魔法使いのToLOVEる   作:T&G

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第三十二話

「まったく、家に居ても休めないってどういうことだよ」

 

俺は一人でそう呟きながら当てもなく歩いていた。

 

家でゆっくり休もうと考えていたのだが、動けるようになったセリーヌや新しい発明品を持ってくるララの相手をしていて休むことができなかったのだ。

 

「仕方ない。 どこかで暇を潰して・・・・・・っと!?」

 

「きゃっ!? あっ、トシアキ様・・・・・・」

 

考え事をしながら歩いていたが、曲がり角で人の気配を感じたので咄嗟に立ち止まったのだが、相手はこちら側に曲がってきたため結局ぶつかってしまった。

 

「大丈夫ですか、沙姫先輩」

 

「え、えぇ。 大丈夫ですわ」

 

思わず抱きとめてしまったのだが、相手は知り合いの沙姫先輩であった。

 

その沙姫先輩だが、何故か俺の腕の中からなかなか離れてくれない。

 

「あの、沙姫先輩?」

 

「はっ!? すみません、私ったらつい」

 

俺の声に反応した沙姫先輩は名残惜しそうな様子で半歩後ろにさがっていく。

 

「しかし、珍しいですね。 沙姫先輩が一人でいるなんて」

 

「実は私・・・・・・家出してきたんですの」

 

「・・・・・・」

 

沙姫先輩の言葉を聞いてすぐに反応できなかった俺は悪くないはずだ。

 

ララといい、ナナやモモといい、どうしてこうも家出娘が多いのだろうか。

 

「突然、お父様から海外留学しろと勧められまして、嫌だと言ったんですが」

 

俺が黙っているのでそのまま家出の理由を語ってくれた沙姫先輩。

 

どこの家も父親の意見とぶつかり合いが家出の原因となっている気がする。

 

「一度言い出したら聞かない人ですから、私も今回ばかりは退けなくて、思わず家を飛び出したらトシアキ様に・・・・・・」

 

どうやら家を飛び出してわけもわからず走っているうちに俺にぶつかったらしい。

 

「ということは、追手が近づいてきていてもおかしくはないですね」

 

そう言ったときに沙姫先輩の後ろから見覚えのある高級車が近づいてきた。

 

「あっ・・・・・・・」

 

俺たちの隣で止まった車から出てきたのは同じ先輩の凛先輩と綾先輩であった。

 

「綾! 凛!!」

 

二人の姿を確認した沙姫先輩は嬉しそうに駆け寄っていく。

 

だが、このタイミングで現れたということは恐らく沙姫先輩を連れ戻しに来たのだろう。

 

「ようやく見つけましたよ、沙姫様」

 

「心配して捜してくれたの!? ごめんなさい」

 

「いえ・・・・・・」

 

沙姫先輩の表情とは違い、真剣な表情の凛先輩と不安そうな表情の綾先輩。

 

「お父上の・・・・・・劉我様の命によりあなたをお迎えにあがりました」

 

「えっ?」

 

そして、凛先輩からの言葉を聞いて、沙姫先輩はショックを受けた様子だった。

 

「嫌なら力ずくでも」

 

「凛・・・・・・綾・・・・・・どうして・・・・・・」

 

ショックを受けて動けない沙姫先輩の腕を掴もうとした凛先輩を遮るようにして俺は身体を動かす。

 

「凛先輩、ちょっと強引過ぎじゃないですか?」

 

「そこを退いてくれ、結城。 君には関係のない話だ」

 

確かに言われた通り、俺には関係のない話かもしれない。

 

だが、俺はお世話になっている先輩たちのこんな姿を見たいわけではないのだ。

 

「沙姫先輩は海外留学に行きたくないそうですが?」

 

「わかっている。 だが、これが私の役目だ!!」

 

そう言って俺に向かって木刀を振るってきた。

 

「っ!?」

 

反応して避けることはできたが、沙姫先輩から離れてしまう形になり、結果的に凛先輩の思い通りになってしまった。

 

「きゃっ!?」

 

すぐさま沙姫先輩の腕を掴んだ凛先輩が先ほど乗ってきた車に連れ込もうとする。

 

「い、いや! 放して!!」

 

「ダメです!!」

 

必死に抵抗する沙姫先輩だが、普段から鍛えているであろう凛先輩の力は強い。

 

そのため、徐々に身体が車に近付けられていく。

 

「凛先輩、アンタは沙姫先輩の付人だろ? なんで無理やり連れて行こうとするんだ?」

 

「君に何がわかる!」

 

普段とは違う声のトーンに俺も思わず二の声が継げなくなる。

 

そのまま黙ってしまった俺を確認してか、凛先輩が静かに話し始めた。

 

「私は代々、天条院家に仕える九条家の人間。 だからこそ、沙姫様を連れ戻せと言われたら逆らえない」

 

「代々仕えるって・・・・・・」

 

「そうですわ。 でも、綾はもともと天条院家と関わりのない家柄、私と凛が海外留学に行けば綾は残ることになる」

 

沙姫先輩の話を聞いて俺は納得することができた。

 

綾先輩と離れたくないから海外留学に行くのを拒んで家出をしてしまったということなのだろう。

 

「何より、三人一緒にいられなくなるのは辛すぎますわ」

 

「沙姫様!! 私も、沙姫様と離れたくないです!」

 

凛先輩の後ろで不安げな表情を浮かべていた綾先輩がついに我慢できない様子で沙姫先輩の胸元に飛び込んだ。

 

「・・・・・・」

 

凛先輩も同じ想いなのか、先ほどの威勢はなくなり悲しげな表情で立ち尽くしている。

 

なんだかんだ言いつつも、凛先輩も三人一緒じゃなくなるのが嫌だったようだ。

 

「だったら、やることは一つじゃないですか」

 

「「「えっ?」」」

 

三人からの視線を受けながら俺は解決策になるであろう言葉を口にする。

 

「沙姫先輩がハッキリと父親に言えばいいんですよ。 海外留学には行きたくないと」

 

そう、行動することも大事だが、話し合うことも大切なことだと思う。

 

「大切な友達と離れたくないと言えばいいんです。 それでもダメなら今度は三人で俺のところに来てください」

 

もし、そんなことになるのならば今度は俺も力を貸すことになるだろう。

 

いざというときはララたちに協力してもらってもいいかもしれない。

 

「最初に行動してしまったからすれ違いが起こったのかもしれません。 もしかしたら・・・・・・」

 

「そう、ですわね。 トシアキ様のおっしゃるとおりですわ。 話してみます、お父様に」

 

「「沙姫様・・・・・・」」

 

そうして三人の先輩たちは車に乗って走り去って行った。

 

今から、沙姫先輩の父親のもとへ行き自分たちで話しをして解決することだろう。

 

それに、きっと沙姫先輩が初めから凛先輩や綾先輩に話をしていたら三人で家出する結果になっていただろう。

 

あの三人は立場が違うが、お互いを思い合っているのはよくわかるのだから。

 

 

 

***

 

 

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい」

 

あの後、しばらく外をぶらついて家に帰って来た俺は美柑の声を聞いて首をかしげた。

 

「美柑?」

 

「はい」

 

リビングに入ると美柑が座布団の上に座りながらコチラを見つめていた。

 

名前を呼んでも返事はするがいつもと様子が違う。

 

「どうかしたのか? なにかいつもと違う気が・・・・・・」

 

「気のせいでしょう」

 

本人がそう言うのならそうなのかもしれないが、やはり少し不安になる。

 

「美柑、ちょっと・・・・・・」

 

「っ!?」

 

美柑の額に自分の額をくっ付けて熱を測ってみるが、特に問題はなさそうだ。

 

「ってことは、またララがなにかしたのか」

 

小さくそう口にした俺は先ほどまでの美柑の様子や言動などを考えているとある人物と一致した。

 

「・・・・・・ヤミか?」

 

「さすがマスター。 よくわかりましたね」

 

姿は美柑で中身はヤミになっているということか。

 

恐らく、先ほどから騒いでいたララは俺が居ないとなって美柑とヤミを実験体にしたようだ。

 

「後であいつにはキツく言っとかないとな」

 

「いえ、これは美柑が望まれたことですので」

 

「えっ? マジ?」

 

「はい」

 

どうやら美柑は俺の知らないところでストレスが溜まっていたらしい。

 

自分からララの発明品の実験体になるなんてなかなかできることではない。

 

美柑には迷惑ばかりかけているし、今回は好きにさせてあげることにしよう。

 

「なら、仕方ない。 じゃあ、ララには何も言わないでおくよ」

 

しかし、そう考えると美柑はヤミの姿で街をうろついていることになる。

 

「・・・・・・心配だ」

 

街にはウチの校長みたいな変態や、ウチの先輩みたいなストーカーなどが存在する。

 

そんな奴らにヤミの姿をした美柑が追いかけられると思うと。

 

「よし、殺そう。 ヤミ、美柑の姿で悪いけど留守番よろしくな」

 

「わかりました」

 

何やら殺意が湧いてきたので、ヤミの返事を聞きつつ俺は再び外に出ることにした。

 

「さてと、美柑は・・・・・・いや、ヤミの姿を捜すんだな」

 

「むっひょー!」

 

と考えていると、目の前の道をウチの校長が奇声を発しながら走り去って行くのが見えた。

 

「・・・・・・あの場合は誰かを追いかけているということだから」

 

そこまで考えて俺は校長を追いかけて走り出す。

 

「今日のヤミちゃんはいつもと違ってコーフンしますなぁ」

 

「いっ、いやーーー!!」

 

「人の義妹・・・・・・いや、守護者になにしてんだ、コラ!」

 

「ぎゃふっ!?」

 

襲われそうになっていたヤミの姿をした美柑を助けたるため俺は校長を背中から踏みつける。

 

校長を思いっきり蹴飛ばしてしまったが、気を失っているようなので顔とかはバレてないはずだ、多分。

 

「と、トシ兄ぃ!?」

 

「よぉ、ヤミ。 じゃなくて、美柑。 事情は聞いたがその姿は危ないぞ?」

 

ヤミはなんだかんだで暗殺者として働いていたこともあるため地球人には問題ないが、宇宙人には恨みを買っていても不思議ではない。

 

普段のヤミなら撃退できるだろうが、中身が美柑じゃ危ないだけだろう。

 

「ご、ごめんなさい」

 

俺の言葉に怒られたと思ったのか、シュンと俯く美柑。

 

ヤミの姿で俯くその様はなかなか見ることができない姿なので少しドキッとしてしまった。

 

「と、とにかく、危ないから俺も一緒に行くぞ?」

 

「えっ? いいの?」

 

「ヤミが良いって言ったから変わったんだろ? なら、今日くらいは別にいいさ」

 

「ありがと! トシ兄ぃ!!」

 

そう言ってほほ笑みながら俺の腕に抱きついてくるヤミ、じゃなくて美柑。

 

中身は美柑だが、姿がヤミなので普段では見れないヤミの表情などが見れてこれはこれで結構楽しい。

 

「じゃあ、行くか」

 

「うん!!」

 

そうして俺たちは二人で街のあちこちを歩いて回った。

 

ゲーセンで遊んだり、今日の夕飯の買い物をしたりと普段と変わらないことをした。

 

途中で美柑の希望により、変身能力を使うためヤミと戦った神社に行ったりした。

 

「ヤミさんのこの変身能力ってすごいねぇ」

 

「そうだな」

 

そう返事をしつつ、いつも来ているこの神社に俺たち以外に人がきていないような気がするのだが、大丈夫なのだろうか。

 

「楽しかった! ありがとね、ヤミさん!」

 

「いえ、美柑が楽しめたのならそれで」

 

その後、神社での変身能力を充分堪能した美柑は自宅へ帰りヤミと再び入れ替わった。

 

これで元の姿と中身になったのでもうややこしい事態にはならないだろう。

 

「じゃあ、飯にしようぜ。 ヤミも今日は食っていけよ」

 

「そうだね。 ヤミさん、一緒に食べよ?」

 

「わかりました。 よろしくお願いします」

 

こうして俺たちは三人で仲良く美柑が作った夕食を食べた。

 

ヤミはヤミで家での生活を美柑の姿で堪能したらしく、お互いの新鮮な出来事をネタに楽しい時間を過ごしたのであった。

 

 

 

~おまけ~

 

 

トシアキ様の言葉を受けて私は凛や綾とともに車に乗り込みました。

 

「とりあえず、お父様のところへ向かって頂戴」

 

「かしこまりました」

 

運転手へそう告げ、私はジッと先行方向を見つめます。

 

隣では凛は不安そうな表情で、綾もコチラへと視線をチラチラ向けてくるのがわかります。

 

「心配しないで、二人とも。 私は大丈夫ですわ」

 

「はい」

 

「・・・・・・はい、沙姫様」

 

到着したのはこの街にある大きなビルである天条院グループの本社であった。

 

私たちはそのまま建物の中に入り、持っていたカードを通して直通のエレベータへと乗り込みます。

 

「「「・・・・・・」」」

 

三人とも無言のまま、エレベータは目的の場所へたどり着きました。

 

「二人はここでお待ちなさい」

 

「「はい」」

 

凛と綾を置いて私はお父様のいる部屋をノックもしないで大きく開け放ちました。

 

「お父様! お話があります!!」

 

「ふむ、沙姫か。 荷物を纏め終えたのか? ならばすぐに空港に・・・・・・」

 

コチラへ視線も向けず、手にしていた資料を見ながらそう言ったお父様。

 

私は思わずその資料を手で払いのけました。

 

「・・・・・・何をする、沙姫」

 

「お父様こそ、私と話しをするのでしたらコチラを向いてください!」

 

そうして視線を合わせた後、私は言いたいことを伝えました。

 

海外留学はまだする時ではない、この街には大切なものがたくさんある。

 

それに、自分の道は自分で決めて歩きたいと思いつく限りお父様に伝えました。

 

「・・・・・・そうか。 そこまで沙姫が考えているなら私は何も言わん」

 

「なら・・・・・・」

 

「海外留学の件は取り消そう。 今まで通り、この街の学校へ通いなさい」

 

お父様は最後まで難しい表情をしていたけれど、話を聞いてわかってくれました。

 

トシアキ様の言ったとおり、言葉を伝えることは大切なことであると学びました。

 

これでしばらくはまた、三人一緒に学校へ通えそうです。


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