モ「確かにこれは、今までの殺人があったことなんて、簡単に忘れれるほどのおいしい料理だぜ」
紋「何の用だてんめぇ!!」
モ「うひょひょー! ちょっと登場しただけで恫喝とはな! しかしモノクマは恫喝に恐れるほど軟弱なモノクマでありません。ボクはとてつもなく頑固なのだー! どうだー! まいったかー!」
紋「…………」
眉を吊り上げ、右手をゴリゴリし始める大和田。
しかしそんな大和田の態度も憚らず、モノクマは無視して話を勝手に進める。
モ「みなさん、こんな仲良しご──」
紋「うるせぇ! てめぇが喋る権利なんざ──」
モ「うるさーい! 先生の話は、黙って聞きなさーい! じゃないと怒りますよ!」
?「そうだぞ。何しでかすかわからん奴が、こうやって話をしにきてるんだ。聞くぐらいしとかないと、後でやけどをするぞ」
モノクマが怒っていた矢先、食堂で耳に覚えがない声を聞いて、僕らは思わず食堂の入り口に顔を向ける。するとそこには十神と、背中からこっそりと三つ編みが覗かせていた。腐川さんも来ていた。
ひょこ、と腐川さんが顔を出すと、みんなに見られてることに気づいてまた十神の後ろに隠れる。そして意味がないとわかったのか、ゆっくりと背中から顔を出した。
腐「そ、そいつに……呼ばれて来たのよ……」
腐川さんの目の先を辿ると、モノクマがいた。
モ「そうなんです。今日は大事な話があるからね。本当はもう少しあとでもいいかな、と思ったんですけど、ちょっち短期な俺は、リハーサルをする前に俺の歌声を聞かせにきてやったのです! 泣いて喜べ見て笑え! モノクマ歌唱ショーの始まりだぜ!」
十「御託はいい、さっさと用件を言え」
モ「しょええ……。淡白だ……たんぱく質で脳が出来てるんじゃないかというぐらいの淡白だ……」
霧「何のようなのか、早く言いなさい」
モ「はいはい。わかりましたよー」
モノクマは、何も置かれていない丸机の上に立って、それでは、と前置きをし話し始める。
モ「皆さんも、そしてこれを見ている君たちも、日常的な生活を一日中見てるより、真剣に、真摯に、本気で、正気で挑む、絶望的な絶望ショーを一日でも早く見たいという人が多いのです。なのでわたくしは、今回は特別企画、ということで、動機の提示をしにきてまいりましたー!」
モノクマはドンドンパフパフと口で付け加える。
葉「ま、またかよぉ!?」
苗「どういうことだ、モノクマ。いつもよりえらく早いじゃないか」
モ「おお、痛いとこ突かれたよ。ボクが役人なら、また後日返答します、というところだけど、ボクは学園長なので、ちゃんとお答えします」
人差し指を上に向け、何かを思い出すときのように指をくるくる回す。
モ「この前の学級裁判、確かに面白かったけどさあ、ボクが気づかないうちにルール違反を犯してしまったでしょ? だからさ、ボクはこれを見ている方々に示しがつかないわけ。だから、動機を早めに出して、お楽しみを早めようとしてるんだ」
苗「何が楽しみだ! お前のせいで、舞園さんは……!」
モ「ええ? ちょっと当てつけはやめてよ! ボクは舞園さんを殺してないよ? 殺したのは大神さんでしょ? そう学級裁判で決まったじゃないか」
守「おい、教唆は十分犯罪やぞ」
モ「は? 教唆? それって、誰かが誰かに対し、殺すように命ずる、あの教唆? あー、確かにあれは法律的に、刑法的に犯罪だよ。でも、ここは希望ヶ峰学園、そんな日本のルールは、ここでは適用されないんだよ? 生徒手帳にも、殺した奴が悪いって書いてたでしょ? そんなこともわからないの? バカなの? 死ぬの?」
一つの括弧に、「?」を七個もつけて、僕が恥ずかしくなるように、ざわとらしく説明的に言ってきてバカにしてきた。
思わず僕は尻すぼみして、口を閉ざす。
セ「あの、そろそろ動機について話してくださらない?」
モ「ん? あー、そうだったね。そうだったそうだった」
するとモノクマは完全に動きを停止した。
江「あれ? どうしたの? 動かなくなったわよ」
千「さ、さっきまで動いてたのに……」
すると、食堂の外からガガガー、っとタイヤを引きずる音が聞こえてきた。次第に近づくと、その音は食堂の中に入ってきた。何が起きたんだと目の前の状況がわからなかったが、それを理解するのに時間はかからなかった。アタッシュケースが五個ほど乗った台車が入ってきたのだ。
すると突然十神が「お前ぇ!」と叫び、食堂から出て行った。それと一緒に、モノクマは突然動き出した。
モ「あれまあ、十神君ったら、お節介なんだからぁ」
腐「ちょ、と、十神君?」
あたふた腐川さんに目もくれず、台車をとりにいくモノクマ。
モ「さて。これが何なのかを説明する前に、十神君の到着を待ちましょう」
十「じゃあさっさと説明しろ」
いつの間にか十神は食堂の入り口前に立っていた。
朝「ちょっと十神! どこ行ってたのよ!」
十「台車を運んでた奴を探してたんだよ。追っかけてみたが、案の定見つからんかったさ」
江「あんま余計なことしないでくれる? みんなのジャマなのよ」
十「頭がスッカラカンなポンコツほど、ジャマな奴もいないと思うが?」
江「え…………」
十「……その程度か」
江ノ島さんはそのまま頭をうつむけ、黙ってしまう。
朝「ちょっと十神! あんた言いす──」
モ「私語は慎みなさい! 話が進まないでしょうが!」
朝「…………」
モノクマは、台車に乗せていたアタッシュケースを一つ持ち上げ、机に置いた。
モ「さてさて。それじゃあ皆さん、これをご覧ください!」
アタッシュケースをあけると、そこには、一枚一枚に福沢諭吉が描かれたお札が二十枚見えた。そして僕は直感した。
モ「皆さんお分かりのとおり、ここに一億円があります!」
そしてモノクマは台車の上の四つのアタッシュケースを指差す。
モ「そして、同じようなアタッシュケースがあと四つあります!」
葉「ま、まさか……五億か!?」
モ「それだけじゃないよぉ」
すると食堂に設置されていたモニターが突如体育館、その舞台が映し出された。
山「な、なんだよ相棒! アタッシュケースの量が……HA☆GAAAAAA!」
十「今回の動機は金ってことか」
モ「そのとおり! あの体育館の量もあわせたら、百億もある。つまり、人を殺したら、その百億を献上しましょう!」
そして僕は気が付いた。これはセレスさんが殺人者になる、次なるデスゲームだということに。
モ「うぷぷ。凄いでしょ? ちょっと人をコロってやって、バレずにそのまま卒業できたら、人生ウハウハ間違いなしの間違いだらけだよ! ぶひゃひゃひゃひゃ!」
苗「僕らがその程度で殺人なんかすると思うのか」
そう誠ちゃんが言うと、モノクマは首を傾ける。
葉「そ、そうだべ! 俺らが、ひゃ、百億ごときで……ごときで……こ、殺すかあッ!」
腐「ま、迷いまくりよね……」
苗「そうだよ。僕らはもう、間違えなんかしない。人を殺したりなんか、しない!」
モ「ううぷ。その意固地がどれだけ続くクマかなー?」
守「でもさ、金って、価値あるんか?」
モ「…………」
これ以上、失言は許されない。ここは攻めどころだ。攻めて攻めて、せめてもの外の情報をこいつから言わせる!
守「どうしたんや、モノクマ。言葉なんか詰まらせて? 何か外の世界であるんか?」
モ「うーん、そうだね。百億じゃあ、人を殺すほどの価値はないってことだよね。河上君も、それ以上の動機が欲しいってことなんだね」
やばい、完全に揚げ足を取られてしまった。何か言い返さないと!
守「え、あ、ちが──」
モ「いいよ。じゃあ、もう一つ、動機を提示しましょう! この中に、偽りの性別で潜む奴がいます! それは──」
モノクマは僕の言葉をさえぎり、腕で指したのは、不二咲千尋ちゃんだった。
モ「そう! 不二咲千尋さん! もとい、不二咲千尋君でーす!」
静寂が訪れた。無音の空間の中に、ただ時計の音だけが鳴り響く。
千「……………………え?」
山「な、な、なにを言いなさる。こ、この不二咲千尋殿は、お、お、おと、おと、おとととととと」
葉「お、おい山田っち! 大丈夫か!?」
朝「うそ、え。不二咲ちゃん、女の子じゃ、ない……の…………?」
霧「どういうこと不二咲さん。あなた、男なの?」
千「え……、え……」
オロオロとしだす千尋ちゃん。周りの見る千尋ちゃんの目は、完全に人を疑いにかかる目だった。
誰も味方する者はいない。
全員、敵だった。
千「…………──ッ!」
すると千尋ちゃんは食堂から走って逃げ出した。すると大和田が千尋ちゃんの名前を呼びながら追いかけていった。
モ「あらら。逃げちゃった……」
守「どういうつもりやねんお前はッ!!」
モ「うぷぷ。どういうつもりって、君のお願いを叶えただけだよ。不二咲千尋が、性別を偽って何かを目論んでいる、危なそうな人物だという動機をさ」
守「こんにゃろうがァッ!!」
モ「そういえば、大和田君も追いかけていったよねえ。もしかしたら共犯なのかなあ?」
守「違うに決まってるやろが!」
十「黙れクソ愚民がッ!」
激昂した僕に横槍を入れたのは、十神だった。
守「なんやねん!」
十「お前が何を企んでるのかは知らんが、怪しまれるのはお前だぞ」
守「え……」
僕は、十神の言葉を聞いて、みんなを見る。その目は。
何か怖いものを見る目だった。
誰かを疎外する目つきだった。
忌みらしい者を突き放す視線だった。
なんでやねん……なんで、そんな目で僕を見るんや。やめてえや。
モ「うぷぷ。そういえばまだみんなに言ってなかったことがあったよね。僕も分からないような、大事なことを」
守「…………」
そんな目で見んなや。怖いやんか。やめてえよ、なあ。みんな、なあ。
モ「実は彼、河上守君はね、この学園の生徒じゃないんだよ!」
分からない、僕もみんなも分からない、どこにあるかもわからない一つの殻が、耳元で割れる音がした。