魔法使いのToLOVEる   作:T&G

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第五話

昼休みになった後、俺は飯を買うために席を立つ。

 

「トシアキ! 一緒にお弁当食べよ?」

 

「悪いな、俺は買いにいかなくちゃいけないんだ」

 

そう、朝食を作った時に弁当も一緒に作ったのだが、材料がなかったためララと美柑の分しか作れなかったのだ。

 

朝食をもう少し減らせば何とかなったかもしれないが、終わったことなので言っても仕方がない。

 

「と、いうわけで先に食べてろ」

 

「あっ、トシアキ」

 

ララを放って、俺は自分の昼食確保のため走り出す。

 

どこの学校でも同じだと思うが、購買の人気商品は急がないと買えないのだ。

 

校舎から飛び降りてショートカットしてやろうかと思い、開いている窓を見つけたとき、聞きなれた声が聞えた気がした。

 

「ん?」

 

走っているときに誰かが俺に声を掛けたのかと考えたが、新入生の俺が他学年に知り合いなどいるわけがない。

 

同学年だとしても、今のところ同じクラスの奴しか知らないのが現状だ。

 

「気のせいか?」

 

そう思い、傍に飛んでいた『精霊』に尋ねてみると、どうやら俺の名前を呼んだ奴がいるらしい。

 

普通は声が空気中に伝わり、耳へ聴こえて来る。

 

俺の場合は少々特殊で風の『精霊』たちが声を届けてくれるのだ。

 

つまり、望むなら遠方の音や声も聞くことが出来る。

 

まぁ、普段からそんなことをしていると耳がおかしくなるのでやっていないのだが。

 

「悪いけど、その人のところまで案内してくれるか?」

 

俺の言葉にニッコリと微笑んでくれた彼女は廊下を進み、階段を下っていく。

 

俺もそのあとを追いかけて走る。

 

途中で先生に注意されたが、『精霊』のスピードが速いので止まっている暇などなかった。

 

「ここか」

 

案内に従ってやって来たのは校舎の外れにある部室棟の一つであった。

 

「テニス部の部室か?」

 

ドアの傍に置いてあったテニスボールの入った籠を確認しつつ、扉を開ける。

 

「西連寺?」

 

ドアを開けるとそこには気を失っている西連寺が触手で身体中を絡められていたのだった。

 

「ほぉ、もう気付いたのか。 結城トシアキ」

 

そして、西連寺の傍にいた男が振り返って俺にそう話しかける。

 

どこかで見た顔だと思えば、この学校の体育の教師だったはずだ。

 

「ん? お前、人間じゃないな」

 

人間は昔から自然とともに生きてきた種族だ。

 

俺のように直接見えなくても、『精霊』は人間に近寄ってくる。

 

だが、コイツにはその『精霊』が寄りついていない、というより嫌っているようにも見える。

 

「オレの擬態を見破るとはなかなかやるな。 はぁあぁあぁ!!」

 

その言葉とともに体育の教師の顔が剥がれていき、舌の長い気味が悪い生物へと変化した。

 

「なるほど、ララと同じで宇宙人か」

 

ララにも『精霊』は近づかなかったが、嫌ってもいなかった。

 

『精霊』に嫌われているこいつは人として、いや、生物としてダメな存在なのだろう。

 

「そう、佐清の姿を借りてただけさ。 まったく、人間に化けるのは神経使うぜ」

 

「で? 俺に何か用があったのか?」

 

こいつが俺を呼んだのなら今すぐ踵を返して帰るところだが、おそらく俺を呼んだのは西連寺だろう。

 

「結城トシアキ、ララから手を引いてもらおう」

 

ララから手を引くもなにも、数いる婚約者候補の一人になっただけの俺にどうしろというのだ。

 

候補を辞退しろということなのだろうか。

 

「ララと結婚し、デビルーク王の後継者となるのはこのオレ、ギ・ブリーだ」

 

まぁ、ララが誰と結婚して誰が後継者になろうと俺は構わないのだが。

 

クラスメイトが、俺の知り合いが関わっているとなると話は変わってくる。

 

「さぁ、どうするんだ? 結城トシアキ。 オレは気が短いんだぜ?」

 

「そりゃあ、奇遇だな。 俺も気が短いんだ」

 

俺は右手をギ・ブリーに向けると小さく『風刃』と言葉を呟く。

 

「ぎゃあぁあぁ!?」

 

俺の言葉通りに動いてくれた風の『精霊』たちは刃となり、ギ・ブリーの身体を切り刻んだ。

 

ちなみに俺には『精霊』が見えるため刃も見えるが、『精霊』が見えない奴からすると突然、切られたように感じるだろう。

 

「痛い、痛いぃ!? 死んじゃうぅ!!」

 

「は?」

 

宇宙人が相手だったので遠慮せずに『魔法』を放ったのだが、思った以上のリアクションに俺は唖然としてしまう。

 

「腕が!! オレの腕がぁあぁあぁ!?」

 

残念なことにギ・ブリーの右腕は完璧に切断されており、切断面から緑色の液体が飛び散っている。

 

宇宙人の血液の色は緑色なのか、もしかしてララもそうなのだろうか、と俺は場違いなことを考えていた。

 

「とりあえずうるさい」

 

まだ騒いでいたギ・ブリーを殴って気絶させ、これからについて考える。

 

「・・・・・・西連寺を先に助けてやるか」

 

触手に絡まっていた彼女を救出して、部室のベンチに寝かしてやる。

 

「やっと見つけた! こんなところにいたんだ、トシアキ!」

 

そこへ俺のことを探していたらしい、ララが笑顔で部室へと入ってくる。

 

「おう、ララ。 こいつ知り合いか?」

 

入ってきたララに緑色の液体の中心で倒れているギ・ブリーを指して聞いてみる。

 

「ギ・ブリー? どうしてここに・・・・・・」

 

どうやら顔見知りだったようで、知っているらしい。

 

しかし、腕が片方無くなっていることや、血溜まりの中心で倒れているところに悲鳴を上げないのは流石だと思う。

 

「あぁ、西連寺を人質に俺に婚約者候補を辞退しろって言ってきたんだよ」

 

「そうなの!? そんな奴は地球外に追放しちゃおう」

 

何処から取りだしたのか、ララは洋式トイレのような入れ物を出したかと思うと、その中にギ・ブリーを押しこんだ。

 

「・・・・・・とりあえず、部室を掃除して西連寺を保健室にでも運ぶか」

 

「そだね。 あっ、掃除はザスティンたちにお願いしとくよ」

 

使える者は王室親衛隊長まで使うのか、さすが銀河を統一した王の娘だ。

 

ララの言葉を有りがたく受け取り、俺は西連寺を保健室まで連れていった。

 

 

 

***

 

 

 

部室の掃除をザスティンに任せ、西連寺の付き添いをララに頼んだ俺は購買へ向かっていた。

 

あれから時間が経っているし、売り切れになっている可能性が高いのだが。

 

「腹が減って死にそうだぜ・・・・・・」

 

部室棟から校舎の方へ歩いていると、正門のところに見たことある姿があった。

 

「あれ?」

 

そこには赤いランドセルを背負った美柑がいて、慣れない場所に不安を抱いている様子だった。

 

そして、不安そうな表情で学校内へ入ろうかどうか迷っているようであった。

 

「美柑、どうしたんだ?」

 

「あっ、トシ兄ぃ!」

 

俺の声を聞いて、不安そうな表情から可愛らしい笑顔へと変わる。

 

そして、俺の傍まで来た美柑はランドセルの中から弁当を取り出し、俺へと渡して来た。

 

「はい、これ。 トシ兄ぃ、お弁当持ってなかったでしょ?」

 

「あぁ、だけどお前の分は?」

 

俺に弁当を渡してしまうと美柑の分がなくなってしまう。

 

まだまだ成長期の美柑を差し置いて俺が食うわけにもいかない。

 

「私、まだ短縮期間だから今から家に帰って自分で作るよ。 だからトシ兄ぃはこれを食べて」

 

言われてもこの世界に一年もいないのでわからなかったが、どうやら学校は午前中で終わっているらしい。

 

「なら、問題ねぇな」

 

「えっ?」

 

美柑に作った弁当を二人で分けて食えば問題ないだろう。

 

せっかく作った弁当なのだから、やはり美柑にも食べて貰いたい。

 

「ほら、こっち来い」

 

「ちょ、ちょっと、トシ兄ぃ」

 

美柑に手を引き、学校内へ連れ込んだ俺は近くにあったベンチに腰を下ろす。

 

「ほら、美柑も座れ」

 

そう言いながら、俺は自分の隣をポンポンと叩いて、美柑を座らせる。

 

「もう、私も早く帰ってご飯食べたいんだけど?」

 

「ここで食えば問題ないだろ」

 

俺は美柑から受け取っていた弁当の包みを開け、蓋を開ける。

 

我ながらなかなか美味しそうな弁当を作ったものだと思ったところで、箸が一膳しかないことに気付く。

 

「ここでって、お弁当を二人で食べるの?」

 

「あぁ、俺としては美柑に弁当食べて貰いたいからな。 ほら、あーん」

 

一膳しかなくても義兄妹だし、別に構わないかという結論に達した俺は、卵焼きを美柑の口元まで運ぶ。

 

「えっ!? ちょ、ちょっと、トシ兄ぃ!?」

 

俺に食べさせてもらうことが恥ずかしいのか、美柑は頬を赤く染めて慌てた様子で俺を見つめる。

 

「早く口を開けろ、ほら」

 

だが、俺としては早く食べて欲しいので口を開けるように再度要求する。

 

「うぅ・・・・・・あ、あーん」

 

観念して口を小さく開けた美柑に俺は卵焼きを食べさす。

 

頬を赤く染めて、目を閉じたままモグモグと卵焼きを食べている美柑。

 

「どうだ? 美味いか?」

 

久しぶりに作った朝食は美味しいと言ってくれた美柑だが、弁当にすると冷めてしまうのでもう一度確認の意味を込めて尋ねてみる。

 

「う、うん。 美味しいよ、トシ兄ぃのお弁当」

 

ゴクンと飲みこんだ美柑は閉じていた目を開け、美味しいと言ってくれた。

 

しかし、頬が赤い理由が今一つ理解できない。

 

やはり義兄とはいえ、外で一緒にご飯を食べるのが恥ずかしいのだろうか。

 

「そりゃ、よかった。 んじゃ、俺も」

 

美柑の返事に満足した俺は次に自分が食べるため、ご飯を箸で掴む。

 

「ふぇっ!? と、トシ兄ぃ、かんせ・・・・・・」

 

なにやら慌てて手を上下にパタパタさせている美柑だが、俺は腹が減っていたので最後まで聞かずご飯を口へ運んだ。

 

「・・・・・・やっぱ、飯は温かい方が美味いな」

 

自分で作ったので評価も適当に付ける俺。

 

そんな俺の横では顔を赤くしたり、手をパタパタさせたりと慌ただしい美柑。

 

「ほら、次はコレだ」

 

そんな美柑に次はアスパラをベーコンで巻いて焼いたおかずを差し出してやる。

 

「トシ兄ぃと・・・・・・かんせ・・・・・・私も・・・・・・」

 

小さな声だったため所々聞えなかったが、美柑は俺の差し出したおかずをジッと見つめている。

 

そんな美柑に口を開いてもらうため、俺も自分の口を開いてみる。

 

「美柑、あーん」

 

「あ、あーん」

 

しばらくジッと見つめていた美柑だが、ようやく口を開いてくれたので、俺が箸で掴んでいたおかずを食べてもらう。

 

そうして、昼休みが終わるまで俺と美柑で仲良くお弁当を分けて食べたのであった。

 

 

 

~おまけ~

 

 

一時間目の体育の時間に言われたとおり、昼休みになってすぐにテニス部の部室に来た私。

 

確か、佐清先生に呼ばれていたはずなのだけど。

 

部室に入っても誰もいないので、私はどうすればいいのか分からなかった。

 

「なんの用事なんだろ」

 

昼食もクラスメイトである里沙と未央の誘いを断って早く来たのだ。

 

早く用事を済ませて教室で皆とご飯は食べたいと考えていると、背後に気配を感じた。

 

「えっ? きゃあぁあぁ!!?」

 

振り返ってみるとウネウネと不気味に動く触手が私の身体に巻き付いてきたのだ。

 

「っ!?」

 

抜け出そうと手足を動かすが、腕も足も絡め取られて力が入らない。

 

「た、助けて、結城くん・・・・・・」

 

声を出して助けを呼ぶときに頭に浮かんだのは両親でも先生でもなく、何故かクラスメイトの結城君だった。

 

そのあと、触手は首や腰にも巻き付き、声が出せなくなったまま私は気を失った。

 

「うっ、んん・・・・・・」

 

私が次に目覚めたときに最初に目に入ったのは綺麗な白い天井であった。

 

「目が覚めた? 春菜」

 

「デビルークさん?」

 

どうやらここは保健室のようで、私はベッドで眠っていたようだ。

 

隣には心配そうな表情で私を見つめる転校生のデビルークさんがいる。

 

「もう、私のことはララでいいって! 私たち、もう友達でしょ?」

 

「う、うん、ララさん・・・・・・」

 

呼び方を改めたところで、どうして私はここにいるのか気になり、ララさんに尋ねることにした。

 

「私、どうしてここに?」

 

「春菜はテニス部の部室の近くで倒れてたんだよ、貧血ってヤツだって」

 

「貧血?」

 

今まで貧血になったことがないため実感がないけど、最近は色々と考え事をしていたから頭がパンクしたのかな。

 

「その、ララさんが私を見つけてくれたの?」

 

そうだとしたら転校したてのララさんに申し訳ないことをしたことになってしまう。

 

転校していきなりクラスメイトが倒れていたなんて驚くに決まっている。

 

「ううん、春菜を助けてここまで運んだのはトシアキだよ」

 

「えっ・・・・・・」

 

結城君の名前を聞いてトクンと心臓が跳ねた気がした。

 

それに運んでくれたって、テニス部の部室からここまで距離があったはずだ。

 

「結城くんが・・・・・・」

 

普段から他人とあまり関わらないようにしているはずの結城君が私を助けてくれたことが嬉しくて、自然と笑みが浮かんでくる。

 

結城君には今度会ったときにお礼を言おうと私はそう心の中で決めた。


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