魔法使いのToLOVEる   作:T&G

10 / 41
第八話

二日目の臨海学校は朝から海で海水浴だった。

 

綺麗な砂浜に青い海、そして暑さの元凶となっている太陽。

 

そんな中、俺は一人立ち尽くしていた。

 

「・・・・・・遊んでばかりのような気がするのは俺だけか?」

 

一応、臨海学校なのだから勉強はしないまでも何か学ぶことをするのだと思っていたのだが、予想が外れたらしい。

 

「まぁ、自然が好きな俺にとっては自由に動けるなら別にいいけどな」

 

久しぶりに見た海の『精霊』たちに軽く挨拶をしながら辺り見渡す。

 

どうせなら日陰の涼しい場所でのんびりしたかったのだ。

 

「トシアキー! こっちで一緒に遊ぼうよー!」

 

呼ばれたので声がした方に振り向くと、ララと西連寺の姿が見えた。

 

西連寺が俺のことを下の名で呼ぶはずがないので、ララが呼んだのだろう。

 

「なんだよ、ララ。 俺はゆっくり休も・・・・・・」

 

「えへへ、どう? 可愛いでしょ?」

 

水着姿のララが俺の言葉を聞かずに自分の水着姿をアピールしてくる。

 

というか、それもペケの変身した姿なのだろう。

 

「どうせペケの変身したやつだろ? それなら本物を着てる西連寺の方がよっぽど可愛いぞ」

 

やはり、ペケがどこからかコピーした水着より自分で着るものを選んだのであろう西連寺の水着の方が可愛く見える。

 

「えっ!? わ、わたし!?」

 

俺が突然名前を出したことに驚いたのか、西連寺が顔を赤くしながら慌てている。

 

だが、よく考えると女子の水着を褒めると変な意味にとられないだろうか。

 

「むぅ、ペケの変身じゃあダメなの?」

 

慌てている西連寺の横では頬を膨らませたララが俺にそう言ってくる。

 

別にダメと言うわけではないが、やはり自分で似合うものを買うべきだと思っている俺はおかしいのだろうか。

 

「ダメじゃないが、西連寺と比べると見劣りしてしまうな」

 

もっとも、ララのように万人受けするような容姿であればどんなものを着ていても似合うとは思うが。

 

「あくまで俺個人の意見だ。 他の奴に聞けば可愛いって返ってくるんじゃないか?」

 

「もう! 私はトシアキに言って欲しんだよ」

 

ララが俺を慕ってくれるのは嬉しいが、もともとは俺の発言が誤解を生んだのが原因だ。

 

もう一度キチンと話をしておくべきなのだろうか。

 

「あのな、ララ。 そもそも・・・・・・」

 

「きゃあぁあぁ!! 水着泥棒よ!」

 

俺の言葉をかき消すようにして離れたところから悲鳴が上がった。

 

覗き事件といい、お化け事件といい、水着泥棒事件といい、問題多発しすぎだろ、この臨海学校。

 

「っと、こっちに来たか」

 

水中を素早く移動してきたヤツは俺たちの方へと向かって来ていた。

 

「ララ、西連寺、注意しとけよ。 こっちに近づいて来てるぞ」

 

とりあえず、被害にあっているのは女子だけのようなので、目の前にいる二人にはそう言っておく。

 

「う、うん・・・・・・」

 

「まっかせて! 私が捕まえるわ!」

 

そう言っていたララだが結局、水着を盗られてしまった。

 

というか、今水着を盗ったヤツって。

 

「ラ、ララさん、大丈夫!?」

 

傍にいた西連寺が心配そうにララに近寄って声を掛けている。

 

しかし、ララの水着はペケの変身したものなので、すぐに元に戻っていた。

 

「うん。 大丈夫だよ、春菜」

 

振り返ったララの水着はキチンと元通りになっており、周りで様子を窺っていた男子たちが残念そうに肩を落とす。

 

そんな奴らを俺は放っておくことにして、水着を盗んだ犯人のもとへ向かうことにした。

 

「ちょっと、行ってくる。 お前らはここにいろ」

 

ララと西連寺にそう言い残して、俺は犯人が向かって行った岩場へと急ぐ。

 

「・・・・・・なるほど、そういうことか」

 

岩場に行ってみると、大きなイルカが砂浜に乗り上げて身動きがとれずにいた。

 

水着を盗んだ犯人はそのイルカの子供のようで、心配そうにコチラの様子を窺っている。

 

「安心しな、すぐに助けてやるよ」

 

イルカは頭の良い動物だ。

 

おそらく、人間の水着を盗んでここまで案内して親を助けて欲しかったのだろう。

 

「キュー」

 

俺の言葉の意味を理解したのか、嬉しそうにその場でとび跳ねた子イルカ。

 

流石に人一人の力ではどうしようもないが、俺には『精霊』がついている。

 

俺は『精霊』に協力してもらい、親イルカを海へ返してやった。

 

「んじゃ、気をつけてな」

 

遠くの海でこちらを見つめる親子イルカにそう言って手を振る。

 

「キュー!」

 

最後にお礼でも言ってくれたのか、親子イルカはそのまま海へと戻って行った。

 

それにしても、親子か。

 

「・・・・・・まぁ、いいか。 丁度いい場所だし、ここで休むことにしよう」

 

岩場は人の気配がしない静かな場所で、丁度いい陰もあり涼しそうな場所だった。

 

俺はそこで今までの疲れを休めるためにゆっくりと眠りに着いた。

 

これは余談になるが、イルカたちが無事に返ったあとに校長が今まで盗られていた水着を発見して大喜びしていたらしい。

 

そこに盗られた水着を探していた女子に見つかり、再びボコボコにされてしまったそうだ。

 

 

 

***

 

 

 

海で課外授業という名の遊びを終えた生徒たちは旅館に戻って寝る準備をしていた。

 

風呂にも入り、美味しい夕食も食べ、俺も布団に入って眠ろうと考えていた。

 

「明日で臨海学校も終わりかぁ」

 

「思い返すと校長に振り回されてばっかりだったよな」

 

同室の雉島と猿山の会話が俺の耳へと入ってくる。

 

しかし犬飼、お前はゲーム以外にすることはないのか。

 

二人の会話に混ざろうともせず、布団に入ったままゲームをしている犬飼に視線を向けた俺。

 

「せめて最後に楽しい思い出の一つを残したいと思わないか?」

 

「確かに! このまま終わるのは寂し過ぎる」

 

俺や犬飼を無視して話を続ける猿山と雉島。

 

犬飼に視線を向けていてもなにも反応しないので、俺は二人の会話に入ることにした。

 

「でも今からじゃ、寝て起きたら帰宅になるだろ」

 

「いや、まだやれることはある!」

 

かなりの大声で叫びながら俺に人差し指を向けた猿山はそのまま言葉を続ける。

 

「ララちゃん・・・・・・もとい、女子の部屋に遊びに行くのだ!」

 

俺に指を向けてまで何を言いだすのかと思えばどうでもいいことだった。

 

女子となら明日の帰りのバスにでも会話出来るだろうに。

 

そこまで考えた俺だが、肝試しの時に西連寺に貸した音楽プレイヤーをまだ返してもらってないことに気付いた。

 

「そうだな、行くか」

 

「「えっ?」」

 

俺がそう答えたことが余程驚いたのだろうか、猿山と雉島が揃って俺を見る。

 

明日帰るときに音楽プレイヤーが無かったら困るので、俺はそんな二人を放って部屋を出る。

 

「お、おい! 待てよ、トシアキ!」

 

「お、俺も行く!」

 

俺の後を慌ててついてきた猿山と雉島。

 

そんなに女子の部屋に行きたかったのだろうか。

 

「ここだ」

 

女子の部屋を目指した俺だが、西連寺が何処の部屋に居るのかわからなかった。

 

猿山に尋ねたところ、ララと同室ということだったので俺は案内を任せたのだった。

 

「ララちゃん、起きてるかなぁ」

 

「早く行くぞ」

 

女子の部屋の前で変なテンションの猿山を放っておいて扉に近づいた俺。

 

あんな奴の傍に居たら俺まで変な目で見られるに決まっている。

 

「おい! そこに居るのは男子か!」

 

俺が扉の前に着いた途端、聴こえてきた怒鳴り声。

 

おそらく、後ろにいる猿山と雉島が見つかってしまったのだろう。

 

俺は扉の前まで来ていたため、近くまでこないと見つからないはずだ。

 

「げっ! 指導部の鳴岩だ」

 

「に、逃げろ!!」

 

猿山と雉島は先生の姿を確認したのか、慌てて元来た道を戻って行く。

 

俺は見つかってはいないが、このままここに居ると見つかってしまうだろう。

 

「俺も逃げるかな」

 

考えていても仕方がないので、ここから逃げようとしたとき、目の前の扉が静かに開いたのだ。

 

「ゆ、結城くん・・・・・・」

 

「西連寺・・・・・・」

 

目的の人物に出会えたのは良いが、このままでは見つかってしまう。

 

「コラー! 待たんか!」

 

逃げた猿山と雉島を追いかけているのであろう先生の声が近くまで迫って来た。

 

今から逃げだしてもおそらく間に合わないだろう。

 

「仕方ない、腹を括るか」

 

別に今で無くても明日の帰るときに返してもらえばよかったのだと俺は思った。

 

早計な考えをして、行動に移してしまった自分自身に呆れてしまう。

 

こうなったら潔く怒られて反省でもしようか、と考えていたところ、西連寺に腕を掴まれた。

 

「早く入って! 見つかっちゃうわ!」

 

「おっ? おう」

 

女子の部屋に入れて貰った俺は座りこんで、そのまま辺りを見渡す。

 

「あれ? 他の女子たちは何処行ったんだ?」

 

「あ、うん。 みんなジュースを買いに行くって」

 

なるほど、それで他の女子の姿が見えなかったわけか。

 

ここまで来たのだから俺は早速本題に入ることにした。

 

「西連寺、悪いけど音楽プレイヤー返してくれね? あれがないと明日のバスの中で暇になるからさ」

 

「あっ、そう言えばずっと私が持ってたよね。 ちょっと待ってて」

 

自分の鞄が置いてある場所まで戻った西連寺はその中から俺の音楽プレイヤーを取り出す。

 

「はい、あの時はありがと。 凄く助かったよ」

 

「そうか。 それなら良かった」

 

渡された音楽プレイヤーを笑顔で受け取った俺はそのまま立ち上がった。

 

「それじゃ、俺は戻るな。 いつまでも女子の部屋にいるとマズイだろうし」

 

目的の物は手に入ったので、自分の部屋に戻って早く寝ようと俺は西連寺に背を向けて歩き出そうとする。

 

しかし、俺の浴衣が後ろに引かれているのを感じて振り返ると西連寺が袖を掴んでいた。

 

「西連寺?」

 

「あっ、その・・・・・・今出てると、先生に会っちゃうと思うから」

 

どうやら西連寺は俺が先生に見つかって怒られるのを心配してくれたらしい。

 

気持ちは嬉しいがこのまま部屋に居るのも問題あるだろう。

 

「大丈夫だ、何とかなる。 もし見つかったとしても・・・・・・」

 

「そうだったんだ、ララっち」

 

俺の言葉を遮るようにして、扉の向こうから女子の声が聴こえてきた。

 

ララの声も一緒に聴こえることからおそらく、この部屋の女子たちだろう。

 

「って、特に問題ないか。 後ろめたいことなんてしてないし」

 

そういう風に俺は考えていたのだが、西連寺は違ったらしい。

 

「結城君、早くこっちに!!」

 

慌てて俺の腕を取ると、布団の中に俺を押しこんでその布団を自らの膝に掛けたのであった。

 

「・・・・・・何故、隠れなくちゃいけないんだ?」

 

俺の目の前は暗闇に包まれ、その中で西連寺の足だけがぼんやりと見える。

 

そんな中で俺は疑問を浮かべたが答えが返ってくるはずもなく、その間にララたちが部屋に入って来てしまった。

 

「お、おかえりなさい」

 

ララたちが戻って来たのを見て、西連寺がそう声を掛ける。

 

というか、この状況で俺が姿を見せたら色々と勘違いされるじゃないか。

 

仕方がないので黙って気配を消し、外に出られる機会を待つことにした。

 

「あれ? 春菜、布団に入っちゃって、もう寝るの?」

 

「う、うん。 ほら、もう消灯時間だし」

 

「もう、そんなこと言って、夜はこれからよ?」

 

名前がわからない女子がそう言って西連寺に話しかけているようだ。

 

上の状況がわからないので何とも言えないが、なかなか出れそうにない。

 

「?」

 

そう思っていると携帯が布団の中に入ってきた。

 

西連寺が文字を打ってくれており、俺へ伝えてくれようとしたみたいだ。

 

【みんなが寝静まったら外に出すからそれまでガマンして】

 

俺は別にそれでも構わないのだが、クラスの男子を自分の布団の中に入れることに抵抗は無いのだろうか。

 

「ねぇ、ところで春菜さ」

 

「な、なに?」

 

今度は別の女子が西連寺に話しかけたようだ。

 

「春菜ってララちぃみたいに結城のこと好きなの?」

 

「なっ、なに言ってるのよ!」

 

流石に俺自身も驚いてしまう。

 

まさか、本人の俺が居る所でそんな話題になるとは思っていなかったのだ。

 

「えっ? そうなの春菜」

 

ララも興味があったのか、その話に首を突っ込んできた。

 

というか、俺がここにいるのだけど、聞いていても大丈夫なのか。

 

「さっきジュース買いに行ったときに聞いたんだけど、ララちぃって結城の婚約者らしいのよ」

 

厳密に言えば俺自身はそんなこと認めていない。

 

それと『ララが俺の婚約者』ではなく『俺がララの婚約者候補』になっただけだ。

 

「それで結城の家で一緒に住んでるらしいのよねぇ」

 

「肝試し大会の時には聞きそびれたけど、今なら良いわよね?」

 

「な、何が?」

 

布団の中から話を聞いている限り、このままここに居るのは色々と問題になりそうだ。

 

何とかして話を遮ろうと俺は布団の中で考える。

 

「肝試しの時に結城と何があったの!? 変なことされたんじゃない?」

 

「そうそう! 無口で何考えてるかわからない奴ほど、危険な考えをしてるんだよ」

 

俺が知らない女子二人が西連寺の傍に近づいてくる。

 

このままだと、西連寺の布団の中に居る俺は踏まれてしまうことになる。

 

「そんなことないよ」

 

そう答えたのは西連寺でも俺でも無く、話を聞いていたララであった。

 

「トシアキはね、皆のことを考えてくれる優しい人で、宇宙で一番頼りになる人だよ」

 

ララの言葉を聞いて他の三人は無言になる。

 

布団の中で声だけ聞いている俺にも一瞬、言葉を失うほど想いが伝わってきた。

 

ララは俺のことを本当にそういう風に見てくれているのだろう。

 

「な、なに!?」

 

「非常ベル!?」

 

そんな中、突然旅館内の非常ベルが鳴りだした。

 

ララを含めた三人は慌てて部屋の外へ出ていく。

 

「結城君!」

 

「あぁ、サンキューな」

 

その隙に布団から抜け出した俺は部屋を出て、他の生徒とは反対方向へ走りだす。

 

ちなみに非常ベルは鳴ったが、実際には何も起こってはおらず。

 

年老いた先生が何かのボタンと間違えて押してしまったらしい。

 

そのおかげで俺は自分の部屋に戻ってくることが出来たので、とりあえず感謝しておくことにした。

 

 

 

~おまけ~

 

 

「今頃、トシ兄ぃは海で遊んでるのかなぁ」

 

私はアイスを咥えながら、臨海学校に行ってしまったトシ兄ぃのことを考える。

 

出かけるときは笑顔で見送ったけど、やはり二日間一人でこの家にいると少し寂しく感じてしまう。

 

「まぁ、明日には帰ってくるんだけどさ」

 

私以外誰もいないのに、思わず言い訳をするかのようにそう言葉にしてしまう。

 

「・・・・・・」

 

アイスを食べ終え、残った棒をゴミ箱へと捨てた私はふと、思い出す。

 

「そういえば・・・・・・」

 

臨海学校に行く前にトシ兄ぃが言っていたことを思い出した私は洗面所へ足を運ぶ。

 

「あった! これを使おっと♪」

 

目的の物を手に入れた私は、明日帰ってくるトシ兄ぃの驚く顔を思い浮かべて笑顔になるのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。