やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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幻影の血と石の海

side戸塚彩加

 

戸塚「ハットカッター!」

 

僕は帽子の鍔のカバーを外して刃を露にする。

そして刃は雑魚屍生人の首を2、3人はね飛ばす。

 

ワンチェイン「貴様!」

 

ワンチェインが爪を伸ばして僕に襲いかかって来る。

甘いんだ。適当な雑魚屍生人にラケットを当てる。

 

ギュルルルルル!

 

ラケットを当てられた屍生人の体がグルグル回転し始め、回転の力が敵の体重を軽くする。

僕は相手の体を持ち上げ、ワンチェインの爪の盾にする。

 

屍生人「ガアアアアァァァァァ!」

 

腹を貫かれた屍生人は苦悶の声をあげるが、相手は既に死んでいる屍生人。この程度で倒せはしない。

 

戸塚「くらえぇぇぇ!スマッシュ!」

 

僕は腹に爪を突き立てていて一緒にグルグル回っているワンチェインごと屍生人を宙に放り、そのまま地面に叩きつけるようにスマッシュを打つ。

砂利の上でグルグル回り、他の屍生人を巻き込みながら砂利により削られ、回転が止まる頃にはその身が完全にミンチになっていた。

自らやったこととはいえ、グロイ。逆を言えばこれを食らった八幡はよく無事だったと思う。

 

ワンチェイン「WRYYYYYY!ワシの腕がぁぁ!」

 

戸塚「腕くらいで騒いでいるんじゃあない!」

 

ポコーン!ポコーン!ポコーン!

ホール・シンクスの口から吐き出されるボールをワンチェインと屍生人に向け、回転エネルギーのスマッシュを叩き込む。

 

ワンチェイン「ぐえええ!おのれスピードワゴン!その可愛い顔を徹底的に犯して屍生人にしてやるぅ!」

 

戸塚「やってみなよ…腐っている体そのものをミンチにしてあげるよ」

 

ワンチェインは赤く染まった目を爛々と輝かせてジャンプしてくる。バカの1つ覚えのように…

 

戸塚「奥の手だよ。ワンチェイン…二度と蘇ってくるんじゃあない!死の商人!」

 

ホール・シンクスから球が落ちてくる。

 

戸塚「『黄金の…』」

 

ラケットに回転エネルギーを溜めて、ワンチェインを睨み付ける。

 

戸塚「『回転エネルギー!』」

 

弾丸と化したボールがワンチェインを脳を貫通する。これでワンチェインは二度と喋る事はない。だが、それで止まる屍生人ではない。でも、黄金の回転エネルギーの弾丸は止まらない。

地面に着弾したボールは回転の力で眺弾し、その足を削り取る。そして僕はワンチェインにラケットを当てる。

 

戸塚「さようなら」

 

ギュルルルルル……黄金の回転エネルギー以上の回転をやれば…

空気の摩擦で回転のしている物に着火する。

着火したワンチェインをサーブ体勢に上に上げ、そして撃ち下ろす。ワンチェインの体は徐々に削れながら、他の屍生人を巻き込んで……灰となって消えた。

ワンチェインには勝てた。だけど、この戦いはまだ始まったばかりだ。

 

ワンチェイン…死亡

 

 

sideナルシソ・アナスイ

 

以前、水族館で戦ったウンガロが薬、薬とわめいている。

そういえばジャンキーだったと言っていたか。スタンド能力は精神の力が具現化したもの。屍生人であるウンガロがスタンド能力を使えないのは当然だ。

水族館ではスタンド能力を得た高揚感から違法薬物は必要としていなかったが、能力を…ボヘミアン・ラプソディーを失ったこの男は憐れな事にジャンキーに戻ってしまっている。

果たして屍生人に違法薬物が効くのかどうかはどうでも良い。

俺に課せられた刑期はクリスタル・クルセイダーズに参加した恩賞としてかなり減刑され、あと僅かとなった。

徐倫との結婚もあと数年すれば実現する。

静・ジョースター達がハイスクールを卒業した頃には出所できるようになっている。

そんな幸せが目前にまで迫っているのに、わざわざ屍生人になって薬物に手を出し、実証する気など更々ない。

 

ウンガロ「薬をよこせぇ!」

 

ウンガロは狂った攻撃を俺にしてくる。

 

アナスイ「祝福しろ!あと数年で実現する俺と徐倫の結婚を!」

 

俺はウンガロ以外の屍生人の手足をダイバー・ダウンの能力で数珠繋ぎにする。理性のない屍生人共は互いが互いに血を吸い合い、終わりのない吸血合戦を始める。

 

ウンガロ「くすりぃ!薬だぁ!」

 

アナスイ「しつこいぞ。お前も俺と徐倫を祝福しながら滅べ」

 

本当にこの男はジョルノ・ジョバァーナと同じく八幡の前世、DIOの血を引いているのだろうか?

録でもない人生であったようだが、それでも俺よりも録でもないとは思えない。やはり心の弱さが薬に走らせたのだろう。

八幡と言えばこの戦いで死ぬ覚悟を持っているのだとか聞いている。他のアーシスの奴等もそうだが、俺も八幡の事は気に入っている。

本人はコンプレックスのようだが、あの目が良い。

徐倫のように綺麗でありながら、強い意思を感じさせる目ではない。だが、あの全てを見極めようとするあの鋭く射抜く目。腐っているようでどこかに優しさを残している瞳。あの目が良い。あの目が好きだ。

だから俺はあの瞳を守る。俺の未来の中に、あの瞳が失われるのはイヤだ。ウェザー…八幡を守ってやってくれよ?

 

ウンガロ「ウガアアアアアア!」

 

アナスイ「ウンガロ。お前の薬物によって真に腐った目では俺は満足しない。大人しく消えろ!ダイバー・ダウン!」

 

ダイバー・ダウンの能力でウンガロの体内に潜入させ、内側からウンガロをバラバラにする。

 

アナスイ「邪魔をするな。ボヘミアン・ラプソディーのないお前など、露伴や音石の力を借りるまでもない。お前が八幡やジョルノ、徐倫と血の繋がりがあるのは許さない。偽りの繋がりなど、俺が全て砕いてやる」

 

向こうでは戸塚が敵の一人をやったようだ。女のような優男のようで、その瞳には確固たる意思を持っている。あの瞳も素晴らしい。

ああ…徐倫…八幡…君達の周りには魅力的な瞳が溢れている。俺はそれを守りたい……。

 

ウンガロ…死亡

 

 

sideエルメェス・コステロ

 

エルメェス「ええい!邪魔だ!」

 

真面目に空条博士のトレーニングを受けていて助かったぜ。屍生人。かなり厄介な相手だ。

その中でもコイツは半端じゃあない力を持っている。

DIOの息子のリキエル……。こいつが再びあたしの前に現れるなんて思っても見なかった。

 

リキエル「…俺は、アポロ13号なんだ…」

 

エルメェス「何がアポロだ!ロッツがないあんたなんてただの牛のコスプレ野郎なんだよ!」

 

あたしのキッスがリキエルを滅多撃ちに殴り飛ばす。

もしかしたらジョルノさんのように黄金の魂に目覚めていたのかもしれなかった男、リキエル。

だが、あの時の強い意思はこのリキエルからは感じられない。パニック障害によって自分の意思とは裏腹に目を瞑ってしまうクセがありありと出ていた。

 

エルメェス「そこっ!」

 

あたしはリキエルの腕にシールを貼り、そして剥がす。

 

リキエル「腕がぁぁ!血が吸えないぃぃぃぃ!」

 

父親のDIOと同じく人外に堕ちたアポロ。

同じ人外に堕ちたDIOの転生である黄金の魂を持つハッチ…。なぜこんなにも差が出てしまったのか…。

だけど、あたしは憐れみを持たない。ただ、間田が勇気を出して倒した男の亡霊を、今再び殺すだけだ。

あたしはハッチを想う。間田の趣味を誰よりも理解して楽しく語り合うハッチ。悔しいけれど、ハッチと話す間田の姿は本当に楽しそうだ。嫉妬すら覚えるその姿を見るのもあたしは好きだ。そのハッチが消える…。とてもではないけど耐えられない。

あたしは岩の1つにシールを貼って、二つにする。

 

エルメェス「挟まって潰れろ!リキエル!」

 

リキエルが二つになった岩の間を通った瞬間に、あたしはシールを剥がす。

リキエルは1つに戻る岩に挟まれ、首だけを残して体がミンチになる。

そのリキエルの頭にシールを貼る。

 

エルメェス「終わりよ、リキエル。あんたは到底、アポロ13号なんて夢のまた夢だったんだ。もう一度、導かれし小道に迷い込むんだね」

 

キッスがシールを剥がし、二つになったリキエルの生首を1つに戻して破壊する。

さよならだ。アポロ13号。二度と蘇ってくるなよ?

 

エルメェス「まだまだ屍生人はいる。あいつも、あいつも、あいつもあいつもあいつも全部潰してやる!ハッチを助ける邪魔をするんじゃあねぇ!見ていてくれ間田!絶対にあたしがあんたの親友をたすけるんだぁ!」

 

リキエル…死亡

 

 

side川崎沙希

 

沙希「パパウパウパウ!波紋のカッター!」

 

シュルルルル…ズパァ!

 

あたしが口から吐き出したワインに波紋が通い、屍生人達を切り裂く。切り裂かれた屍生人達はそこから煙となって崩れていく。

比企谷小町。前は悪かったよ。あんたの波紋を効率良く高める修行の成果が着実に出ているよ。この力とあたしの技術が合わされば、負けはしない。

それが…百年前にあたしの前世を真っ二つにしたこの男であっても!

 

タルカス「雑魚の屍生人どもを倒したくらいで勝ったつもりかぁ!呪い師ぃぃぃぃぃ!貴様など俺の力にかなうものかぁ!絶望に悲鳴をあげろぉ!」

 

タルカスが戦斧を降り下ろして来る。ツェペリだった頃はその腕力に戦慄し、横飛びをして避けて隙を見せていただろう。だが、生まれ変わり、子供の頃から鍛えて来たあたしなら…比企谷小町の修行によって更なる波紋を得たあたしになら、タルカスの力や戦斧など恐れるに足りない!

 

沙希「コォォォォォォォォ!」

 

あたしは波紋の力を更に高め、タルカスの斧を真剣白刃取りにする。

 

タルカス「なにぃ!」

 

沙希「はっ!古城のギミックが無ければあんたなんて力だけの脳筋なんだよ!いや、脳筋ですらないんじゃあないの?こんな小娘に力で負けてるんじゃあねぇ!サマーハプノ・サファイア!」

 

S・S「パパウパウパウパウパウぅ!」

 

ドババババババババ!

 

あたしのサマーハプノがタルカスにラッシュを決める。

 

タルカス「ぬぅ!」

 

何発か殴って糖分を奪う。

 

タルカス「効かぬ!」

 

しかし、人間相手なら通用した攻撃も屍生人には効かない。そして、比企谷兄妹のようにスタンドに波紋を込めることも不可能だ。ならば他にもやりようがある!

 

沙希「パウパウパウパウパウパウパウパウパウパウパウパウパウパウ!」

 

糖分を奪うんじゃあない。逆に糖分を極限にまで注入する!

 

タルカス「効かぬ!何をしているのかはわからんが、そんな攻撃など何度食らっても俺には…ぐうぅ!何だ…体の動きか鈍い!」

 

血糖は高くても低くても人間には毒だ。低血糖は屍生人には効かないが、逆にどろどろになるまで極限に血のなかに糖分を加えられたらどうなるか…当然屍生人だろうが人間だろうがどろどろになった血が血管につまる。つまった血管が神経を圧迫し、痛みとかがなくても動きに支障が出る。

 

沙希「どろどろになった血液で満足に動ける?動きで鈍った体であたしをどうこうできる?あんたはもう終わりだよ。所詮あんたは屍生人。人間讃歌は勇気の讃歌。例えあんたが人間だったとしてもその奢りたかぶった精神では勇気なんて生まれなかっただろうけど……」

 

コオォォォォ!

 

タルカス「おのれぇ!人間めぇ!」

 

沙希「山吹色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)!今度こそ消えろ!タルカス!」

 

ドカドカドカドカ!

スタンド使いだからといって、スタンドでしかラッシュをしてはいけないルールはない。あたしは腕がだるくなるまで何発も波紋を込めたパンチをタルカスに決める。波紋が猛毒の屍生人には地獄の責め苦だろう。

 

タルカス「ぐああああ!バカな!俺は貴様の前世を…」

 

沙希「ツェペリ男爵があんたに負けたのは卑劣な罠からジョナサンを救うためだけの行動!あんたなんてそれが無ければただの屍生人!ただの屍生人にあたしがまけるかぁ!」

 

タルカス「ガアアアアァァァァァ!」

 

断末魔の悲鳴をあげながらタルカスは消滅する。お別れだよタルカス。あたしは波紋の力を持たない他の仲間の支援に向かわなければならない。それに…

 

沙希「悲しい勇気をあたしは止めなければならないんだ!あんたなんかに構っていられるか!タルカス」

 

比企谷を止める。何としても!

あたしはタルカスに何の感傷も抱くこともなく、暴れる屍生人達の後始末に向かった。

 

タルカス…死亡

 

 

side空条徐倫

 

ヴェルサス「俺にだって権利はあったはずだ!天国を目指す権利が!」

 

徐倫「くそだった人生を逆恨みするだけのテメェに、ハッチの魂を渡すわけがない!」

 

ハッチの前世の息子の一人、ヴェルサス。

ミスタさんやミドラーさんから聞いていたスタンド、アンダーグランドがあったのなら苦戦は免れなかったかもしれない。だけど精神の象徴であるスタンドの力を屍生人となって失い、怨嗟の呪いをぶちまけるだけのヴェルサスなんてあたしの敵ではない。例え波紋の戦士並みに力があったとしても、そこに勇気や覚悟の精神はない。

 

徐倫「心の力であたし達はどんなことでも乗り越えて来た。心の力でスタンドで身を守り、心の力でくじけそうになるくらいの絶望を乗り気ってきた!あたしは暗い独房の中でも星を見ていた!」

 

ハッチは見せてくれた。希望となる星を。

あたしは見てみたい。原石が宝石となって輝く姿を。

原石は泥水をすすってでも立ち上がり、磨かれてきた。

あたし達が磨くんだ!原石を宝石にする為に!こんなところで砕かれていい物じゃあない!

 

徐倫「あたしはもう、力押しって言葉が好きになったのよね。力押しで決めさせてもらうわよ。ヴェルサス。くそだった人生だったんだろ?なら、くそにまみれるのにも慣れているわよね」

 

ストーン・フリーの糸をヴェルサスの周りに張り巡らせる。怨嗟の呪いをぶちまけ、あたしに突進してくるしかないこいつは、自らの力押しで張られている糸に引っ掛かり、バラバラになる。

ピアノ線のように鋭い糸に。糸状のストーン・フリーに力はない。けれどもスタンド同士での話。

スタンドの糸を切る術がないヴェルサスには糸の結界を打開する方法はない。

 

徐倫「やっぱり好きよ。力押しって言葉。力押ししかない敵が勝手に自滅していくって意味でね。兄弟仲良く、導かれし小道に迷え。ジョルノ兄さんのように黄金の精神を宿らせなかったテメェらには、それがお似合いよ。二度と現世に迷うな!オラオラオラオラオラぁ!」

 

あたしは体がバラバラになって身動き出来なくなったヴェルサスの体を1つづつ、着実に潰していく。ハッチ…待ってなさい。必ずあんたを守るから。

 

ヴェルサス…死亡

 

 

side一色いろは

 

いろは「エメラルド・ストライク!」

 

屍生人「GYAOOOOO!」

 

チームのみんなが敵を次々と撃破するなか、私一人が苦戦をしていた。みんなと違ってわたしには屍生人に対する決定打が無いのが理由だ。

 

N・E「無理無理無理無理無理!」

 

エメラルド・ストライクの威力はヘビー級ボクサーのパンチくらいにはあるけれど、屍生人には意味がない。

無理無理ラッシュも仲間の中では力が強いかも知れないけど、破壊を目的とする特殊な能力は何一つとしてない。

 

承太郎『スター・プラチナは俺の不器用な性格を見事に現している。時々ジジイのハーミット・パープルが羨ましく思うときもあるんだぞ?まったく…やれやれだ』

 

承太郎はそう言っていた。わたしもつくづくそう想う。

波紋の才能が全くないわたしが恨めしく思う。ハチ君やジョルノに言わせれば無い物ねだりをするなんて行為が無駄だと切り捨てられるだろうけど、今は破壊する能力が本当に欲しい。

基本世界のわたしは肝心なところで不器用な性格だった。あっちのハチ君の事が好きなクセに、一歩を踏み出せずに器用に理由を付けては不器用なアプローチをしていた。わたしはそんなイッシキ・イロハを歯痒く思っていたけれど、思い返してみれば幼なじみという関係が成り立っていたからこそわたしは運良くハチ君の側にいられただけだったのかも知れない。

本質は一色いろはとイッシキ・イロハは同じ…一瞬で器用に立ち回れるハチ君やジョジョ達が羨ましい…。わたしは首筋にある星形の痣を撫でる。

この痣に宿る戦いのセンス…ジョースターの機転が欲しい!ほんのわずかでも構わないから!

 

ブラフォード「もうやめろ、少女よ。君の勇気は称賛に値する。だが、君の力では私達を倒すことは出来ない」

 

ブラフォードは髪の毛をウネウネさせながら言ってくる。

 

いろは「ハァ…ハァ…モード…ラブ・デラックス」

 

皮肉。わたしが尊敬する広瀬夫人のラブ・デラックスの能力に近い力がこの屍生人にあるなんて…。

 

いろは「っ!」

 

バン!バン!

 

デザートイーグルの銃口から弾丸が射ち出される。拳銃としての火力では世界最大級の威力を誇るデザートイーグル。エメラルド・ストライクよりははるかに高い威力を誇っている。

 

ブラフォード「ぐうっ!大した威力の銃弾だ。現代の人間の科学力はそこまで進歩したのだな。だが、それを扱う君の力はどうかな?若き少女よ」

 

ブラフォードは風穴が空いた腹部や胸を見て言う。人間ならば致命傷であるそれも、屍生人には意味がない。

デザートイーグルは火力が高い分、反動も大きい。並の女の子が扱えるような火器ではない。だけど、わたしは並の女の子じゃあない。

常人よりは高い身体能力を持っている。伊達に小さい頃からアスリート並の訓練を積んできた訳じゃあ無いのだから。だけど、わたしはアスリートではない。波紋の戦士でもない。体のあちこちが戦いの反動で悲鳴をあげている。

 

いろは「ハァ…ハァ…エメラルド・ヒーリング」

 

パアアアァァァァ…

過負荷によって悲鳴をあげた体を治して痛みを消す。失った体力も…。だけどそれだけ。

次から次へと沸いてくる屍生人。終わりが見えないシーソーゲーム。体よりも精神が悲鳴をあげそうになる。

 

屍生人「GYAOOOOO!」

 

体力が回復している最中に複数の屍生人が襲いかかってくる。

 

いろは「くっ!せいっ!」

 

わたしは片方をナイチンゲールで対処し、もう片方を自身の体術で殴り飛ばす。すると……

 

屍生人「GYAAAAAA!」

 

まるで波紋を受けたように屍生人が溶けていく。

………そうか、ナイチンゲールのエメラルド・ヒーリングも波紋と同じ生命の力…。同じ生命の力なら死を原動力にしている屍生人にとっては毒…。それに、わたしのエメラルド・ヒーリングは一見無造作に使っているように見えて、精密にコントロールしている。ただおもむろに自己治療を促してしまえば逆効果の場合も多い。

薬の用量を間違えれば却って体に悪かったり、麻薬と化してしまうように…。

過剰回復…。その手があったんだ。

過剰回復を目的としたエメラルド・ヒーリング…名付けて…

 

いろは「エメラルド・エクセス!」

 

ドババババババババ!

 

GAAAAAAAA!

 

用量を一切考えない回復の弾丸。それが屍生人達にとっては最大の猛毒となって呪いの体を蝕む。

 

いろは「最後はあなたです!勇者ブラフォード!エクセス・ラッシュ!」

 

N・E「無理無理無理無理無理無理無理無理無理!」

 

いろは「あなた達をこれ以上のさばらせるのは…」

 

N・E「無理です!ごめんなさい!」

 

わたしの新技、エクセス・ラッシュにブラフォードは何の抵抗もなくその身で受け止める。

 

ブラフォード「ぐふぅ!見事だ……少女よ…」

 

シュウウウウ…。

ブラフォード…あなたは…。

思えばブラフォード自身は髪の毛をウネウネさせているだけで何もしていなかった…この人は…納得していなかったんだ…

 

ブラフォード「ジョナサン・ジョースターの精神は…今でもこの時代に息吹いているのだな…。それが見れただけでも、私が蘇った価値があった…。回復の力の応用を、よく土壇場で思い付いた…。見事な機転だ…。機転の少女よ……いや、誇り高い戦士よ…名前を教えてくれ」

 

いろは「わたしの名前は一色いろは…。誇り高き黄金の精神を持つジョナサン・ジョースターの妻、エリナ・ジョースターの転生です。勇者ブラフォード…」

 

わたしはブラフォードの魂に祈りを捧げる。

 

ブラフォード「勇者の名は…君に相応しい…聖女一色いろはよ…ジョジョとディオ様を…頼むぞ……」

 

いろは「あなたの魂に、安らぎと平穏を…」

 

ブラフォード「ふ……。やはり君は聖女だ……さらばだ一色いろは…」

 

ごめんなさい。勇者ブラフォード…。わたしは聖女ではない。既に人を殺して穢れてしまっている。だけど、敢えて訂正はしない。この程度の安い嘘であなたが安らかに逝けるのならば、わたしはいくらでも聖女の皮を被った悪女になろう。

勇者ブラフォードは光の灰となって…消えていった。

さぁ、わたしの戦いはまだ続く。過剰(エクセス)な薬の投与が毒となることを承知で暗く笑いながら患者に感謝され、ほくそ笑む堕ちた看護師に…。白衣の悪魔となって…。

 

勇者ブラフォード…死亡

 

 

side比企谷八幡

 

葉山「オーラル・シガレッツ…好きなものがアレルギーに、嫌いなものが中毒になる気分はどうだい?比企谷」

 

初めて名前を間違えなかったのが、こういう時とは無性に腹が立つ。

こいつのスタンド、オーラル・シガレッツ。いつの間にかかったのかはわからないが、こいつの能力は地味に厄介な能力だった。

ガンガン始末していた屍生人。この屍生人が堪らなくいとおしい!おぞましいのにいとおしい!

 

八幡「テメェみたいな葉虫をいとおしく感じるなんて…なんて罰ゲームだこの野郎!」

 

葉山「ふふふ…うっとおしいお前を顎で使うのも悪くないな、比企谷。それもそのゾクゾクする冷たく鋭い憎悪を向けられながら、それを見下す…素晴らしい能力だと思わないか?」

 

八幡「最低だな。みんな仲良くはどこいった」

 

葉山「仲良くなるじゃあないか。少なくとも、形だけはね」

 

誰からも好かれ、仲良くしたい…。その精神が形となった葉山のスタンド能力。

これが普通のスタンドだったのならば、葉山はもっと良い使い方をしていたに違いない。

どんな使い方であれ、そんな偽物の感情など唾棄すべき物ではあるが、葉山の本質を考えれば納得のいくスタンドだった。それがブラッディ・スタンドとなって歪んでしまった…。下衆なスタンド能力に…。

 

葉山「土下座だ。ヒキタニ…。俺にひざまずいて頭を垂れろ」

 

誰がお前なんかに!

心ではそう思っていても、それが快感になる。俺の意思とは裏腹に、葉山の言うことに従う事が中毒になってしまっている体が勝手に動いてしまう。屈辱だ…。

調子に乗った葉山は土下座した俺の背中に足を置く。

屈辱なのに快感…新しい世界に目覚めるだろうが!

これがいろはや小町、陽乃さんだったら良いな…とか思うだろうが!特に陽乃さんならば嬉々としてやってきそうで怖い!

 

葉山「ヒキタニ……これがお前の運命なんだよ。王であるこの俺の土台になる。そして死ぬ。昨日まで、よくも散々好き放題してくれたな。ヒキタニ」

 

ドカッ!

葉山に蹴りを入れられる。波紋で強化しているから、全然痛くはないが、屈辱が半端ではない。

名前もまたわざと間違えてくる。

 

葉山「楽に死ねると思うな!みんな仲良く…それが俺の信条だったが、お前とジョースター家は話が別だ!絶対にお前とは仲良くなれない!死ね、ヒキタニ!その名前のように自分の殻に引きこもれ!のたうち回って死ね!無様に転げ回れ!くそっ!何でサッカー部のキックを食らっても微動だにしないんだ!なんて硬い体だ!」

 

ドカッ!ドカッ!ドカッ!ドカッ!ドカッ!

 

恐らくは全力のキックなのだろうが、俺には通用しない。スター・プラチナの攻撃を何回食らっていると思っている!承太郎やジョジョ達の攻撃はこんなもんじゃあ無いんだぞ!

痛みはない。調子に乗って俺に蹴りの嵐を入れて悦に入っている葉山。その間に考えるんだ…。どうすれば良い?この状況を打破するにはどうすれば…。

 

DIO『お前が戦いの時になるの精神は、このDIOの精神が前面に出るからじゃあないのか?敵を屈服させ、場を支配する精神がな。このDIOが敵と相対したときは徹底的な嫌悪が前に出る!それが逆に利用されるのならば、ジョジョの気持ちになれ!例え敵でありながらも、博愛精神に溢れるジョナサンの気持ちになるんだ!貴様なら出来るだろう!このDIOだけじゃあなく、ジョジョの精神があるお前になら!』

 

魂の中のディオが語りかけてくる。

 

ジョナサン『そんな気持ちで戦っていた訳じゃあ無かったんだけど、君がそう言うのならばそうなのかも知れないね。ディオ』

 

今度はジョナサン…。なるほど、他のやつでは無理なことでも俺の中には背反する二つの意志がある。これを切り替えれば…。

現状で手詰まりである以上、やってみる価値はある。

思い出せ…古城でディオを谷底へ突き落とした時、ジョナサンはディオに対して涙した…。あのどこまでもお人好しで博愛精神に溢れるあの時のジョナサンの精神を。

 

八幡「………ふっ」

 

葉山「何がおかしい?ヒキタニ……」

 

八幡「オオオオッ!」

 

バキィ!

 

俺の拳が葉山にヒットする。

なるほど、ジョナサンの博愛精神がアレルギーとなって憎悪へと変わる。

厄介な能力だった。俺以外の奴ならどうにもならなかった能力だろう。二つの背反する精神の転生だからこそ出来る心の持ち主。邪悪の化身と博愛の戦士。その俺だからこそ出来る真似だ。

 

八幡「ハーミット・アメジスト…俺の拳を受ける覚悟はあるか?葉山」

 

葉山「何故だ……お前の嫌悪と憎悪は確かに逆転したはずだ…」

 

八幡「俺以外は無理だっただろうな…ウオオオオ!」

 

バキバキバキバキバキバキ!

 

精神の在り方をジョナサンに傾けた事により、波紋の力がより強く体を駆け抜ける。

周囲にいた屍生人達は次々と灰になる。本来のジョナサンならば灰になる屍生人達に憐れみの感情を抱いていたであろう。だが、それは今はただの敵としかみえない。そう反転させられているからだ。

 

葉山「能力解除だ!」

 

八幡「ふ……モードディオ。ザ・ジェムストーン!」

 

G・S「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」

 

能力を解除させられたことにより、今度は元の博愛に戻る。ならば精神を元に戻していつもの戦いのテンションに戻れば良い。

 

八幡「間抜けめ葉山!どっちにしてもお前に勝ち目はない!博愛と邪悪、両極端が織り成す精神に打つ手なんか無いんだよ!戦いにおいて、お前は初心者の猿!モンキーが人間に勝てるものかぁ!WRYYYYYY!」

 

俺の運命は神が出現したとき。逆を言えば運命はただのブラッディ・スタンド使いであるお前に負けないことを示している!お前は運命に見捨てられているんだよ!

 

葉山「来るな!ヒキタニ!来るなぁ!」

 

八幡「終われ葉山!山吹色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!」

 

葉山「がふっ!げあっ!グアゥ!ゲエエエエエ!」

 

八幡「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!WRYYYYYY!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!無駄ぁ!」

 

俺に殴り飛ばされ、全身骨折でぐったりする葉山。

もう葉山は動けない。何か出来ても俺には通用しない。

俺は葉山の肉の芽をザ・ジェムストーンで抜き取り、波紋疾走で灰にする。

 

葉山「悪い夢を…見ていた気分だ…」

 

八幡「正気に戻ったか…葉山」

 

葉山「君に助けられるなんてね…。ヒキタニ……すまなかった」

 

八幡「まぁ、精神を乗っ取られていたんだから仕方がないだろう。後は寝ていろ…葉山」

 

葉山「待て……。ヒキタニ…お前は勘違いしている。柱の一族の目的は………………………………」

 

八幡「何だって…それじゃあ、既に…」

 

ドオオオオン!遠くから轟音が聞こえる。

 

葉山「遅かったのかも知れない……あいつを…助けられなかった…比企谷…俺はもうすぐ死ぬ…碑紋を刻んだブラッディ・スタンド使いは…吸収される。アイツを…せめて楽に死なせてやってくれないか……頼む……」

 

葉山の体が目覚めた神に吸い寄せられるように浮かび、そして吸い込まれた…これが、碑紋を刻んだ物の末路なのかよ……すまん、葉山……助けてやれなかった。

 

葉山隼人(オーラル・シガレッツ)…再起不能(リタイア)の後に新たな神に吸収される。生死不明。

 

←To be continued




今回はここまでです。

ヴァニラアイスを見る限り、屍生人もスタンドは使えるのですが、既に一度は成仏した精神ということで、使用不能にしました。ご都合主義ですが、収拾付かなくなってしまうので。

この後、どうなってしまうのか!?

次回もまたお願いします。

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