魔法使いのToLOVEる   作:T&G

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第二十四話

「で、これからどうするの? トシ兄ぃ」

 

「どうするかな」

 

俺と美柑は今、現実の世界とは別の世界にある田舎の村に来ていた。

 

いや、来ているというより気がついたらこの世界にいたわけなのだが。

 

「これもララさんの発明品か何かかな?」

 

「まぁ、そうだろうな。 巻き込まれたのが俺たちでよかったぜ」

 

美柑が言ったようにララの発明品が原因という可能性が高い。

 

それに彼女が宇宙人だということを知っている人が殆どいないのだ。

 

そのため、事情を知らない人だとこの状況ではパニックになっていただろう。

 

「むっ、トシ兄ぃは私の心配はしてくれないの?」

 

俺の発言が不満だったのか、美柑は少し頬を膨らませながらコチラを見つめてくる。

 

そんな美柑の表情に苦笑しつつ、俺は美柑の頭を少し乱暴に撫でまわす。

 

「一緒にいるんだから心配する必要なんかないだろ。 守ってやるから安心しとけ」

 

「ちょっ、トシ兄ぃ。 痛い、痛いよぉ」

 

若干涙目になった美柑を余所に俺は改めてまわりを見渡す。

 

村人らしき人間が数人いるのだが、着ている服装が現実のものとかなり違っている。

 

「・・・・・・まさか過去の世界に飛ばされたとかじゃないよな」

 

「あっ! トシアキ君だ!」

 

色々な可能性を考えていると遠くから俺を呼ぶ声が聴こえてきた。

 

視線を向けると、彩南高校の制服を着たルンがこっちに駆け寄ってくる。

 

「・・・・・・女の子の知り合いが多いんだね、トシ兄ぃって」

 

「気のせいだろ」

 

先ほどまで涙目になっていた美柑だが、ルンの姿を見てから俺に向ける視線が鋭くなったような気がする。

 

「よかった、知ってる人に会えて。 さっきからここの人に話しかけてるのに会話が成立しないんだもん」

 

ルンの話を聞くと、どうやらこの村の人たちは同じ言葉しか話さないらしい。

 

「ふ~ん、なんかそれってゲームの村人みたいだね」

 

隣で一緒に話を聞いていた美柑が何となく呟いたその言葉で俺も気がついた。

 

「過去に飛ばされたわけじゃなくてゲームの中に入ったのかよ」

 

思わず呟いてしまったが、そんなことを言っていても何も解決はしない。

 

「とりあえず、行こうか。 歩いていればララに会えるかもしれないし」

 

そういうわけで俺と美柑、そしてルンの三人は揃って村の中を歩き回ることにした。

 

「まぁ! アンタたち旅人かい!?」

 

歩いていると買い物籠を持ったおばさんが話しかけてきた。

 

というかゲームのキャラって自分から話しかけてくることは無かったような。

 

「旅をするなら職業を設定しないと戦いに勝てないよ! 早く転職屋に行きな」

 

「「「・・・・・・」」」

 

俺たちの誰も答えてないのに勝手に話を続けるおばさん。

 

そして、言いたいことを言ったからか、そのまま去って行ってしまった。

 

「・・・・・・とにかく行ってみるか」

 

「・・・・・・そうだね」

 

先ほどのおばさんが言っていた転職屋にたどり着いた俺たち三人。

 

俺は別に転職しなくても大丈夫なのだが、このままではゲームが進行しない可能性がある。

 

「入るぞ」

 

後ろの美柑とルンにそう声を掛けて、俺は転職屋と看板があがっている扉を開いた。

 

「「「ようこそ! 転職屋へ♪」」」

 

同じ顔をした女性に迎えられた俺たちは唖然としたままその場から動けずにいた。

 

「お、同じ顔をした人ばっかり・・・・・・」

 

「グラフィックの使いまわしだね。 ゲームではよくあることだよ」

 

ルンの驚いている横で美柑が冷静に判断して教えてくれる。

 

確かに顔は同じなのだが、体型もと言い胸の揺れ具合が微妙に違う気が。

 

「いてて・・・・・・」

 

「もう! トシ兄ぃ、ジロジロ見ないの!」

 

俺の視線に気付いた美柑が腰あたりを抓ってきた。

 

確かに女性に向ける視線ではないかもしれないが、相手はゲームのキャラだから良いはず、と考えたのは秘密にしておこう。

 

「―――設定しますか?」

 

「えっ? あ、はい」

 

俺が色々と考えたりしている内に何やら説明をしてくれていたらしい。

 

そして、最初から最後まで話を聞いていたルンがそう返事をした瞬間、俺たちの服装が変化した。

 

「これは、本?」

 

現代の服装からハーフパンツ、薄着の服とマントを着ている美柑。

 

表示されている文字を見ると『賢者』となっている。

 

「こんな格好、恥ずかしいよぉ。 あ、でも、トシアキ君になら・・・・・・」

 

そう言いながら何やら頬を赤らめているルン。

 

彼女は水着のように胸と下部だけが隠れており、後は地肌が見えている格好だ。

 

他にも腰に剣を付けており、表示は『戦士』となっていた。

 

「それに比べて俺はなんだよ・・・・・・」

 

全身が黒一色に統一された服装でマントまで黒色である。

 

現代にいたら不審者で通報されてもおかしくないような格好だった。

 

「しかも、剣があるけど俺の職業って何だよ・・・・・・」

 

腰には剣があり、懐には短剣やクナイのようなものがあるが表示は『謎の男』だった。

 

「剣があるってことは『戦士』ってことか? でも、暗器もあるし・・・・・・」

 

「職業は自動で設定されます♪」

 

何でも楽しそうに言いやがって、一度こいつらを切り倒してやろうか。

 

などと考えたのだが、早く元の世界に戻る方が大切なので俺たちは先を急ぐことにした。

 

 

 

***

 

 

 

田舎の村から出た俺たちはとりあえず、大魔王が居るという北の大地を目指して歩きだしていた。

 

「大魔王ねぇ・・・・・・案外、ララがラスボスなのかもな」

 

「ララさんならあり得るね。 でも、それだと簡単に攻略出来るんじゃない?」

 

ただ無言で歩いているのも何なので話を振ってみたが、美柑から意外な答えが返ってきた。

 

ララが大魔王だと簡単というより、メチャクチャ苦労しそうな気がするのだが。

 

「だって、ララさんがトシ兄ぃの敵になるなんてありえないでしょ?」

 

「そうね、そんな気がするわ。 ララはトシアキ君の敵には絶対にならない」

 

美柑の言葉にルンも納得しているのか、腕を組みながら頷いている。

 

「そうか? あいつなら面白そうとか言って・・・・・・っ!?」

 

話の途中で森の中から一つ目の化物が三体ほど現れた。

 

おまけに俺の視線の先には『敵が現れた』という文字まで見える。

 

「ってか、『敵が現れた』って表示がでるのかよ!?」

 

「任せて、トシアキ君」

 

一人でツッコミを入れている俺を守るようにして立ったルンは腰にある剣に手を伸ばし、そのまま相手に切りかかった。

 

切りつけた化物が倒れ、『敵を倒した』の表示が目の前に現れる。

 

「もう、表示はいいって!!」

 

毎回そんな表示が出てくると流石に鬱陶しくなってきた。

 

全ての表示を振り払うかのようにして俺は敵に向かって走り出す。

 

そしてルンと同じように腰にある剣に手を伸ばしてそのまま切りかかる。

 

「ん? これ、抜けない?」

 

敵の前まできて気付いたが、腰にある剣は鞘から抜けず『攻撃できない』の表示が。

 

「いい加減にしろよ!?」

 

「トシ兄ぃ、危ない!!」

 

俺が攻撃出来ないことに気付いた美柑が持っていた本を読みながら叫ぶ。

 

すると、美柑の手から大きな炎の龍が現れ、そのまま敵に襲いかかった。

 

全ての化物はこの場からいなくなり、先ほどまで化物が居た位置にはお金が落ちていた。

 

「本当にゲームなんだな・・・・・・」

 

「び、びっくりした」

 

「今の凄かったね」

 

などと会話をしつつ、このゲームの進め方を少しずつ理解していった。

 

敵を倒し、お金を拾い、レベルが上がり、その頃には二人に疲労の色が見えてきた。

 

「けっこう歩いたね」

 

「確かにな。 そろそろ休みたいところだが・・・・・・」

 

「あっ、街が見えてきたよ」

 

休みたいと思っていた矢先にルンが街を発見し、俺たちは揃って街に入った。

 

休める場所を探して街中を歩き、すぐに見つかった宿屋に入ったのだが、二名用の客室しか空いていなかった。

 

「美柑とルンで部屋を使ってくれ。 俺は外で寝るから」

 

女の子と一つ屋根の下くらいなら問題ないが、同じ部屋で寝ることまでは流石に出来ない。

 

俺自身は昔、旅をしていたこともあるので外で寝るのには特に抵抗はない。

 

「も、もしよかったら一緒に寝る? この際だし、別にいいけど・・・・・・」

 

そう提案してくれた美柑だが、彼女も立派な女の子だ。

 

いくら義兄妹だからと言って一緒に寝るわけにもいかない。

 

「気にするな。 二人はベッドでゆっくり休んでくれ」

 

そう言い残して俺は宿屋の外へと出て行く。

 

振り返ったその時に見えた美柑の顔が少し残念そうに見えたのは気のせいだと思っておこう。

 

「・・・・・・少し冷えるな」

 

宿屋から離れるわけにもいかないので、俺は屋根の上で月を眺めながら休息をとっていた。

 

「ん?」

 

眺めていた月からコチラに向かって何かが近づいてくる。

 

近づいてきたのは黒い帽子と黒いローブを纏い、ホウキに乗った女の子だった。

 

「なんでもかんでも燃やして解決! マジカルキョーコ参上!!」

 

「いや、燃やして解決って、ダメだろ」

 

思わずツッコミを入れてしまったが、彼女も恐らくゲームのキャラなのだ。

 

イベントが進むだけで、会話が成立するわけはないと思っていたのだが。

 

「こんばんは、結城トシアキ君」

 

「俺の名前を知って・・・・・・」

 

最後まで言い終わる前にホウキから降りた彼女は俺の上に跨ってくる。

 

そして、纏っていた黒いローブの前の部分を外し始めた。

 

「・・・・・・何て格好してんだよ」

 

黒いローブの前を外すとそこには下着のようなものしか着けておらず、色々と際どい格好だったのだ。

 

「これはレアアイテムのギリギリ下着。 トシアキ君にサービスしようと思って着て来たんだ」

 

そう言いながら彼女は胸を押しつけるように前かがみの姿勢になる。

 

「トシアキ君、ララちゃんの居場所知りたい?」

 

「ララを知ってるのか?」

 

思わぬ所で思わぬ人物からララの情報が聞けそうだ。

 

この話を聞くと大魔王の居る北の大地まで行かなくても済みそうだ。

 

「もっちろん。 だってキョーコが大魔王なんだもん」

 

「・・・・・・」

 

話を聞いているとどうやらララは今、彼女の城に捕らわれているらしい。

 

大魔王であるマジカルキョーコを倒してララを救うのがゲームを攻略する方法のようだ。

 

「ただし、キョーコは最強キャラだからトシアキ君たちが勝つのはまず無理なんだよね」

 

「殺ってみるか?」

 

目の前にいるキョーコに殺気をぶつけてみたが、彼女は特に反応は示さない。

 

「怖い顔もカッコイイね。 で、ここからが本題」

 

俺の殺気に反応を示さないのはゲームのキャラだからか、それとも本当に俺より強いため殺気と感じなかったのか。

 

「キョーコはトシアキ君がカッコイイので、特別扱いをしたいと思います」

 

「特別扱い?」

 

「ララちゃんを見捨てて、トシアキ君がキョーコのモノになるなら元の世界に帰してあげるよ」

 

キョーコがそう言い終わると同時に、彼女の身体が俺の上から素早く空中に移動していた。

 

「あっぶないなぁ。 キョーコとトシアキ君の邪魔しないでよ」

 

「私の依頼人に何をしているのですか」

 

声がする方へ視線を向けると、ヤミが戦闘状態でそこに立っていた。

 

ちなみに彼女の格好は何故かスカートが短いメイド服であり、出ている表示は『守護者』。

 

「・・・・・・格好と表示が一致してないな」

 

などと考えている内にヤミも空中に飛び上がり、キョーコへ攻撃を仕掛ける。

 

「まぁ、途中で邪魔が入ったけど考えてね、トシアキ君。 キョーコは大魔王の城で待ってるから」

 

そう言い残してヤミから逃げるようにして飛んで行く大魔王ことキョーコ。

 

「逃げられました」

 

キョーコが去ったあと、俺の隣に静かに降り立ったヤミ。

 

スカートが短いため、降りたったときに可愛らしいものが見えたのは秘密だ。

 

「しかし、ヤミもこの世界に来てたんだな」

 

「はい、気付いたらここに。 転職屋に行ったらこのような姿になりました」

 

短いスカートを持ちあげながらそう言うヤミ。

 

「まぁ、格好は確かにアレだけど、表示が『守護者』になってて今のお前にピッタリだな」

 

「・・・・・・そう、ですか」

 

俺の言葉をかみしめるようにゆっくりと頷くヤミ。

 

今までのこともあり、色々と思うところがあるのだろう。

 

新たにヤミという仲間を加えて、俺たちはマジカルキョーコの居る大魔王の城を目指すことになった。

 

 

 

~おまけ~

 

 

部屋から出て行ったトシ兄ぃの背中を見つめながら私は少し残念に思った。

 

「もう、トシ兄ぃのバカ」

 

私のことを女の子として扱ってくれるのは嬉しいけど、妹なんだし一緒に寝るくらい気にしなくてもいいのに。

 

「そう言えば、お母さんがライバルが多いって・・・・・・」

 

そう考えながらルンさんに視線を向けると、彼女もトシ兄ぃが出て行ったことを残念がっているように見えた。

 

「・・・・・・」

 

そのまま彼女の姿を見ていると、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。

 

まさにモデルとかアイドルとかの女の子の体型だった。

 

それに比べて私は背も小さいし、胸も小さい。

 

「はぁ・・・・・・」

 

思わず自分の胸に手をあててため息を吐いてしまった。

 

「でも、一番長くトシ兄ぃの傍に居られるし・・・・・・」

 

とそこまで呟いた所で、最近はララさんがウチに居候しているので私だけの特権ではなくなっていることに気付く。

 

それにララさんの体型も宇宙のお姫様に相応しい立派なものだった。

 

「・・・・・・うん、がんばろ」

 

私は小さい声で気合を入れて、これからも頑張ってトシ兄ぃにアピールしていこうと密かに思うのであった。


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