「きゃあぁあぁあぁ!?」
「落ち着け、西連寺。 ただのネズミだ」
俺の隣を歩いていた西連寺が急に叫び声を上げたため、俺は原因を教えてやる。
訳がわからないモノが怖いなら、訳がわかるモノだと教えてやれば少しはマシになるだろう。
「大丈夫? 春菜」
「う、うん。 なんとか・・・・・・」
一番前を歩いていたララがコチラへ戻って、叫んでいた西連寺を心配する。
「別に大したこと起きないよね」
「やっぱり、ただの噂なのかもね。 幽霊って」
一番後ろにいた籾岡と沢田がそう話しているのでわかるように、俺たち五人は幽霊を探しに旧校舎にやって来ている。
昼休みに幽霊騒ぎがあったと女子たちの間で話題になり、本当かどうかを放課後に確かめに来たというわけだ。
「じゃあ、もう戻るか? 今はまだ大丈夫だが、夜になればここも暗く・・・・・・」
そこまで言った所で、俺は隣の部屋にいる気配に気がついた。
足音も聴こえたため、他の四人も誰かが居るということに気付いたようだ。
「き、聴こえた?」
「う、うん・・・・・・」
先ほどまで普通に話していた籾岡と沢田も緊張してきたのか、静かな声に切り替えている。
西連寺はララの腕を掴みながら目を閉じ、プルプルと肩を震わせていた。
「・・・・・・」
近づいてきた足音は扉の前まで来ると一時的に止まってしまう。
そして、足音の代わりに扉を勢いよく開ける音が響き渡った。
「・・・・・・って、金色の闇かよ」
「結城トシアキ、このようなところで何を?」
開け放たれた扉から現れたのは元暗殺者で現護衛者こと金色の闇であった。
彼女は驚いた表情をしながらもトコトコと傍にやって来る。
「きゃー、可愛い!!」
と、俺の傍へたどり着く前に目の色を変えた沢田に抱きしめられていた。
「ほんと、綺麗な髪。 凄くサラサラしてる」
籾岡も金色の闇の髪を触りながら、感心しつつ羨ましそうに見つめていた。
「ねぇ、トシアキ。 この娘、誰なの?」
「そうよ、結城! こんなに可愛い子と知り合いなんて何をやったのよ!」
そういえば俺以外では金色の闇のことを知らなかったのだ。
しかし、ララの質問はわかるんだが、なぜ沢田に怒られなければならないのだろうか。
「こいつは『金色の闇』って名前でちょっとした事件で知り合ったんだよ」
ララになら宇宙人について言ってもいいが、流石に西連寺たちがいる前では言えないのでそう言っておく。
「ふーん、じゃあ、ヤミちゃんだね!」
今まで俺は金色の闇と呼んでいたが、ララが言ったヤミという方が呼びやすい。
なので、俺も今度からはそう呼ぶことにしよう。
「・・・・・・何かいます」
俺がそんなことを考えていた間に、沢田と籾岡の傍から離れて俺の前まで移動していたヤミ。
彼女がそう言いながら俺の前に来たということは未知の存在から俺を守るために移動してくれたようである。
「サンキューな、ヤミ」
「・・・・・・・・・こんなときに頭を撫でないでください」
丁度、目の前にヤミの頭があったのでお礼を言いつつ、その頭を撫でてやる。
「あなたたち! ここは校則で立入禁止のはずでしょ!?」
ヤミが警戒していた方から大きな声で怒鳴りつつ現れたのは古手川であった。
「あはは、ちょっとビックリしちゃった」
「ほんと、私も驚いちゃった」
籾岡と沢田も突然大声で怒鳴られて驚いたようだが、相手が人だとわかると安心したように談笑を始める。
「西連寺さん! クラス委員のあなたがいながら・・・・・・」
そう言いながら近づいてくる古手川だったが、俺たちの傍まで寄って来た瞬間、床が大きな音を立てて割れ、下の階へ落下することになった。
「っと! 危なくない程度に保護を頼むぜ」
沢田と籾岡、西連寺と古手川の落下速度が緩くなって静かに下へ着地する。
ヤミとララ、俺は持ち前の運動力で負担がかからないように地面に降り立つ。
「・・・・・・あれ? 痛くない」
「ホントだ」
不思議がっている四人には悪いが、俺の正体を明かすわけにはいかないので知らない振りをする。
「そんなことより、さっきみたいなこともあるから出るぞ。 危なくて怪我でもしたら大変だからな」
俺はそう言いながら歩き出すが、誰も後ろに付いてこようとしない。
仕方なく俺は振り返ってみると、皆が俺のことを見たまま固まっていた。
「な、なんだよ?」
「いやぁ、結城がそんな風に考えてくれてるのが意外でさぁ」
「うんうん。 ここに来たのもララちぃに連れてこられたからと思ってたんだけど・・・・・・」
確かに女の子だけでは何かあった時に危険だと思い、ララに付いていく形でこのグループに混ざったのだ。
「えっ? 私は何もしてないよ?」
つまり、今回はララに連れられてではなく自主的に付いてきたというわけだ。
「いいから行くぞ! 付いてこないならもう知らん」
籾岡や沢田、それに古手川からの視線が少し優しいものに変化してきた気がしたが、俺は構わずにそのまま通路を進んでいく。
そんな俺の様子を見て女の子たちは笑いながらもキチンと付いてくるのであった。
***
「というわけで、もう一度戻って来たわけだが」
あれから一度外へ戻り、皆が帰るのを確認してから俺は再び旧校舎へとやって来ていた。
偶然出会ったヤミや古手川の他にも気配を感じていたためである。
しかも、敵意や悪意の類だったため流石に巻き込むわけにもいかなかったのだ。
「巻き込むか・・・・・・結構気に入ってるのかもな、この世界も」
自分の考えに対いて色々と思うところがあったが、今は目の前のことに集中する。
「アイツのために頑張るか。 っと、そろそろ戻ってくるかな」
「結城トシアキ」
俺の呟きと共に現れたのは金色の闇ことヤミである。
彼女には旧校舎の周りを見に行ってもらい、他に異常がないか確認して貰っていたのだ。
「おかえり。 どうだった?」
「はい、特に異常は見当たりませんでした。 ただ、やはり建物の中から時々視線を感じました」
さすがに裏の世界で生きていたヤミである。
俺と同じように他人の気配や自分に向けられる視線を感じられるようだ。
「そっか。 俺だけだったら間違いの可能性もあったが、ヤミも感じたんなら・・・・・・」
「はい、この建物に何かいます」
二人揃って覚悟を決めた所で旧校舎に向けて足を進めた。
先ほど落ちてしまった穴まで辿り着き、再び飛び降りる。
着地した俺たちは背中合わせに周囲を警戒し、何も異常がないことを確認した。
「っと、さすがだぜ、ヤミ。 俺との相性いいじゃん!」
「・・・・・・私は今まで一人でしたから、あなたが私に合わせてくれたのでしょう?」
確かにその通りなのだが、即席のコンビにしては悪くないと思う。
つまり、それほど相性がいいという意味で言ったのだが。
「っ!?」
突然、ヤミの髪が刃物の形に変わったのを見て、俺の発言で機嫌を損ねたのかと心配していたのだが。
「本? それに椅子や靴まで・・・・・・」
どうやら俺の背後から飛んできていた物を代わりに切り落としてくれていたらしい。
流石に刺されることはないと思ったが、それでも驚いたことには変わりない。
「いや、マジでビックリしたんだけど・・・・・・」
「もっと警戒してください、結城トシアキ。 そんなことでは・・・・・・」
俺に説教するように話すヤミの後方にある、落ちてきた穴の傍から視線を感じた。
しかし、ヤミは俺の方を見ていて気が付いていないようだったので、俺が代わりに攻撃しておく。
「きゃっ!?」
穴の傍を『精霊』の力である風の刃で攻撃すると、そこから人が落ちてきた。
「って、ララ。 お前、何してんだよ」
落ちてきたのは先ほど西連寺たちと一緒に帰ったはずのララで、今度は上手く着地出来ずに尻もちをついていた。
「だってぇ、気付いたらトシアキがいないし、探しに戻ってきたらヤミちゃんとここに入って行くし、気になって」
好奇心の強いララのことだから、また旧校舎に調べに行くと言ったら付いて来そうだったので何も言わずに帰らせたんだが。
「まぁ、仕方ないか。 その代り、危なくなったら逃げろよ? お前は一応、お姫様なんだからな」
付いて来てしまったのならば仕方ない。
ララに何かあった時にギドに何を言われるかわかったものじゃないが、ララ本人の意思を尊重して、とか言えば何とかなるだろ。
「愚かな奴らめ、大人しく出ていけばよかったものを・・・・・・」
そんな声が聴こえてきたのは突然だった。
建物から響いて聴こえたその声はどうにも人のものとは思えない。
ヤミ、ララ、俺の三人があちこちに視線を向け、声の主を探していた。
「っ!?」
死角から現れた触手によってヤミが捕まってしまい、壁を破壊してソイツは現れた。
「ぐははは! 思い知らせてやるわ!!」
一つ目でタコのように手足となる触手が八本生えている巨大生物が現れたのだ。
やはりこの旧校舎に何か居たという事実と、今まで見たことない生物に対しての驚きで動きが止まってしまう。
「ヤミちゃん!」
ララの叫ぶ声でハッと我に返った俺はヤミに自力で脱出できないか尋ねる。
彼女の変身能力は髪でも可能なので身動きが取れなくても何とか出来るだろうと考えていた。
「ヤミ! お前一人でなんとかなりそうか!?」
「すみません。 私、こういうニュルニュルしたのが苦手で・・・・・・」
今にも気を失いそうな弱々しい声で返事をしてきた。
どうやら気を失いそうになるくらいに苦手らしい。
「きゃっ!? 放してよ!!」
俺がヤミと会話している間に巨大生物の触手がララの身体を捕まえたようだ。
しかし、女の子ばかり捕まえているが、奴は女にしか興味がないのか。
「最後はキサマだ!」
「っと! そう簡単に捕まるかよ」
どうやら捕まえる順番に特に意味はなかったらしい。
俺を捕まえようとしてきたので、とりあえずバックステップで回避する。
「くっくっくっ、逃がさないぜ」
「ここも通さねぇよ」
何処から現れたのか、両側から別の生物たちがゾロゾロと歩いてくる。
半魚人や狼男など、人のように二本足で歩いているが顔や身体が人とは違う。
「ぐははは! これでお前も終わりだ!!」
目の前にいる巨大生物が四本の触手を使って攻撃してきた。
「本当にこの世界に自然があってよかったよ。 じゃないと・・・・・・」
迫って来ていた四本の触手が俺の身体に触れる前にズタズタに切り刻まれる。
「えっ? ぎゃあぁあぁあ!!」
「俺が『魔法』を使えないからな!」
四本の触手を失った巨大生物は痛みのためか、捕まえていたヤミとララを放して暴れている。
「ひっ!? に、逃げろ!」
「アイツは化物だ!!」
ゾロゾロと集まっていた生物たちも仲間がやられているのを見てか、怖気づいて逃げ出そうとする。
「逃がさないけどな」
ヤツらが逃げようとした道が地面から出てきた土の壁に遮られる。
勿論、これも俺が『精霊』の力を借りて行っていることだ。
「さて、次の誰は相手だ?」
逃げ場を失い、恐怖で怯えている生物たちをどうしてくれようかと思考を切り替えた。
「あらあら、何の騒ぎかと思えばあなたたちだったのね」
「あっ、御門先生」
ララの言葉で俺は誰がやって来たのか知り、攻撃の思考を中断して手を止める。
「ミカド?」
「あの、有名なドクター・ミカド!?」
御門先生の存在を知っているということは、どうやらこの生物たちは宇宙人らしい。
話を聞くと、宇宙でリストラになって住む場所を探している内にここにたどり着いたようだった。
「ふふふっ、あなたたち、この子たちに手を出してよくそれだけで済んだわね?」
「「「えっ?」」」
御門先生は俺に切り刻まれた巨大生物の手当てをしつつ、微笑みながら話す。
「デビルークの姫と殺し屋の金色の闇!?」
今まで相手にしていたのがどのような人物だったのか、知らなかったらしい。
銀河を統一した王の娘や殺し屋に自分から手を出す奴はいないだろう。
「それに、この子は最近有名のデビルーク王の次期後継者よ? 他の有力な候補者を次々と撃退してるんだから、切られるだけで済んでよかったわね」
いつの間にギドの次期後継者になったんだよ。
さすが銀河を統一した男、ララのためにそういう噂を一瞬で広めやがったな。
「こ、殺さないで・・・・・・」
「ごめんなさいぃ! 許してくださいぃ!!」
俺たちのことを聞いてか、宇宙人たちはみるからに怯え出して泣きながら謝ってきた。
「やだ、そんなことしないよ」
謝られているララは笑いながら否定していたが、ザスティンの耳に入れば現実になっていた可能性もある。
「とにかく、これで無事に解決か」
ここに居た宇宙人については御門先生に任せることにして、俺は胸を撫で下ろす。
皆から少し離れた位置に置いてあった椅子に腰を掛けながら、誰もいない隣に話しかける。
「これで静かになるだろ?」
「はい、ありがとうございます。 トシアキさん」
そこには薄らと浮かぶ着物をきた女の子の姿があった。
彼女はここに住んでいる幽霊で、最近は宇宙人たちが住みついて静かに過ごせなかったらしい。
「そういや、名前を聞いてなったな」
「申し遅れました。 私、この地で四百年前に死んだお静といいます」
こうしてまた新しい知り合いが増えた。
この世界に来てから色々な経験や体験ができて意外と満足している俺だった。
~おまけ~
私の名前はお静。
ここで四百年くらい幽霊をやっています。
いつもは静かで良い場所なのですが、最近は変わった人たちが住んでしまい、静かに眠ることができなくなりました。
「いいから行くぞ! 付いてこないならもう知らん」
そんな言葉を言いながらコチラにあるいて来きたのは人間とは違う感じがする人でした。
「ん? お前、幽霊か?」
「ひゃい!?」
なんと、まだ外が暗くないこの時間帯に私のことが見えているなんて驚きです。
「しかし、本当に居たんだなぁ、幽霊って」
彼は全く気にした様子もなく、そのまま通り過ぎて行こうとしていました。
「ま、待ってくださいぃ!」
慌てて私は彼の横に並びながら必死に話しかけます。
どうして私の姿が見えるのかということ。
変わった人たちが住みついて静かに眠ることが出来ないこと。
話してるうちに出口まで来てしまったので、私はここで止まります。
一応、この地で死んでしまったのでここから出ることが出来ないのです。
「じゃあ、なんとかしてやるよ。 また来るから、しっかり見とけよ?」
「あの、お名前は・・・・・・」
夕陽を背にそう言った彼の顔はとても綺麗で、見惚れてしまいました。
意識を総動員してなんとかその言葉だけ口にします。
「俺? 俺は結城トシアキ。 『魔法使い』さ」
それから数時間後に私の悩みを解決してくださったトシアキさん。
これで静かに眠れるようになったのですが、私の頭から彼の姿が消えてくれませんでした。
また、会えますようにと願いながら、久しく静かになったこの場所で私は眠りにつくのでした。