#026 苺鳶騎士団
その震災における死者は世界規模でも数十人足らずという少なさで収まった。多くは救助が間に合わなかったり、病死やショック死である。
倒壊に巻き込まれた者が居なかったとは言わないが謎のシズ一族による救助活動もあって、死傷者の数は想定よりも少なく済んだ。
およそ一週間近く続いた強震度の揺れも少しずつ治まり、余震はあるものの時間経過とともに歩き出す者が増えてきた。
そして――秋ごろに入る頃には復興が盛んになる。それはフレメヴィーラ王国のみならず、隣国のクシェペルカ、ジャロウデク。更には様々な小国も。
そんな中、城の復旧の合間に何人かのシズ達が国王アンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラの下に招聘されることになった。他の国でも同様に国の要人の下に報告の為に訪れているが――
多くの貴族の前での報告の為、通常であれば謁見の間に通されるところだが各貴族たちは多忙なため一部のみが同席する事になる都合で執務室を使うことになった。
「普段であれば情報を渋るお前達が我々の招聘に応じるとは意外であった。……だが、感謝するぞ」
「勿体なきお言葉にございます」
頭部を兜にて覆うシズ・デルタが三人。王の前でも脱がなかった。そして、国王はそれを咎めなかった。
事前の知識として知っていた事もあるが恩人であるがゆえの恩赦ともいえる。
(子供のシズ一族が来ているが大人の方はどうしているのやら)
国王の知るシズの一人は
もう一人の老女の方は未確認だがアルヴの里に居ると予想している。彼女は
「報告書は読んだ。それを踏まえてあえて聞くが……、揺れはまだ続くのか?」
「震動は往復いたします。年単位で少しずつ収まるものと……」
「通常の地震とは異なり空からの脅威です。今一度の激突が無ければ……、余震はおそらく軽微かと思われます」
月に激突した隕石は師団級魔獣
それなのに月は未だ原形を保ち、地表への小さな隕石群も確認されていない。それはそれで実に奇妙な事である。
天文に詳しい人間からすれば――未だに空に白い線が走っているのが見えている――月がどうして無事なのか疑問を抱くはずである。
月と隕石の間に
「改めて聞くが……、本当に隕石とやらの仕業なのか?」
「はい」
周りの疑念に対し、シズは抑揚の無さそうな声できっぱりと答えた。
国王としても隕石以外は何らかの実験の失敗しか浮かばない。だが、現に月に異常な現象が起きているのは目の見えて明らか。
(……月の事をどう聞こうとしても
だが、エルネスティ・エチェバルリアがいかに天才児だとしても月の事を尋ねて答えるものだろうか。何でも答えそうではあるが限度があると自分でも思う。それに当人は新型
ここで彼の仕事の邪魔をすることはいかに国王とて
★
噴煙自体は未だに空を覆っているが脅威はやってこなかった。
母であるセレスティナがベッドから動けなくなる頃、息子であるエルネスティは試合の事を思い浮かべていた。
今回の大災害によって中止する事も視野に入れ、復興と母の事に意識を向ける方がいいのかと悩んでいた。
延期の報告は無いし、自分からしたこともないけれど
(災害時の自粛というものですが……。数か月も経てば再開したくなるものです)
期日にはまだ余裕がある。今から延期や中止の事を考えても仕方が無い。
母の出産予定日が試合の日に被りそうだが立ち会う義務はない。あるのは
一人っ子として過ごしてきたので新しい家族が出来る事に内心では焦っているのかもしれない。それは良い意味でも悪い意味でも。
双子のオルター弟妹とは違い、年が離れてしまう。ステファニア・セラーティから姉から見た弟たちの様子を聞くべきか迷うところだ。
ここ数日は
自分が居なくとも整備担当のドワーフ族たちが頑張っているお陰だ。
(エドガー先輩の
ヘルヴィ・オーバーリの専用機は汎用性の高い
図面に色々と記号を書き込みつつも頭の中はすぐに弟か妹の世話でいっぱいになってしまう。
もはや
新しい命の誕生。
それを祝福できないわけがない。
だが、試合も大事だ。自分の人生をかけてきたのだから急に変更する事は出来ない。国王にも凄い
目的は勿論『
(男の子ならエゼルレッドかアルトリウス。女の子ならベアトリス。……駄目だ。身が入らない)
目的から見れば不本意だが個人としては楽しみだった。
家族が賑やかになる事を否定できるわけがない。
社会人時代は一人の時間が多かったエルネスティの前世であるが――本物のロボットに携われる今は横に置ける程の余裕がある。
(
もし試合で敗北、またはみっともない戦闘をした場合、目的である
遠のいても自力で造ればいい、とさえ思う。元々は実現の難しい部品だ。だが、不可能ではない。大きさを度外視すれば、ある程度の機能は再現可能である。その理論も少しずつ構築できている。時間はかかるけれど。
★
冬の季節に入り肌寒く、道行く人々の服装は自然と厚着になっていた。震災から数週間過ぎた今は空さえ見なければいつも変わらぬ風景である。
気晴らしに外出した紫がかった銀髪の少年エルネスティは白い吐息を吐きつつ自身の
もはや来年の事は試合よりも
そんな彼の苦悩を知ってか知らずか。周りで
作業をろくにしなくなり、復興の疲れが出ていると思われたが最近はそれが違う事が判明した。
「……やべぇな。坊主が役に立たなくなった」
作業員を取りまとめるドワーフ族のダーヴィド・ヘプケンは呆れつつも作業の手は止めない。油断は大敵だからだ。
だが、作業をするでもなく日がな一日心ここにあらずの
アイデアが枯渇して何もできなくなった、というのであれば頭を叩くことも出来る。しかし、彼に課せられていた仕事は自身の
(……おいおい。このままだと坊主の
倉庫に鎮座する
地震によって無期限延期も危ぶまれたが機体自体の損傷はほぼ無いと言ってもいいくらい。それもこれもシズ一族のお陰、かもしれない事にして胸の内で感謝した。
「赤ちゃんを乗せても平気な機体を用意すべきでしょうか?」
「……坊主が作るべきは試合用だ。それは後でも出来るだろう」
そもそも
彼の中では育児の事でいっぱいなのはもう理解した。しかし、今はそれをどこかに投げ捨ててもらい、目下の目的である
(赤ん坊が出来た途端に腑抜けになる
突飛なアイデアで人々を驚かせた銀髪の少年が今は
試合に身が入らずに負けるのはエルネスティの責任だ。しかし、整備に関わるドワーフ族達も少なからず影響を受ける。そう考えると安易に放置も出来ない。
鍛冶師としての矜持が腑抜けを許さないからだ。
「……うむ。ところで坊主。隕石によって物凄く揺れたが……」
何らかの話題を振り、現実に意識を向けさせる。それには理解不能な事でも構わない。
正直に言えば震災の事は早く忘れたかった。
「はい。規模が大きい揺れでしたね」
視線を変えることなく答えたエルネスティ。完全に妄想の世界に入っているわけではないようで少し安心した。
元々、様々な事を同時進行で進める人間だ。尋ねれば適切な答えが返ってくる。その能力は通常の学生とは一線を画すほどに高い。
★
ダーヴィドはシズ・デルタが作っていた謎のオブジェの残骸がある一角に顔を向けつつ質問を続ける。
震災によって完全に崩壊したものだが、それが星にも起きるのか尋ねた。すると即座に彼は否定する。
「共振による崩壊は小さなものであれば起きやすいですが……。星に対して適応させるには規模が足りません。本気で今いる星を破壊する程の揺れならば僕たちはまず生きていけません。崩壊する以前の問題です」
「その根拠は?」
(聞いても分からねえけど)
「地震というものは地殻変動で起きるのが一般的です。であればそれで崩壊する筈です。でも、そんなことは起きない。……起きていないか、遥か未来には崩壊するかもしれない。それくらい遠大な話しになるものです」
重力の崩壊とか色々と考えられるけれど外部からの衝撃で破壊するには巨大な隕石が必要だ。地震だけで星が壊れないのは歴史が証明している。でなければ人類は歴史を刻んでいない。
月の衝突から相当な規模であった事は推測できるが崩壊には至っていない。謎の緩衝地帯があったからだ。
天文の教師に尋ねたところ距離の変更は見られないと聞いている。
ありえないことがありえた。今はそう思うしかない。
「僕達が持ちうる技術で星規模の振動を軽減させることは不可能……。さすがに僕でもどうにか出来るとは思いません」
「巨大な
星を覆うほどの
もし、仮に出来るとしても――それでもやはり現実的ではない。
おそらくシズ一族を動員してでも無理ではないかと。いや、謎の技術を持つ彼女達ならば何らかの対策は取ってくれそうだ。そんな気がした。
復興に
「……それに」
今回の隕石は不可解だ。何がと言われれば全く観測できなかった。
異変の前兆は大きいものほど観測しやすい。天文分野が存在するのだから星に向かって来るものの一つや二つは報告書に記載されていてもおかしくない。だが、今回は全く誰も把握できていなかった。
しなかったのではない事はエルネスティも独自に聞き取りをしたので確認している。
彗星ですら移動の痕跡が残る。今回の隕石は唐突過ぎる。まるで――
(隕石そのものが隠蔽されていたかのように……。情報ならばあり得るのですが、物体そのものを人為的に消すことは正しく荒唐無稽。不可能の部類です。情報操作の方がまだ現実的です)
もし、ありえる現象として考えるならば――観測できない程の速度が出ていなければならない。それこそ光速に匹敵するような――
それでも衝撃波は発生する。特に巨大な質量を持つ物体であるならば影響力は計り知れない。
なのに結果は星を揺らしただけ。そんなことはありえない。衝撃波だけで月が粉々になってもおかしくない。それを完全に隠蔽など誰が出来る。出来るわけがない。
(僕の知らないところで何らかの戦いでもあるのでしょうか。
それとも、月に何かがあるのか。
見えない緩衝地帯に謎がありそうだが現地に行って調査する事は今の技術では出来ない。
シズ一族は少なくとも事情を知っていそう、とエルネスティは推理する。
文明に関する事でかの一族は暗躍している。何らかの事情により大地に住まう人間達に死んでほしくないかのように。
★
エルネスティが思案に暮れている時、シズ一族から報告を受けたアンブロシウスは理解できない事柄に頭を痛めていた。
事が空の上だ。地上の事でも手一杯なのにどうしろ、と嘆く。
事情を話してくれる事には感謝しているけれど、詳しい専門家が実のところ居ないのが問題だ。
「……当面の危機は去った、というだけで手打ちにせねばなるまいな」
既にシズ達は去っている。秘密裏に追う事も控えている。確実に居場所が分かっているのが一人居るので充分だと判断したからだ。
もう一人は不確定だがアルヴの里から報告があるかどうか次第だ。
「集まってくれた諸侯たちに聞きたい。かの者の話しは信じるに足るか」
「事が空の上でありますからな」
「……一概に否定は出来んが……。棚に上げるのが最善だと思う」
国王の言葉に招聘された貴族たちから異論は出なかった。正確には出せなかった、ともいえる。
空に今もある隕石の欠片と軌跡は数年は残るかもしれないが天候不順になるほどではない事は聞いた。ゆっくりと薄くなり、消えるものだと。
殆どの粒子は大気圏で燃え尽きる事になるので。
「文化を守るシズ一族か……。あの者達はどうして我らの文化を守ろうとするのでしょう」
「守りたいと思う上位者が居るのは確実だ。であれば
かのエルネスティは今までの文化の流れを変えようとする知識と力を持つ、と報告にはある。既に新型の
専門職に就いているわけでもなく、学生に過ぎない小さな子供が、だ。
「外部、内部からも彼らに危害を加える存在は報告にありません。
「……いや、まさか少年とは思わずシズ殿が原因と判断されたのかもしれませんぞ」
「現在確認されているシズ・デルタは今も
「単なる避難であれば姿を消してもおかしくはないが……。とにかく、当面の危機は去り、来年には学生との試合だ。その準備の方はどうなっておる」
嫌な話に一区切りをつけ国王は話題を切り替えた。
地上からどうこうする事が出来ない問題を延々と議論するのは精神衛生上よくない。今も国王の下には様々な案件が舞い込むものだ。それらも無視できない。
友好国であるクシェペルカに慰問へ向かうべき、とか。ジャロウデクが軍備増強しているとか、様々な案件が控えている。
それらの中で王国内に謎の魔獣が現れ、子供と戯れる。というものがあった。
詳細は不明だが気に留めておく事しか出来ない。警備を担当する者達は謎の魔獣を目撃する事が出来なかったので。
★
地上でのごたごたが収束し、それらの報告に満足した天上の世界に住まう者達は安堵した。
月面に停留させていた『
巨大な隕石の衝突予測は一〇〇年以上前から示唆されていた。本来であれば無視する予定であった。その予定を変えたのはエルネスティ・エチェバルリア――正しくはシズ・デルタが気にかけた家族の存在があったからだ。それを意外だと思うか、何も知らない地上人には当然窺い知れない。
「運命の歯車の調整……。神らしく言うならばそんなところか」
異種族にして多くの
彼の言う神という存在では決してないけれど、それに匹敵する異能の持ち主であることは事実だ。
ある意味において間違ってはいない。彼らは実際に人の文化を持つ銀河系をいくつか創造している。
地球への帰還は物凄く手間がかかる。それに通り過ぎる場所には大抵何も無い。であれば、何も無いならあるようにすればいい。時間は途方もなく膨大にあるのだから。
最初は暇つぶしの一環だ。それが今では銀河団を所有する程の規模となって後方に控えている。
それから更に時間は経っているが生命体が発生し、どのような文化を生み出しているのか――実の所は把握していない事が多い。
エルネスティが住まう星は
「
星の運命を人為的に操作する事はガーネットとしてはやりたくない事だった。
崩壊もまた文明の結果である。それを覆せば自分達に火種が降りかかる可能性が高くなる。そうなれば天上でのうのうとふんぞり返っている事が出来なくなる。
だが――それでも彼らは――後悔はしていなかった。
文化を持つ星は彼らにとって貴重な宝だ。本来ならすぐにでも交流を持ちたい。それをしないのは自分達が異形種であるからだ。
魔獣を畏れる人間に
(……事前に破壊しようがしまいが恩着せがましい事になるだけだ。シズ達の活動も大幅な見直しが必要になるかもしれない)
星の行く末に迂闊に干渉する気は元々は無かった。だが――今回はシズだけではなく自分達も下界に興味を深く持ってしまった。
それは人間であった頃の残滓なのか、それとも単なる気まぐれか。
知的生物としてのふるまいを忘れない為には干渉もまた必要経費ではないか、と自問する。
★
時は無情にも過ぎていく。その間、
慌ただしい日常から一気に熱が冷めたような平坦な物へと移行し、自分の成長具合について全くといっていいほど自覚していなかったエルネスティは
過度なストレスによって頭髪が白くなったり薄くなったりする事も無く、これといって覚えのある大病も
(毎日会社に行って神経をすり減らすような案件をこなしてきて良く死ななかったものです。……こちらの世界でも
生きているだけで幸せである、という気持ちは本当に実感がこもっていた。
今以上に慌ただしく、命を危険にさらす必要は無い。
――無いのだが安定してくると趣味に走りたくなる。
以前のように専門店で買えるような子供の玩具では無いけれど、手を伸ばせば届く位置にロボットがある。そして、開発に携われる好機にも恵まれた。
大きな事故も無く今日を生きられるのは本当に幸せである。
(しかし。僕には野望があります。現状に満足している暇は……本当はありません。……か、
自分一人だけの不幸であれば幾分かは我慢できる。しかし、今は新たな家族が出来るかもしれない。そんな時に諦めている場合ではない。
趣味と家族の命を天秤にかければどちらが重いのかは明らかだ。
原因の究明もしなければならない。けれども、それらは今か未来かの問題だ。
自室の机に広げられた図面には完成させるべき発明の数々がある。それらは今は遅々として進んでいない状況だ。それはマズイ。とてもマズイ事は頭では分かっている。
(後ろ向きな思考は僕には似合いません。
造るべき発明は残すところ一つくらい――
新造
今までの調子から考えれば失態に匹敵する程の無様な結果だ。自然とため息が漏れる。
(今の僕には情熱が足りない。……このままでは今までの努力が……)
そう思っていると地面から揺れを感じて身構えた。
本震は既に去り、余震程度だと頭では分かっていても一度体験した大きな揺れに慣れる事は中々出来ない。これは
馬車の揺れとも違う。人間として忌避感を覚えるもののようだった。
★
気持ちを切り替える意味で学園の工房に向かい、自身が搭乗する予定の
他の機体は既に完成済みだが半数近くは封印作業を施されている。完成品にして未完成の機体群。
これは勝利の暁に実装する為の
戦うのは自分だけではない。多くの者達がエルネスティの望みの為に付き合ってくれる。それらを
「時間的猶予はないが……。坊主の命令一つで俺達はすぐに動けるぜ」
頼もしい言葉をかけるのは親方ことダーヴィドだ。大きな工具を肩に担ぎつつ明るい調子で話しかけてきた。その後ろにはエルネスティの手足となって動く予定でいるドワーフ族の作業員が待機していた。
時間的猶予はない。だが、協力者がたくさんいる。彼らが多少の無理を押せば出来ない事は無い、と思えるほどには余裕が感じられた。
(一度進んだ針は戻せない。僕も駆け出したからには止まってはいけないと思います)
だが、自分の
主武装は一つだけ。国王に見せる予定の『すごい
凄いのは新機能だ。それ以外がお粗末である、とエルネスティが認めている。
対戦相手の
(ですが、メイン武装に傾き過ぎた機体に新たな装備を付けるのは難しい。それに出力の問題は中途半端ですし……。もっと豊富に
装備を除けば機動力だけだ。
エルネスティは最悪、自分だけ敗北する事も考慮しなければならない気がした。負ける気は無いけれど練度の点は流石にどうしようもない。常日頃の鍛練は先達が優れているのは覆せない。
(……であればいっそ……、未来投資の布石を打てる程度の戦い方が出来ればいいのでは? 無理なものはどうしても無理です。時間も無い。……僕の機体に出来る事は……捨て石覚悟の突貫……。というのは芸が無いですよね)
すぐ爆砕する機体に投資家が金を投じるとは思えない。エラーが分かっていて何もしないのは怠慢としか言いようが無いのと一緒だ。
エルネスティは物思いに耽りつつ歩き回り、作業机の上にたくさんの図面を広げて唸る。
一向に言葉を発しない小柄な
少しずつ顔つきが真剣になっていくのが分かったので。
必死に頭を回転させている彼に声をかけるタイミングはまだ来ない、と予想している。
(隕石騒動でたくさん時間を無駄にしてしまいましたから良い案が中々出てきません。……復興に全振りしてしまったのは致し方ないのですが……)
ここで作業員たちに顔を向ける。工具を持った彼らは指示を受け次第すぐにでも動けるように控えている、そんな姿に見えた。
現行、エルネスティの
実際は全ての
用意したモートリフトを装着したドワーフ族の期待に満ちた視線が今はとても痛い。
新装備は作ったとしてもすぐに実装は出来ない。安全確認などの実証実験を繰り返さなければならないからだ。そして、その時間すらもはや無いに等しい。
(変形合体分離機構の時間的余裕は全く無いですし。
図面を引いて職人に渡せば数か月で出来る、とはならない。それが巨大ロボットの宿命のような気がした。
まして本物に
★
エルネスティが再始動し始める頃、フレメヴィーラ王国王都カンカネンにあるシュレベール城に――
大地震による復興を終え、いつもの日常を送っていた彼女の表情に変化はない。常に怜悧なままであった。
国王との面会は執務室で
まずは儀礼的な挨拶から――
(他のシズ・デルタとは雰囲気からして違うが……。やはり分からんな、シズ一族というものは)
挨拶に満足しつつも不可解な存在に少しばかり頭を痛める国王アンブロシウス。
国全体の復興の事務処理を終えたとはいえ次に始める試合に向けての根回しも忘れてはいけない案件だった。
「息災で何よりだ」
「……勿体ないお言葉にございます」
(少しくらい表情を変えてほしいものだ。……これがシズ・デルタというものの個性か)
機嫌が悪い顔は分かるが笑った顔は見たことが無い。無い筈だと国王は過去の出来事を思い出そうとしたが時間がかかりそうなので早々に諦める。
今回彼女を呼び出したのは――もちろん試合のことについてだ。
既定の
「
「……アルヴの里を守る『アルヴァンズ』へ既に打診済みでございます」
その名は王国の守護者に賜る最強を意味する。
国王はアルヴァンズの名を聞いて至極満足気であった。
(こちらの舞台はほぼ整ったが……。肝心の
表情を引き締め、最後の一手としてシズに
だが――国王はここに来て少し抵抗を感じた。
騎士団でもない学生集団に対して
その事も含めてシズを見つめる。彼女に打診すれば即座に拒否されそうな気配を感じる。なにせ目立たないように活動する一族の出でもあるのだから。
――だが、もし受け入れるのであれば――
任命しようとすれば葛藤するに違いない。前面に立つことになるのだから。
成長
命じた本人も息をのむ沈黙の時間が訪れる。それはほんの僅かなものであったとしても――だが、シズは静かに告げるのみだ。
「……王命、確かに
一切の迷いなく、とは言わないが姿勢に変化はなく、ただ淡々とした言葉のやり取りで終わった。
それを意外と思うか。それとも驚愕と感じるか。
とにかく、一番驚いているのは命じた国王その人――というのは確実なようだ。まさかすんなりと受け入れるとは思わなかった、と心の内で冷や汗をかいた。
とにかく、ここに国王側の準備は整った。後は決戦の日が訪れるのを心待ちにするだけ。そして――時はあっという間に過ぎ去り、