sideエリザベス・ジョースター
訓練室
結衣さん達が総武高校へ行った翌日の夜。小町は訓練室にいた。
小町はこっちの世界のお姉ちゃん…いろはさんに射手のコーチを受けていた。二宮さんも見てくれている。
リサリサ「コオォォォォ…」
小町はトリオンのキューブを体中にくっつける。
二宮「その体にくっつける意味が良くわからんな」
いろは「それに、何で射手なんですか?リサリサちゃんは断然攻撃手の方が向いてますよね?」
小町もそう思うよ。でも、これは小町のある弱点の克服の為の特訓。
リサリサ「お姉……いろはさんと二宮さん。シールドを張って下さい。遥さん、ターゲットをお願いします。小町の周りにありったけ」
遥『準備出来たよ、リサリサちゃん』
遥さんが小町の周りに30近くのターゲットを出した。
準備万端。
特訓開始だ。
リサリサ「みんな!」
癖でこれをやる時はサンシャイン・ルビーの指を上に掲げる。
ジョセフ『あれのサイン…。なるほどのう。あれの特訓か』
八幡『あれ?』
ジョセフ『見ておれば解るわい』
そう。
リサリサ「ワッセローイ!」
サンシャイン・ルビーを引っ込めて小町はトリオンのエネルギーを全方位に発射する。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
エネルギーは周囲に放たれ、埃が巻き起こる。
命中率はどうだろう。
遥『命中率は16%……リサリサちゃん。全方位にやること自体が無理があるんじゃないかな?』
二宮「ランダムシュート……この特訓に何の意味があるのかが全くわからん」
リサリサ「コオォォォォ…」
小町はもう一度トリオンのキューブを体に纏わせる。
その上でサンシャイン・ルビーを出した。
リサリサ「二宮さん、おね……いろはさん」
いろは「言いにくいならお姉ちゃんでいいよ?わたしも先輩の婚約者になった気分で嬉しいし」
気持ちはありがたいんだけどさ。理由がいちいちあざといよ?まあ、小町も違和感があったからありがたく呼ばせて貰うけど。
リサリサ「小町がトリオンを纏わせている場所を見てください」
小町『リサリサがトリオンを纏わせている場所?』
八幡『サンシャイン・ルビーと見比べて見ろ……とジョナサンは言ってるな』
さすがはお兄ちゃん。すぐに理解してくれたんだ。
やっぱり他人の体の内に既成事実を作ろうかな?
いろは「……あ、スタンドの赤い宝石とリサリサちゃんのトリオンを纏わせている場所が同じだ」
リサリサ「そうだよお姉ちゃん。サンシャイン・ルビーの弱点は指以外からのルビーレーザーの命中率が余りにも悪すぎるところ。ノーコンなんだよね。ルビーレーザーは」
二宮「…それは危なくて滅多に使えないな。命中率が悪すぎる」
そうなんだよね。指先の精密照準ですらアメリカから帰ってきてやっと上手く出来るようになったんだから。
ジョセフ『強すぎる故に却って弱点……ルビーレーザーが今くらいの威力や速度ならば問題ないが、ノーコンの光速数万度の光線が全方位に撒き散らされたら防ぐ手立てがゼロじゃ』
小町『でも、照準ってそんなに難しいんですか?』
八幡『小町、スナイパーの練習をしてみろ。難しいなんてものじゃない』
射撃をしない者ならあっちの小町の言うように簡単に射手が当たらない事を言うけどね…簡単じゃあ無いんだよ。
ボーダーのスナイパーの命中率はすごい…特に嵐山隊の佐鳥さんなんてよくツインスナイプなんて化け物みたいな事ができるよね。
いろは「そんなに難しいんですか?狙撃」
リサリサ「お姉ちゃん。1°でも狙いがずれた時、1キロ先ではどれだけずれるか知ってる?」
いろは「知らないけど…」
リサリサ「約16メートル。あのね、より精密な角度を示すミルって単位があるんだけど、一周を6400分割したしてるんだ。それがミル」
いろは「360°の約20倍…」
二宮「1ミルの誤差が1キロ先では1メートルも違ってくる。それは人間の体の中心を狙った場合、上下左右ともに確実に外す誤差だ」
そうなんだよね。1/20°の僅かな誤差が1キロ先では致命的な誤差になる。
リサリサ「1発の射撃の失敗は大きいんだよ。ルビーレーザーは光だからあまり影響はでないけど、実弾のスナイパーは更に風速や風向、地球の自転、自転を考慮した方向の誤差、発射した銃の反動による誤差まで計算に入れなきゃいけないの。だからスナイパーは簡単になれないんだよね」
指からのルビーレーザーの命中率を上げるために小町は狙撃を勉強したことがある。その経験から得た知識だ。
小町『ほへぇ……狙撃ってそんなに頭を使うんだ…地球の自転まで計算に入れなきゃいけないなんて…小町、考えたこと無かったよ。狙ってポーンってやるだけで良いかと思ってた…パーフェクトオールラウンダーって何で少ないんだろうって不思議に思ってたけど、そんなに難しかったんだ…』
八幡『バッカ。銃手の射撃だって簡単じゃ無いんだぞ。しっかり狙ったつもりでも、姿勢1つで全然狙った場所に飛ばないんだからな?マシンガンで航空機を落とす命中率を知ってるか?』
射撃で重要なのは何か。それは姿勢だ。
反動によるブレを姿勢でどれだけ抑えるかが重要になる。思ったよりも反動で弾は上に飛んでいくからだ。
よく漫画や映画でピストルを真横に射った後で反動で真上に向いているシーンってあるよね?
あれ、現実だと全然当たって無いから。というか、射った方の射手の手や肩がいかれちゃうから。射撃の反動を舐めちゃダメ。正しい姿勢を取らないと射った方の人間の方が危ない。
そもそも、簡単に片手で射つようには拳銃だって出来てないから。映画とかで素人が片手射ちを簡単にやってひっくり反らないのが不思議だよ。
拳銃の正しい射撃姿勢は意外な事に両手で照準したへっぴり腰での射撃なんだよね。
それに、機関銃も難しい。意地悪な質問をするね、八幡さん。
小町『ううん。知らない』
八幡『一万発で1発当たれば良い方だ。特に高低差がある場合を狙うのがどれだけ難しいか…』
高低差がある場合は目標の見え具合が変わってくる。直線距離が同じ距離でも高低差があると目標が近くに見えたり遠くに見えたりする。簡単に思えるけどそれがかなり難しい。
二宮「それでこの特訓か…言っては何だが、全方位の精密照準なんて夢のまた夢だ。それも照準器無しなんて不可能に決まっている。指からの精密射撃を可能にしているだけでも大したものだ。それもやろうと思えば月まで照準が可能だと?馬鹿げた射程が逆に弱点だな。地球が滅ぶぞ」
多分、月には当たらないと思うよ?宇宙空間で冷えて、月に到着する頃にはただの光になってると思う。
だけど、二宮さんの言いたい事はわかる。普段は熱量とか射程とかを抑えているけど、全力で全方位のルビーレーザーなんかやったら地球は滅ぶ。
いろは「地球が滅ぶなんて大袈裟な!出来るわけないじゃないですか」
ムカッ!
ならばやってみようか?全力全開の全方位ルビーレーザーを!
スッ…
遥『え?ちょっと……小町ちゃん!ムカついたからって自棄を起こさないで!』
ジョセフ『バカ娘が!短気を起こすんじゃあない!』
リサリサ「全力全開!全方位ルビーレーザー!」
ブウウウウン………。
その日の夜。ボーダー本部の全システムがダウンした。
キングクリムゾン
ジョセフ「この………アホ娘がぁぁぁぁぁぁ!なんて事をしてくれるんじゃ!今、ネイバーが出てきたら終わりじゃぞ!」
ゴンッ!
手加減抜きの全力全開の、しかも義手の方の手でジョセフは拳骨を落として来た。これは間違いなく本気で怒っている。
材木座「ダメだ……あちこちのヒューズが一気にイカれておる。システムが死んでしまっていてとても直ぐには復旧できん。予備電源で何とかレーダーとオペレーションシステムだけは使えるが…」
SH「我も手伝おう。これはアーシスの責任じゃ」
材木座「助かる。このままではベイルアウトシステムが作動しない。B級以下の防衛任務は急遽、全てA級にスクランブルがかかった…まさかルビーレーザーの威力がここまでとは…強すぎるのが弱点とはまさにこの事だ」
まさかシステムがメルトダウンを起こすなんて思わなかったよ……。ホントに地球を滅ぼせるんだね。ルビーレーザーって。
佐鳥「俺が分析するにリサリサちゃんのルビーレーザーが精密に狙えるのは1度に二ヶ所。それもあまり離れていない範囲で。奈良坂達が一気にやられたから勘違いしていたけど…」
正解だよ。さすがは狙撃を極めてるだけあるね。
小町「佐鳥さんでも?」
佐鳥「照準器無しであれをやれなんて無理だ。トラブルメーカーじゃなければマジでボーダーにスカウトしたいくらい、現段階でパーフェクトオールラウンダーだよ。だが、短気なところは狙撃手に向かないな。やっぱり適正ポジションは攻撃手、良くて射手だ」
それはジョセフにもよく言われるよ。感情を抑えるのが下手だって。リサリサの時はそうじゃあなかったんだけどなぁ…」
ジョセフ「まったくじゃ!カーズやエシディシを騙した冷静なリサリサ先生の生まれ変わりとはとても思えんわい!この世界に来てからと言うもの、どうしたのじゃ?らしく無いぞ」
………原因はわかってるよ。上手く感情をコントロールしているつもりでも、やっぱりお兄ちゃんがあんな状態じゃ……
リサリサ「う………うう………お兄ちゃん……うわぁぁぁぁぁん!お兄ちゃぁぁぁぁぁぁん!」
堪らず小町は本部の窓から飛び降りて、逃げ出しちゃった…。寂しいよ…お兄ちゃん…。
sideジョナサン・ジョースター
ジョジョ『小町ぃぃぃぃぃぃ!』
八幡『………おい、ジョナサン』
ジョジョ『………』
八幡『二度と………こんな状態になるようなマネはするなよ……あんな小町は…例えリサリサでも俺は見たくない』
ジョジョ『………ああ。俺が小町を…天使を壊してしまった…』
さすがに堪えた……。あんな小町を見るのは久々だ。
小町「ジョナサンお兄ちゃん……小町、あの小町の事はあんまり好きじゃないけど……あれはない。あれはないよ!小町だってお兄ちゃんがいなくなったらあんな風になっちゃうと思う!かわいそすぎるよ!」
こっちの世界の小町が泣きながらそう言った。
同じ小町に言われると余計に堪える…。
遥「リサリサちゃん…無理してた。どんなに強くても、リサリサちゃんは小町ちゃんだもん…。まだ中学生なんだよ?辛い前世だったから、それだけに今が凄い幸せだったんだよ。それが突然崩れちゃったら、リサリサちゃんだってああなるよ。ううん…辛い前世だったからこそ今まで気丈に振る舞えたんだよ。リサリサちゃんは…」
………俺は前世でもリサリサに父親の愛情を与えられなかった。死んでしまっていたから。
だから、リサリサは小町になった今では前世の分を取り返すかのように甘えてくる。依存症になるくらいに。
いろは「リサリサちゃんだけじゃありませんよ…ジョセフさんだって、ガハマさんだって…それに他にも4つの世界にジョナサン先輩の魂は飛んで行ったんですよね。先輩を助けに行った皆さんは…エリナさんっていうもう一人のわたしも含めて、皆さんはそれぞれの世界で戦っているんだと思います…。ただ、大好きな先輩を助けたい一心で…知るべきです。先輩はもっと人の気持ちを…」
いろは…ジョジョ…陽乃さん…承太郎…仗助…ジョルノ…徐倫…。
そうだよな…。博麗霊夢の予言じゃあ、それぞれに異変が発生するんだよな…。俺の為に…。みんな…ごめん。
小町「さすがに見てられないよ…小町、あっちの小町を探してくる!」
え?おい、待てや妹エンジェル。小町が走っていった方向は危険区域の方…。C級のお前じゃあ。
陽乃「待って!小町ちゃん!あ、訓練用のトリガーを起動して行っちゃった!」
めぐり「え……こんな時にゲート反応!?」
これは不味い…
ジョセフ「アーシス!スクランブルじゃ!」
八幡「こっちもスクランブル!行くぞ!」
けーちゃんとシュトロハイムを除いて全員が出動した。
嫌なことは嫌な時に重なるものだ…。
やれやれだぜ…無事でいろよ!
←To be continued
はい、今回は以上です。
小町回です。飛び出した二人の小町。果たして無事に終わるのか!
今気が付きましたが、この作品を始めてもう半年が経つんですね。案外長続きしているものです。
今後ともこの作品をよろしくお願いいたします。