魔法使いのToLOVEる   作:T&G

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第九話

臨海学校から戻って来たあと長かった夏休みも終わりを告げ、俺は今、教室で授業が始まるのを待っていた。

 

臨海学校の時にララが言っていたことを俺なりに考えて、真剣に向かい合ってみようと決めたのだ。

 

「まぁ、俺のいい加減な発言が原因なんだけどな」

 

一人でそう呟いて苦笑した俺は西連寺と楽しそうに会話しているララに視線を向ける。

 

俺が興味のないような態度でいれば諦めるなり、幻滅するなりなると考えていたが、ララはチキンと俺のことを見ていてくれたらしい。

 

「俺も態度を改めないと、ララに失礼だな」

 

自分の考えがまとまったところで、チャイムが鳴り二学期最初の授業が始まる。

 

「はい、みんな席についてぇ」

 

クラスの担任が教室に入ってきてそう声を掛ける。

 

あちこちで談笑していたクラスメイトたちは自分の席に戻り、授業を受ける体制になった。

 

「えー、二学期になっていきなりですがぁ、転校生を紹介しますぅ」

 

ウチの担任は言葉の最後を妙に伸ばす癖があるのだろうか、かなり気になってしまう。

 

そう考えている間に一人の男子生徒が教室に入ってくる。

 

「レン・エルシ・ジュエリア君ですぅ、みんな仲良くするよーに」

 

「「きゃあぁあぁ!! 美形よ!」」

 

先生の紹介と共にクラスの女子たちが叫び声を上げる。

 

それにしてもまた宇宙人か、アイツにも『精霊』が寄りついてないな。

 

「やっと見つけたよ、ララちゃん。 ボクの花嫁・・・・・・」

 

そんなことを考えている間にララの傍に移動した転校生はララの手を握ってそう声を掛けていた。

 

「一目でわかったよ、やはり・・・・・・」

 

なんだか口説いているような言葉ばかりを口にする転校生に嫌気がさした俺は途中で意識から転校生という存在を外す。

 

まったく、次から次へとララの婚約者候補がこの地球にやって来ているのだろうか。

 

このままだと俺の平和な生活が宇宙人たちの所為で台無しになってしまう。

 

いっそのことデビルーク星に乗り込んでララの父親と殺りあうべきか。

 

「じゃあ、キミだ!」

 

頭の中で考え事をしていて他から意識を遠ざけていた俺に突然、転校生が指を向けてきた。

 

「・・・・・・」

 

だが、答えるのも面倒だった、というより関わりたくなかったので無言を貫く。

 

その後、担任の言葉もあって転校生も席に着き、授業は始まった。

 

「うぜぇ・・・・・・」

 

授業が始まったのはいいが、何かにつけて転校生は俺に絡んでくる。

 

数学の問題を俺より先に答えるだの、体育の授業で俺より早く走るだの、正直に言って鬱陶しい。

 

別に答えるのも走るのも俺より早くていいのだが、その度に俺の名前を叫ぶのは勘弁してほしい。

 

「流石に、昼休みの飯を食う時ぐらいは大人しくしてるだろ」

 

そう思って飯を食おうと立ち上がる。

 

最近、俺は屋上で飯を食うのがお気に入りなのだ。

 

「あの、結城君いいかな?」

 

席を立ちあがったところで俺は声を掛けられた。

 

声がした方を見てみると、西連寺が申し訳なさそうに俺を見つめている。

 

「ん? どうかしたのか?」

 

「実は五時間目で使う資料を教室まで運んでおきたいんだけど、私一人じゃ運べそうになくて・・・・・・」

 

そう言いながらチラッと黒板の隅を見る西連寺。

 

そこには日直の名前が書かれており、今日は俺と西連寺であった。

 

というか、また西連寺と日直なのか、一学期に続いて二学期も同じペアとは驚きだ。

 

「わかった。 今から手伝えばいいんだなっ!?」

 

俺が西連寺と話していると口にパンを咥えた状態で転校生が背中にぶつかってきた。

 

「きゃっ!?」

 

そのため俺は西連寺を押し倒す形になってしまい、倒れた拍子に西連寺の胸を掴んでしまう。

 

「見たまえ! 結城君より早くご飯を食べたぞ!」

 

倒れた俺や西連寺を気にした様子もなく、そう言って自慢げに胸を張る転校生。

 

その態度に流石に関わらないようにしていた俺もキレてしまう。

 

「てめぇ・・・・・・人にぶつかって、迷惑を掛けておいてその態度はなんだ?」

 

起き上がった俺は転校生へ向けて殺気をぶつける。

 

俺の怒りに反応してか、周りの『精霊』も慌ただしく動きまわる。

 

その所為で俺の周囲の机やイスがカタカタと震える。

 

「なっ、なんだ! ぼ、ボクが悪いというのか!?」

 

俺の殺気を受けて話せる転校生は凄いと思う。

 

それか、最近俺が殺気を出すことがなかったため衰えているのか。

 

「西連寺、悪い。 その、身体に触れちまって、アレだったら気の済むまで殴ってくれても構わないから」

 

何か叫んでいる転校生を無視して、俺は後ろで倒れている西連寺を起こしながらそう言った。

 

手や肩ならいざ知らず、胸を触ってしまったんだ、それくらい仕方ないだろう。

 

「う、ううん、大丈夫。 ちょっと、ビックリしただけだから」

 

西連寺は俺の手を取りながら立ち上がりそう言って許してくれる。

 

ただ、少し頬が赤くなっているのはおそらく公衆の面前での出来ごとに恥ずかしがっているためだろう。

 

「そうか。 そう言ってくれると助かる」

 

西連寺が立ち上がってから俺は頭を下げ、今度はこんなことを仕出かした転校生を見る。

 

「ひっ!?」

 

つい睨んでしまったため、先ほどの殺気とも相まって転校生は怯えてしまった。

 

だが、俺は許すつもりは全くないので、転校生の腕を掴んで引きずって行くことにする。

 

「ララ、悪いが西連寺を手伝ってやってくれ。 俺はコイツと話がある」

 

「えっと、うん。 わかったよ」

 

いつの間にか人だかりが出来ており、その中にいたララにそう声を掛ける俺。

 

ララに声を掛けたとき、ララを含めた周囲の女子生徒の顔が赤かったのは何故だろうか。

 

そんな疑問を頭に浮かべながら、未だに怯えている転校生を連れて俺は屋上へ向かった。

 

 

 

***

 

 

 

屋上へ出てきた俺はすぐさま、引きずっていた転校生を殴り飛ばした。

 

地球人ならば話をしただろうがコイツは宇宙人だ。

 

どんな力や能力を持っているかわからないので遠慮はしない。

 

もっとも、見掛けだけの奴や地球人並みの力しかもってない奴もいるかもしれないが。

 

「ぐっ!?」

 

殴られた転校生はそのまま屋上の手すりに激突し、呻き声を上げた。

 

「とりあえず、俺にぶつかった分の仕返しはさせて貰ったぞ」

 

西連寺が許してくれたので俺からこれ以上コイツにすることはない。

 

もっとも、西連寺から殴られていたらその分俺がコイツを殴るつもりだったが。

 

「あと、俺より何でも早いのは結構だが、俺の名前をいちいち叫ぶんじゃねぇ。 付きまとわれているみたいで鬱陶しい」

 

それだけ言って俺は転校生に背を向ける。

 

このままだと五時間目の授業に遅刻してしまいそうだ。

 

個人的には別にいいのだが、連絡が家にいってしまうと色々と困ってしまう。

 

「だったら・・・・・・」

 

「ん?」

 

転校生が小さく呟いた言葉に俺は立ち止まる。

 

本来なら聴こえないはずのその声は、後ろから襲撃されないようにと、『精霊』に色々と援護を頼んでいたので、俺の耳に聴こえてきたのだ。

 

「だったら、君はどうなんだ! ララちゃんに付きまとって勝手に婚約者になり、今では次期デビルーク王だ!」

 

立ち上がった転校生はそう言って叫ぶ。

 

というか、いつの間にか俺から婚約者になったことになっているし、最有力候補にまで格上げされている。

 

「それは違う。 俺から婚約者になったんじゃない、ララが俺を婚約者候補に選んだんだ」

 

振り返りながら俺は本当のことを教えてやった。

 

その後ろで五時間目の授業が始まるチャイムが鳴ったが、俺は気にせず言葉を続ける。

 

「それに次期デビルーク王なんて話は今、初めて聞いたことだ」

 

「そ、そうなのか」

 

真剣な表情で話す俺の言葉を信じたのか、どこかホッとした様子の転校生。

 

そして、そのことで調子を取り戻したのか、色々なことを話し出した。

 

自分はメモルゼ星の王族であること。

 

子どものころ、ララと結婚の約束をしたこと。

 

ララに相応しい男になって地球まで追いかけてきたことを説明してくれた。

 

「なるほどな。 それで、俺にどうしろと?」

 

結局、話を全て聞いているうちにかなり時間が経ってしまったので、授業を諦めた俺はそう尋ねてみた。

 

俺に事情を話したと言うことは何かやってほしいことがあるのだろう。

 

「君に婚約者候補の座を辞退してほしい」

 

何を言うかと思えばそんなことだった。

 

俺自身としては特に問題ないが、婚約者として選んでくれたのはララなので、俺にはどうしようもない。

 

「さっきも言ったろ、選んだのは俺じゃなくてララだ。 俺がなんと言おうとララの気持ちが変わらない限りそれは出来ない」

 

「ならば、ララちゃんと親しくなるようなことは避けてほしい」

 

確かにララが俺の方へ寄って来ても冷たくあしらうことは出来る。

 

そして、それを繰り返していけばいずれは俺という存在を諦めることもあるだろうけど。

 

「悪いな、ララの気持ちを知ってしまった俺としては結果がどうなろうと答えを出してやりたいと思ってる。 だから、いい加減なことは出来ない」

 

朝にも悩んだことだが、勘違いが原因とはいえ本当の俺を見てくれているララにそんな態度は出来ない、それは人として失礼な行為だと思う。

 

そして俺がそう言うと転校生であるレンは俯いたまま肩を震わせる。

 

「結城トシアキ! やはり君はボクの敵だ!!」

 

そして突然、顔を上げたかと思うと、叫びながら俺に指を向ける。

 

その宣言の後に五時間目終了のチャイムが鳴り響くのであった。

 

結局、俺はその日の午後の授業に出ることはなかった。

 

五時間目終了のチャイムの後、レンは教室へと戻って行ったが、俺は戻る気にはなれなかった。

 

屋上で過ごしたあと、下校時間になってから教室へ戻り、今は家で休んでいる。

 

「・・・・・・」

 

リビングのソファで横になり、目を閉じながら考えていた。

 

ララのことは好きか嫌いかで聞かれると好きだと答えられる。

 

しかし恋人としてや結婚相手としてはと聞かれると答えを返す自信がない。

 

「トシアキ、何してんの?」

 

「ちょっと、考え事をな。 って、なんだ、その格好」

 

ララの声がしたので目を開けてみると風呂上がりなのだろうか、バスタオル一枚を身体に巻いた状態で俺の顔を覗きこんでいる。

 

「今、美柑とお風呂入ってたんだよ、だからこんな格好なの」

 

「相変わらず警戒心がない奴だな、俺が襲ったらどうするんだよ?」

 

既にララのバスタオル姿は見慣れているため、少し困らせてやろうと軽い冗談を言ってみる。

 

「大丈夫だよ、トシアキはそんなことしないって信じてるし」

 

笑顔のまま、俺のことを信じていると言い放ったララ。

 

俺の冗談に全く慌てた様子もなく、特に考えもせずに答えたということは本心からそう思ってくれているのだろう。

 

「・・・・・・」

 

そう考えてみるとララのことが可愛く思えてくる。

 

今まで勝手に婚約者にされて迷惑だと思っていたが、これはある意味で幸せなことなんじゃないだろうか。

 

「ん?」

 

俺の無言の視線を受けても特に気にした様子もなく、可愛く首を傾げてみせるララ。

 

「・・・・・・なんでもない。 湯冷めしないように気をつけろよ」

 

そんなララに俺はそれだけ言って自分の部屋へ向かうことにする。

 

なんだか急に恥ずかしくなってしまったのだ。

 

あんなに可愛い女の子が俺を信頼してくれている。

 

そんな事実に少し照れてしまう俺であった。

 

「あっ、トシ兄ぃ。 お風呂空いたよ?」

 

自室へ戻ろうと廊下に出ると、今度は美柑が俺に声を掛けてきた。

 

先ほどのララのことを考えていた俺は美柑の声を聞いてそちらに視線を向ける。

 

「・・・・・・何、着てんだよ、美柑」

 

視線の先には風呂上がりの美柑がパジャマの代わりに俺のカッターシャツを着ていたのだ。

 

しかも、それは臨海学校へ行く前に処分してくれと頼んだモノだった。

 

「どう? これ、私の新しいパジャマ。 トシ兄ぃは捨ててくれって言ってたけど、勿体ないから再利用してみました」

 

そう言ってシャツ姿のままクルリとその場で回転する美柑。

 

その時にシャツの下部分が捲れ上がり、綺麗な黄色が見えたことは黙っておくことにする。

 

「俺のシャツなんて嫌だろ? 別に無理して再利用なんてしなくても」

 

「ううん、私が着たいから貰ったの。 再利用はただの言いわけ」

 

そう言った美柑は恥ずかしそうに頬を染める。

 

まさかの答えに俺のほうも恥ずかしくなってしまった。

 

「・・・・・・そんな格好をするのは家だけだぞ」

 

「うん、わかってる。 トシ兄ぃ以外には見せないから安心して」

 

それだけ言ってパタパタとリビングの方へ走って行った美柑。

 

我が義妹ながらなかなか可愛いことを言ってくれる。

 

「ちょっと待て、俺は今何を考えた」

 

ララに続いて俺は自分の義理とはいえ妹までそんな目で見ているのか。

 

学校では西連寺の胸まで触ってしまうし、最近の俺はどうかしているのだろう。

 

「・・・・・・早く寝よ」

 

その日は風呂にも入らず、自分の部屋へ戻ってすぐに布団をかぶることにした。

 

しかし、布団に入っても今日の出来事やララへの想い、それに自分自身への自己嫌悪でなかなか眠りにつくことは出来なかった。

 

 

 

~おまけ~

 

 

結城君が転校生のジュエリア君を連れて教室から出ていった後、クラスではちょっとした騒ぎになっていた。

 

「ねぇねぇ、見た? さっきの結城君」

 

「うんうん、今まで無口で怖いイメージだったけど、委員長に謝ってるときとか格好よかったよね」

 

今までは無口で何を考えているかわからない人って皆思っていたみたいだけど、今回のことで結城君の認識が変わったらしい。

 

「は・る・な!」

 

「どうだった!? どうなった!?」

 

そんなことを考えていると未央と里沙が興奮した様子で私に詰め寄ってきた。

 

「えっ? どうなったって?」

 

「もう、決まってるじゃない。 結城にム・ネ、触られたんでしょ?」

 

里沙の言葉で先ほどの記憶が蘇ってきて恥ずかしくなって俯いてしまう。

 

「べ、別にどうって・・・・・・さっきのは事故だったし」

 

「でもでも! その後の春菜の為に怒ってた結城はどうだった?」

 

今度は未央がそう聞いてくる。

 

確かにジュエリア君が結城君にぶつかって私も巻き込まれたけれど、結城君は私の為に怒ってくれたのかな。

 

「なんか、春菜の為に怒ってる感じだったよね?」

 

「そうそう、結城の奴も良いとこあるじゃん」

 

里沙と未央の話を聞いてそうなんだと、私は少し嬉しく感じた。

 

あと、怒っていた結城君の後ろに居た時はとても安心できた気がする。

 

なんていうか、守ってくれるってことが凄く伝わってきたの。

 

その後、五時間目には二人とも戻ってくることはなかった。

 

六時間目にはジュエリア君は戻って来たけど、結城君は来ないまま授業が進んでいった。

 

私はそんな結城君のことを考えながら窓から見える白い雲をジッと眺めていた。


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