魔法使いのToLOVEる   作:T&G

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第三十四話

俺はソッと近づいてくる気配を感じとり、思考を通常の状態に起こす。

 

いつもならば普通に行えていたことだが、最近は意識しないとできなくなってしまった。

 

それも、この世界が平和だからなのだろうが。

 

「動くな、妙な真似をしたらそのまま首をへし折・・・・・・ん?」

 

傍に来た気配を感じた俺はベッドから身体を起こし、相手を床に組み伏せて馬乗りになった。

 

そして、そのまま手を相手の首元へ持っていき脅しをかけたのだが、その相手が見知った顔であったのだ。

 

「あんっ! や、優しくしてくださいね?」

 

「・・・・・・なにやってんだ、モモ」

 

何を隠そう近づいてきていたのは同じ屋根の下で過ごす宇宙人のモモであった。

 

しかも、格好が服はボタンが全て外れており、肌が露出している。

 

ズボンなどは履いておらず、下着は着用しているようだが際どい状態だ。

 

「なにって、トシアキさんを起こしに来たんですよ」

 

「じゃあ、なんでその格好なんだ?」

 

「私も今、起きた所ですからね。 着替えるより先にトシアキさんの顔が見たかったんです」

 

「トシアキ、今日は天気がいいから花見に行こうって姉上が・・・・・・」

 

俺が言葉を紡ごうとしたとき、開いたままの扉の向こうからナナの声が聞こえた。

 

「な、なんでモモの上に乗ってんだ!」

 

「俺は自分の身を守ろうとしただけだ、他意はない」

 

掴みかかってきたナナを避けながら俺はモモの首から手を離した。

 

「他意はないだなんて、あんなに激しかったのに?」

 

確かに激しかったかもしれないが、首を絞められてその言葉が出てくることにある意味尊敬してしまう。

 

「いいから部屋に戻って着替えてこい。 ララと花見に行くんだろ?」

 

「わかりました。 それではトシアキさん、また後で」

 

「・・・・・・」

 

ウインクをしながら楽しそうに部屋から出て行くモモとコチラを睨みつけながら部屋を出て行くナナ。

 

「・・・・・・俺も着替えるか」

 

とても二度寝をする気が起きなかったので俺も着替えることにした。

 

その後、ララたち姉妹と美柑、それにセリーヌを連れて近くの公園までやってきた。

 

「ララさーん!」

 

「春菜! お静ちゃん! もう来てたんだ」

 

公園で他のメンバーと合流し、花見ができそうな場所を探して歩き回る。

 

「じゃ、この辺でシート敷いてのんびりしよっか」

 

ララが場所を決めたところで俺は少し皆から距離をとる。

 

大きめの桜の木を見つけ、その木に背を預けながら俺は声をかけた。

 

「いるんだろ、ヤミ。 降りてこいよ」

 

「・・・・・・なんですか、マスター」

 

ガサガサと桜の木を揺らして上から俺の前に降りてきたヤミ。

 

「せっかくだし、皆で楽しもうぜ?」

 

「マスターがそう言うなら・・・・・・あっ」

 

「行こうか」

 

俺はヤミの頭の上についている桜の花びらを取ってやりながら皆のいる場所へ歩き出す。

 

「あっ、トシアキ。 どこ行ってたの?」

 

「ちょっとな。 その時にヤミを見つけたから連れて来たんだ」

 

「ヤミちゃん! いらっしゃい!!」

 

西連寺やララは持ってきたジュースを飲んだりしながらヤミを迎え入れる。

 

俺もシートへと腰をおろしたが、美柑やナナ、それにお静の姿が見えない。

 

「そういや、美柑たちは?」

 

「美柑さんは屋台で買い物してくるって言ってましたよ? はい、トシアキさん」

 

俺の隣に座っているモモから渡されたジュースを受け取りゴクリと喉を潤す。

 

セリーヌもおとなしくモモの膝の上でジュースを飲んでいた。

 

言っておくが、コーラは酔っぱらうので与えていない。

 

「で、他のメンバーは?」

 

「お静ちゃんならその辺で遊んでくるって」

 

「ナナさんなら私と話した後は公園を見て回るって言ってたよ?」

 

俺の質問にララと西連寺がそう答えてくれた。

 

お静はともかく、美柑はまだ小学生だし、ナナは一応俺が面倒をみる約束になっている。

 

「・・・・・・ちょっと、様子見てくる。 これ、頼むな」

 

「えっ!? あっ、はい・・・・・・」

 

先ほどから何やら顔を赤くしてモジモジしていたモモに俺のジュースを渡して俺は美柑たちを探すべく公園内を歩き始めた。

 

「お静」

 

「あっ! トシアキさん!!」

 

桜の花びらをたくさん抱えたお静が笑顔を浮かべながらコチラへ振り返る。

 

もとは日本人のお静、桜の花と相まってなかなか美しい光景だった。

 

「美柑やナナを見なかったか?」

 

「美柑さんはわかりませんが、ナナさんなら先ほどまで私とお話してました」

 

ナナは公園を探索しながらお静と話をしていたらしい。

 

どんな話をしていたか興味がないわけでもないが、今は行方を追う方が先だ。

 

「そうか。 ちなみに話した後、ナナはどこへ行った?」

 

「ナナさんならあちらの方へ行きましたよ? なにやら考え事をしていたようですが」

 

ナナが考え事をしていたということは注意力が散漫になっている可能性がある。

 

一般人より強いが他の宇宙人がいるとも限らないし、早く見つける必要がありそうだ。

 

「俺は美柑とナナを探してくる」

 

「あっ、はい! 私はもう少しこの辺で遊んでますね」

 

桜の花びらとお静の笑顔に見送られ、歩き出した俺が次に見つけたのは美柑であった。

 

「遅かったな、なにか問題でもあったか?」

 

「ト、トシ兄ぃ!? べ、別になんでもないよ! なんでも!!」

 

俺の顔を見るなり、顔を赤くした美柑が手に持つフランクフルトの袋をブンブンと振り回していた。

 

しかし、食べ物をそんな風に振り回しても問題ないのだろうか。

 

「ん? まぁ、何もないんならいいんだが」

 

「あはは・・・・・・そ、それじゃあ、私は皆の所に戻るね!」

 

そうして慌てて俺から離れるように去っていこうとする美柑の腕を何となく掴む。

 

「ふぇ!?」

 

「そういや、ナナを見なかったか?」

 

「ナ、ナナさん!?」

 

何故そんなにナナの名前に反応するのか理由はわからないが、おそらく美柑はナナの居場所を知っているのだろう。

 

「何をそんなに慌てているんだ?」

 

「ナ、ナナさんから質問された直後だったからってわけじゃないよ!?」

 

「・・・・・・何を言ってんだ、お前は」

 

錯乱状態が酷くて話にならなかったので俺は美柑の額にデコピンを与える。

 

「はぅ!?」

 

「で、ナナは?」

 

「ナナさんならあたしと話したあとあっちの広場に向かって行ったよ」

 

額を抑えながら涙目になっている美柑からナナの行方を聞いた俺は広場へ視線を向けた。

 

「っと、その前に俺にもくれ」

 

「あっ・・・・・・」

 

美柑が食べていたフランクフルトを貰った俺はモグモグと食べながらナナを探すために再び歩き出した。

 

「おっ、ようやく見つけた」

 

広場の方へ行ってみると、桜の木に背を預けながら考え事をしているナナを見つけた。

 

「そうやってると、絵になるな」

 

「ト、トシアキ!?」

 

俺が声を掛けると驚いた様子でコチラを見るナナ。

 

どうやら俺が近づくまで気がつかなかったらしい。

 

「な、何だ? 絵になるって」

 

「いや、女の子らしさが際立っていてな。 やっぱりお前もプリンセスなんだと改めて思っただけだ」

 

「へ、変なこと言うな!」

 

「まうー!」

 

ナナの大きな声が聞こえたのか、木の上で遊んでいたらしいセリーヌがナナの頭をめがけて落ちてきた。

 

というか、俺より後に席を立ったセリーヌの方がナナのいるところに先にたどり着けたのが少しショックだったりする。

 

「わわっ、前が見えないだろ」

 

「なにやってんだよっと」

 

セリーヌの所為で前が見えなくなってしまったナナが倒れてしまいそうになったので腕に抱きとめてやる。

 

その時にセリーヌもナナの顔から胸へ落ちたので、視界が開けたナナと近くで見つめ合う形になってしまった。

 

「大丈夫か?」

 

「・・・・・・うん」

 

いつもと違って大人しくなったナナに首を傾げつつも、近づいてくる気配を感じたのでセリーヌを抱き上げてナナから離れる。

 

「トシアキ! 一緒に遊ぼうよ!!」

 

「そうだな、たまにはいいか。 ほら、ナナも行こうぜ」

 

俺たちを呼びに来たであろうララに答えたあと、呆然としているナナの前に手を出して誘う。

 

「あっ・・・・・・そ、そうだな!」

 

それからいつもの調子を取り戻したナナや他のメンバーたちと楽しく花見をしたのであった。

 

ただ、戻ってきてからモモが一言も発することなく空き缶を見つめていたのだが、お酒でも入っていたのだろうか。

 

 

 

***

 

 

 

「なぁ、いいだろ? ちょっと付き合ってよ」

 

「ん?」

 

学校の帰り道、美柑に頼まれていた買い物を終えた俺は家に向かって歩いていた。

 

その時に前から聞こえてきた声に視線を向けると、クラスメイトの籾岡が別の学生服を着た男に声を掛けられていた。

 

「あっ、トシアキ! もう、遅いよ!!」

 

「は?」

 

そして、俺の姿を見つけたかと思うとそのまま腕を絡めて俺が来た道を戻ろうとする。

 

「さっ、早く行こ?」

 

「おい、待て。 俺はこっちに行きたいわけじゃ・・・・・・」

 

俺の言葉を最後まで聞いてくれることもなく、そのまま腕を引っ張られてもと来た道を戻る羽目になってしまった。

 

「はぁ、助かった。 しつこい男に引っかかって苦労してたんだ」

 

しばらく歩くと今までの態度が嘘のように変わり、そう言ってきた籾岡。

 

「なるほど、そういうことか。 それならまだ腕を絡めているのはなんでだ?」

 

「もう、助けてくれたお礼してるのに、それはないんじゃない?」

 

そう言って俺の腕に自分の胸を押しつける仕草をする籾岡。

 

「前に言っただろ? そういうのは軽い女だと見られるから辞めとけって」

 

「・・・・・・」

 

「それじゃ、俺は帰るから」

 

俺はそう言いながら絡められた腕を外して家に向かって帰ろうとする。

 

だが、なかなか籾岡が絡めた腕を放してくれない。

 

「おい、籾岡?」

 

「ちょっと、今から付き合って」

 

「ん? 付き合ってって、ちょっと待て」

 

「いいから、こっち!」

 

俺の言葉はまた最後まで聞いてもらえず、そのまま腕を引っ張られてしまった。

 

そのまま歩き続けて数分後に目的の場所にたどり着いたようで、足を止める籾岡。

 

「ここは?」

 

「いいから入って!」

 

背中を押されるままに店の扉を開けると中から甘い匂いと華やかな装飾が見えた。

 

「おかえりなさい!」

 

出迎えてくれたのは同じくクラスメイトの沢田であり、服装はメイド服を着用していた。

 

「おかえりなさいって、いらっしゃいませじゃないのか?」

 

「ここはそういうお店なの! って、あれ? 結城とリサが一緒なんて珍しいじゃん」

 

珍しいもなにも、俺は籾岡に連れられてきただけなのだが。

 

「まぁ、いいか。 ゆっくりしていってね、おにぃちゃん」

 

「・・・・・・おにいちゃん?」

 

「そういうお店だから」

 

沢田に席へ案内され、最後に言われたお兄ちゃんという言葉に首をかしげながら籾岡の向かいに座る。

 

というか、妹ならメイド服なんて着ないと思うのだが、色々と混ざっている気がする。

 

「じゃ、俺はもう帰るな。 ごちそうさま」

 

「えぇ!?」

 

それから籾岡の奢りで軽食をごちそうになり、しばらく学校の話をしていたが、そろそろ暗くなってきたので俺は店を出たときにそう切り出す。

 

「女の子を一人で夜道を歩かせる気? ウチまで送ってよ」

 

「・・・・・・はいはい、わかったよ」

 

そのまま籾岡を家に送り届けるため、二人で夜道を歩く。

 

何故か再び腕を絡められたのだが、何を言っても話してくれそうにない。

 

抵抗をやめて、会話らしい会話もなく、無事に籾岡の家までたどり着いた。

 

「それじゃあ、今度こそ俺は帰るな。 また明日」

 

「待った」

 

まだ絡めたままの腕を強く引かれ、歩き出すことができない俺。

 

「せっかくだし、あがっていったら? コーヒーくらい出すし」

 

「いや、さっき散々飲ん・・・・・・」

 

「ほら、行くよ」

 

そのまま腕を引かれて籾岡の家に連れ込まれてしまった俺。

 

家では買い物を待っている美柑がいるのだが、何を言っても解放してくれそうにないので諦めてしまうのであった。

 

 

 

~おまけ~

 

 

花見の時にトシアキさんが私の隣に座ったので、気が利く女であることをアピールしようと飲み物を差し出した。

 

「美柑さんは屋台で買い物してくるって言ってましたよ? はい、トシアキさん」

 

そして、私は渡してから気付きました。

 

私が持っていたのは自分の飲みかけのジュースで新しいのは先ほどセリーヌちゃんに渡してしまっていたのです。

 

「で、他のメンバーは?」

 

開いていたことを気にすることもなく私と、その、間接キスをしたトシアキさんがそう尋ねていましたが、もうその言葉からは耳に入ってきません。

 

あのトシアキさんとの間接キス、下着姿で迫っても慌ててもくれないトシアキさんとのキス。

 

いつの間にか間接の文字が消えていましたが、そんなことを考える余裕もないくらい私は興奮していました。

 

「まう?」

 

私が身体を動かしたことによってセリーヌちゃんがコチラを見上げています。

 

そこで私はこの場がいつもの自分の部屋でないことに気付きました。

 

「・・・・・・ちょっと、様子見てくる。 これ、頼むな」

 

「えっ!? あっ、はい・・・・・・」

 

そして再びトシアキさんの手元から戻ってきた私のジュース。

 

私はそのジュースを見ながら色々と考えているうちにいつの間にか花見の時間が終わってしまっていたのでした。


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