魔法使いのToLOVEる   作:T&G

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第十四話

とある休日、俺は一人で街中を歩いていた。

 

ようやくクラスの奴らの顔を覚え、親父にも俺と『俺』の違いに気付かれなかった。

 

そんなことで心に余裕が出来たので自分が住んでいる街を見て回ることにしたのだ。

 

「やっぱり、何処の世界も人間の文化だったら似たようなものなんだな」

 

俺はこことは違う世界で育ったため、自然が多い方が好きなのだが。

 

「まぁ、こんな世界も悪くないな」

 

一人でそう呟きながら歩いていると、視線の先に懐かしい物を発見した。

 

「おっ、たいやきじゃねぇか。 久しぶりに食べるかな」

 

前に居た世界の公園で初めてたいやきを食べたときには驚いたものだ。

 

なんせ、アンコとカスタード以外にカレーやチーズといった種類があったからだ。

 

もっとも、その屋台もメニューには載っていなかったので頼まないと作ってくれなかったが。

 

「へい、いらっしゃい! 何味にしましょうか?」

 

「とりあえずアンコとカスタードを五個ずつと、チーズとカレーを頼む」

 

店の前に立つと丁度、たいやきを焼いていた店員が声を掛けてくれた。

 

俺はメニューに載っている二種類とは別に載っていないものも頼んでみる。

 

「へい! えっ? チーズとカレーですかい?」

 

「あぁ」

 

俺の注文を聞いた店員が景気良く返事をした後、驚いたように聞き返してきた。

 

確かにメニューに載っていないものを注文したら聞き間違いと思って確認はするよな。

 

「わかりやした! けど、お客さん。 よくその二つがあるってわかりましたね?」

 

「って、あるのかよ!?」

 

思わず突っ込みを入れてしまった。

 

まさかこの世界にもチーズ味とカレー味のたいやきがあるとは思わなかった。

 

もっとも、この世界でも注文を受けてから作るようなので数十分待つことになったが。

 

「まぁ、数十分でこの味が食えるなら別に良いけどな」

 

アンコとカスタードのたいやきを袋に入れてもらい、俺はカレー味のたいやきを頬張りながら街中を歩き出す。

 

「ん?」

 

歩いていると視線を感じたので、ソチラの方へ俺は顔を向ける。

 

「フ、フェイト?」

 

「?」

 

前の世界に居た義妹の姿がそこにあったので、俺は思わず名前を呼ぶ。

 

しかし、本人ではないため、似ている彼女には首を傾げられてしまった。

 

「そりゃそうだよな。 いくらなんでもここに居るわけねぇし」

 

カレー味のたいやきを口に入れ、俺はチーズ味に手を付ける。

 

けれど、先ほど俺が間違って名前を呼んでしまった彼女からの視線はずっと感じる。

 

「・・・・・・もしかして、たいやきが珍しいのか?」

 

義妹の方はたいやきの存在を知っていたが、全く別人の彼女は知らないのだろう。

 

俺のような知らない人に声を掛けられ、その人が変な物を食べていたら気になるに決まっている。

 

「えっと、たいやき食うか?」

 

間違って名前を呼んでしまった罪悪感もあった俺はコチラへ視線を向け続ける彼女にそう話しかけた。

 

ちなみに彼女に渡したたいやきは普通のアンコ味のたいやきである。

 

「・・・・・・・・・地球の食べ物は変わっていますね」

 

モグモグと可愛らしく口を動かしながらたいやきを食べた彼女はそう呟いた。

 

「地球?」

 

彼女の発言に疑問を抱いた俺だが、彼女は何も答えずに俺の両肩にそれぞれ手を乗せる。

 

「あなたが、結城トシアキ・・・・・・」

 

「そうだけど、なんで俺の名前を知って・・・・・・っ!?」

 

彼女の言葉に返事をした後、肩に乗せられていた手がゆっくりと下がっていき、細くて白い手が獲物を切り裂く鋭い爪に変化した。

 

「っ!?」

 

「あっぶねぇ・・・・・・もう少しで切り裂かれる所だったぜ」

 

変化したその手で脇腹を裂かれそうになったので、咄嗟に反応して彼女の腕を掴んだのだった。

 

「・・・・・・ある方からあなたを抹殺するように依頼されました」

 

俺の手を素早く振り払った彼女は数歩下がってそう話してくれる。

 

というか、俺はついに命を狙われるまでになったのか。

 

今までは話や脅しで済んでいたのだが、どうやらそうはいかないらしい。

 

「恨みはありませんが、消えて貰います」

 

彼女の手は鋭い爪から今度は腕ごと大きな刃物に変化した。

 

ここで戦ってもいいが、他の人間に迷惑がかかりそうなので、俺は彼女に背を向けて走り出した。

 

俺の命を狙ってるのなら必ず追って来るだろうから、俺は何も言わずに走り続けた。

 

 

 

***

 

 

 

走り続けて向かったのは山にあるひと気のない神社だ。

 

そこにたどり着いた俺は振り返り彼女の姿を確認する。

 

「ちょろちょろと逃げ回らないでください」

 

彼女は背中から生えた翼で飛んでおり、そのまま俺の向かい側に着地した。

 

地面に足を付けた後、背中から翼が消えたので俺は首を傾げる。

 

「別に逃げていたわけじゃないが・・・・・・お前は鳥人か何かか?」

 

「いえ、私は全身を自在に変化させる能力、変身能力をもつ暗殺者です」

 

暗殺者と言った彼女は身体を変化させることが出来るらしい。

 

しかし、そんなことなど今はもはやどうでもいいことだ。

 

「そうなのか・・・・・・くっくっくっ」

 

「何がおかしいのですか?」

 

俺はもう、彼女の言葉に答えている余裕なんてない。

 

なぜなら、久しぶりに身体を思いっきり動かして殺り合いが出来るんだからな。

 

「なんでもねぇよ。 さて、殺り合おうぜ!」

 

今までは彼女からの攻撃だったので、今度は俺から攻撃することにした。

 

右手を上げて下に振り下ろす、手刀と呼ばれる行為をその場から動かずに行う。

 

「?」

 

確かに、距離が開いているので俺の行動は全く意味がないものに思えるだろう。

 

それが普通の反応なのだから、彼女が首を傾げているのもわかる。

 

「でも、俺は『魔法使い』なんだよ」

 

「っ!?」

 

突然、彼女の黒い服が裂けてそこから覗いた肌から血が出てきた。

 

そう、先ほどの俺の動作で風の『精霊』を彼女に向かって飛ばし、刃となって襲いかかってもらったのだ。

 

「なるほど、あなたも何か能力を持っているのですね。 なら、手加減はしません」

 

「へっ、望むところだぜ!」

 

それから数時間が経ったようにも、数分しか経っていないようにも感じられた。

 

こんなに相手に集中し、時間感覚は薄れるほど戦ったのは本当に久しぶりだ。

 

お互いが傷付き、傷付け合い、気がつくと最初の立ち位置へと戻っていた。

 

「あなたはプリンセスを脅迫し、デビルーク乗っ取りを企てる極悪人だと聞きました。 やはり、実力も備わっていますね」

 

「ん? ちょっと待て、それは誤解だ。 俺からララに近づいたんじゃなくて、ララが俺に近づいてきたんだぞ?」

 

また変な所で誤解が生じているようなので彼女の発言を訂正しておく。

 

「・・・・・・ですが、理由はなんであれ、依頼されれば何でも始末する。 それが私、『金色の闇』の仕事です」

 

なるほど、この金髪の可愛らしい暗殺者の名前は金色の闇というのか。

 

もっとも、可愛いのは姿だけで殺しの実力は充分に理解出来たんだけどな。

 

「何をやっているんだもん、金色の闇! そんな相手にどれだけ時間をかけているんだ!」

 

しばらく戦いを中断していると、いつの間にか上空に変な機械が浮いていた。

 

アレが噂に聞く宇宙船なのだろうか。

 

その機械から光が射し込み、その光の中心に何者かが現れた。

 

「ジャジャーン! ラコスポ、只今参上! だもん!!」

 

「・・・・・・」

 

登場の仕方に呆れてしまった俺だが、ラコスポという人物の姿に驚いてしまう。

 

「結城トシアキ! お前の所為でララたんがボクたんと結婚してくれないんだもん!」

 

「いや、俺の所為って言われてもなぁ・・・・・・」

 

俺はあまりの小ささに驚いてしまったのだ。

 

こんな奴があのララと釣り合うのかと聞かれると聞かれた全員が首を横に振ることだろう。

 

「金色の闇! お前も何やってるんだ! 予定では結城トシアキをとっくに始末しているはずだろう!!」

 

「ラコスポ、丁度よかった。 私もあなたに話があります」

 

金色の闇も俺から意識を外し、依頼人と思われるラコスポに話しかける。

 

今が好機と言えばそうなんだろうが、そういう手は真剣勝負をした相手にするものではなので俺も大人しくしていることにする。

 

「結城トシアキの情報、あなたから聞いたものとかなり違うようですが」

 

そこまで言った金色の闇はチラリとコチラに視線を向け、何かを確認してから再びラコスポへ向き直る。

 

「目標に関する情報は嘘偽りなく話すように言ったはずです。 まさか、私を騙したわけではありませんよね?」

 

「な、なんだもん、その目は! ボクたんは依頼主だぞ!!」

 

俺の位置からは金色の闇の表情は見えなかったが、ラコスポは怯えるように後ろへ数歩下がった。

 

「くっ、こうなったら・・・・・・出て来い! ガマたん!!」

 

再び上空に浮かぶ変な機械から光が射し込まれ、また光の中心に何かが現れる。

 

「・・・・・・って、カエルか?」

 

現れたのはとてつもなく大きなカエルだった。

 

だが、俺には特に脅威は感じられない。

 

「さぁ、ガマたん! お前の恐ろしさを見せてやるもん!!」

 

ラコスポの言葉を切掛けに大きなカエルは金色の闇に向かって何かを吐きだした。

 

しかし、俺と本気で戦える金色の闇は素早くその何かを避ける。

 

「なっ!?」

 

「ふ、服が!?」

 

俺は驚きの声を上げ、金色の闇も自分の姿を見て驚いているようだった。

 

大きなカエルの吐きだしたものを避けた金色の闇だが、跳ねたものまでは避けられなかったらしく、服にあったってしまった。

 

すると、その服にあたった部分が溶けてしまい白い肌がそこから覗く。

 

「ガマたんの粘液は都合よく服だけ溶かすんだもん! だからボクたんのお気に入りなんだもん!!」

 

その発言を聞いているとかなりの変態思考の持ち主のようだ。

 

これは俺も戦いに参加するべきなのかと考える。

 

「そんな不条理な生物、認めません!」

 

俺が考えている間にも金色の闇は戦闘を継続しており、腕を刃に変化させて大きなカエルに切りかかる。

 

しかし、粘液が纏わりついた長い舌は上手く切れないようで、金色の闇はそのまま吹き飛ばされてしまった。

 

「くっ!」

 

「よっと、大丈夫か?」

 

吹き飛ばされた金色の闇を抱きとめてやり、そう問いかける。

 

しかし、粘液によって溶かされた服から覗く白い肌が眩しくて直視することが出来ない。

 

「い、いやぁ!!」

 

金色の闇は長い髪を拳に変化させ、抱きとめていた俺を殴り飛ばした。

 

「へぶっ!?」

 

切られるよりはマシだが、助けた相手にそれはないだろう。

 

「スキありだもん! 金色の闇、全裸決定だもん!!」

 

大きなカエルから吐き出された粘液は金色の闇に向かって一直線に飛んでくる。

 

しかし、彼女は俺の方へ意識を向けていたので反応出来ずにいた。

 

「しまっ・・・・・・」

 

「させるかよ。 爆ぜろ」

 

金色の闇の目の前で小規模の爆発が起こり、飛んできた粘液を吹き飛ばした。

 

勿論、俺が『精霊』の力を使って、爆発を起こしたのだ。

 

さすがに敵とはいえ、年頃の女の子を全裸にさせるわけにはいかない。

 

「ったく、大人しく見てりゃ調子に乗りやがって」

 

金色の闇に殴り飛ばされていた俺はそう言いながらラコスポと大きなカエルに向かって歩き出す。

 

その途中で全裸にはならなかったが、露出度が高くなってしまった金色の闇に上着を掛けてやる。

 

「あっ・・・・・・」

 

「さて、お仕置きの時間だぜ?」

 

身体に『精霊』を纏った俺はもはや目では追えないほど早く動ける。

 

カエルを何度も殴り付けたあと、上に乗っていたラコスポも一緒に殴っておく。

 

そして下から風の力で吹き飛ばし、上空に浮かんだままの変な機械へぶつけてやった。

 

すると変な機械が爆発して、ラコスポはどこか遠くへと飛んで行ってしまった。

 

「・・・・・・どうして敵である私を助けたのですか?」

 

少しやり過ぎたかなと反省していた俺の背に金色の闇がそう話しかけてきた。

 

「もともと悪いのはアイツだろ? それに依頼主がいなくなればもう俺の命を狙わなくて済むからな」

 

俺はそう答えを返して微笑む。

 

すると、金色の闇は俯いて俺の上着でギュッと身体を隠すような仕草をする。

 

「それにこれ以上、可愛い子に命を狙われるのは困るからな」

 

「か、可愛い・・・・・・私が、ですか?」

 

沈黙に耐えきれなかったので、そう言って場を和ませようとしたのだが、金色の闇から思った以上の反応が返ってきた。

 

「あ、あぁ。 それがどうかしたか?」

 

「いえ、そんな風に言われたのは初めてなので・・・・・・」

 

照れてしまったのか、今度は頬を少し赤らめて俯いてしまった。

 

しかし、よく考えると俺は金色の闇から仕事を奪ってしまう形になった。

 

依頼主をどこかに飛ばしてしまったので、依頼料を取ることが出来なくなっただろう。

 

「なぁ、金色の闇。 お前に依頼をしたいんだが、いいか?」

 

せめてものお詫びとして今度は俺が依頼主になってコイツに依頼料を支払ってやるとしよう。

 

あまり高いと払えなくなってしまうが、そこは交渉でなんとかするかな。

 

 

 

~おまけ~

 

 

私は金色の闇、名前はありません。

 

今までもこれからもこの名前で呼ばれることでしょう。

 

今回の目標はなかなかの強敵でした。

 

「・・・・・・結城トシアキ」

 

前回の依頼主から聞いていた情報では地球人でデビルーク星のプリンセスを脅している極悪人だと聞きましたが。

 

「・・・・・・」

 

そこまで考えて私は、彼に貰った上着をギュッと握りしめます。

 

先ほど彼に依頼された内容は私を驚かせるものでした。

 

「まさか、暗殺者に護衛を頼む人がいるなんて思いもしませんでした」

 

そう、彼は自分の身を守ってくれと依頼してきたのです。

 

今まで人を暗殺してきた私にとって誰かを守ることが出来るとは思えませんでした。

 

【同じだろ? 自分の力を殺すために使うか守るために使うかの問題だ】

 

そう彼に言われ、結局私はその依頼を受けることにしました。

 

近くに居た方がいいと言われましたが、私自身の心の整理の為、遠慮しました。

 

今はこの少し離れた位置から彼、結城トシアキを見守るのが私の仕事なのです。


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