魔法使いのToLOVEる   作:T&G

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第十六話

授業が終了し、後は帰宅するだけになった放課後。

 

俺は鞄を担ぎながら欠伸をして、今日一日を振り返る。

 

「ふわぁあぁ・・・・・・ようやく放課後か。 短いようで長いよなぁ」

 

振り返ると言っても特に何もなく、ただいつもと同じような感じだった。

 

そう言えば、一緒の家に帰るララの姿が見えないが何処に行ったのか。

 

「まぁ、アイツも人気あるし、誰かに告白でもされてんのかな」

 

そんなことを考えつつ、俺は靴を履き替えて外へ出る。

 

「ん? あれは先輩たちだよな」

 

沙姫先輩といつも傍に控えている凛先輩に綾先輩の三人が何やら校門前で立ち止まっていた。

 

様子を見ていると、どうやら小さな子どもが一緒にいて何やら話をしている。

 

しかし、あの子どもこの距離から俺の見る限り全く隙がない。

 

「・・・・・・何か嫌な予感がするな」

 

近づいてみればその違和感に気付くかもしれないが、また変なトラブルに巻き込まれそうで躊躇してしまう。

 

「先輩たちに迷惑かけられないし、とりあえず行くか」

 

そう思って歩き出した矢先、沙姫先輩が背負っていた子どもが胸を触り始めた。

 

それも、たまたま触れてしまった感じではなく、アレはもはや揉んでいる。

 

「そこまでにしておけ」

 

ちょっとムカついた俺は凛先輩や綾先輩のスカート捲り始めた子どもの首根っこを掴み上げる。

 

「おっ!?」

 

「大丈夫ですか、先輩」

 

俺の存在に気付いたらしい子どもが驚きの声を上げているが、俺はそんなことを気にせず先輩たちに声を掛ける。

 

「う、うむ。 助かったぞ、結城」

 

「あわわわ、あ、ありがとうございます!」

 

落ち着きを取り戻した凛先輩と俺が声を掛けて余計に混乱してしまった綾先輩。

 

「沙姫先輩も大丈夫ですか?」

 

「え、えぇ。 ありがとうございます。 トシアキ様」

 

ようやく俺に気付いた沙姫先輩はどこか恥ずかしそうに俺から視線を逸らした。

 

「? とりあえず、こいつは俺が叱っておきますから、許してあげてくれませんか?」

 

俺の言葉に凛先輩と綾先輩の視線が沙姫先輩へと向かう。

 

どうやら二人とも沙姫先輩の判断に従うつもりのようだった。

 

「沙姫先輩、いいですか?」

 

「そ、そうですわね。 トシアキ様がそこまでおっしゃるのでしたら」

 

まだ俺と目を合わせてくれない沙姫先輩だったが、俺のお願いは聞いてくれたようだ。

 

「ありがとうございます。 こいつは俺しっかり言い聞かせますんで・・・・・・」

 

「うむ? 結城、先ほどの子どもがいないぞ?」

 

凛先輩に言われてから手元を確認してみると、しっかり掴んでいたはずの子どもの姿が消えていた。

 

「・・・・・・」

 

俺自身も手の力を弱めた記憶もないし、いなくなった気配も感じなかった。

 

やはり、先ほど感じた嫌な予感が当たっていたみたいだ。

 

「すみません。 俺、探しに行きますんで、これで!」

 

このままあの子どもを放っておくとまた何か仕出かしそうなので探しに行くことにする。

 

何か言いたそうにしていた沙姫先輩には悪いと思ったが、俺は女子生徒の悲鳴が聴こえた場所へと走り出すのであった。

 

 

 

***

 

 

 

悲鳴が聴こえた場所にたどり着くと、そこはまさに地獄と化していた。

 

「フハハハハ! もませろーーー!!」

 

「いやぁあぁ!」

 

「きゃあぁあぁ!!」

 

先ほどの子どもがテニスコートにいる女子生徒たちの胸を手当たり次第に触りまくっていた。

 

「・・・・・・いや、あれは触るじゃなくて、揉みしだくだな」

 

自分で呟きながら言いなおしてみたが、それで事態が収まるわけもない。

 

女子テニス部の顧問の先生は気を失っているようで役に立ちそうにないので俺がなんとかしなくてはならないようだ。

 

「仕方ないか」

 

あの子どもの行動を止めるために『魔法』を使おうとした俺だが、視界に西連寺たちが入ってきた。

 

というか、沢田や籾岡もテニス部だったのか。

 

「いい女、発見!」

 

俺が少し視線を逸らした間に、先ほどの子どもも西連寺たちの姿を見つけたようだ。

 

今まで触っていた女子生徒たちのもとを離れて一直線に西連寺へ向かう。

 

「チューしてぇ・・・・・・ぐえっ!」

 

西連寺に向かって飛びついたその手前で再び俺は子どもの首根っこを掴む。

 

本来ならば西連寺に抱きつけたのであろうが、今は俺の手元でぶら下っている。

 

「ったく、油断も隙もねぇ子どもだな」

 

「ま、またお前か。 この俺様に気配を感じさせないとはなかなかやるな」

 

今度は逃がすわけにはいかないので、視線をこの子どもから放さないようにする。

 

「お前も。 俺に気付かれずによく逃げることができたな」

 

「ケケケ、俺様にとっては朝飯前よ」

 

どうやら話は通じるようで、これ以上逃げようとはしない。

 

俺は傍で呆然としていた西連寺たちに声を掛けたあと、子どもを連れて屋上へ向かった。

 

屋上はあまり人がいないので、聞かれたくない話をするには適しているのだ。

 

「あれ? トシアキ、どうしたの?」

 

屋上への扉を開けると、目の前にはキョトンとしたララと真剣な表情のザスティンがいた。

 

帰るときに姿が見えないと思ったら、こんなところにいたのかララ。

 

「「よう、ララ」」

 

俺が声を掛けたのと重なるようにして、手元にいる子どもも同じようにララに呼びかけた。

 

「ん? なんでお前、ララのこと知って・・・・・・」

 

「パパ!?」

 

声が重なったことに俺が驚いていると、ララも驚いた声でそう叫んだ。

 

というか、『パパ』ということはこの子どもはララの父親でデビルーク星の王様。

 

「・・・・・・なんっ、だとっ!?」

 

この子どもがデビルーク王だという事実に驚きつつも、隙がなかった様子が思い出されてどこか納得していた。

 

「トシアキ殿、このお方こそ銀河を束ねる我らが主、ララ様のお父上なのです」

 

先ほどまでララと会話していたザスティンは傍によって来て跪きながらそう教えてくれる。

 

「そういうことだ、結城トシアキ」

 

ザスティンが頭を下げ、ララが驚いているなか、堂々とした態度でそう言った子ども、デビルーク王。

 

「俺がデビルーク王、ギド・ルシオン・デビルークだ」

 

他者を威圧するような殺気を振りまきながらそう名乗ったギド。

 

もっとも、俺の手に首根っこを掴まれてぶら下っている状態が全てをぶち壊しているのだが。

 

「ララ。 俺が何のために地球に来たか、ザスティンから聞いてるな?」

 

「・・・・・・」

 

どうやら先ほどララとザスティンが話していた内容はこのことらしい。

 

親子の会話に俺が混ざるのもどうかと思ったので、踵を返して立ち去ろうとする。

 

勿論、掴んでいたギドの首根っこは離している。

 

「俺の後継者、つまりお前の結婚相手が正式に決まった。 あいては結城トシアキ、お前だ」

 

屋上から立ち去ろうとしていた俺の背中にギドの言葉が圧し掛かる。

 

「・・・・・・そんな簡単に決めていいものではないだろう」

 

「別に簡単に決めてねぇよ。 お前の報告は常にザスティンから聞いてんだ」

 

突然、当事者にさせられてしまったので、俺は立ち去ることを諦めギドの正面へまわる。

 

「貧弱な地球人に跡を継がせるのは不安もあるが、ララの意思とお前の先ほどの立ち振る舞いを見て決めた」

 

確かにララは俺と結婚するという話をずっとし続けていた。

 

勿論、そのこともザスティンからギドへと話がいってるだろう。

 

「立ち振る舞いね、俺は大したことをしたつもりはないが?」

 

「ふん! 力を押さえているとはいえ、この俺様に気付かれずに二度も行動を止めたんだ。 それは誇ってもいいことだぜ」

 

ギドの上から目線の言葉に俺は少しイラついてきた。

 

「それに前に言ってたろ、地球に来たら話をしようかと」

 

そう言った途端、ギドの立っていた場所から四方に亀裂が走る。

 

そして、俺に対してぶつけられる凄まじい殺気。

 

「なるほど、つまり話とはそういうことか」

 

声色は冷静なようでも俺の内心は期待と喜び、そして楽しみで乱れていた。

 

ギドの態度にイラついていた俺としては丁度いい。

 

この前に戦った金色の闇と同等・・・・・・いや、それ以上に興奮してきた。

 

「結城トシアキ! あなたは一体何をしているのですか!」

 

名前を呼ばれたので視線を向けると、金色の闇が戦闘状態で俺の隣に立っていた。

 

勿論、敵意を向けているのは俺に殺気をぶつけているギドに対してだ。

 

ちなみにザスティンはララを背後に庇うようにして離れた場所にいた。

 

「ほぉ、暗殺者の金色の闇か。 なかなかいいモノを持っているな」

 

流石に一つの星の王ともなると金色の闇のことは知っているらしい。

 

「だろ? だが、こいつはもう暗殺者じゃねぇ。 今は護衛者だぜ」

 

俺はギドの言葉を訂正しながら、殺気をともに受けている金色の闇の頭をポンポンと叩いてやる。

 

「な、なにをするのですか」

 

「緊張を解してやろうと思ってな。 あと、コイツの相手は俺がするから邪魔するなよ?」

 

どこか嬉しそうにそう言ってくる金色の闇に笑みを向けながら俺はそう言った。

 

しかし、俺の言葉を聞いた今でも彼女は傍を離れようとはしない。

 

「私の受けた依頼はあなたを護衛することです」

 

「依頼主の命令だぞ?」

 

俺の傍で共に戦おうとしてくれていることは嬉しく思うが、まだ彼女には荷が重いだろう。

 

「その場合は最初の依頼に支障がない程度の命令ならば実行します」

 

つまりは引く気は全くないってことだな。

 

ほんとに、受けた依頼に忠実な仕事人だ。

 

「それじゃあ、殺り合うか」

 

俺と金色の闇、そしてギドが戦闘態勢に移行しようとした時、間にララが立ちふさがった。

 

「パパ。 私、トシアキとは結婚しない」

 

そして、その言葉を言い放った瞬間、今まで襲って来ていたギドの殺気が霧散していくのがわかる。

 

そのことに一番安堵していたのは金色の闇のようで、彼女は緊張が解けたのか、その場で気を失って倒れてしまった。

 

「結婚しないだと!? 俺様がせっかくお前の意思を優先して・・・・・・」

 

「それでも!」

 

ギドの言葉を途中で遮ったララは話を続ける。

 

「それでも私は、トシアキの気持ちを無視してまで一方的に結婚しても嬉しくないの」

 

「「・・・・・・」」

 

ララの言葉に俺もギドも返す言葉がなかった。

 

というか、ララはそんなことを思っていたのか。

 

今までの態度ではそんな素振りは全く見せなかったというのに。

 

「トシアキ、私ね。 なんとなく気付いてたんだ。 トシアキは私と結婚したいと思っていないことに」

 

「・・・・・・そうか」

 

そこまで気付いていながらあれほど俺に対してアピールをしていたのか。

 

なんだか、ララの凄さが改めてわかったような気がする。

 

「それでもトシアキは優しいし、一緒にいると楽しいから今のままでもいいと思ってた」

 

「でも、やっぱり駄目だよね。 私はトシアキを振り向かせたい、振り向いてもらえるように努力したいの」

 

「だからパパ、結婚のことはもう少し待ってて。 私、頑張るから」

 

ララの長い告白を聞いた俺たちは皆、静まり返っていた。

 

金色の闇はまだ気を失っており、ザスティンは感動したのか涙を流している。

 

ギドも何か思うことがあるのか、俯いたまま黙っている。

 

かく言う俺自身もストレートな告白に結構ドキドキしてたりするのだが、表情には出さない。

 

「・・・・・・・・・わかった」

 

ようやくギドが言葉を発した。

 

「ララ、お前の考えはわかった。 そこまで考えているのなら俺はもう何も言わん」

 

「うん、ありがと。 パパ」

 

どうやらギドはララの好きにさせるつもりらしい。

 

その後、感動して泣いているザスティンを連れてギドは立ち去って行った。

 

ララに聞いた所によると、地球の大気圏に停めてある宇宙船へ戻ったらしい。

 

「ねぇ、トシアキ」

 

屋上には俺とララ、そして気を失ったままの金色の闇が残っていた。

 

とりあえず俺は金色の闇の頭を膝の上に乗せてやることにした。

 

「ん?」

 

ララに呼ばれた俺は顔をララの方へと向ける。

 

彼女は屋上から夕陽で染まっていく校庭を見降ろしていた視線を俺の方へ向けた。

 

「絶対に『好き』って言わせてあげるから、覚悟してね」

 

そういう風に不意打ちで言われた俺の顔はきっと赤くなっていることだろう。

 

自分でも頬が少し熱を持っているのが理解できるのだから。

 

とりあえず、俺はこの赤いのは夕陽の所為だと言いながらその場を誤魔化すのであった。

 

 

 

~おまけ~

 

 

パパとザスティンが居なくなったあと私はトシアキと二人きりになった。

 

金色の闇っていう可愛い子がいたけど、気を失っているので数には入れないことにする。

 

けど、トシアキったらこの子と何処で知り合ったんだろ。

 

そんなことを考えながら私は夕陽で染まっていく校庭を眺めていた。

 

本当はトシアキの顔をまともに見ることが出来ないくらい緊張している。

 

あんなことを思ったとことも言ったことも初めてだった。

 

でも、好きって気持ちは本当だからパパにもキチンと言えた。

 

今度はトシアキに言う番だもんね。

 

「ねぇ、トシアキ」

 

私は校庭に向けていた視線をトシアキに向けた。

 

すると、トシアキが気を失っている金色の闇って子に膝枕をしていた。

 

そうだよね、ここはパパがデコボコにしちゃったから優しいトシアキはきっと彼女の為に枕になってあげたんだね。

 

羨ましいから私もしてもらいたいと考えたけど、言葉にはしなかった。

 

だって、他に伝えたいことがあったから。

 

「ん?」

 

私の呼びかけた言葉に振り向いたトシアキの目をしっかりと見つめて、言った。

 

「絶対に『好き』って言わせてあげるから、覚悟してね」

 

本当に覚悟してね、トシアキ。

 

私は他の誰にも負けないくらいトシアキのことが大好きなんだから。


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