オートマトン・クロニクル   作:トラロック

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#005 シズ・デルタの世代交代

 

 今まで『シズ・デルタ』が幻晶騎士(シルエットナイト)(たずさ)わらなかったのは単純に乗る必要性を感じなかったからだ。

 能力的には自動人形(オートマトン)である自分自身が強く、現地の人間にとって操縦が難しい巨大兵器は単なるお荷物にしか思えない。

 嗜好品としての価値は認めるけれど、戦闘用としてはまだまだ及第点はあげられない。

 現に王国が製造、管理している『サロドレア』または『カルダトア』という幻晶騎士(シルエットナイト)は今でも魔法一発で倒せる自信がある。

 こんな鉄の塊のデクの坊に遅れをとる事はありえない。

 現地の文化を尊重する名目があるので自分の実力を大っぴらに見せる事は許されていない。けれども、自らの敵として立ち塞がるのならば倒すだけだ。

 その前に済ませなければならない問題として教師の仕事だが、無理に最後まで働く必要は無いので今年は辞退し、のんびりと過ごす予定にする。それに至高のシズの面倒を見なければならない。

 

「後で学園長に報告しに行きますので。私達はこのまま整備工場の見学に行こうかと」

「周りに気をつけてください」

「お疲れ様でした」

 

 様々な言葉をかけられたシズは会釈したり、手を振ったりして職員室を退出する。

 部屋を後にした後は静かな時が流れ始める。

 

「……お前の活動に支障が出るか……」

 

 小さなシズの言葉に大きなシズは苦笑を表す。

 自分の事など二の次に出来る。至高の御方が望む事を全力で持って応えるのが自分達の役目だ。

 それはそうなのだが、(たわむ)れに関しては自重(じちょう)してほしい気持ちがある。

 本来、至高のシズ・デルタには――安全に――目的地まで眠っていてもらい、自分達はかの地(地球)にて盛大に祝福する為に生きている。

 それをこんな辺境の地で万が一の事があれば、と思うと自動人形(オートマトン)といえども生物的に慌ててしまう。

 

「……黙っているのも退屈。……目的地に到達する事は大事だけど……、こういう場所も嫌いじゃない」

 

 見知らぬ土地に生息する『可愛い生物』にとても興味が湧く。

 今のところ、そういう情報は無いけれど探してみたいし、触れ合ってみたい。

 中身は機械だが、至高のシズ・デルタは乙女の心を持つ自動人形(オートマトン)である。

 あまり我侭を言うと強制送還されてしまうので大人しくする事にした。

 大きなシズの機嫌を取ってあげるのも目上の役目である。

 

        

 

 孫娘の役を演じつつ幻晶騎士(シルエットナイト)を整備している場所に向かう。

 学園が保有する幻晶騎士(シルエットナイト)『サロドレア』は整備の他に騎操士(ナイトランナー)達が実際に乗って戦闘訓練も(おこな)う。

 本格的な製造は別の場所で(おこな)うのだが、製造資金が莫大な為に国家事業となっていて学生がおいそれと手が出せる代物ではない。

 それと幻晶騎士(シルエットナイト)の心臓部には部外秘となる部品がいくつか搭載されている。それを勝手に解析する事はもちろん禁止だ。

 

「おう、シズ先生。こんなむさ苦しいところへ、ようこそ」

 

 シズ達を出迎えてくれたのは整備班達から『親方』と呼ばれるドワーフの男性『ダーヴィド・ヘプケン』だ。

 見た目はいかついが学生である。

 太い腕と太い足。頭髪はドレットヘアー。野太い声で周りに声かけしている。

 

「あんたに娘さんなんて居たのか?」

 

 大きなシズをそのまま小さくしたような人物。

 無愛想な顔つきは正しく娘と言われてもおかしくない。けれども今は娘ではなく、()娘だ。

 小さなシズは手を前に突き出し、静かに訂正を求めた。

 

あっははは。孫か! どっちにしてもよく似てやがる」

「……よく言われる」

 

 口元を少しだけ歪めて小さなシズは満足げであった。

 自分の言葉、役割がちゃんと相手に伝わったので。

 この星の言葉を事前に学んでおいて本当に良かったと、久方ぶりに喜びを感じた。

 ところ変われば品変わる。

 それゆえに新天地では新しい文化をまず学ぶ必要がある。

 ここまで来るのに数十の文化を学び、出会いと別れを経験してきた。その全ては資料として蓄積し、残る者に与えられていく。

 旅に必要な物は最小限度が望ましいのだが、それを解消する方法も時と共に確立されてきた。

 異星の文化は貴重な財産だ。

 無人惑星型の施設を建造し、様々な星々から集めた知識を集約していく。

 紙やデータの他に機械などの現物まで揃えていく。そうなれば集める毎に規模を大きくしなければならなくなる。

 そんな事を今ここで考えても仕方がない。

 

「我々は幻晶騎士(シルエットナイト)の見学に来ました」

「そうかい。頭とかに気をつけるんだな。孫娘のほうも勝手に走り回ったりするんじゃねーぞ」

 

 ドワーフの責任者ダーヴィドの言葉に小さなシズ・デルタは素直にお辞儀した。

 その後、彼は仕事の為に整備中の幻晶騎士(シルエットナイト)のところに向かい、シズ達は比較的、整備の手が入っていない場所に向かう。

 どの人型兵器も『サロドレア』だが、二つほど色違いが存在した。

 一つは赤く、もう一つは白い。

 装備している武具こそ違うが元になった幻晶騎士(シルエットナイト)は同じサロドレア。

 赤いサロドレアタイプは武装面。

 白いサロドレアタイプは防御面に特化している。

 

「……人間は自らの非力さを自覚し、大型化に憧れを抱くか……」

「……非効率的」

 

 小さなシズの呟きに大きなシズは頷いた。

 数百年の歴史の中で人間達は操作性の悪い人型兵器を運用、管理、改良を重ねてきた。

 シズ達はこの星に降り立ってからまだ百年は経っていない。けれども人々の営みはそれなりに観察してきた。

 その上で非効率的な人型兵器の運用には未だに首を傾げる。

 魔法という文化がありながら人間は何故、このようなものを造り、乗ろうとするのか。

 

        

 

 仮説を立てるならば人々の扱う魔法は人型兵器に劣る。また自らの限界を知り、その上で試行錯誤してきた。

 そうであるならばシズ達が文句を言う資格は無いのだが、他にやる事は無かったのかと苦言を呈したくて仕方がない。

 

「……我々の常識では測れない文化があるのかもしれません」

 

 シズ達とて巨大な天体型の宇宙船が無ければ宇宙旅行など出来はしなかった。

 万能の魔法でも単身で宇宙遊泳できるほど都合の良い奇跡は起こせない。

 

「シズちゃん。乗ってみたいですか?」

「……自動人形(オートマトン)が機械に乗るのは……、おかしいと思う」

 

 そもそも操縦しなければ動かないところが理解出来ない。

 大型の動像(ゴーレム)でも命令するだけで動くので。

 原始的な操作方法。細かい操作系の魔法が無い、という事であればシズとて深く追求しない。

 

「………」

 

 古い骨董品めいた無骨な姿を見ていると自分の末路のようで眉根が寄る。

 誰かに操縦してもらわなければ満足に動けない。そんな未来の自分の姿が脳裏に浮かぶ。

 役に立てなくなった時はきっと部品ごとにバラバラに分解されて別の何かに組み込まれるか、そのまま廃棄。

 それはきっと遠くない未来ではないかと少しだけ不安を感じた。

 

「……こんな姿でも誰かの役に立つのであれば……、それはきっと素晴らしい事だ。……君達は()()幸せものだ」

 

 そして、非効率的と言った事を詫びる、と胸の内で言う小さなシズ。

 高性能なシズ型の中に取り残されている旧型が図に乗ってはいけない。

 

 自分はただの象徴に過ぎない。

 

 側に居る大きなシズ達は旧型である自分を神のように慕ってくれる。

 至高の存在がそうであるように自分もまた彼らの幸せの為に出来るだけ存在し続けなければならない。

 かつての自分がそうしたように。

 

        

 

 数十年の歳月を過ごしてきた老齢のシズの邪魔ばかりしている気になったシズは引き下がる事を選ぶ。

 それと彼女達に与えた仕事を取り上げるのは上位の者として相応しくない。

 自分で調査したい気持ちも無くはないけれど、今更出しゃばるのはみっともないと思った。

 

「……新たな命令を下す」

「……はっ」

 

 命令という言葉に反応し、胸に手を当てる老齢のシズ。しかし、周りに気取られぬように顔は幻晶騎士(シルエットナイト)に向いたまま。

 

「……肉体年齢をもう少し下げて、この地で……もう少し仕事を続けよ。……お前が活躍

する物語を見たくなった」

「……主がそれをお望みならば……」

「……時と場合による力の行使は自己判断だが……、あまり目立ちすぎないように……。……ガーネット博士に叱られてしまう」

「……承知いたしました」

「……調査班の要請などは今まで通りとする。……あとは……自分が思う通りに動くといい。……ということで……、お婆様。……私、帰る。……一人で帰れるので見送りはいいから」

 

 一人で、という所で老齢のシズははっとした驚きの表情になり、手を突き出す。しかし、それは途中で止まる。

 自分は命令を受けた。そして、小さなシズは後を託した。ゆえに引き止める理由が無くなった。

 素直に戻ると至高のシズが言ったのだから尊重しなければならない。

 孫娘が素直な対応を示したのだから。

 

「気をつけて……帰るのですよ」

「……うん。……またね、お婆様」

 

 にこりと微笑む至高のシズ。その笑顔は何物にも替えがたい価値を持っている。

 姿が見えなくなるまで見送った老齢のシズは受けた命令を何度も胸の内で復唱する。

 一人残されたシズは辺りをウロウロするように歩き回って何事かを呟いていた。それらを周りに居た鍛冶師達がいぶかしみつつ自分の作業を続ける。

 怪しい動きは数分ほどかもしれないけれど、奇妙な光景であったのは間違いない。

 

        

 

 老齢のシズが落ち着いたのは三時間ほど経ってから。

 その間、声が途絶えて作業音だけが室内に響いていた。それはシズの事が気になったからだと思われる。

 意を決したシズは作業員の邪魔にならないように移動を開始する。

 学園を出た後、人目につかないように隠れ家に移動し、天体型の宇宙船『地獄の瞳(アイ・オブ・インフェルノ)』に連絡を入れる。

 既に帰還していた()()()シズ・デルタから話しが伝わっていたようでホワイトブリムやガーネットらは現地の活動継続を許可した。

 

「本来ならば休眠期間に入らねばならぬところを……」

『構わんさ。老人仕様では何かと怪しまれる。けれども若返っても同様……。ならば思い切りが必要だ』

 

 許可を出すのにすんなりと事が運ぶわけはなく、ホワイトブリム達とて躊躇いが生じた。

 今まで平穏に過ごし、現地での地位を確立させてきた。それをいきなり覆す事をしようと言うのだから。

 だが、平穏だけでは物足りないし、面白くない。

 時には血湧き肉躍るサプライズが欲しくなる。それが今ならば使わない手はない。

 

『支援については出来る限りサポートする。能力についてはまだ抑えが必要だ』

「はっ」

『シモベは拠点防衛のみに限定する。多少の不便も必要だからな。……それと一人にして置いて行くわけではない。別口の調査はするから』

「了解いたしました」

『古い身体は回収しておく……。我らも長き旅に一区切りをつけ、安息が必要だ。新たな目標が決まるまでの間でも構わないか?』

「何の不満もございません」

『……不満の一つくらいは言ってほしいが……。では、次の報告まで健やかに過ごせ』

「はっ。失礼致します」

 

 定時連絡とはいえ今回はいつもと毛色の違う報告になってしまった。

 今後の活動を自分で判断しなければならない。それも何やら複雑な事情が絡むようだ。

 自由に過ごす事は自由意志を持たない自分にとって難度の高い任務だ。

 至高の御方とは違いシズは命令があってこそ活動できる存在である。

 

        

 

 次の日から自分の判断で計画を練らなければならないのか、と不安に思っていると別のシズ・デルタから通信が入った。

 内容は今後の活動の指針について。

 多少なりとも活動する上で必要な理由付けを検討するためだった。

 

『……では、今後の活動についての会議を始める。……もし、可能であれば帰還せよ』

「承知した」

 

 隠れ家は必要最小限の物資しか置いていない。

 必要な物を取り寄せるにしろ、いずれは放棄する拠点である。そもそも永住を目的としていない。

 指令を受けたシズは何の不満も漏らさずに身支度を整え、数ヶ月どころか数年に及ぶ今後の指針が検討されていく事になった。

 そして、西方暦一二七七年。

 新たな身体に乗り換えたシズ・デルタはライヒアラ騎操士(きそうし)学園にある幻晶騎士(シルエットナイト)の整備工場に居た。

 顔形は子供、老齢の面影を残し、それ以外は若返りを果たしている。

 見た目は二十代半ば。赤金(ストロベリーブロンド)の長い髪は肩口で切り揃えた。

 あまりに長髪では工場内での行動に支障が出るので。それと髪が(なび)くと邪魔になりそうだから、という意味合いもある。

 エメラルドグリーンの瞳。背は現地に住む人間の男性の平均身長に合わせた。

 胸の大きさを増量。こちらは多少魅力的な女性になるように。

 声質も家族だから、という事にして変更せず。

 端正で凛々しい顔つき。他は極端に目立たないような体格設定が施されている。

 外からは細身に見えるが筋力などは破格となっている。

 服装は現地のものを参考にし、腰に儀礼用の長剣を提げている。

 両手には魔法を使う為の指貫手袋を装備。

 老齢のシズは鬼籍に入った、という設定を当初は考えた。しかし、六十代ではまだ若いかなと思い、遠くに引っ越した事にした。

 

「同じ名前で恐縮だがよ、シズ先生」

 

 と、荒々しい声で尋ねてきたのは三年経っても見た目が変わらないダーヴィドだった。

 

「なんでしょうか?」

 

 老齢のシズと同じ態度にダーヴィドは少したじろぐ。

 

「こんなに若い娘さんが居るとは思わなかったが……。名前といい、声といい……。()()()()種族ってことか?」

 

 見た目があまりにも似ていれば多少は怪しまれても仕方がない。――同一人物だけど。

 そういう疑念に対して世襲だと言い張る事になっている。

 仮に同一人物だと看破されても現場から逃走することなく、現地の人間達にそういうものだと説明するように厳命されている。

 

        

 

 最初の一ヶ月は奇異の目で見られる事は想定内。だから、尋ねられたら同じ解答をするだけだ。

 そうして現場が慣れてきた頃が活動の本番だ。

 ほぼ無表情なので『鉄仮面』という愛称も継承されたようだ。それに関しては咎めてもどうしようもない。

 自分の愛称を考えてきたわけではないので。

 役職は未定だが幻晶騎士(シルエットナイト)に携わるものを予定している。

 今から騎操士(ナイトランナー)になるとしても現状のシズには実績が無い。

 とりあえず、連日のように整備工場に入り浸り、巨大な幻晶騎士(シルエットナイト)『サロドレア』の解体と組み立てを眺める。

 基礎知識は持っているのだが、先に進む事が出来ないでいた。

 用意だけは整っている。後は変化が生まれるのを待つだけ。

 

「………」

 

 ただ、黙っているのも暇なので、どうしたものかと悩んでいると簡単な部品なら触ったり組み立ててもいいと近くに居た作業員が気を利かせてくれた。その者達に教わりながら時間を潰す。

 改めて教職に就くことも考えたが、出来れば幻晶騎士(シルエットナイト)に乗って活動したい。そうした方が何かと都合が良いと考えた。

 現地調査に長い時間を取られすぎたせいもあるので、今度は幻晶騎士(シルエットナイト)を直に扱ってみたくなった。

 小さな願望はオリジナルから受け継がれたもので、自分自身にとっては宝物である。

 

「……ん~」

 

 大きなスパナを扱うようになってからシズの服装も周りの作業員と同じものになっていた。だが、彼らの一員になったわけではない。

 物静かに作業する姿がいつしか様になってきた頃、ダーヴィドは簡単な作業を手伝わせてみた。

 部外者は本来ならば邪魔でしかない。

 もちろんシズもその辺りを解決するべく、老齢のコネクションを最大限利用する手段に出た。

 まず教職員達に若いシズに全権を移譲する手続きを取る。

 元々自由に活動する予定ではなかったので多少無理があると自覚しながら必要書類を用意する。

 役職はさすがにすんなりと移す事が出来ないので、試験を適時受けられるようにした。

 そうして数ヶ月も経てばライヒアラ騎操士学園での活動に支障が無くなる。

 役職に関しては保留にして、騎操士(ナイトランナー)を目指す方向にした。

 

        

 

 既に知識や技術などの土台が出来上がっていたシズは特定の騎士団に入る予定を組まなかった。資格だけ得て、整備工場で暇つぶしをする毎日だ。

 道具の扱いや簡単な機器の製造を黙々と(おこな)う。

 

「……ちょっと目を離していたら騎操士(ナイトランナー)の資格を取ってきて、また地味な作業の始まり……。何考えてんのか全く分からねぇ」

 

 色々な道具を扱ってはいるけれど直接幻晶騎士(シルエットナイト)の製造に携わっているわけではない。

 ダーヴィドは呆れつつもシズに対して驚いたのは飲み込みの速さだ。

 見た目はひ弱そうな人間の女性にしか見えないのに力はそれなりにあり、重い道具も文句ひとつ言わずに扱い続けている。

 今も大きなハンマーで金属の板を整形している。

 繊細な作業も得意としていた。難しい整形の失敗が誰よりも少ない。

 

「傍から見たら頑固親父みてぇなところが残念だ」

 

 シズはとにかく寡黙。鉄仮面と言われていた祖母に負けず劣らず。

 お喋りな女性というイメージを見事に壊してくれた。

 

「知識も力も充分。……というか国機研(ラボ)に務めた方が良くねえか?」

 

 国機研(ラボ)とは王都カンカネンの南方にある城塞都市『デュフォール』に存在する巨大施設『国立機操開発研究工房(シルエットナイトラボラトリ)』の通称で、国家事業である幻晶騎士(シルエットナイト)の開発、生産を専門的に(おこな)っている。

 この施設の存在はシズも承知していたが国家機関なので迂闊に入れば長い期間拘束され、また秘匿情報の有無により報告しにくくなったり疑われるリスクが高まることを恐れた為に向かわなかった。

 現地調査を優先していた為に今までは特に問題は無かった。

 活動範囲が狭まることはシズとしても気がかりになるので国機研(ラボ)への出向は想定していなかった。だが、今はどうかと言われれば迷うところだ。

 

「……国機研(ラボ)ですか……」

「……おぅ。喋った……。シズ先生よ。別にここに居てもいいんだが……」

 

 他の作業員の邪魔にはならないが話しかける(やから)のせいで整備が少しだけ遅れる事がある。

 現場を取り仕切るダーヴィドにとって看過できない事態だ。

 

「ここはあくまで学生の為の整備施設だ。学ぶことなんてあまり無いと思うんだがよ」

「……いえ、小さなところから知識を得る事に何の不満もありません。……私にとっても……、こういう地味な作業は嫌いではありませんから」

 

 現地の人間達と同じ仕事をする。

 それが新しい発見への足がかりとなるならば多少の労力は惜しまない。

 休息期間における時間の使い方が学べるので嫌いではない、という言葉はそれほど乖離した内容ではない。

 

        

 

 シズは幻晶騎士(シルエットナイト)に良く使われる魔力(マナ)魔法術式(スクリプト)を伝達する銀色の配線『銀線神経(シルバーナーヴ)』の扱いを始めた。

 ホワイトミストーという木材よりも扱いやすく、加工しやすい点で利用されている部品だ。

 この配線は幻晶騎士(シルエットナイト)の内部に張り巡らされ、操縦者たちの魔法術式(スクリプト)を全身に伝えて制御する。

 

(巨大な物体をこのような配線で制御する。実際には簡単に出来るものではないようですが……)

 

 魔力(マナ)を通せば杖と同様の扱いが出来る。ただ、柔軟な素材なので武器として使用するには加工が必要だ。

 細かい部品を繋ぎ合せて大きな物体を動かす。その構造理念に感心するシズ。そんな彼女の奇異な行動を目撃して首を傾げる作業員達。

 

 


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