やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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奉仕部対遊戯部4

side 比企谷八幡

 

男「カードゲームのディーラー?まぁ、私の用事は終わりましたから構わないのですが、社会的な常識としてはどうなのですか?」

 

遊戯部が連れてきた、たまたま表を歩いていた社会人風のスーツの男は不愉快そうな声を出す。それはそうだろう。同一の立場であるならば有りかも知れないが、明らかに目上の、それも明らかに学校の来賓のようなスーツ姿の男を捕まえてカードゲームのディーラーをやって欲しい。常識のある人間のやることではない。

 

仗助「すみません。うちの学校の生徒がご迷惑を」

 

男「本当です。大の大人までが一緒になって……」

 

仗助「申し訳ありません」

 

仗助はギロリと俺を睨み付ける。

マジでごめん、仗助。

 

材木座「落ち着け。ゲームとは楽しむものだ。」

 

材木座がもっともらしいことを言うと、ため息が聞こえた。

 

秦野「なるほど。そういう感じのスタンスだったんですね?比企谷さん達のスタンスは」

 

何か勘違いしている感じの秦野の声だった。

 

相模「格ゲーで弱いものいじめをしているスタンスのユーザー視点って言うんですか?まぁ、それは悪いことでは無いんですけど、それに終始してるってのはねー」

 

二人の顔を見ると、彼らの表情にはあきらかな侮蔑が混じっている。

 

秦野「無敵モードでゲームに勝って楽しかったですか?ゲームには本気になれないからずるして勝つんですか?イカサマとか」

 

八幡「…良いだろう。ゲームがどうとかの話は良い。後で思う存分に言い負かしてやる。ゲームをなめてるのがどっちだって言うことをな。お前らはこのゲームに魂をかける覚悟があるのか?自分の主張が正しいと言うなれば、そこに魂を賭けれるか!?」

 

相模&秦野「やってやりますよ。俺らのゲームに対する情熱を賭けますよ!」

 

八幡「そうかい。お前らは?この段階で降りたければ降りろ。ペアを解消しても良い」

 

そこで残ったペアはペアを解消して組み直した俺とジョジョ、材木座と露伴先生だ。

 

静「それじゃあ、オープン・ザ・ゲーム」

 

巻き込まれた男がカードを配る。

秦野達がカードに手を伸ばそうとするが、俺はそれを制する。

 

八幡「ゲームを始める前に話をしよう。お前らが材木座に対して思っていることを思う存分に吐き出してみろ」

 

秦野「大佐さん、なんでラノベを書きたいんすか?」

 

この大佐さんはゲーセンでの材木座の通り名らしい。

 

材木座「ふむ、好きだからな。好きなことを仕事にしようと思うのは当たり前の考えだと思うが」

 

落ち着いて答えた材木座だったが……

 

相模「はっ!好きだから、か。最近多いんすよね、それだけでできる気になっちゃう奴。大佐さんもそういう人間の一人でしょ?」

 

材木座「何が言いたい?」

 

秦野「あんたは夢を言い訳にして現実逃避をしているだけなんですよ。だからありもしない岸辺露伴の弟子なんて嘘がつけるんです。あの人が弟子をとるなんてあり得ない話ですし、そもそも畑が違う」

 

ピクリ…と露伴先生自身の瞼の筋肉が反応する。

 

相模「大佐さん、薄っぺらいんですよ。岸辺露伴が好きかなんか知らないですけど、ユーザー視点っていうか、ユーザー止まりっていうか、表面だけをなぞってキャッキャッしてるだけっつーか」

 

露伴先生の目付きが徐々に鋭くなっていく……と同時に、収穫出来るものは収穫したぞって顔だし。

もっとも、指摘としては鋭いかも知れないが、だからこそ露伴先生に見てもらっているんだし、たまに朋子さんも技術指導をしてくれたりしている。

 

秦野「ゲームクリエイターを目指すやつにも多いんですけど、ゲームのなんたるかも知らないで、ゲームを作るだなんて笑わせますよね?最近の若手ゲームクリエイターとか。テレビゲームしかやったことないのにゲーム作ろうとする奴。考え方がワンパターンでなにも革新的な事ができない。斬新な発想を生む土壌が養われていないんだ。好きだから作れるって訳じゃあないんですよ」

 

………露伴先生のみならず、俺までイライラしてきた。何を偉そうに語っているんだ?

 

相模「大佐さん、何か得意なこととか人に誇れること、無いでしょ?だからゲームやラノベにすがっているだけなんですよ。だから一昔前のヒット漫画をいまだに引きずって、時代の波に取り残された漫画家にすがり付く」

 

露伴先生が手に力を入れてワナワナ震え出す。手からは血がこぼれ始めた。漫画をバカにされた事で怒っているわけでは無い。色々複雑な感情が入り交じっている。

 

秦野「大佐さん、あんた、好きな映画は?アニメ以外で」

 

材木座「硫黄島からの手紙、プライベートライアン、ワールドウォー3」

 

相模「戦争映画ばかりじゃないですか…じゃあ好きな本とかは?ラノベや漫画以外で」

 

材木座「防衛白書、ジェーン年鑑、世界の戦闘戦史、太閤記」

 

秦野「小説とか関係ねぇ………」

 

材木座がアニメやラノベばかりを読んでブヒブヒ言っているだけだと思ったのか?むしろラノベとかは物語作りの参考程度にしているくらいで、元ナチス軍人の性からか、軍事マニアが読むようなノンフィクションの戦争映画や昔は将門の乱から太閤記の侍の時代の戦争物の記録や物語を読んでいる。

意外な事に、戦術マニアでもあって、スタンドの戦いに関する戦術に関してもジョセフや俺と議論していたりしている。

先程のゲームだって戦局を見極めながらカードの切り方を実に読んでいた。遊戯王とかのネタに走りかけていたけれど。

さっき、俺が材木座の得意な事や誇れる事に関してイラッときたのはここだ。何も知らないくせに決めてかかった事に腹が立った。

アーシスの存在は一応は秘匿された秘密私設部隊ゆえに表沙汰にはできなかったが。

それだけではない。大和の戦いではあっさり自分を切り捨ててでも露伴先生や康一さんの増援を要請したり、じじいの義手の開発を前世の知識とエンポリオ、川尻隼人さんが持つ現在のロボット技術を駆使して完成させたりと、直接的な戦果は挙げていなくても、戦いの勝利に何度か貢献している。

それをこのガキどもは…。

 

秦野「軍記物だけじゃないですか。結局あんたさ、偽物なんだよ。エンターテイメントの本質もわかってないし。俺達はちゃんとゲームの源流、エンターテイメントのスタート地点から勉強しているんだ。あんたみたいな半端者がラノベを書くとか言い出すの、見てて恥ずかしいんだよね」

 

秦野が言うように確かにこの部室にはゲームが溢れている。

ボードゲームと呼ばれる類いのものがつまった箱が積まれていたり、おそらくTRPGなんかに使うであろうダイスが転がっている状況を見れば、遊戯部の二人が真摯にゲームに向き合っているであろうことは想像できる。

だが、果たしてこの二人が材木座を否定して良い理由なのだろうか?

何故材木座が罵倒されなければならない?材木座は材木座なりに作品を作り、露伴先生や朋子さんにキツいことを言われながらも努力をして書き続けている。いくら時代遅れで、全盛期よりは人気は落ちているが、それでもコアなファンを掴み、海外にまでファンのいる日本最高峰の漫画家である露伴先生の元で少しずつ力をつけている。

秦野と相模、二人の努力は認める。だが、それが、それだけが正しいわけじゃあない。

大体、教科書に従って、カリキュラムをこなして、ノルマを達成して…そのやり方だけが正しく、偉いだなんて、怠慢かつ傲慢ではないか。

それは今までの伝統と正攻法に乗っ取っているだけじゃあないか。

 

八幡「別に遊戯部のやり方だけが正しいって決まったわけじゃあない」

 

結衣「あのさ…あたし、ゲームとかよくわからないし、別に詳しく無いんだけど……」

 

由比ヶ浜の真剣な表情に飲まれ、誰も声を発しない。

 

結衣「始め方が正しくなくても、中途半端でも、でも嘘でも偽物でもなくて………。好きって気持ちに間違いなんてないと思うのは間違いかな…?」

 

その言葉は誰に向けられているものだっただろうか。

考えかけたとき、ざっと床を踏み直す音がした。

 

材木座「そうだ…その通りだ!…自分には戦争物くらいしか取り柄がない!だからこそ、これに賭ける。それの何がおかしい!貴様らは違うのか!」

 

ずびっと鼻をすすり、わなわなと肩を揺らして材木座は慟哭した。息も切れ切れで潤んだ瞳で睨み付ける姿はどう見ても敗残者のそれだ。だが、それでも輝かしい夢がある材木座のその姿は俺には眩しい。ラノベ作家の夢を持ち、泥をすすり、涙を流しながらも実直にその夢に賭ける覚悟を持って進もうとするその敗残者の姿は、俺には眩しい。俺にはそんな明るい夢を持つ資格はないんだから。

いや、輝かしくない未来も、もう……。

けれど、その材木座の姿を秦野と相模は嫌悪に満ちた目で見た。いや、材木座ではなく、痛々しかったころの自分を見ていたのかも知れない。

きっと、彼らだって好きなのだ。夢を抱いていたのだ。

けれど、夢は一人で背負い続けるには重すぎる。罪と同じように。

大人になるにつれ、リアルな将来が見えてきて夢物語ばかり追っていられなくなる。

額面で二十万切っている給料だったり、有名大学の悲惨な就職率だったり、年間の自殺者数だったり。成功者とて次から次へと現れる妨害者や政敵、いつ突然現れるかもわからない暗殺者、味方とて状況によっていきなり敵に回るかもわからない。スタンド使いの戦いすらも生ぬるいえげつない世界。

そんなことばかりがわかってきてしまう。ちょっと大人びた高校生ならそれくらいは理解できてしまうだろう。

みんな冗談混じりに働いたら負けだっつーが、あながちまちがってやしない。

そんな世界で夢だけ追う生活は悔しくて、考えただけでため息が出る。

好きなだけじゃあダメだったのだ。

だから彼らは補強した。知識を蓄えて、夢だけ見てる連中を眺め自分は違うのだと己を鼓舞した。

ならば…ならば何故気付かない……。

 

相模「あんた、現実を知らなすぎだよ。現実と理想は違う」

 

バァン!

そこで露伴先生はテーブルを叩く!

 

露伴「ならば見せてくれ。君達はその現実を知っていると言うならば、自分達の作った物を見せてくれ。義輝くんは拙いながらも、形にして自分が作ったものを世に出している。勉強をし、世に物を出している人間を頭ごなしに否定したんだ。君達はさぞかし立派な物を作ったのだろう?素人はともかく、最近のゲームクリエイターを初めとしたプロの作ったものにまで口出しをしたんだからね」

 

とうとう我慢出来なくなった露伴先生が口を開いた。

 

秦野「何ですか?あなたはいきなり…」

 

露伴「岸辺露伴。君達が否定した時代の波に取り残された過去の栄光にすがる、時代遅れのダサい漫画家さ」

 

相模「あなたがあの岸辺露伴先生…」

 

露伴「先生はつけなくて結構だ。知らなかったとは言え、僕は君達に直に否定されたのだからね。今さら取り繕わなくても良い。陰で言われている評価こそ、その人への本音の評価だ。バカにする者へ敬称をつけたくないだろう?僕もつけてもらいたくない。謝罪も結構だ。君達の本音は十分に聞かせてもらった」

 

秦野&相模「……………」

 

露伴「僕の事はどうでも良い。それよりも、もう一度聞こう。君達が真剣にゲームに取り組んでいると言うのならば、見せてくれないか?最近のプロのゲームクリエイターをバカにするだけの斬新な発想を込めた君達の作ったゲームとやらを。あるのだろう?君達のそれが!」

 

秦野&相模「……………」

 

露伴「………ないのかい?ならば何故、君達はプロのゲームクリエイターをバカにした?何故、義輝くんをバカにした!時代の波に取り残されたとか言えたんだい?拙作だろうとなんだろうと、一歩踏み出しているものに対し、何故踏み出していないものが上からの目線で物を言えるのか聞かせて欲しい。ただ他人が作り出したものに対してあれこれ言うだけならば猿にだってできる。エンターテイメントを頭ごなしに語るのであれば、エンターテイナーになって初めて言えることじゃあないのか?生み出す苦労を味わってから、言うべきではないのかね?」

 

そう、そこだ。

やっている者に対し、やっていないものがあれこれ言う事が許せない。

エンターテイメントに限らず何でもそうだ。例えばあまり効率の良くない上司に対して陰口を叩く部下とかいたりする。俺はそういう人間を見たときに言う。「ならばお前がやってみろ」…と。

そう言われ、やらせてみれば大抵は出来ない。理想で物を語り、いざやってみれば結果はバカにしていた者よりも散々な結果に終わる場合が多い。

 

八幡(意外にやらなければならないことが沢山あるからだ。

自分だけではなく、部下の作業の段取りをも見積もり、効率よく指示を出し、その実行の点検を確認し、問題が発生すればその対策に追われ、その上で自分の仕事のノルマも対応しなければならない。

それが二つも三つも重なり、体が2つ欲しい!と思ったことが何度あったことか…。

二言目には責任は俺が負いますとか簡単に言うが、おめぇは責任を負う権利もねぇんだよ!と声を大にして言いたい。部下の仕事は上司の仕事だ。俺の仕事だって支部長である仗助の仕事だ。仗助の仕事だって承太郎の仕事を肩代わりしているに過ぎない。せいぜい責任を負うって言ったって辞表を出す程度の簡単なものだろ!

最終的には頭を下げまくり、その補填や穴埋めをやるのは俺だったり会社だ!

提案され、俺が許可を出した上での失敗ならばまだいい!諦めがつく!ホントどうしてくれようと思うのは勝手な判断をされ、許可なく実行され、その結果が取り返しの付かないミスだった場合のやるせなさときたら…。

監督不届きだから俺が悪いのは確かとしても、それでも先方からは嫌味を言われ、頭をひたすら下げなければならなくなり、肩身も狭くなるあの怒りだけは何度経験しても胃にくる。やっぱ逃げよっかな?

あの仕事をやりたいから財団に入ったのに、こんな雑用ばかりで…とか言うな!その雑用を知ってこそやりたい仕事が初めて成立するんだ!目に見える輝かしい仕事の裏では、やりたくない雑事の十や二十や百くらいは覚悟しろってんだ!」

 

仗助「おい八幡。口に出てるしだんだん関係ない方向に脱線していっているぞ?共感はするけど冷静になれ」

 

ハァ…ハァ…。自分の世界に入りすぎてしまった。しかも負のスパイラルに陥るやつ。今日もバーティーで徐倫をいじろう。あ、パーティーを考えたらモチベーションが回復してきた。

 

露伴「…………八幡くん(本城)の実体験はともかく、君達に言いたいのはやっている者に対してあれこれ言えるのはやっている者か、またはその対価を払っているものだけだと僕は思う。それにね、僕は君達のゲームに対する姿勢にも疑問があるんだ。先に提示しておくべきだった勝敗の条件や脱衣ゲームに関しての事もその1つ。だから八幡くんに良いようにやられるんだ。それに、カードを取って見てみると良い」

 

露伴先生に言われ、全員がカードを取る。外部の男が配ったそのカードを…。そこには…。

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。

作中に露伴が言ったことは作者の実体験です。
下手な仕事をしている専門職の者を言っていたら、上司に「ならばお前がやってみろ」と言われた経験ですね。あとは下手なギターを弾いていた者にヤジを飛ばした同僚に、先輩が「下手でも弾けてる奴に対して、弾けない奴が偉そうに言うな。だったらお前が弾いてみろ」と言ったこともありました。本当に苦い思い出です。
八幡のぼやきも作者の実体験ですね。結果、怪我人が出てしまった時は、気が付いたら作者はスター・プラチナになっていた事がありました。それは今でもあるんですけどね(^_^;)このご時世ではスター・プラチナになったら即事案ですが、いまだにスタンドになりそうになる自分を抑えるのは大変です。


それでは原作との相違点。

材木座は作家としての勉強していない➡シュトロハイム的にはそれはない。不勉強な者がナチス将校になれるはずもない。なので材木座の学校の成績もいい。原作では不明(多分、八幡のボッチ理論からすれば良いのではないかと推測)。

会話はゲームをやりながらやっている➡ゲームは中断して会話しながらやっている。

それでは次回もよろしくお願いいたします。

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