魔法使いのToLOVEる   作:T&G

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第一話

「面倒だなぁ・・・・・・」

 

始業式が終わり、高校1年生として彩南高校に入学した俺だが、早速帰りたくなってきた。

 

一応、意識では18歳なので高校を卒業しているのだが、この世界での俺はまだ高校1年生らしい。

 

窓側の自分の席に座り、教師の話を聞き流しながら下校の時間まで外を眺めて過ごしている俺であった。

 

「トシアキ! 一緒にゲーセン行こうぜ!!」

 

「悪い、今日は帰るわ」

 

猿のような顔をした奴に名前を呼ばれ返事をした俺だが、誰か全く分からない。

 

中学からの同級生か、入学までに知り合った奴だろうと思った俺は下の名前を呼んでいるところを考えて前者と判断する。

 

だけど俺には名前がわからないので、とりあえず返事だけして自宅へ向かうことにした。

 

「ただいま」

 

「お帰りぃ、トシ兄ぃ。 お父さん、今日も帰り遅くなるってさ」

 

「そうか。 とりあえず着替えて来るわ」

 

高校より早く終わっていた小学校に通う美柑の言葉に返事をした俺だが、ここでも問題が出てくる。

 

「父親のことがわかんねぇ・・・・・・」

 

階段をのぼり、自室へ向かいながら俺は思いっきり深いため息を吐いた。

 

アルバムを探せば顔くらいわかるだろうが、今更アルバムを探して美柑に不信がられるのも勘弁してほしいところだ。

 

「帰りが遅くなるらしいし、顔を合わす前に寝てしまえばいいか」

 

そう考えた俺は素早く制服から普段着へと着替え、風呂場へと向かった。

 

「ふぅ、風呂はいいねぇ。 人間が生み出した文化の極みだ」

 

口にだしてそう言ったのはいいが、頭の中は全然違うことを考えていた。

 

今はまだいいが、いずれ父親と顔を合わすことになるだろう。

 

さっきの美柑の言葉に母親のことが出てなかったのも気になる。

 

「どうすればいいか・・・・・・」

 

浴槽に背を預け、天井を見つめながら考えていると目の前に人の気配を感じた。

 

「っ!? 人? いや、これは・・・・・・」

 

この感じはゲンジの能力の1つである世界を渡るためのゲートを開いたときと同じ感じであった。

 

風呂に入っているときに迎えにくるなよ、と俺は思っていたが、実際に目の前に現れたのは桃色の綺麗な髪で何も着ていない年頃の少女であった。

 

「ふぅ、脱出成功!」

 

まだ幼さが顔に残っている彼女であるが、身体の方は立派に大人になっている女の子が俺の目の前でそう言って微笑んでいた。

 

「・・・・・・」

 

「ん?」

 

俺の無言の視線を感じたのか、首を傾げて俺を見つめる彼女。

 

「・・・・・・とりあえず、前を隠そうな」

 

浴槽から立ち上がり、脱衣所まで彼女の身体を隠すためのタオルを取りに行った俺。

 

「きゃっ!? トシ兄ぃ、出て来るなら出て来るって言ってよ!」

 

脱衣所に出ると、洗濯機を動かそうと洗剤を手にしている美柑が驚いた様子で俺を見つめる。

 

「いや、浴槽に突然、裸の女の子が出てきてな。 俺も少し驚いてタオルを取りに来たんだが」

 

「は?」

 

俺の言葉が通じなかったのか、美柑は素っ頓狂な声を出して洗剤を取り落とす。

 

「いや、だから裸の女の子が・・・・・・」

 

「私の目の前には裸の男が出てきたように見えるんだけど?」

 

ジト目で俺のことを見つめる美柑に俺は説明するより見て貰った方が早いと判断した。

 

「・・・・・・とりあえず、風呂場を見てみろよ」

 

「誰もいないんだけど?」

 

「なに?」

 

美柑の言葉に今度こそ驚きを表情に出してしまった俺は美柑の後ろから風呂場を覗く。

 

「いなくなってる。 一体、なんだったんだ・・・・・・」

 

深く考え込む俺の肩をポンッと叩いて美柑は小悪魔的な笑みを浮かべる。

 

「トシ兄ぃ、年頃なのはわかってるけど、現実と妄想の区別はつけよ――痛っ!?」

 

とりあえず、美柑の言葉を全部聞かずに、額にデコピンを放って俺は浴槽へ戻った。

 

 

 

***

 

 

 

「さて、どうしたものか・・・・・・」

 

風呂から上がった俺は二階にある自室の前でそう呟く。

 

自分の部屋の中から人の気配がするため、どのように対処するかを考えていたのだ。

 

「美柑は下にいたし、父親は遅くなる。 母親は窓から入るような変質者じゃないだろうし」

 

親族の可能性はまずない。

 

俺のことを襲おうとしている奴なら気配を消すようにして身を潜めているはずだ。

 

「・・・・・・もういいか」

 

考えていても時間の無駄だと思うようになったので、気にせずドアを開けることにした。

 

「あっ、タオル借りてるよ」

 

「タオルの前に服を着ろ。 年頃の女の子が何やってんだ」

 

先ほど裸で浴槽に現れた女の子がタオルを身体に巻きつけて、俺のベッドに座っていたのだ。

 

「服はペケがまだ来てないから着れないの」

 

そう言った彼女の言葉に首を傾げながら、俺はまだ彼女の名前を聞いてないことに気が付いた。

 

「そういや、名前。 なんていうんだ?」

 

「私? 私、ララ」

 

ララと名乗った彼女を見つめ、日本人ではないと判断した俺はさらに質問を続ける。

 

「じゃあ、ララ。 お前はどこから、何を目的にここに来たんだ?」

 

俺の質問にララは笑顔のまま自分の事情を話してくれた。

 

デビルーク星という場所からやってきたこと。

 

自分の発明品であるワープができる機械で俺の家の風呂場へ出てきたこと。

 

追手に連れ戻されそうになって逃げて来たことを俺は静かに聞いた。

 

「追手ねぇ・・・・・・この世界でも平和に生きていけないのかね」

 

ララの事情を聞き終えた俺はそう言って苦笑いを浮かべてしまう。

 

また何かに巻き込まれてしまう気がする。

 

どうやら俺には休まる日がないらしい。

 

「?」

 

俺の呟きが聞えなかったのか、ララは笑顔のまま首を傾げている。

 

そんなララをジッと見つめていると、窓の外からこの部屋に向かってくる何かに気付いた。

 

「ん? 何か来たみたいだぞ?」

 

「ご無事でしたか、ララ様!」

 

翼を生やし、自らで飛んできた物体はその言葉と共にララのもとへ向かって行く。

 

「ペケ!」

 

ララも飛んできたものに気付いたのか、嬉しそうに微笑みながらペケと呼んだものを静かに受け止めた。

 

「よかった! ペケも無事に脱出できたのね!」

 

「ハイ! 船がまだ地球の大気圏を出ていなくて幸いでした」

 

二人(?)で仲良く話していると、ペケと呼ばれた翼を生やした小さいやつが俺の存在に気が付いたらしい。

 

「ララ様、あの目つきの悪い地球人は?」

 

始めて会って、言葉も交わしていないので第一印象はどうしても見た目で判断になってしまうのは仕方ないと思うが、突然そんなことを言うのは失礼だとは思わないのだろうか。

 

「この家の住人だよ。 そういえばまだ名前、聞いてないね」

 

「ん? トシアキ、結城トシアキだ」

 

そう言えば自分の名前を言って無かったか。

 

色々と尋ねておいて、自分のことは一切話していなかったことに少し反省する。

 

「この子はペケ。 私が造った万能コスチュームロボットなんだよ」

 

「ハジメマシテ」

 

なるほど、あの小さいやつはロボットだったのか。

 

納得出来る事実に俺は一人、頷いていた。

 

「じゃ、ペケ。 よろしく」

 

「了解!」

 

ララは自分の身体に巻いていたタオルを放り投げ、宙に浮かぶペケに話しかける。

 

というか、ララの尻あたりに黒い尻尾が見えた気がしたんだが、アレが宇宙人の印なのだろうか。

 

「じゃーん!」

 

自分で効果音を付けたララの姿は真っ裸から変わった衣装に変化していた。

 

「どう? 素敵でしょ、トシアキ」

 

「まぁ、いいんじゃねぇの?」

 

俺の世界ではありえない服装なので変だと思うが、本人が良いと思っているならわざわざ否定することもないだろう。

 

「ときにララ様、これからどうなさるおつもりで?」

 

ペケというロボットは自分が服になっても話せるようで、ララの頭にある帽子のようになっているところから声が聞えてくる。

 

「それなんだけど、私に考えがあるんだ。 実は――」

 

「っ!?」

 

ペケの言葉に答えているララだが、俺は高速で近づいてくるものに気が向いていてララの言葉は聞えていなかった。

 

「全く、困ったお方だ」

 

「地球を出るまでは手足を縛ってでもあなたの自由を封じておくべきだった」

 

ペケに続いて今度は黒服にサングラスを装備した男二人が窓から俺の部屋へと入って来たのであった。

 

「ペケ・・・・・・」

 

「はっ、ハイ!」

 

「私、言ったよね? くれぐれも尾行には気を付けてって」

 

「ハイ・・・・・・」

 

そんな会話をしている二人を余所に俺は侵入してきた男たちを観察する。

 

一般人じゃ勝てそうにないが、特別な能力とかを持っているわけでもなさそうだ。

 

さて、この世界でも俺の『魔法』は使えますかね。

 

「あっ!」

 

ララの腕を一人の男が掴み、無理矢理連れて行こうと力強く引っ張る。

 

「イヤッ! 離してよ!!」

 

「我儘を言わずに、早くお父上のところへっ!?」

 

男は最後まで言いきることが出来ず、開け放たれていた窓の外へ身体が吹き飛んで行った。

 

「ふむ、問題ないようだな」

 

俺は自分の右手から放たれた風の威力に今までと変わりないことを理解した。

 

「な、何をした! 地球人!!」

 

残っていたもう一人の男が俺の方へ身体を向け、大声で怒鳴りつける。

 

だが、俺も重なる出来事にストレスが溜まっているのだ。

 

「何をしただと? 敵にそんなことを教える馬鹿がいるか」

 

「くっ! ララ様、お下がりください。 この者はタダものではありません」

 

俺の殺気を感じ取ったのか、黒服の男はララを庇うようにして立ち、俺と向かい合う。

 

「出ていけ。 それと、これ以上関わるな」

 

「トシアキ・・・・・・嬉しい、初めて会った私の為にそこまでしてくれるなんて」

 

俺は自分の向かい側にいる二人に言ったつもりだったが、ララはどうやら違った風に聴こえたらしい。

 

目をキラキラさせ、頬を少し赤らめて俺の方を見つめてくる。

 

「ラ、ララ様、今回は引きますが次は隊長が直々に来られます。 どうか、お考え直しを」

 

「イヤ! トシアキがこう言ってるんだから早く帰ってよ」

 

いつの間にか黒服の男の後ろから俺の後ろへと移動してきたララはそう言って追い払う仕草をする。

 

「地球人! 次は王室親衛隊隊長ザスティン様が来られる。 それまで命乞いの練習でもしておくんだな!」

 

黒服の男はそれだけ言って、窓から出て行った。

 

俺が窓の傍まで行き、外を確認すると吹き飛ばされたもう一人と共に暗闇へと姿を消していった。

 

「トシアキ、ありがと! それにしても地球人って強いんだね」

 

「いや、俺だけ特別なんだよ」

 

そう、俺が王子だった話は以前少ししたと思うが、実は『魔法の国』の王子だったのだ。

 

そんなわけで、俺は小さい頃から魔法を使い、魔法と共に生きてきた魔法使いなのだ。

 

「ふ~ん、そうなんだ」

 

俺の一言に納得したのか、それ以上ララは何も聞いてはこなかった。

 

しかし、突然顔を赤らめたかと思うと、上目遣いに俺を見つめてきたのだ。

 

「私、パパが結婚させるための見合いに嫌気がさして家出してきたの」

 

先ほどの事情を聞いた時には追手がいるということだったが、なるほど。

 

父親がララを連れ戻すための人材だったのか。

 

「自分の好きなように、自由に生きたい」

 

どうやらララの父親は娘を溺愛しているらしい。

 

可愛がるあまりに自分が正しいと思ったことをずっとララに対して行ってきたのだろう。

 

「まだまだやりたいことも沢山あるし、結婚相手だって自分で決めたかったの」

 

「よかったじゃないか。 しばらくは自由に生きれるだろ」

 

「でも、私さっきのトシアキの言葉で気付いたの」

 

話の流れがいまいちど理解できないので、黙ってララの言葉の続きを待つ。

 

「初めて会った私の為に身の危険を顧みず、追手を追い払ってくれた」

 

それは俺の部屋に土足で入り込み、俺の存在を無視して色々やっていたこいつらに腹が立っていただけで特に深い意味は無かったりするんだが。

 

「私、トシアキとなら結婚してもいい。 ううん、トシアキと結婚したい!」

 

「・・・・・・は?」

 

突然の告白に流石の俺も思考が一時停止してしまった。

 

もともと俺の言葉を自分の都合のいいように聴き違えたララに問題があるんだが、それを訂正しなかった俺も悪いのか。

 

「これからよろしくね、トシアキ」

 

「・・・・・・」

 

ララの笑顔の言葉に返事が出来なかった俺は何も悪くないと思う。

 

異世界に来てまさかプロポーズされるとは思わなかった。

 

これからどうやってララの誤解を解いていこうか、考えるだけで頭が痛くなりそうであった。

 

 

 

~おまけ~

 

 

トシ兄ぃがデコピンした部分がまだヒリヒリしている。

 

「もう、ちょっとからかっただけなのに怒らなくてもいいじゃん」

 

リビングにはいないトシ兄ぃのことを思い浮かべ悪態を吐く私。

 

昔からお父さんとお母さんがあまり家にいなかったけれど、四つ離れているトシ兄ぃはしっかりしていた。

 

私が小さいときは家事も一人でやっていたし、雷が怖くて眠れなかったときは一緒に寝てくれたトシ兄ぃ。

 

「カッコいいのに、やる気の無い態度が減点になってるんだよね」

 

基本的になんでも一人でこなせるトシ兄ぃだが、私が家事を手伝うようになってから段々と怠け始めた。

 

原因はわからないけど、聞いたら今の関係が壊れそうで聞けない。

 

トシ兄ぃはきっとここからいなくなってしまうような気がするから。

 

「今のままで大丈夫、トシ兄ぃは私が大好きなお兄ちゃんなんだから」

 

自分で口に出して言ったことを思い出して、傍にあったクッションを抱え込み、赤らんだ頬を隠すように顔をうずくめる。

 

そこまでして、先ほど風呂場でからかったのはトシ兄ぃに構って欲しかったのだと気付く。

 

「私、ブラコンなのかなぁ・・・・・・」

 

2階の部屋でドタバタと音が鳴り響く中、美柑の小さな独り言は誰にも聞かれることはなかった。


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