やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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相模南の依頼

side比企谷八幡

 

実行委員会の開始は通例四時から、とのことだったので、それまでにいくばくか時間がある。

あのまま教室にいたところで特に何の役割も振られていない俺やジョジョでは邪魔にしかならんだろう。もっとも実行委員の役目があるので、手伝いたくても中途半端にしか手伝うことはできない。そうなると途中で抜ける際の引き継ぎだったりで手間もかかるしミスも出る。ならいっそのこと最初から手を出さない方が良いに決まっている。働かない方が有益に繋がることも世の中にはあるのだ。

 

八幡「だから俺は退社した方が良いと思うんだ」

 

静「それは無理♪一生私達は一緒だよ♪」

 

えー……言葉だけ聞くとカップルのように聞こえるが、互いにその気はない。

 

この総武高校では一部の部活しか文化祭に出展しない。例えば管弦楽部のコンサートであったり、茶道部のお茶会であったり、遊戯部のゲーム発表だったり。

基本的にクラス単位での参加となり、それ以外は「有志」という形での参加となる。

先ほどからぎゅいんぎゅいん言わしているのは有志参加のバンド練習だろう。ここぞとばかりにかっこつけたギターがジャカスカジャカスカ今日も元気にポカスカジャンとかき鳴らされ、ベース音がポンポコポンポコ狸合戦かってくらいにと爪弾かれている。さっきから鳴らされている音楽は音石さんの曲か?

貞夫さんや音石さんやトリッシュさんが参加するという年に可愛そうな……。

だが、それも本館や新館の間だけだ。

喧騒の中、特別棟に伸びる廊下だけが静けさを保っていた。

日陰になっているせいだろうか、気温が1度か2度程低く感じる。

部室の扉が少しだけ開いていた。そこから冷気が漏れだしているような錯覚すら覚えた。

引き戸に手をかければ雪ノ下がエンジェル・ダストでジジイ達と訓練していた。

気温が下がっていた気がするのはお前のせいかよ!そら寒いわ!冷気が漏れ出て当然だわ!

 

結衣「やっはろー」

 

由比ヶ浜の挨拶に、雪ノ下はゆっくりと振り向き、こちらを見てから柔らかく微笑み、口を開いた。

 

雪乃「こんにちは」

 

ジョセフ「今日はここまでじゃ」

 

雪乃「はい。ジョセフ師匠、東方社長、空条先生、一色さん、小町さん。ありがとうございました」

 

訓練に参加していた全員が構えを解いて礼をする。

 

雪乃「待ってたわ。ジョースターさんに比企谷君。委員会の前に寄ると思ってたのよ」

 

いろは「ですです!考えることは一緒ですね?」

 

八幡「仕事前に訓練とは熱心だな」

 

真面目と言うかなんと言うか…。

 

雪乃「時間は有限よ?比企谷君」

 

結衣「あれ?ゆきのんも文実なの?」

 

雪乃「ええ」

 

雪ノ下はエンジェル・ダストをしまって息を整え、言葉少なげに答えた。

 

結衣「最近のゆきのんって積極的だよね?」

 

雪乃「そうかしら?……そうね、前なら考えられなかったわね」

 

確かに前に出るタイプでは無いことは確かだろう。研究職志望だし、陽乃さんのような目立つことは得意ではないというのが俺の知る雪ノ下だ。

 

雪乃「私としてはあなたが実行委員にいた方が意外だったけれど。会社は大丈夫なのかしら?」

 

ジョセフ「ちょっとの間いなくなった程度でどうにかなるほど財団の人材は枯渇しとらんよ。それに、幸か不幸か業務予定はほとんど消化しておる。一心不乱に働きすぎて他との歩調を合わせとるところじゃ」

 

うん。確かにうちだけ先に業務が進みすぎていて混乱起こしてるものな。

 

雪乃「やる気がない方がスムーズって……」

 

八幡「だからか知らないが、俺は半ば強制なんだよ。半分謹慎みたいな扱いだけどな。まぁ、あのミュージカルに出るくらいなら文実で雑用やってた方がましだ。っていうか、それで終わらせるつもりもない奴が一人だけいるけどな」

 

静「あれ?バレてた?」

 

八幡「何年の付き合いだ。大方、変な役職か何かにでも生徒会権限で作るつもりだろう」

 

静「ギクッ!」

 

やっぱりか……相模と徐倫とお前があそこで固まっていたのはそう言うことだろう?

 

仗助「で、委員会は今日もあるんだろう?こっからは由比ヶ浜の訓練だ」

 

結衣「あ、あたしっ!?や、今日は……」

 

静「あんた、さっきは仕事は本格的に始まってから的な話をしていたよね?さ、さ、パパと特訓特訓」

 

結衣「イヤァァァァァァ!ヨッシーもいないしィィ!」

 

諦めろ。お前もアーシスだろうが。

 

いろは「とりあえず、部としては文化祭期間中は閉店ですね?」

 

ジョジョは噛み締めるように瞑目し、サングラスをかける。

 

静「そうだね。取り敢えず文化祭が終わるまでは部活は中止。訓練は各自が空いたときに実施すること。不在のメンバーには伝えて貰える?」

 

部長のジョジョがはっきりと宣言する。

顧問の徐倫も同意して頷いた。

 

八幡「まぁ、妥当だな」

 

小町「ま、そだよね。小町はレーザーの練習もあるからそれをやってるよ」

 

と言って小町はあれを起動させる。

結局借りパクなのな?

 

八幡「んじゃ、まぁ今日はこれで終わりか」

 

結衣「……だね。ヒッキーも空いてる時間、クラスのほうちゃんと手伝ってよね」

 

八幡「あると思う?」

 

結衣「アハハハハ……無いね」

 

ただでさえ文実の仕事がある上に、会社の仕事だって代行ばかりに任せてはいられない。とてもではないがクラスの方まで手が回らんわ。一応は……

 

八幡「まぁ、時間があればな」

 

結衣「うわぁ……百パーセント来ない人が言う言葉だぁ……」

 

さて……文実に行くかなぁ。俺は隣にいるジョジョを見る。

 

(⌒‐⌒)ニコニコニコニコ

 

外行きの、初対面の大抵の男を虜にするような凛としていて、柔らかい笑顔を浮かべているが…。

こいつの内面の表情はこれだ。

 

( ゜∀ ゜ )ニタァァァァ…

 

俺にはわかる!絶対に何かをサプライズしている!

それも嫌なタイプの事を!

絶対こいつが何かしてるよなぁ!

だって厄介な仕事を持ってくるときって大抵の場合はその笑顔をしているから!

わぁ♪今すぐ逃げたい!仕事だからやるけどさ、絶対に何かあるとしか思えない状況だし!

……それにしても誰か来たようだ。

人数は三人。

その三人は奉仕部の扉の前までくると、コンコンとノックされた。気配を探ってみると、少し緊張した雰囲気が伝わってきた。

……なぜこいつらがくる?

 

静「来ると思ってたよ。どうぞ」

 

ジョジョが声をかけると、遠慮がちに扉が開かれる。

 

「失礼しまーす」

 

間違いであって欲しかったが、やはり俺が気配を感じた通り、入って来たのは相模南だった。俺と同じクラスで文化祭実行委員、そしてその委員長。

さらに彼女の後ろにはまだ二人ほど控えている。皆同じような薄い笑みを湛えている。

相模は俺達を見て目を丸くした。

 

相模「え?ホントにジョセフ・ジョースターとPTA会長の東方会長……さらに雪ノ下さんに結衣ちゃんじゃん!静・ジョースターさん、話は本当だったんだ!」

 

おーい。ここにももう一人いるぞー?あなたと同じクラスで同じ実行委員の俺がここにいるぞー?

 

結衣「さがみん……どうしたの?」

 

由比ヶ浜がその女子生徒を不思議そうな顔でみる。すると、相模はその問いには答えず部室の中をぐるりと見渡した。

 

相模「へぇ~、奉仕部って雪ノ下さんのなんだぁ」

 

言いながら視線を巡らし、俺や由比ヶ浜を交互に見た。

 

雪乃「何かご用かしら?それと、この部活の部長は私ではなく、ジョースターさんよ」

 

いつもながらよく知らない人にもあたりの強い雪ノ下の冷たい声音。それがいつもよりもよりことさら温度が低く感じられたのは千葉村の一件か……?

 

静「一応はこの部活を紹介したのは私だけどね。用件は昨日の件?」

 

やっぱりか……。

 

相模「あ……。うん、やっぱりうち……」

 

仗助「どういうことか話せ」

 

一見普通の仗助だが、少し警戒を持っている。

 

相模「ちょっと相談があって、来たんだけど…」

 

仗助やジジイには目を合わせず、傍らの仲間たちと目配せしながら相模は話を続けた。

ちなみにジジイは経済新聞を広げている。

相模には興味が無いようだ。千葉村で直接戦ったんだろうが、ドライなことだ。

 

相模「うち、実行委員長やることになったけどさ、昨日もジョースターさんの助けがなければボロボロになってたし、今後も助けて欲しいんだ」

 

昨日の委員会のあと、相模が徐倫やジョジョと話していたのはそういうことだったのだろうか。

まぁ、言わんとすることはわかる。誰だって初めてやることや責任の重い仕事には尻込みする。まして相模はクラス内での立ち振舞いを見る限り、率先してそうした仕事をするタイプではない。さらに昨日の件でさらに自信を失ったのだろう。

だが、相模は助けるべき人間なのだろうか?

仗助とジョセフは相模にすっと視線を向け、しばらく黙考する。黙って見つめられていると相模は居心地悪そうに目を逸らした。

 

ジョセフ「お嬢ちゃん。ワシは昨日の話を静から聞いておる」

 

仗助「自分の成長という、オメェが掲げた目的とは違っているようにおもうけどなぁ?」

 

二人が言うように、相模は少なくとも自分の意思で立候補し、自分のステップアップの為にその苦労を受け入れるとそう言って実行委員長に名乗りをあげたはずだ。その僅かに垣間見れた覚悟を見たからこそ、俺は黙っていたんだ。

相模はそれにたじろいぐ。そこには自信なさげにうつむく。

 

相模「そうなんですけど、やっぱり迷惑をかけるのが一番まずいって言いますか……うちでは力不足で…」

 

一応は昨日の覚悟はまだあったようだ。

 

仗助「だったら何故、昨日の段階で辞退しなかった?適任の奴に任せりゃあ良かったじゃあねえか」

 

相模「失敗したくないっていうか……誰かと協力して成し遂げることも大切っていうか……」

 

ジョセフ「自分の器を認識するするのも成長の一つじゃ。始めから誰かの力を当てにしちょるお前さんには荷が重すぎると思うがのう?」

 

相模「う……そ、それにうちもクラスの一員だから、やっぱりクラスの方にもちゃんと協力したいっていうか」

 

言って相模は由比ヶ浜へ顔を向ける。

 

結衣「違うと思うな。あたしは頭が悪いから上手く言えないけど、実行委員がしっかりやってるからこそ、クラスも安心して集中できると思うし。文実を一生懸命やることが、結果的にクラスに協力することなんじゃあないかな?」

 

相模は少し表情を歪める。思い通りに由比ヶ浜が動かなかったことに対する苛立ちだろう。

前の由比ヶ浜だったら流されていたところだっただろうが、今の由比ヶ浜は芯が通っている。自力で成長してきた今の由比ヶ浜は前とは違う。

相模の横の二人は「何?こいつら…」とか言っている。

だが、三人の威圧を受けても由比ヶ浜は逆に強くにらみ返す。

自分は間違っていないと、はっきり確信しているから。

言葉を弄そうと、結局相模は奉仕部にケツ持ちをジョジョに頼っている。

自信を失って尻込みをしたが、実行委員長を通して得られる経験や知識を…そして自分を成長させたいという昨日の姿は嘘ではあるまい。

 

静「相模。昨日言ったことは嘘だった訳?だとしたら、私達奉仕部は何もあんたに協力しない」

 

ジョジョが厳しい目付きで相模を見据える。

戦う前から戦いそのものに背を向けて逃げるものに手を差しのべるほど、ジョースター家は甘くない。

 

静「そして今回の文化祭は私達にとっては意味がある。やる気が無いのであれば、あんたの顔なんて簡単に潰し、私が見込んだ人間を実行委員長に据える」

 

自信はない、けど虚勢は張りたい。だからこそ弱い自分を見せて同情を誘い、ジョジョを頼る。あるいはそんな弱々しい姿に同情し、支える人間もいるだろう。

だが、ジョジョは…静・ジョースターは違う。覚悟なき者が勘違いした勇気を、自分でツケを払えない者から求められる救いの声を、こいつはあっさりと切り捨てる。

自ら甘く見た危険な崖っぷちにぶら下がり、助けを求められてもその手は取らない。むしろ、黒い笑顔を浮かべ、手を踏みつけて奈落の底へと落とすだろう。

 

相模「ちょっと、自分がここを紹介したくせに!」

 

静「昨日のあんたならね?で、どうするの?自分の成長を促す?それとも、落ちる?死ぬ気でやるか、落ちるか……選べ、相模南。ぬるま湯に浸かったまま、甘い汁なんてすすらせねぇっつーの!さぁ、どっちだ!」

 

威圧を相模に加えるジョジョ。さぁ、ここが分水嶺だ。落ちるか、進むか……。

 

相模「………やる。死ぬ気でやってやる!うちだって出来るんだってあんたたちに見せてやる!」

 

やけくそではあるものの、昨日の覚悟のある目が相模には戻っていた。てっきり尻尾巻いて逃げ出すものかと思ったが、やるじゃあないか。

少しは見直したぞ。

 

静「そう……だけど、今回は私達にとっても大切な文化祭。とてもでは無いけれど、あんたにすべてを任せる気にはならない。そうでしょ?比企谷?」

 

八幡「まぁ、そうなるな」

 

静「監視が必要だよね。まぁ、その監視が色々と教えてくれるだろうから、馬車馬のように働くことね。相模南。そうでしょ?パパ。東方会長」

 

ジョセフ「そうじゃのう?」

 

仗助「とても任せられん。監視が必要だよな?八幡」

 

八幡「そうなるだろうな」

 

俺は特に考えもせずに答えた。答えてしまった。

すると、ジョジョの顔が

 

(⌒‐⌒)

 

になった……。

 

…………………………

 

やられた!それが本当の目的か!

嵌められた事に気が付き、俺はジョジョを見る。

すると、ジョジョは相模達から顔を見られない角度で俺を見て………。

 

( ゜∀ ゜)ニタァァァァ

 

と笑いやがった!既にもう隠す気なんて皆無だ!

 

静「相模。依頼は受けたわ。あんたを監視し、サポートするのは私じゃあない。私の映し身とも言える存在、比企谷八幡が副委員長としてあんたを監視する。逃げようなんて思わないことね」

 

相模「そんな……こんな奴が……」

 

遥「ひ、ヒキタニが監視……逃げたい」

 

ゆっこ「た、助けて……逃げさせて……」

 

自分が悲劇のヒロインにでもなったような態度で逃げ帰るな!むしろ俺が逃げてぇよ!野郎、本命はこれだったのかよ!

 

ジョセフ「ってことで、頼んだぞ?八幡」

 

仗助「音石達もこれで安心して文化祭に参加できるな。頼んだぜ?弟分?」

 

オメェらもグルかよ!

やってくれたな!やってくれたなぁぁぁぁぁ!

記録雑務どころじゃあ無くなった!

 

静「いやぁ、持つべきものは頼りになる相棒だよね?ハッチ♪」

 

いろはも小町も残念な奴を見るかのような目を向けて来る。

雪ノ下や由比ヶ浜までもが……

しばらくは承太郎からもらった学ランで過ごそう…。

 

←To be continued




はい、原作から徐々にずれてきました。

果たしてどうなることでしょう?そして、相模南も少しずつ成長をさせたいと思いますが……
果たして俺ガイル屈指の三連続バッドイベントである最初のイベント、文化祭はどうなるのでしょう?
そこにウルフスはどう絡んでくるのか!
次回もよろしく………

仗助「待て待て。恒例のをわすてるぞ?」

はい……そうでした。
だから投稿場所を間違えるミスをやるんですよね?
(編集日、10月15日現在。まだ第4章が終わっていない段階です。指摘されて4-4のミッテルト戦の投稿位置を間違えた事に気が付いた日ですね)


それでは恒例の。

八幡は働かない方が良いと言う➡退社した方が良いと言うが、静に却下される

バンド練習の曲は不明➡音石の曲

奉仕部から冷気が出ているような感じがした➡本当に奉仕部から冷気が出ていた

由比ヶ浜は雪ノ下が文実になることをらしくないと言う➡最近は積極的だという

由比ヶ浜はこの後クラスに顔を出す予定だった➡訓練

小町もジョセフ同様借りパクしてる

由比ヶ浜は相模の意見に同意してしまう➡きっぱり否定する

依頼を単独で受けるのは雪ノ下➡八幡(嵌められた)



それでは次回もよろしくお願いいたします。

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