ダンガンロンパ リアルの絶望と学園の希望   作:ニタ

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episode 3 パート5 (非)日常編

 僕はセレスさんの最後の言葉に多少興奮しながら、彼女の言っていた共通点について考えてみた。

 といっても、そもそもその共通点の台となる、セレスさんの夢の内容を知らなかった事実に、考え始めて数十分の後に気づいた。果たして僕は馬鹿なのかという思索に路線を外れそうになったが、そこは自前のエロ妄想で食い止めた。

 そして妄想に(ふけ)った。

 なんなんだ僕は。

 じゃなくて。

 セレスさんの夢を知らなかったという事で、僕はもうひとつの共通点である『モノクマの起こした今回の事件』で、セレスさんの夢はどういう夢をみたのかという考察に入ったのだ。

 そして僕がいろいろ考えた共通点──夢とは、記憶喪失になる以前の記憶を思い起こした夢だ。

 

 人間の夢を見る現象はいろいろ説があるらしい。たとえば深層心理に感じている事を夢で見ることだ。

 恐い夢を見ると、常日頃にネガティブなことを考えてることとか。高いとこから落ちる夢は、地位や名誉を失う不安であったりすることが多いそうだ(十神らへんが見てそうな夢だ)。

 しかしそう考えると、セレスさんの見ていた夢は、別に気にするほどでもない、ただの夢ということになる。夢の内容は把握してはいないが、とても深刻そうに話していたが、言葉の端から思い考えると、昔の思い出を夢見ていたのだと思う。

 少なくとも、夢を見て恐かったとか、面白かったとか、|将又(はたまた)なぞの生物に襲われそうになったとか、そういう類のものでなかったはずだ。

 

 ──いえ、リアルな夢ではありません。

 ──変な夢でした。まるで今ここにいるわたくしは夢であるかのように錯覚してしまうほど、変な夢でした。

 ──無性に、本当に突然話したくなって……。

 

 彼女は、そんな風に言っていた。にもかかわらず一般的な夢を見てそれを、誰かに突然、しかも会って間もない間柄で発展性のない、夢の中の話をするなんて、それこそ夢の中の夢の話でしかない。

 そういうと彼女は夢を見ていたこと自体が嘘、というようなニュアンスで取れるが、取られてしまうが、そんな残忍な事は思っては断じてない。それ以上に彼女は、そうさせるほどの夢を見ていたのだ。

 

 リアルな夢。

 と、彼女は言っていた。

 歯切れが悪く、とりあえずリアルな夢にしとけ、というような感覚でいっていたかもしれない。が、その次に彼女は、変な夢、といっていた。

 変な夢。

 もしセレスさんの見た夢が記憶を思い起こしている夢なのだったとしたら、リアルであり、変な夢であることも(うなず)けなくもない。

 失った楽しかった記憶を夢で思い出しかけ、自身のいる自分の存在の不安定さに慄いていた、と考えたら尚更だろう。

 だがまあ、それが共通点に繋がるのかはどうかはわからない。自分的には結構良い線を言ってる解釈だと思う。しかしこれを正しいと思っては駄目だろう。もしかしたら違う理由かもしれない──それが間違いだったら、セレスさんの言っていた本来の共通点を見透(みす)かす可能性がある。何より間違ってたら恥ずかしいし。

 ていうか、そもそも夢自体が嘘かもしれないし。

 虚構のギャンブラー、セレスティア・ルーデンベルク。それが、彼女だ。

 そうだな。また会えたときに直接聞くのがベストだろう。

 

 僕はとりあえず夢の話を保留にし、僕は時間を確認した。

 まだ一時なのか。

 夕方まで結構な時間がある。そういえば、三階が開放されたんだっけか。

 またこれ以上の殺人を起こさないためにも、いろいろ下見をした方がいいかもしれない。

 僕は自室を出て、三階へと向かった。道中には特に何も無く、人影もなく寄り道せずに向かった。

 三階に辿りつくと、はじめの顔を見せた娯楽室へ入る。珍しいことに──いや僕がここに来ること自体が珍しいんだから、そうとは言い切れないが、ともかく葉隠がいた。

 

「葉隠やんか」

「ん、河上っちか」

 

 葉隠はビリヤードテーブルに上半身乗せ、キューを白ボールに狙いを定めていた。

 僕の来訪に顔を少し傾けて挨拶をして、すぐに葉隠はテーブルに視線を戻した。そうとう集中しているようだ。

 テーブルに残ってるボールは3個あり、黄色の「1」と青の「2」のボール、そして白ボールだ。

 葉隠の位置は長方形テーブルの短いところに立ち、僕から見たら、左側に立っていた。そこでテーブルに(もた)れかかり、おおよそ30センチメートル先の白ボールの右にキューを沿えて、左よりにある2のボールを狙い定めていた。

 

 なんだろう。

 そこにはなぜだかわからない、異様というか、異質というか、そんな緊張感が生まれていた。狙いを定める葉隠に、残り二つの玉を入れるだけだが、はずしたら最後、切羽詰ったギリギリの状況を、垣間見たかのようだった。それはさながら、獲物であるウサギを遠くから観察するライオンとの間の、戦闘はもう始まってるんだぜのごとくの緊張感であり、そこに介入すれば僕の命がウサギのように、それは滑らかに掻っ攫われそうな気さえ感じた。

 そんな生死を迫るか緊迫感と揺るがすことを許されない緊張感が続くなか、葉隠はついにキューを持つ手を引いた。白ボールはキューに突かれ──のではなく思いっきり手からキューが飛んでいった

 

「えええええ!?」

 

 キューはテーブルをなぜか超えて、壁に鈍い音を立たせて落ちていった。

 僕は驚きのあまり、あごがあんぐりと開けていた。

 

 いやいや。

 いやいやいやいや。

 

「何突き飛ばしとんねん!」

「だってぜんぜん当たりそうにねぇんだよ!」

「たった一つの玉をちょっと離れた玉に当てるだけやのに、どうして当たらないと思うんや!? てかキュー飛ばすな!」

「当たらねぇと思ったら、なんか、投げ飛ばしてたんだよ! 文句あっか!?」

「あるよ! あるよ! ありまくるわ! まずさっきの緊張感を返せ!」

「勝手に緊張したくせに文句言うんじゃねぇ!」

「うっ……」

 

 当たり前のことを突かれ、僕は押し黙ってしまった。

 

「ったく……まあいいや。さすがに飽きたところだったしな」

 

 そういうと葉隠はキューをとりに行き、さっきの反省か、テーブルへ徐においた。

 

「で、どうしたんだ、河上っち。お前がここ来るなんて珍しいべ」

「まあ、散歩みたいな感じや」

 

 特に隠すことでもないのだが、なんとなく嘘をつく。

 

「だよな、やっぱり。ここに来るなんてあるんだとしたら、そりゃやっぱ遊びしかねぇもんな」 

 

 葉隠は満足げに言った。

 

「まあでも、一人じゃつまらん。すぐに飽きちまう。やることねぇな、と思って、なんとなくビリヤードやってんだけどよ、普通にやってたら退屈するし、とりあえず変てこなことやってみようと思ったんだべ」

「やからってキュー飛ばすか……?」

「まあまあ。あ、そうだべ」

 

 と、何か思いついたのか、葉隠は腹巻きに手をいれて水晶玉を取り出した。

 …………。

 

「そんな嫌そうな顔すんなって、ただの占いだべ!」

 

 いや、別に占いに対して嫌悪を抱いてる訳じゃない。

 僕が抱くのは、水晶が腹巻きに仕込まれていたということに、なんか途轍もなく嫌な感じがしたんだよ。

 女の子的に言えば、生理的に気持ち悪かった。

 なんか臭そう……。

 

「知ってるかと思うがな、俺の占いは三割当たるッ! この確率は今まで揺るがなかった確率だぜ!」

「三割って、また微妙やな……」

「何を言うか! 確実に三割当たるって、凄いことなんだぜ? そう見くびってもらっちゃ困るべ」

 

 まあ、確実って聞いたら、それっぽいけどさ……。

 三割って確率が邪魔して、胡散臭さがとっておきだ。

 

「ホンマに当たるんか……?」

「んなん、知らねぇべ」

 

 知らないって言ったぞこいつ。

 

「そもそも三割当たるってことは、七割外れるってこった。占いを信じるも信じないも、個々人の自由だけどな、やっぱ占いに過信は禁物だべ」

「おい占い師。それ絶対に、占い師的に人に言っちゃあかんワードやろ、それ」

「まあ、そうなんだがな……、とどのつまり、期待しすぎはするなってことだべ」

「……………………」

 

 なんか、ゲームの時よりえらく現実的やな……。もう少しポジティヴな感じに占いというものを受け取っていた印象を持ってたんやけれど、案外そうでもないんかな……?

 

「よし、じゃあいくべ……。この水晶を、よく見とくんだ」

「あ、うん……」

 

 なんだかさっきから雰囲気に飲まれっぱなしだな、僕。

 さっきのビリヤードといい水晶を取り出す場所といい、突拍子もない事を平気でやって、そのまま話を進めまくるから、話のリズムに乗り辛い。なんとも独特なテンポを持っている。まあ、その独特のテンポを持ってるからこそ超高校級って言われるんだと思うんだけれど。

 葉隠は、右手に水晶を乗せて、左手で嘗め回すようにゆっくりとねっとりと

水晶をぐるぐるとなでる様に動かせる。

 それっぽい感じに、僕はまた呑まれる。

 

「……出たべ」

 

 低いトーンでそういう。

 

「河上は次の学級裁判で、裸踊りをする!」

「…………」

「ふむ。その後に河上が『夢や! これは夢なんや!』って叫んでる様子が見えるべ」

「そりゃ、夢であってほしいわ」

 

 でないと、今後の道しるべを刑務所で見つけないといけなくなる。いや、警察なんて今現在で考えたらザルだ。僕の道しるべを奪われるのは、主に女子からの軽蔑だ。

 …………三割が怖い。

 

「そしてモノクマからパンチを食らわされて、『お、親にもぶたれたことないのに!』で言ってんな。んでもって『僕は人間から逃げるぞ、モノクマアア!』って叫びなが──」

「もうええ、もうええ。それ以上荒唐無稽な占いを聞いてたら、僕が恥ずかしくなる……」

「ん、そうか? まだあったんだが」

「もうええ。ホンマに、もうええ」

 

 僕は断固として拒否した。その後に金を請求されたが丁重に拒否って、僕らは娯楽室で夕方まで遊んだ。

 

 僕は葉隠と分かれて、一度自室へと戻った。

 時計を見て、まだ七時まで時間があると知ると、ベッドに座った。そしてなんとなく舞園さんのことを思い出すと、僕はピンと閃いた。

 そういえば、今まで殺された人物は、最後まで生き残らなかった人物ばかり殺されていた。清ちゃんや桑田、舞園さんに大神さん。全員、最終生存者から外れている。もしかしたら、もしかすると、生存者は生存者で助かる運命は変わりないのかもしれない。ならば、それ以外の人物を中心に目を配っていけば、もしかしたらこの殺人ゲームの歯止めが出来るかもしれない。

 

 そう考えた瞬間、僕は様々な可能性を考えて、その対処法を提案した。それをしているうちに、予定してた時刻を過ぎていて、気づいた僕は急いで食堂へと向かった。

 

朝「遅いよ、河上ー」

 

 食堂に着くと、すでに生徒が集まっていた。僕が現れた矢先に声を掛けてきたのは、その食堂の入り口前にいた朝比奈さんだった。

 

守「いやあ、すまんなあ。ちょい遅れてもうたわ」

千「心配したんだよ? ズボラな河上君でも、来ないことはなかったから」

守「千尋ちゃん……一言多いで……?」

 

 ていうか、ズボラな奴だと思われていたのか、僕は。

 

朝「ズボラかどうかは置いといてさ……、まあちゃんと来てくれてよかったよ」

 

 朝比奈さんは物憂げな表情でそういった。その表情に気になって、朝比奈さんに話しかけようとするが横槍が入った。

 

セ「ホント、来てくださって嬉しいですわ。ちゃんと約束、守ってくれましたわね」

守「まあ、そう言ってたしなあ。そういえば──」

 

 僕は食堂を見渡し、やっぱりと思ったことを口にする。

 

守「案の定、十神と腐川さんは()とらんな」

セ「一応誘ったのには誘ったのですが、十神君は頑固一徹と無視を決め込み、腐川さんは突如狂乱し、そのまま個室に引きこもりです」

千「何だか、変な人ばっかりだね……」

 

 お前が言うな。と僕は心の中でツッコミを入れる。

 

葉「まあ、なんだ。問題児を除けば、いい集合率だべ」

紋「おめぇが言うな」

山「そうですぞ。覗きなぞする輩が言うべき発言ではありませんぞ!」

江「あんたこそ、そんなことを言うべき発言でもないっつーの」

セ「そうですわね。何せ、覗き魔……ですもの?」

山「す、すみません……」

 

 いつもの恐い顔つきで攻めるセレスさんだった。

 

セ「では、大方そろったことですし、夕食としましょう」

 

 僕らは、どうやら朝比奈さんとセレスさんが作った夕食が机に並べられ、脂っこいものや甘いものから甘ったるいものまであり、胃が少しもたれたが、楽しく夕食を終えた。

 

江「こ、これ……結構クる……」

山「ええ。思った以上に、大変な夕食会でしたなあ……あ、これやべえぞ」

守「こりゃあ、この場所動けへんで……」

霧「はい」

 

 椅子にもたれかかって天井を見ていると、霧切さんが視界に入り、僕は顔を上げる。それと一緒に机にコップが置かれているのが分かった。

 …………えらく黒い液体やな……。

 

守「なあ、霧切さん。これはなんや?」

霧「黒ウーロン茶よ。胃もたれに効くわよ」

守「あー、テレビでよーやってたなあ。役○火鍋会やっけ?」

霧「それを聞いて、そうねと頷く人はまずいないわよ。それに、どんだけ昔のシーエムよ」

守「幸福がないふりはできひんよ」

霧「黒ウーロン茶で人生を変えなさい」

 

 サン○リーだったかな、確か。

 

葉「お、おれっちにもくれ……霧切っち……」

 

 蚊のような声で葉隠は言うと、霧切さんはわかったわ、と言いながらキッチンへと入っていった。組み終えて、再び食堂に、人数分の黒ウーロン茶を運びながら姿を現した。

 配られると、みんな即効に呑み始め、全員パワフル全快といった感じに回復していた。それを傍目に見ていた朝比奈さんとセレスさんは複雑そうな表情をしていたのを、僕は忘れない。

 だが僕らの一つの夢は、始まったばかりだが、当たり前の突然で壊された。

 

「うぷぷ。こりゃあ胃潰瘍になる別格な料理だったぜえ」

 

 どこからともなく、しかし当たり前でいるかのように、白黒のクマは食堂に現れた。


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