やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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最後の…


こうして比企谷八幡の夏休みは過ぎていく3

side比企谷八幡

 

既に7月も終わり、外では油蝉が大合唱をしている。

最近の激務で疲れている小町の負担を減らすためにも、家事はしばらく俺がやることにしている。まぁ、建て前だ。もし予言通りになったときの事を考えて身辺整理をするための言い訳だ。まぁ、カムフラージュとはいえ、家事を受け持った以上は買い物をするさ。カマクラやペットショップの好物も買っておいてやるか。もう、一緒にいれるのはわずかかもしれないからな。

暑さのせいでアスファルトから陽炎が立ち上っている。

昼下がりの街はセミの声と行き交う車ばかりが音をたて、人通りは少ない。住宅街であるこのあたりに住む人々はわざわざ暑い時間帯に外に出ようとは思わないようだ。

俺ももう少し日が傾いてから出掛ければ良かった…とも思ったが、吸血鬼だったDIOの時の事を考えるとこの灼熱の日差しとて心地良い。だが、灼熱の日差しの中でも、心の中は孤独の寂しさのせいか、寒さすら感じている。

 

八幡(もう、一週間ないからな…俺が消える予言が出ている日まで…)

 

余命宣告をされた病人患者とはこういう気持ちなのだろうか。

灼熱の暑さから熱中症を回避するために存在している夏休み。去年とかなら仕事から逃げるために、本来的な意味では外に出ることは法的にグレーゾーン…とか言って意地でも外に出ようとすらしなかったが、今年はそんなことはしない。そんなそぶりすら見せず、家はもちろん会社すら積極的に行って積極的に仕事をしている。

会社の者達は関東支部長が積極的になっていると感動しているが、まぁ……もしかしたら最後になるかもしれないからな…。事情を知っている歴代ジョジョ達は悲しい瞳で俺を見て、そして……いろは、小町、ジョジョ、陽乃さんはより疑いの目で俺を見る。絶対に普通じゃあないと…。

そんな寂しいことを考えている間に駅前に出た。海浜幕張駅。食材を買うだけなら近所のスーパーでも良いが、本を買うとなると新都心側の方が便利だ。

ついでに会社に顔を出すか。実は最近、謹慎という形で強制的に休暇を取らされている。まったく…仕事にやる気を出している時に限ってなんたる仕打ち!そうブツブツ言いながら会社の廊下を歩く。

 

承太郎「お前のオフィスはこっちじゃあ無いだろ?わざわざ自己暗示までかけて来やがって。残念だが、ここは立ち入り禁止だ。特にお前はな」

 

八幡「ちっ……何でお前が番人やってるんだよ」

 

自己暗示までかけて会社にやって来たというのに、目的地にはゴゴゴゴゴ…という幻聴と共に承太郎がいやがった。

第7倉庫前…俺が必要としている物がここから地下に降りた先にある。

 

承太郎「毎日毎日ご苦労な事だ。小町からお前が出掛けた連絡を受ければ絶対に俺はここから離れん。諦めろ。千葉村へのボランティアまではお前は絶対に仕事をさせるわけにはいかん。今日が最終勧告だ。明日からは絶対に家から出るんじゃあない。会社には来るな」

 

八幡「やれやれだぜ。こっちが逃げ惑っているときは無理矢理でも出勤させるくせに、出勤したいときは謹慎を命じやがって。どこまでもブラック企業だな」

 

承太郎「好きなだけ言え。千葉村にお前を連れていくところまでがせめてもの妥協点だ。ここにしまわれている物をお前の手に渡すわけにはいかない」

 

八幡「………チッ!どうせ中はトラップだらけなんだろ?俺の登録は抹消されて、中に入るのもままならない…」

 

承太郎「そこまで判ってるなら何故諦めない?いや…逆だな。何故、既に諦めている?」

 

八幡「諦めてねぇよ。ただ、万が一の場合はアレは必要だ」

 

承太郎「………」

 

S・P「オラオラオラオラオラァ!」

 

スタープラチナは第7倉庫への電子ロックを破壊する。

 

八幡「テメェ!入り口を…そんなことをすれば」

 

承太郎「仗助以外は直すことが出来なくなる。この倉庫から特殊金庫に至るまで、スター・プラチナで全部のセキュリティロックの鍵や電子操作盤を破壊した。もう俺ですらこの中に入る事は出来ない」

 

八幡「そこまでやるか……承太郎。相変わらずぶっ飛んでやがるな」

 

承太郎「そうでもしなければお前はどんな手段を使ってでも中に入る。ならば俺もどんな手段を使ってでもお前を中には入れさせないだけだ」

 

チッ!お前の言うとおりだよ…。こうまでされちゃあ俺も引き下がるしかないじゃあないか。

 

八幡「降参だ。素直に謹慎しているよ。買い物してから大人しく帰るよ」

 

承太郎「お前が家に戻るまでは俺はここを離れないがな」

 

八幡「信用ねぇな」

 

承太郎「逆の意味では信用している。お前の諦めの悪さや何がなんでも目的を果たそうとする根性はな。そう言った意味ではお前はやはり血縁である俺以上にジジイによく似ている。嫉妬すらするほどにな」

 

八幡「誉め言葉として受け止めてやるよ。じゃあ、仗助達が来て面倒ごとになる前に退散する」

 

俺は第7倉庫前から立ち去るべく足を出口に向ける。

 

八幡「心配してくれてありがとな。承太郎」

 

承太郎はフッと口だけを吊り上げ、目をつむる。

 

承太郎「まるで最後の挨拶のように素直じゃあないか。お前はどうかわからないが、俺は絶対に諦めないからな。これまでがそうであったように、これからもな」

 

八幡「まさか……俺がお前に心配され、頼りにする日々がくるとは思わなかったよ。承太郎」

 

俺はそう言って施設から出る。せめてもの嫌がらせだ。夕方まで外でうろちょろしてやる。それまで番人してやがれ。

 

 

side空条承太郎

 

やっと大人しく帰ったか。

諦めが良いのか悪いのか…相変わらず読めない野郎だ。

そんなところまでジジイそっくりだ。

あいつの事だ。せめてもの嫌がらせでこの辺りをうろちょろして俺を釘つけにする予定だろう。

まったく…こんな薄暗いところで何時間もいなくちゃあならないなんてな。まったく、やれやれだ。

 

Prrrr…

 

第7倉庫前の内線が鳴る。ここでは盗聴を防ぐためにわざと電波が圏外になるように処理してあるから、携帯が使えない。

俺は内線の受話器を取り、電話に出る。

 

承太郎「もしもし。こちら第7倉庫前、空条承太郎だ」

 

仗助「仗助ッス。あいつは来たッスか?」

 

承太郎「たった今、帰っていった。第7倉庫の扉を破壊したから、二度とここには来ないだろう。それに、自分が監視されていることはアイツも重々承知しているから下手な行動には出ないだろう」

 

仗助「だと良いッスけどね。くれぐれも油断しねぇで下さいよ?時を止める能力を何とか出来るのは承太郎さんしかいねぇんスから」

 

承太郎「よく言う。お前ほど油断することにかけてはジョジョの中で右に出る奴はいねぇ」

 

仗助「それを言わないで下さいよ。では、頼みますよ承太郎さん。じゃあ、お願いします」

 

そう言って仗助は電話を切った。

口にすると仗助の過去の失敗を刺激するから言わないが、初めて会ったときだってあいつは決して捕まえた敵のスタンドから片時も目を離すなと言っておいたのに油断をして目を離し、結果祖父である東方良平を殺されてしまった。そんなアイツに油断するなと言われるとは思わなかった。

俺は用意したキャンピングチェアーに腰をかけ、学会の論文を取り出して暇潰しを兼ねて目を通そうとして、すぐにしまった。

 

承太郎「止めておこう。仗助に言った以上、油断するわけにはいかないからか…退屈だが、目を光らせておくに越したことはない。まったく、本当にやれやれだ」

 

この短時間の間に何度俺はやれやれと口にし、言ったことか…。DIOの野郎は味方になっても油断できない奴だ。まったく…やれや………。もう意地でも言わねぇし思わねぇぞ。何故かわからねぇが、それだけでも負けた気持ちになる。

俺は武蔵坊弁慶になった気持ちになって、とても長くなる時間を腕を組んでじっとその場に留まった。時々襲ってくる眠気と必死に戦いながら。

 

side比企谷八幡

 

うけけけけ。今頃承太郎の奴は必死で眠気と戦いながら目を光らせていることだろう。誰かと交代したくてもザ・ワールドの時を止めた力を認知し、動けるのはあいつだけである以上、番人が出来るのは承太郎だけだ。

一人で勝手に意地を張ってろ。

そんなことを考えながら、海浜幕張界隈を歩く。夏場の海浜幕張は結構な賑やかさを誇る。サマソニもあるし、プロ野球のナイターは花火が上がる。ウッペリ兄弟達と再会し、思い出の場所となったマリンスタジアム…。この幕張はどこまでも俺の思い出が詰まった場所だ。

思わず涙がこみ上げてくる…。いつものウザいと思う人混み…その中で俺の事を気にする奴は誰もいない。完全に気配を消してあるのもあるが、他人を気にする奴は現代日本にはいない。

こうして人混みに囲まれていると、一人の時よりもなお一層孤独を感じる。ボッチというのは周囲の人口密度を指すのではなく、個人の精神性を指すのだろう。どれだけ近い距離に人がいても、それが同種と認める人間でなければ渇きが潤うことはない。かつてのディオがそうであったようにどれだけヨッ友やカリスマに惹かれて集まってきた部下がいても、渇きが潤うことはなかった。

もしかしたら不倶戴天の敵であったジョナサンや、承太郎がディオの渇きを潤す存在だったかも知れない。ディオは決して認めないだろう。だが、そんなディオも俺の中でジョナサンと共に今は満たされている。

いろは、小町、ジョジョ、仗助、陽乃さん…ジョースターのみんな…彼らといるときは俺の渇きは満たされ、潤っていると感じる。いや、今となってはアーシスのみんなが俺の渇きを潤してくれている。最初は嫌いだった雪ノ下や由比ヶ浜も今は……。だからこそ守りたい。俺が消えるとしても…。汐華や柱の一族の事が片付いたとしても残る案件はまだ1つある。だけど、俺が本物と認めた黄金の精神達ならば、俺がいなくなっても乗り越えてくれると信じている。

俺だって消える運命には抗うつもりだし、消えたくはない。いつまでもみんなと一緒にいたい!

わずかに目に溢れた涙を拭い、楽しそうに歩く街の人々を追い抜く。横に広がってフラット3をしていた三人は俺のスピードに合わせて足を速める。こいつらは街の人々を装っていたアーシス支援部隊のエージェントか…つまり、普段は俺の護衛であり、今は財団の監視員。上手く溶け込んでいるものだ。

そいつらは俺の前方を行く監視員を諦め、代わりに別の集団が俺の前を塞ぐようにフラット3を作る。隙がねぇな。もう行動を起こす気がないので、大人しく監視網の中に身をおき、人混みの流れに任せて俺は足を進める。

人混みにあっても絶えることのない俺を監視する視線。これだけの護衛や監視に囲まれていればヒットマンの心配は無いだろう。警戒の意識を最低限に維持しながら想像の世界に意識を持っていく。ディオとして百年もの時間を想像だけで海底を過ごしていた俺だ。ボッチとしてここまで完成された達人はいないだろう。

いつ敵スタンド使いが襲ってきても今は(・・)生き抜けるようにイメージトレーニングと警戒をしながら、俺はアウトレットモール、多様な専門店が入っているプレナ幕張などがある買い物専門エリアへと足を向けた。

ふらふらと歩いていると、緑がかった蛍光色のジャージが視界に入った。あのジャージは見覚えがある。体育の時に着ている学校指定の物だ。

戸塚か…。そのカワイイ容姿とは裏腹に、前世のスピードワゴンの鋭い眼光で俺を捉える。横にはジジイ…ジョセフ・ジョースターとテニス部の泉もいた。承太郎から連絡をもらって待ち伏せていやがったな?

戸塚…スピードワゴンはもう1つの俺の前世、ジョナサン至上主義だ。

 

八幡「戸塚か…」

 

戸塚「戸塚か…じゃあないよ八幡!謹慎中なのに何で外を歩いてるんだよ!承太郎さんから連絡を受けてジョセフさんと一緒に待ち伏せていたら、本当にうろちょろしているし!」

 

泉「ジョジョ…。君は何をしているんだ?最近様子がおかしいって、戸塚から聞いて来ていたが…」

 

ジョセフ「承太郎から聞いたぞ?また第7倉庫に行ったようじゃな…八幡…お前さんは…」

 

八幡「小町の代わりに家の買い物に来たんだよ。会社に寄ったのはついでだ。用がないなら先に行くぞ」

 

俺はジジイの脇を通って先に進もうとする。

 

ジョセフ「……八幡。ワシらを頼れ。ワシはお前さんが好きなんじゃ。一人でやろうとするんじゃあない…」

 

戸塚「八幡!忘れないで!君には僕達がいるんだ!また僕達をおいていかないで!」

 

泉「比企谷!ジョジョみたいな事になったら……許さないからな!」

 

俺は一瞬だけ足を止めて、再び歩き出す。

 

八幡「………ありがとな。ジョセフ…スピードワゴン…ポコ…」

 

そのまま歩き出す俺。

 

戸塚「八幡……」

 

泉「くそっ!俺は前もそうだった…力が欲しい…」

 

ジョセフ「八幡……このバカ者が……」

 

三人の視線を受けながら、俺は歩く。

ポコ…泉。お前が無力感を感じる必要はない。

スピードワゴン…戸塚。お前はいつだって俺やジョナサンの支えになってくれていたさ。お前も俺の本物だ。

そして……ジョセフ。俺も前世の祖父として、俺の祖父がわりとして、師匠として…俺の家族として…お前の事が大好きだぞ。

 

くそ、この程度のことで胸からこみ上げてくるものがあるなんて…ディオとして百年孤独に耐えてきた俺のメンタルはどうした!

 

迷いを振り払い、エスカレーターまでしばらく歩を進める。上りのエスカレーターに乗り、自動で登っていく自動階段に身を任せていると、今度は反対側の下りのエスカレーターに乗った材木座とすれ違う。一緒にいたのは露伴先生と城廻先輩だ。

 

材木座「!!八幡!!」

 

露伴「八幡君!」

 

めぐり「比企谷君!」

 

三人とも俺の姿を認め、驚いた顔をしている。俺は軽い笑顔と手を上げるだけの挨拶をして黙ってすれ違った。

 

材木座「一人で抱え込むなよ!八幡!」

 

シュトロハイム……材木座。立派な作家になれよ。

 

めぐり「比企谷君!君は一人じゃあ無いんだからね!わたしも露伴ちゃんも義輝君もいるんだから!」

 

杉本鈴美さん…城廻先輩。もっとあなたと話したかったですよ。

 

露伴「八幡君!前にも言ったがピンクダークの少年はもう君なしにはあり得ないんだ!僕は君が行こうとする結末は許さないからな!」

 

露伴先生…俺の盟友…。

露伴先生も知ってしまっているみたいだ。城廻先輩を助けた後に仗助と一緒にジジイを問い詰めたみたいだし、仕方ないか。あの漫画を是非とも完成させて下さい。基本世界では成し遂げられなかった先生の傑作を…。俺は見ることが出来そうにありませんが。

 

上りと下りのエスカレーターは止まることはない。声を発しないまますれ違う俺を露伴先生は我慢できずに上りのエスカレーターに飛び移ろうとするのを材木座と城廻先輩は必死に止めていた。

 

露伴「僕は……諦めないからな!八幡君!」

 

フェードアウトする俺を露伴先生は必死で呼び掛けていた…。

 

←To be continued




どんどん一人で犠牲になろうとする八幡。必死にそれを止めようとする仲間のみんな。
孤独に消えようとする八幡を、みんなは止めることが出来るのか!

それでは原作との相違点。

夏の暑さに辟易する八幡➡百年間もの間を太陽の元に出られなかったDIO時代を考えれば炎天下でも心地良い。特に、最期を覚悟している八幡には…。八幡よぉ…悲しすぎるぜ。

八幡が海浜幕張に来たのはついでに本を買うため➡日本支部の本部にある第7倉庫に侵入しに来たが、承太郎にとめられる。

八幡の周りを歩く人混みは本当に赤の他人➡人混みに紛れて護衛兼監視の人間が大量に紛れている。今の八幡はストーンオーシャン以前よりも警護と監視が厳重になっている。

ジョジョとの相違点…DIOは邪悪の化身となりながらも孤独と戦っていたのではないかという本城の思い込み

戸塚はテニス部の帰りで友達と一緒にいた。八幡には気付かず➡テニス部の練習には付き合っていたが、承太郎&一緒に特訓に付き合っていたジョセフから連絡を受けて待ち伏せしていた。

材木座はゲーセン仲間と一緒にいた➡露伴とメグリッシュと一緒にいた。

辛い…気分は奉仕部と溝ができ、クリスマスパーティーでいろはと共に行動している時の八幡を見ているようです。孤独を受け入れつつも必死に現状を打破しようとしている原作八幡と重なります。書いている私ですらそうなのですから、読んでいる皆様も多分、もどかしいでしょう。第3章はほとんどこの流れですが、もうしばらくお付き合い下さい。
それでは次回もよろしくお願いいたします。

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