪かったな。覚悟がないなんて言ってしまって。お前は大した女だよ。雪ノ下」
性悪なんて言われているけど、頭を下げるときは下げるのね。意外だったわ。
八幡「とは言え、目くら印は押さんからな。まぁ、俺とは違ってお前は真面目だから適当な事はしないだろうがな」
雪乃「判ってるわ。そう言ったところはしっかりやる人だっていうのは私も判っているもの」
信頼には信頼で返すわよ?比企谷くん。
そう言って互いに微笑んでから、私は水筒に淹れてきた自前の紅茶をカップに入れて一口飲む。
それにしても、いつもより静かだから捗ったわ。悪い意味で……だけれどもね?
そう思って会議室を見渡す。私と同じように働いているのは20人もいないわ。うち6人はジョースターさんも含めて生徒会の役員だから、本来30クラスから集められているこの実行委員会は半分もいないことになるわね。
その中でももっとも仕事をこなしているのはやはりと言うべきか、ジョースターさん、比企谷君、一色さんね。今日は空条先生もいるから落ち着いて作業をしているわ。
空条先生の監視の目は怖いからなのか、いつぞやの公文書偽造とかをする生徒もおとなしい。
ジョセフさんや東方会長を安心させる為か、比企谷君達は以前より多く、長く働いているわ。
単純に仕事量が増えたこともあるのだけれど。
姉さんやトリッシュ姉さんの有志参加が引き金となったのか、その他の団体の有志参加も増えた。その結果、調整事も山のようにやってきたの。
人手が減り、本来であれば回らないはずなのだけれども、生徒会役員や執行部の尽力とジョースターさん達の経験から来るノウハウや元々のハイスペックさ、時々アーシスの仕事や調整からふらっとやってくるジョースター家の人達や姉さんの力で何故か回ってしまっているわ。
一息入れがてら他の人達の様子を見ていると、同じように一息入れている人がいたわ。
城廻先輩よ。私と目が合うと話しかけようとしているわ。
めぐり「ゆきのんさん。捗っている?」
雪乃「城廻先輩。その呼び方はやめてください。お疲れ様です」
めぐり「うん。はい、お疲れ様♪」
城廻先輩は微笑む。城廻先輩も波紋の戦士ゆえか疲れを一切見せない様子ね。もっとも、それは肉体的な疲れであって、精神的な疲れには波紋もどうしようもないことなのだけれど。
何故知っているのかですって?私も川崎さんに横隔膜に小指を突っ込まれて波紋に目覚めたからよ。分かっていたとはいえ、凄く痛かったわ。
もっとも、適正は姉さんほど高くはなかったわ。それでもヘブンズ・ドアーやエコーズで無理矢理覚醒した波紋と違うので、城廻先輩よりは高い適正と言われているわ。
川崎さんは……
沙希『元々の体力の無さが仇になっているけど、素質は悪くはないね。本来の適正だけを見れば陽乃さんに負けていないよ。1ヶ月ほどしっかりとした訓練をすれば80年前のジョセフ・ジョースターにも劣らない。来年の夏休みはイタリアに行ってみる?』
と言ってくれた。
小町さんの修行は厳しいから遠慮したいところではあるのだけれども…。
文実が始まる前の普段の修行だって波紋の戦士コースに変わっちゃったし…。でも、体力不足で苦手だった体育は問題なくなったわ。運動神経自体は悪くなかったもの。
雪乃「ところで、人がまた少なくなりましたね?」
めぐり「うん。みんな忙しいみたいで……」
城廻先輩、本当に忙しい人が頑張っているのに、それはおかしいですよ?
会議室は閑散としていていつもよりも広く感じる。
めぐり「で、でも明日からは増えるだろうし!」
雪乃「そうはならないと思いますけどね。生徒会や厚木先生から言ってもらってはいかがですか?」
めぐり「うん……でも、ジョースターさん達はやる気がない人の力を借りても効率がわるくなるだけだからって…場合によっては現役員を解雇して、別の人を文実にいれるつもりみたいだけど…」
結果は同じだと思うわね。それがわかってるからこそ、現状で進めているのだろうけれど。
でも、明日からもどんどん人が減ると思うわ。最初はシフト制が組まれていたものの、今では最初に比企谷君が言っていたように無断で休むのが当たり前になってしまったわ。サボって良いものだと認識されれば加速度的に出席率が下がってしまった。
割れ窓理論、という考えがあるわ。
とある街の窓が割れていたとするわ。それを放置すると、それが無関心さの表れとなり、その無関心さこそがモラルの低下を招き、犯罪を誘発させてしまう、という一連の流れを定説化したものよ。
本来的に人は自分に甘いの。私が比企谷君達を怒らせてしまった『人ごと世界を変える』と言うものは、こういった人の甘さが嫌いだったからなの。蓋を開けてみれば私もそうだったのだけれども…。
この実行委員は全員が全員、委員会に参与しているわけではないわ。強制的にやらされている人だっているはずよ。
それでもちゃんとやっているのは周囲がちゃんとやっているという認識があって、良心の呵責が存在するからよ。そうした共通認識、あるいはモチベーションの低下を防ぐ強制力を取り除いてしまえば瓦解していくのは自明の理ね。特に日本人はそう言った群衆心理が強いわ。
諸外国から見たら日本人のそれは異常だそうよ。
周りがそうだから、自分も……という心理は一種の狂信的なものだと言われるわね。
それが悪い方向に向かえば……頑張る理由を探すよりも頑張らない理由を探す方がよほど楽なのだもの。
誰しもが実感したことがあると思うわ。勉強でもダイエットでも。天気や気温や気分…なんだってサボる理由になるものよ。体調だってそれに合わせて良くも悪くもなるものだわ。病は気から…ってあるでしょ?
ジョセフさんも、空条博士も、東方会長だって、空条先生も少なかれそんな時はあったのだと思う。
ジョルノ兄さんだって犯罪で生計を立てていたと言っているものね。今もだけれど。
どこかで手を打つとは思う。比企谷君は口では色々言っているけれど、自覚が無いのか根は真面目でこういうことは許さないもの。タイムカードの導入はその為だと思うわ。絶対につけは払わせるはずよ。
考え付く限り非情に死神の鎌を振るうはずね。死神13も真っ青な手段で。
それに、委員長自らがこの場にいなくても、優秀なSPW財団の上級幹部達が休んでいる人達を補ってなお余りあるほどに優秀。休んでいる人たちからしてみればこれでも文化祭は出来るんだ、だからサボっても問題はないと思ってしっているかもしれないわ。
普通だったのならどこかで無理が生じるはずなのに。
私も城廻先輩もただ黙ってお茶を啜っている。
城廻先輩と落ち着くティータイムというのも悪くは無いのだけれど、それはこんな状況で…ではないわ。私まで休憩し続けて仕事を滞らせてしまってはジョルノ兄さん達にも申し訳ないもの。
文化祭に向けて活気付くごとに仕事量は増えていくわ。
今もまた、コンコンと会議室のドアがノックされている。
そう言えばベートーベンの「運命」におけるダダダーンという楽譜は運命が扉を叩く音だと聞いたことがあるけれども、そうなると律儀な運命もいたものね。
退職された平塚先生だってとうとう最後までノックをしなかったのですもの。
そう言えば戸塚くんが着メロにしている『その血の
今、ドアを叩いているのは新たな仕事を持ってきた人間よね?
つまり、
初代と七代目のジョジョ。
………私も大分性悪コンビに汚染されてしまったわね。
めぐり「どうぞー」
誰もノックに答えなかったので城廻先輩が声をかける。
すると、「失礼します」と一声かけて人影が入ってくるわ。
それは……私の知り合いの中でも色々な意味で思い出がある人物だったわ…。
葉山隼人……。
雪乃「ノッキンオンヘブンズドアーはあの男だったのね」
めぐり「雪ノ下さん。露伴ちゃんが聞いたら怒るだろうから本人の前では止めてね?今回だけはわたしも聞かなかった事にするから」
……岸辺露伴先生をバカにしたら性悪コンビの牙が剥くから今後は止めておくわ。
←To be continued
はい、今回はここまでです。
モノローグが八幡から雪乃に変わったことくらいで相違点は少なく、ジョジョネタや本城的な解釈くらいしかないです。相違点を。
タイトル通り、この話で本来は八幡とめぐりのファーストコンタクトです。まぁ、コンタクトしただけでめぐりはこの話で八幡の名前を知ることはなかったのですが。
先週の議事録は作られておらず、雪ノ下が想像した通りの捏造記録や言い回しで誤魔化して作成された➡サボられるのを見越して雪乃が念のために作っていた。立場が逆なら八幡と静は雪乃の想像通りになっていただろう。
雪乃が安心して仕事をしていたのは陽乃が不在だったから➡徐倫がいるから
時々ふらっとやってくるのは陽乃のみ➡ジョースター家の人間がたまに尋ねてくる
雪乃が波紋を修得した
八幡は雪乃が対策を立てる手立てが見つからないと思っている➡対策なら立てられるだろうが、幼なじみーズがただで終わらせるはずがないと戦慄している。
ジョナサン以外の歴代ジョジョは主人公の頃は不良であった。ジョルノに至ってはその最高到達点。
ノッキンオンヘブンズドアーは八幡がモノローグで言っていた➡雪乃が実際に口に出し、露伴ラブのめぐりが嫌な顔をする
それでは次回もよろしくお願いいたします。