やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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前回までの奉仕部の臨時活動

徐倫が川崎の説得に失敗し、傷心の徐倫が暴れた翌日。
奉仕部とSPW財団は最終手段であるエンジェルラダーに直接踏み込むことになった。
思い出のエンジェルラダー…。
ジョースター家に迎え入れられ、首筋と耳に転生の証が浮かび上がったあの日の事を思い出す。
そして、ついにエンジェルラダーに足を踏み入れる事になったアーシス&奉仕部。
川崎は果たして改心するのか!


思い出のエンジェルラダー2

side雪ノ下雪乃

 

ホテルロイヤルオークラ最上階、高級ラウンジバー・エンジェルラダー~天使の階~。

ジョースターさん達の覚悟が決まり、とうとうその場所へ足を踏み入れることになった。たった一階、そのエレベーターが昇る。たった数秒のわずかな時間に、色々な想いが去来する。

かつては世界的企業とまではいかないまでも、県会議員と千葉最大の企業の社長令嬢の立場、そして旧家汐華の分家の娘としてこのホテルやエンジェルラダーを気軽に利用できる立場にあった私。でも、今はその後ろ楯がなくなり、一年前からはただの没落貴族の娘になってしまっていた。

その事実を知ったのはつい先月。ポルナレフさんに教えてもらって調べ、始めて知った。

本当は生きていた姉さんによって扶養されていたと知ったときは、自分の世間知らずぶりに酷く羞恥した。

慌てて空条先生に連絡を取り、姉さんに会わせてもらった。姉さんは変わっていた。一月前の私だったら冷たく見下していた姿に、今の私だったら魅力的に…。

本心を殺した仮面は剥がれ、素の自分を全面に出したスーパーウーマン。あのままの私だったら一生太刀打ち出来ない人…。

聞けば、死んだと言われていたあの事件…GDst閉鎖事件に姉さんは深く関わり、ジョースターさん達と共に世界の命運を賭けて死闘を駆け抜けていたのだとか…。それも、何度も死にそうになって…。

その時、私は何をしていたのだろう…。同じアメリカにいたのに、「へぇ~…でも、私には関係ないわ」程度にしか考えていなかったと思う。

そんな私が今年度の始めにジョースターさん達に偉そうに言った言葉…「世界が間違っているのだから、人ごと世界を変える…」。

今を思い出してもあの時の自分をエンジェル・ダストで殴ってあげたい。「命を賭けて世界を守った人によくもそんな事を言えた!」って…。

今の私は柱の一族の歯車なんかじゃあない。アーシス候補生の貧乏学生、雪ノ下雪乃。いつかは尊敬する姉さんの隣に並び立つために、役に立ってみせる。

 

八幡「おい、雪ノ下。どうした?行くぞ」

 

雪乃「ごめんなさい。考え事をしていたわ」

 

静「何を考えていたのかは想像つくけど、気負わなくても良いわ。あなたはあなたなりにやってみなさい」

 

そう、私は川崎さんの説得を買って出てみた。昨日、ジョースターさん、比企谷君、一色さんが手分けして調べたりしていた事で川崎さんの事情がわかったからだ。そして、彼女を仲間にしたい…と。その為に色々財団や県や市と交渉をしていたらしい。

それで教えてもらった川崎さんの事情。それを聞いたとき、私は彼女の説得を是非ともやらせて欲しいと志願した。由比ヶ浜さんはそんな私を見届けたいと、見守ってくれるらしい。

そんな私の志願を、空条博士やジョースターさん達は快く許可してくれた。川崎さんを助けてみろ…と。

彼らの信頼を、裏切りたくはない。

エレベーターを降りた先は、敢えて暗めに雰囲気を出したバーラウンジが広がっている。

 

結衣「うわぁ…。あたしが想像していたよりも遥かにすごい…」

 

由比ヶ浜さんがキョロキョロと物怖じしている。

スポットライトに照らされたステージの上でジャズを弾いているのは白人の女性。由比ヶ浜さんはみんなに「やっぱ帰んない?」とアイコンタクトを送っている。

材木座君や大和君との戦いで見せた勇気はどこに消えてしまったのかしら?本当におかしな人よね?由比ヶ浜さんは。

 

雪乃「由比ヶ浜さん。キョロキョロしないで」

 

ポンッと彼女の肩に手を置く。由比ヶ浜さんはビクゥ!と体を跳ねさせて反応する。

 

雪乃「背筋を伸ばして胸を張って。顎は引く」

 

訳がわからない、と言うような表情ながらも私の指示に従って彼女は姉さん達の後に続いた。

未成年とバレてはいけない。堂々と行かないと…。

開け放たれた木製のドアをくぐるとすぐさまギャルソンの男がやって来た。

そして戸塚君を見て…

 

ギャルソン「お客様…申し訳ございませんが、当店は…」

 

戸塚君でバレちゃった!

だけど、姉さんがスッ…と名刺を取り出す。

 

ギャルソン「オ、オーナー!し、失礼しました!」

 

陽乃「あなた、ギャルソン失格ね。このメンツの何名かは昨日も来ているのよ?誰と一緒に来ていたか、忘れたの?それに、私ですらこの中では下の方。上司の顔くらい、すぐに覚えなさい。あなたが見て止めようとした子も財団の幹部候補生。将来的には私より上になると見ている子なの。失礼のないようにお願いするわ」

 

ギャルソン「は、はい。申し訳ありませんでした!」

 

…………。コソコソする必要は無かったのね。今日は財団の業務として来ているのだから。

 

静「副社長のジョースターです。店長を呼んで頂けますか?」

 

ギャルソン「はい…」

 

解雇でも覚悟したのだろうか、ギャルソンは上司と話をして戻っていった。

 

八幡「何か勘違いしてるな、あの男」

 

いろは「保護者同伴じゃあない一般の未成年は帰すのが規定なんだから」

 

八幡「ああ。しっかり業務をこなしたんだから、処罰なんてしねぇよな。こっちはアポなしで来たんだし、そこまでブラックじゃあねぇよ。俺に対してはブラックだけどな。レッドカード2枚でシルバーカード、シルバーカード2枚でゴールドカード。ゴールドカード2枚でブラックカード。退場を通り越して重犯罪者となるまである」

 

また比企谷君がバカみたいな事を言っている。彼に対しての財団の扱いも大概だとは思うのは確かなのだけれども、将来が不安定な私としては羨ましいわ。

 

小町「ゴミぃちゃん…諦めなよ。小町も諦めてるんだから…」

 

八幡「うう…夢の主夫…」

 

いろは「わたしは構いませんよ?家から一歩も出しませんけれど」

 

陽乃「お姉さんも構わないわよ?」

 

小町「小町も♪」

 

八幡「うわぁい!日本支部の支部長なんて、俺の将来は薔薇色だぁ♪」

 

……私、この男に女として興味を持たなくて正解だったわ。こんな怖いライバルをどうこうできる自信がないもの。由比ヶ浜さんも苦笑いしているわね。

そんなアホみたいな話をしていると、店長を連れてギャルソンが戻ってきた。額には大量の汗が浮かんでいる。

 

店長「ふ、副社長…この度は…」

 

静「勘違いされているようですが、この方の事ではありません。むしろ、業務をしっかりこなされていることに感心していた所です」

 

店長とギャルソンはホッと胸を撫で下ろしていた。

 

店長「それでは、わたくしは何故…?」

 

静「ギャルソン。あなたは少し席を外して下さい。実は申し上げにくいのですが…………」

 

ジョースターさんは、事のあらましを一通り伝える。

一度は引っ込んだ店長の汗が、更に滝のように汗が噴き出してきた。

完全なる監督不届きによる不祥事。

 

店長「そ、それでは川崎くんを呼びますか?」

 

静「それには及びません。こちらを辞めて頂くことには変わりませんが、彼女の今日までのアルバイト代までは日本支部で立て替えるように手配します。理由は伏せますが、今回は内々で済ませる予定ですので、決して今回の事は表沙汰にしないよう、店長の胸の内だけにしまっておいて下さい。もし表に出た場合は、それ相応の覚悟を持って頂くことになります」

 

店長「わ、わかりました。それで、彼女には…」

 

静「こちらで説得します。ですので、彼女がいるバーカウンターへおねがいします。それと、今は私達だけですが、後程前会長夫妻、会長、会長令嬢、社長、イタリア支部長もいらっしゃるので、粗相のないようにお願いします。それと、あなた」

 

ギャルソン「は、はいっ!」

 

静「しっかり業務をこなしていて頼もしかったですよ。私達も安心してお任せできます。今後もよろしくお願いいたしますね?では、案内をお願いします」

 

ギャルソン「は、はい。ありがとうございます」

 

店長「いえ、ここは私が…」

 

静「お心使いは嬉しいですが、彼の仕事をあなたが奪っては、彼の顔が立ちませんよ?それでは、ギャルソンさん、案内をお願いしますね?」

 

ギャルソン「はい、こちらへどうぞ」

 

ジョースターさんはそう言って場を締め、ギャルソンは私達を案内する。

 

雪乃「すごいわね…ジョースターさん。末端の部下にまで気を使ってるのね…怒るものと思っていたわ。まるで姉さんの器が小さく見える…」

 

八幡「上はふんぞり返っていれば良いってものじゃあない。むしろ、彼らは俺達の為に頑張ってくれている。それに対して敬意を持って接するのは当たり前の事だ。いつどこでもそれを忘れた上役というのはいるがな。それに、陽乃さんはあれで良い。叱るのは直近の上司の役目。それを考慮せずにジョジョが叱ってしまっては陽乃さんや店長の顔に泥を塗ることになる。見てろ」

 

比企谷君が姉さんの方に顔を向ける。姉さんは店長と話をしていた。

 

陽乃「業務に忠実なのは評価するわ。問題なのはお客様の顔を覚えていないことよ。中にはそういうことをお気になさるお客様も少なくないわ。あのギャルソンにはその点をしっかり教育して頂戴。良いわね?」

 

店長「はい。申し訳ありませんでした」

 

陽乃「副社長がおっしゃるように今後も頼むわよ」

 

店長「はい。それでは関東支部長とお連れ様。こちらへどうぞ」

 

八幡「ありがとう。お願いします」

 

店長が比企谷君を先導して席まで歩き出す。

 

陽乃「どうしたの?雪乃ちゃん」

 

雪乃「雪ノ下建設とは違うわね。それに、ジョースターさんも普段とは違うわ」

 

陽乃「それがジョジョちゃんの器の凄いところよ。その分、普段はめっちゃはっちゃけてるけどね?八幡君に対してなんて、遠慮ないでしょ?」

 

雪乃「ええ…本当に」

 

彼女と私が似ているなんてとんでもない。彼女は私なんてが足元に及ばない遥かに高い位置にいる。それと対等にいる比企谷君や一色さんも…。あれがジョナサン・ジョースターの持つ紳士の部分なのかしら?

 

陽乃「DIO様を侮ってはダメよ?邪悪の化身なんて言われていたけれど、それだったら前世の私達がDIO様に従うはずがないわ。DIO様はDIO様で、部下を大事にしていたの。裏切りかけた部下ですら許してチャンスを与えていたり。人材には恵まれなかったけどね」

 

雪乃「でも、比企谷君は敵には容赦がなかったわ。あれはジョルノ兄さんの?」

 

ジョルノ『僕じゃあないよ。少なからず影響はあるだろうけれど、僕がそこで子供の頃の彼と戦った時には、僕の片腕を切断するくらいの容赦のなさがあった。元々八幡が持っていた父の部分だと思うね』

 

ジョルノ兄さんの声がイヤホンから響く。

 

雪乃「え?そんな子供の頃から比企谷君は戦っていたんですか?12年前といったら、まだ保育園に通う前の年齢じゃあ…」

 

ジョルノ『彼は前世の影響で昔から大人と同じ思考をしていたのさ。それに、言っただろう?エンジェルラダーは思い出の場所だと。エンジェルラダーで彼と戦ったのは僕と康一さんなんだ。下手をしたら、お互い命を落としかねない戦いだったよ。いや、仗助さんがいなければ確実に命を落としていた。それだからこそ、今の彼との関係があるんだけどね』

 

雪乃「そんな昔から命のやり取りを…」

 

ジョルノ『それだけじゃあない。その日だけで八幡くんは静、仗助さん、康一さんと僕、そしていろはとも戦って、そして勝っている。その翌日には承太郎さんとも戦って、引き分けだ。普段の彼からは想像できないだろう?』

 

雪乃「ええ…いつもはジョースターさんと結託して空条先生や材木座君をからかったり、社畜がぁとか言って逃げたり、一色さんや姉さんや小町さんとイチャイチャしていたり…」

 

ジョルノ『そんな普段と真剣な時のギャップが面白いからこそ、僕達は…特に仗助さんやジョセフ・ジョースターさんは彼が好きなんだ。最近は徐倫もかな?承太郎さんが思わず嫉妬するくらいにはね』

 

仗助『おいコラ、ジョルノ!』

 

ジョセフ『ジョルノ!恥ずかしいからやめんか!』

 

徐倫『あたしは振り回されて大変よ!まぁ、ハッチの事は嫌いじゃあないわ』

 

承太郎『誰が嫉妬するだって、ジョルノ?お前とは一度話し合う必要があるな』

 

ジョルノ『良いですよ、承太郎さん。受けて立ちます。ですが、覚悟はしてくださいね?ゴールド・エクスペリエンス!無駄無駄無駄ぁ!』

 

承太郎『良い度胸じゃあないか。覚悟だと?ヤレヤレ、やっぱり覚悟が足りないのはお前の方じゃあないか。それを教えてやる。スター・プラチナ!オラオラオラァ!』

 

プツッ!

 

三浦『キャアアアア!雪ノ下!あんたのせいでスタンドを使ったケンカが始まっちゃったし!うわっ!東方社長や空条先生まで参戦したぁ!ジョースターさん!何、こっそり避難して観戦モードに入ってるし!あんたの家族っしょ!』

 

ジョセフ『ケンカするほど仲が良いって言うしのう?今日もジョースター家は安泰じゃ!ワッハッハッハ!』

 

海老名『笑ってないで止めてよジョースターさん!ポルナレフ!ジョルノさんを止めて!』

 

ポルナレフ『無理だ!チャリオッツ無しでどう対処しろと言うのだ!マドモアゼル雪ノ下!何とかしろよ!ああっ!こっちに来るな!ココが死んだら俺まで杜王町に飛んでいってしまうだろ!うわあぁぁぁ!ジョースターさん、何とかしてくれぇ!』

 

ジョセフ『嫌じゃよ。ワシは明日が大変なんじゃから、余計なダメージを負いたくないのじゃ』

 

三浦『ええーい!あーし、もうあったま来たし!行くよ!姫菜!マジシャンズ・レッド!』

 

海老名『うん!ハイエロファント・グリーン!あ、でも、歴代ジョジョ達がくんずほぐれつ…キマシタワー!』

 

三浦『こんな時にまで何考えてるのよ!海老名ぁ!あと擬態しろし!鼻血は自分で拭けし!』

 

何か下の方でとんでもないことが始まってしまったようね。私、エンジェル・ダストは使ってないわよ?世界的企業の上役も、一皮剥けば私達と変わらないのね。

 

八幡「まったく…何をやってるんだか…。それにジョルノめ…俺も聞いているのを忘れてないか?こっぱずかしい…それより、早く行くぞ。お前がいなくちゃ始まらん。お前がやるんだろ雪ノ下」

 

雪乃「ええ。比企谷君?」

 

八幡「何だ?」

 

雪乃「前にも言ったと思うけれど、認めさせて見せるわ。あなたに私を」

 

八幡「………好きにしろ。だが、簡単には認めんぞ。それだけは覚えておけ」

 

絶対に乗り越えてみせるわ。ブラッディ・スタンドの呪いを。

そして、並び立ってみせるわ。世界を変えるのではなく、正式にアーシスとして。

そして、認めさせて見せるわ。ジョースター家の仲間として…。

私の一番の親友、由比ヶ浜さんと共に。

 

←To be continued




はい、成長しましたね!ユキノン!

そんな雪乃が川崎とどういう会話をするのでしょうか?


それでは原作との相違点を。

視点が八幡➡視点が雪乃

八幡と由比ヶ浜が場違い感にオドオドしている➡しょっちゅうエンジェルラダーを利用している…というか、オーナーの上司が自分の店にオドオドするわけがない。オドオドしているのは由比ヶ浜のみ。

ドレスコードや年齢コードに引っ掛からず、すんなり案内される➡…方が問題だろ!エンジェルラダー!年齢コードに引っ掛り、奇しくも臨時抜き打ち業務チェック。エンジェルラダーはしっかり業務しています。

雪乃はこの段階ではまだ八幡を認めていない➡雪乃はここで完全に八幡を認める。後は自分を認めさせるだけだ!

それでは、次回もよろしくお願いいたします!

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