魔法使いのToLOVEる   作:T&G

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第二十一話

今日の風呂での騒ぎがあってから俺はリビングでテレビを見ていた。

 

俺が最後に風呂から出たはずなのに、リビングには誰もいなかったのである。

 

「まぁ、騒ぎすぎて疲れて寝たのかもしれないな」

 

特に面白くもない番組を見ながらそう呟いた俺はテレビを消すことにする。

 

「やっぱり、ヤミさん! ピッタリだね、そのパジャマ」

 

「ゆったりした服は落ち着かないです。 それに、この間のこともありますし」

 

「ごめんね、私までララさんのパジャマ借りちゃって」

 

「いいよ、いいよ♪」

 

テレビを消したのと同時くらいに扉が開いて四人がパジャマ姿で現れた。

 

どうやら、二階の部屋で着替えていたらしい。

 

「だってララさん、めったにパジャマなんて着ないもんね」

 

「えっ? そうなの?」

 

「最近はちゃんと着てるよ。 だって裸だとトシアキが怒るんだもん」

 

そりゃそうだろう、家族同士でも問題がありそうな年頃なのに他人で許されるわけなどない。

 

「・・・・・・そろそろ寝ようぜ。 風呂に入ってたらもうこんな時間だ」

 

時計の針は既に十一時を過ぎており、小学生の美柑がいつも寝ている時間を過ぎている。

 

「そうだね。 じゃあ、ヤミちゃんは美柑の部屋で春菜は私と一緒に寝ようね!」

 

「じゃあね、トシ兄ぃ。 おやすみ」

 

ララがそう言いながら皆に話している横を通って、美柑がトコトコと俺の傍までやってきた。

 

「おう、おやすみ。 美柑、今日もありがとな」

 

「えへへ・・・・・・」

 

最近日課になりつつあるのが、美柑の頭を優しく撫でてやることだ。

 

いつも食事の準備や洗濯、さらに掃除までしてくれている美柑に何かして欲しいことはあるかと聞いたときに返ってきた答えがコレだったのだ。

 

「・・・・・・」

 

「ん? どうかしたのか、ヤミ」

 

本当は家事の手伝いで何かして欲しいことがあるかと聞いたつもりだったのだが、予想外の答えに最初は戸惑っていたことが懐かしい。

 

今では寝る前や学校に行く前に自然とすることが多くなってきた。

 

「・・・・・・いえ、別に」

 

美柑の頭を撫でているとヤミからの視線を感じたので聞いてみたが、本人は特に用はないらしい。

 

だが、視線は相変わらずコチラに向けているので気になってしまう。

 

「別にって言われてもなぁ・・・・・・」

 

考えながら視線をもう一度辿ってみると、どうやら美柑の頭に集中しているような気がする。

 

「ヤミ、こっちに来い」

 

「なんですか?」

 

理由を何となく思いついた俺はヤミをもう片方の手で手招きして呼び寄せる。

 

ヤミは何の疑いもなく用を尋ねつつもコチラへやって来た。

 

「ヤミもおやすみ。 それといつもありがとな」

 

「あっ・・・・・・い、いえ、別に構いません」

 

近づいてきたヤミにおやすみの言葉を言いつつ、いつも護衛をしてくれていることに対して感謝の気持ちを込めて頭を撫でてやった。

 

最初は驚いた様子だったが、今では大人しく俺のなすがままに頭を撫でられているヤミ。

 

「ほら、二人とも寝て来い」

 

「「あっ・・・・・・」」

 

頭を撫でる手を放すと二人とも残念そうな声を上げていたが、気にせずそのまま二階へと追いやった。

 

「まったく、美柑もまだ子どもだし、ヤミまで・・・・・・」

 

「じゃあ、トシアキ。 私たちも寝るね」

 

「お、おやすみなさい、結城君」

 

次いで、ララと西連寺もそう言ってから二階へと上がって行った。

 

リビングに残された俺は電気やガスなどを確認してから自分の部屋へ向かう。

 

「・・・・・・さて、そろそろ寝るか」

 

自分の部屋に戻ってから予習や復習を簡単に済ませ、ベッドに入る。

 

よく遅刻やサボりをしてしまっているため、たまにこういった勉強が必要なのだ。

 

「ん? セリーヌか?」

 

ララが誕生日プレゼントにくれた花であるセリーヌの声が聞えた気がした。

 

だが、『精霊』を通してしか言葉が聞き取れないので、こうして家の中に居たりするとセリーヌが何を言っているのかがわからないのだった。

 

「少し見て来るか」

 

いつもは大人しいセリーヌがこんな時間に声を上げているのを聞くと、何かあったのかと思ってしまう。

 

「泥棒や強盗ならいいが、宇宙人が相手だとマズいからな」

 

念の為、ヤミにも協力してもらおうと考えて美柑の部屋に入る。

 

「ん? ヤミがいない?」

 

ヤミも何か異変に気付いて目が覚めたのかと考えて部屋に足を踏み入れた。

 

「うおっ!?」

 

その瞬間、横からヤミの変身能力で強化された髪が俺の目の前を掠めていった。

 

「あっぶねぇ、いないと思って油断してたぜ。 ヤミは立ったまま寝てるのかよ」

 

思わず苦笑いを浮かべてしまった俺はソッと冷や汗を拭いとる。

 

しかし、ヤミが寝ているままということは特に危険はないと考えることもできる。

 

「侵入者を無意識で攻撃とか、可愛い寝顔のわりに怖い奴だな」

 

ヤミがこの部屋に居る限り、ここは安全だろう。

 

俺も昔は同じようなことが出来たはずなのに今ではソレが出来ない。

 

「・・・・・・やっぱり、平和な世界にいるとこうなるのかな」

 

そう呟きながら美柑の部屋から退出することにした。

 

「きゃっ!?」

 

「おっと、大丈夫か? 西連寺」

 

美柑の部屋からでたところで、西連寺とぶつかってしまったので慌てて抱きとめる。

 

そのときに触れてしまった身体はいつもより薄い生地の所為で柔らかく、そして温かく感じる。

 

「ゆ、結城くん?」

 

驚いていた西連寺だが、相手が俺だとわかると落ち着きを取り戻して俺の腕から離れる。

 

「こんな時間にこんなところでどうしたんだ?」

 

「寝つけなくて、お水を飲みに下に降りようと思ったの」

 

やはり他人の家、しかも男のクラスメイトの家だとなかなか寝付けなかったようだ。

 

「そうか。 なら俺も付いて行くよ。 少し気になることもあったし」

 

「気になること? それってさっき騒がしかった外の・・・・・・」

 

どうやら西連寺にもさきほどのセリーヌの声が聞えていたらしい。

 

「あぁ。 もしかしたら泥棒や強盗の可能性もある」

 

「ど、泥棒!?」

 

本当はそんな奴らより、何をしてくるかわからない宇宙人の方が怖いのだが、西連寺にそれを言うわけにもいかないので黙っておく。

 

「だから、部屋に戻っていてくれないか? 俺が様子を見て来るから・・・・・・」

 

「そんな! 危ないわ、結城君。 私も一緒に行く」

 

真剣な表情でそうはっきりと言われてしまったので、俺は勢いで頷いてしまった。

 

そして、二人揃って階段をゆっくりと降りて行く。

 

「っ!?」

 

リビングから聞えてきた物音に西連寺がビクッと身体を震わして俺の右腕を掴む。

 

というか、怖いなら部屋に戻っていてくれれば楽に済むのだが。

 

「こ、こっちに近づいてくるわ」

 

物音が止んだかと思うと、今度は足音が聞えてきて、コチラに近づいてくるのがわかる。

 

「とにかく隠れるぞ、こっちに」

 

ブルブルと身体を震わす西連寺を引っ張って行き、階段下の倉庫へ身を隠す。

 

その時に俺は素早く西連寺の手を振りほどいて、後ろから抱締めるようにして口を塞ぐ。

 

「っ!? んん!! んんん!!?」

 

「静かにしろ、西連寺。 ジッとしていれば絶対に見つからないから」

 

西連寺と身体を密着させた俺は『精霊』の力を借りて気配を完全に遮断する。

 

今の俺たちはただの置物のように感じられるはずなので動いたり音をたてたりしなければ大丈夫なはずだ。

 

もっとも、視覚まで誤魔化せるわけではないので、目で見られてしまうとわかってしまうのだが。

 

「「・・・・・・」」

 

しかし、肝心の足音は廊下を行ったり来たりとしているのが聞える。

 

何かを探しているのか、それとも何処にいけばいいのかわからないのか。

 

そんな中で俺は目の前にある西連寺の頭からのシャンプーの良い匂いで色々なモノが限界に近付いてきた。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

年下とは言え、今は同じ学年で通っている女の子である。

 

しかも見た目は可愛い美少女であるし、パジャマという薄い生地越しに伝わってくる温もりも長時間耐えられるものではない。

 

「・・・・・・ごめん、西連寺。 もし見つかっても俺が絶対に守ってやるから」

 

「・・・・・・えっ? きゃっ!?」

 

西連寺の身体を押し倒すようにして俺は自分の身体を廊下へ飛びださせた。

 

「なんだてめぇ!!」

 

身体を廊下に出した途端、聞えてきた声はどこかで聞いたことのある声だった。

 

「ん?」

 

視線を上げてみると、日本酒の瓶を持ったままフラフラと歩いている親父の姿がそこにあった。

 

「さてはてめぇ、泥棒だな? おりゃあぁあぁ!!」

 

「おっと!?」

 

酔っぱらっているためか、俺のことを認識出来てないようでその言葉と共に殴りかかってきた。

 

俺はとりあえず避けて、会話が出来るか試みる。

 

「親父、俺だよ。 いきなり殴るのはどうかと・・・・・・」

 

「とりゃあぁあぁ!!」

 

今度はコチラの言葉を聞かずにとび蹴りを放ってきたので、流石の俺もカチンときた。

 

「いい加減にしやがれ、このクソ親父!」

 

「へぶっ!?」

 

とび蹴りの後に着地した隙を狙って後ろから思いっきり殴ってやった。

 

日本酒を瓶ごと飲んでいた酔っぱらいを退治した俺はとりあえず瓶を取り上げ、リビングのソファに放り込む。

 

「・・・・・・悪いな、西連寺。 どうやら泥棒でも強盗でもなく酔っぱらいだったようだ」

 

廊下で今までの様子を唖然と見ていた西連寺にそう声を掛ける。

 

しかし、母親に続いて親父にまでこんなことをされたら呆れるのも納得がいく。

 

「ゆ、結城君のお父さんだったんだ。 何もなくてよかった・・・・・・」

 

だが、西連寺に呆れた様子はなく、俺の親父だったことに心から安心していた。

 

「・・・・・・とにかく、水を飲んでゆっくり休もうぜ」

 

それから最初の目的通り、西連寺が水で喉を潤して二階の廊下で別れた。

 

ちなみに親父はリビングのソファでいびきをかいて寝ている。

 

そのまま放置してやろうかと思っていたのだが、心優しい西連寺の言葉で俺はしぶしぶ毛布をかけてやることになった。

 

結局、その後は特に問題もなく夜を眠って過ごし、朝にはヤミも西連寺も帰って行った。

 

帰るときに西連寺が楽しそうに笑っている姿を見て、どこか安心している俺がいたのだった。

 

 

 

~おまけ~

 

 

ララさんと一緒の部屋で寝ているけど、隣の部屋には結城君がいる。

 

そう考えると私は緊張してしまってなかなか眠ることが出来なかった。

 

「・・・・・・お水、貰おうかな」

 

隣で寝ているララさんを起こさないように立ちあがった私はそのまま廊下に出る。

 

自分の家じゃないから、手探りでゆっくりと階段の所まで進んでいく。

 

「きゃっ!?」

 

少し進んだ所で何かにぶつかって、倒れそうになってしまう。

 

「おっと、大丈夫か? 西連寺」

 

倒れた時の衝撃を予想して閉じていた目を開くと、そこには結城君の姿があった。

 

「ゆ、結城君?」

 

どうやら結城君は倒れそうになった私を抱えてくれたらしい。

 

触れられた手に緊張しながら自分の足で崩れていた姿勢を戻す。

 

それから眠れなかったことや部屋を出て来る前に聞えた騒がしい声のことを話した。

 

どうやら、泥棒や強盗のような人が家に入って来ている可能性があるらしい。

 

「だから、部屋に戻っていてくれないか? 俺が様子を見て来るから・・・・・・」

 

結城君が私のことを心配して言ってくれているのはわかった。

 

「そんな! 危ないわ、結城君。 私も一緒に行く」

 

でも、私は思わずそうはっきりと言ってしまった。

 

自分でも怖いという気持ちがあるのに結城君が一緒にいると不思議と大丈夫なような気がする。

 

だから私はきっとそういう風に言ってしまったんだと思う。

 

それから二人で一階に下りて、入って来ていた人の足音が聞えた途端、今までの緊張が一気に押し寄せてきた気がした。

 

「とにかく隠れるぞ、こっちに」

 

結城君の腕を掴んでいたのでそのまま引っ張られるようにして階段下にあった倉庫へ入ることが出来た。

 

「っ!? んん!! んんん!!?」

 

「静かにしろ、西連寺。 ジッとしていれば絶対に見つからないから」

 

そのあと、いつの間にか私の後ろにいた結城君に口を塞がれて、耳元でそう囁かれたときには驚いてしまった。

 

「「・・・・・・」」

 

足音が廊下を行ったり来たりとしているのが聞える。

 

そんな中で私は結城君に後ろから抱きしめられ、口を塞がれた状態でいる。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

結城君の鍛えている身体や温もりに私は知らないうちに落ち着くことが出来ていた。

 

「・・・・・・ごめん、西連寺。 もし見つかっても俺が絶対に守ってやるから」

 

そんなときに後ろ聞えてきた結城君の言葉に思わずドキッと胸が熱くなる。

 

「・・・・・・えっ? きゃっ!?」

 

そして、そのまま前に押されて廊下へ身体を飛びださせてしまった。

 

でも、飛びだした後に私を庇う位置で立った結城君の後ろ姿を見て、緊張とは違ったドキドキが私の中に残っているのであった。


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