ダンガンロンパ リアルの絶望と学園の希望   作:ニタ

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episode 2 非日常編 学級裁判3

葉隠康比呂:

  舞園っちは、本当に更衣室で殺されたんか?

  もしかすっと、違う場所で殺されたんかもしれんべ。

 

霧切響子:

  舞園さんは更衣室で殺された筈よ。

 

葉隠康比呂:

  いや聞けって。絶対これで合ってるって。

  舞園っちは、更衣室じゃない別の場所で殺されたんだ。

  犯人がその別の場所に呼び出して、頭を二発殴ったあと、あの麻袋に仕込んだんだ。

  そしてプールまで運んだあと、犯人はこっそりとそっから立ち去ったんだべ!

 

霧切響子:

  手首はいつ、切られたのかしら?

 

葉隠康比呂:

  え? えっとなぁ……。

 

江ノ島盾子:

  何にも考えてなかったのかよ……。

 

葉隠康比呂:

  ち、違うべ! 今わかったべ!

  舞園っちは、麻袋に運ばれたあとに手首を切られたんだ!

  自殺したって偽装するためにな……(キリッ

 

河上守:

  いや、舞園さんが死んだのはプールの筈や。

 

葉隠康比呂:

  お前までそういうのか。

  じゃあ一体どこか矛盾してんだ?

 

河上守:

  実は舞園さんからこんな手紙が出てきたんや。

 

『今日の2時半頃、一緒にプールで泳ぎにいこう。

少し遅れるかもしれないけど、待っててね。

それと、この事は秘密にしておいてよね。

 

                        』

 

十神白夜:

  舞園の持っていた手紙か。

 

不二咲千尋:

  2時半にプールで泳ごうって、書いてあるね。

  じゃあ舞園さんは、この時には居たのかな。

 

河上守:

  おそらくせやと思う。

  犯人は舞園さんを更衣室におびき出して、犯人がそこで待ち伏せとったんちゃうかな。

  そん時に頭をぶん殴って気絶させて、麻袋に隠す。

  タイミングを見計らって舞園さんを取り出して、そん時に手に傷を負わしたんや。

 

葉隠康比呂:

  そ、そうだな……

  良い線行ってると思ったんだが……。

 

江ノ島盾子:

  ねぇねぇ。さっき言ったタイミングって何なの?

  何かよくわかんないんだけど。

 

河上守:

  それは、この手紙の破れた部分にある。

 

江ノ島盾子:

  ……んえ?

 

山田一二三:

  江ノ島盾子殿が何やら可愛らしい声を発しましたぞ。

  すみませぬが、もう一度お願いできますかね? 録音しますんで……

 

江ノ島盾子:

  殴るよ?

 

山田一二三:

  す、すいやせんでしたぁぁ!

 

腐川冬子:

  そ、そんな茶番やってないで……いいわよ……

  それで……い、一体その破れたところに、何の意味があんのよ……

 

河上守:

  確証があるわけやないけどな。

  山田が持ってた紙切れあるやろ。それが繋がると思うねん。

 

山田一二三:

  こ、これですかな。

 

河上守:

  はいはーい……。

  ほい重なった。

 

『今日の2時半頃、一緒にプールで泳ぎにいこう。

少し遅れるかもしれないけど、待っててね。

それと、この事は秘密にしておいてよね。

 

                  朝日奈葵』

 

不二咲千尋:

  本当だ! 読者には分からないだろうけど、ピッタリ一致してるね。

 

河上守:

  ああ。何か挿絵ありゃ分かりやすいけど、とりあえずこれで一致したわけや。

  そしてこの似たような手紙、朝日奈さん持ってたよな?

 

朝日奈葵:

  ええ? う、うん……。そうだよ。

  といっても、時間以外はだけどね。

  私のは3時になってから。それに私、そんな手紙の書き方しないし……。

 

河上守:

  舞園さんの手紙と朝日奈さんの手紙。

  この二つをよぅく見たら同じような字やねんな。

  しかも普通、二人とも手紙で同じ遊びに誘うなんてことはせん。

  犯人が工作をして、二人を騙したんや

  そして、何故か舞園さんの手紙だけ名前が千切られとった。

  これを示しているのは、犯人が被害者である舞園さんは

  朝日奈さんが殺したようにクロの仮面を被せようとしていたんや。

  つまり、朝日奈さんは犯人やない!

 

十神白夜:

  つまり、犯人は舞園を殴り、

  気付かれないように麻袋に入れて更衣室の端に置いた。

  朝日奈が通った頃合を見て、自らも更衣室へ侵入し、

  その時に舞園さんを取り出して手首を切り、自殺かのように装ったのだな。

 

苗木誠:

  確か、死体発見アナウンスは誤作動してなかった筈だ。

  その時の状況から犯人は三人に絞られてるんだよね。

  朝日奈さん。大神さん。そして、大和田君。

 

十神白夜:

  そして犯人は朝日奈さんの可能性が低くなった今、

  大神さんと大和田君が残った。

 

河上守:

  大和田は千尋ちゃんと先にプールに来ていたはずや。アリバイはある。

  そもそも朝日奈さんが来た時にはなくて、その後続いて入ってきた

  大神さんが舞園さんを取り出したと考えれる。

  犯人は大神さん、あんたや。

  

大神さくら:

  ……………………。

  我は違う。

  我は……やっておらぬ!

 

十神白夜:

  今後に及んで無罪を言い張るか。

  今の河上の推理は良い線は言っているとは思うんだがな。

  大神がクロの可能性は高いだろう。いや、クロだ。

 

大神さくら:

  わ、我は犯人ではないッ!

 

十神白夜:

  じゃあ、もう一度ディスカッションをするか?

  更衣室とプールで起きた事件の事情聴取を。

 

大神さくら:

  我は何も知らぬ!

  犯人はもしや、朝日奈かもしれぬ。

  更衣室で麻袋を確認したと偽り、死体を出したのではないのか?

 

セレスティア:

  では何故、大神さん、貴女は舞園さんの死体を見なかったのですか?

  貴女より先に来た朝日奈さんが死体を出したなら、

  貴女は舞園さんが手首を切られて死んでいる姿を見ていたはずです。

  それでも尚誰にも報告しなかったというのは、どういうことでしょうか?

 

大神さくら:

  ふ、震えたのだ。

  そ、そう……誰かがこの事実を知ることに……

 

セレスティア:

  貴女のような方がその程度で怯えることなんてない筈ですが。

  数々の勝負をして勝利を培ってきた大神さんならば、その程度で

  怯むとは考えにくいですわね。

 

大神さくら:

  ……!

  わ、我は!

  ……大和田もありえるのではないか?

  更衣室に入るには、電子生徒手帳が必要だ。

  女子更衣室に入るには、女子の電子生徒手帳が必要だ。

  大和田は誰かから盗んだのではないか。

 

大和田紋土:

  お、俺がンなことするわけねぇだろうが!

 

江ノ島盾子:

  ていうかさ、あたし達はそん時お風呂入ってたんだけど。

 

腐川冬子:

  そ、そうよ……どうやって盗むのよ……。

 

大神さくら:

  脱いだ衣類から盗んだのであろう。

 

大和田紋土:

  やってねぇよ! 俺がやった証拠なんてねぇだろうがよッ!!

 

大神さくら:

  同時にやっていない証拠もないであろう。

  そういえば、大和田は不二咲に泳ぎを教えている時に、

  男子更衣室に戻っていた筈だ。その時にやったのではないか?

 

苗木誠:

  それは違うよ!

 

大神さくら:

  ……何故だ。

 

苗木誠:

  大和田君が女子の生徒手帳を盗む瞬間は誰も見なかったと思う。

  葉隠君らが覗きをやっていた時間っていつからいつだっけ?

 

葉隠康比呂:

  ずっとだべ。

  始めから終わりギリギリまでだったな。

 

山田一二三:

  わ、わたくしは知りませぬぞ!

 

苗木誠:

  その時、大和田君を見た? 十神君。

 

十神白夜:

  何故俺に振るんだ。……まあいい。今更隠しても意味は無いからな。

  言っておくが、だからと言って俺は殆ど覗いていないからな。

  葉隠と山田以外、覗きをやっていた奴は居なかった筈だ。

 

江ノ島盾子:

  ほ、本当に覗いてたんだ……。

 

霧切響子:

  最低ね。男として。

 

十神白夜:

  くっ……!

 

苗木誠:

  つまり、大和田君は女子の生徒手帳を盗むタイミングなんてなかった。

  それでどうやって女子更衣室に侵入するのかな、大神さん。

 

大神さくら:

  ……………………。

  ……そうだ。

  我が…………、

  我が舞園さやかを殺した。

 

葉隠康比呂:

  ま、マジかよ……!

 

大神さくら:

  完璧な計画かと思っていたのであるが、

  やはり殺人なぞ、我にやり通せなかった。

  長い時間を掛けて懸命に練った計画が、失敗に終わるとは……。

  悔しい……。おのれ……!

 

葉隠康比呂:

  お……オーガ……?

 

大神さくら:

  何故見破ったのだッ!

  我が必死に考えた殺人計画が、何故見破られたのだ……!

  完璧な計画な筈だった。だのに!

  結局失敗だった! 自分を殺してまでやったのに!

  所詮我が考えたところで、何も出来ないのか!

 

河上守:

  大神さん……?

 

大神さくら:

  我は……我は……!

  犠牲を出してまで、守ったのに……台無しにしてしまった……!

 

モノクマ:

  はーい! 皆さん! そろそろクロを決めましょうか!

  お手元のボタンを押して、誰がクロかを決めてくださいね!

  果たして投票の結果、誰がクロになるのか!?

  その答えは正解なのか……はたまた不正解なのか!?

  それでは、張り切っていきましょーーッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         犯人は、大神さくらだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        学級裁判  閉廷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大神さんはクロの判決が下るまでずっと、自分の行いがなんたらと嘆いていた。ゲームでは決してなかった、本気の後悔というか、なんというか、しかしながらその姿は僕に、おそらく僕らにとって怖く見えた。

 

モ「なんと今回も大正解! 人気有名アイドル、舞園さやかを殺したのは……霊長類きっての最強と謳われた、格闘家の大神さくらさんでしたぁー!」

 

 僕は大神さんの言っていた言葉の意味を頭の中で反芻(はんすう)していた。

 彼女の犠牲にしてまで守りたかったものとはなんだろうかと。あそこまで取り乱してまで守りたかった事とはなんだろうか。

 大神さんに対する違和感は、次第に膨れ上がっていた。

 

朝「どうして……舞園ちゃんを殺したの……!」

さ「…………守るためだ」

朝「守る……ため?」

 

 一瞬僕の名前を呼ばれたと思ってひくついたが、すぐに本意を理解した。

 

さ「……我には、互いに認め合う男がおった。あいつは我が対等に渡り合えとも、今まで勝った事がないほどの、強い男だった」

葉「れ、霊長類最強のオーガが適わない男って……」

さ「……あいつは今、病魔に冒されている。あいつは、我に約束した。最強の座をいつか取り返してみせる、と……。我は日々鍛錬を怠らず、修行をしてきた。いつか、勝負を挑まれた時に為に……」

十「そして早くこの学園から出るために人を殺したと……」

さ「違うッ」

 

 強い語調で、否定する。

 

さ「……我が、殺人に及んだ動機は……あいつが……人質にとられたからだ」

葉「ひ、人質?」

腐「人質って……なんなのよ……」

 

 あまりの言葉の慣れなさに、僕らはその言葉の重さを理解できなかった。当然の話といえば当然だが、僕は非常な事にも、こんな事を思ったのだ。

 どうして、人質なんかで人を殺すことになるんだ。

 そんな苛立ちを感じながら、僕は大神さんの本当の気持ちを理解しなかった。何が理由があろうとも、人を殺していい理由なんかない。そんな自己的な考えが前面に出て、僕はその人質の真意を理解しなかった。

 そんな屁ほどの自分の思いは、ちゃんと考えればすぐにわかることだったのだ。

 

さ「奴のせいで我の、我らの人生を踏みにじったのだ!」

 

 大神さんはモノクマを睨みながら言った。

 

モ「僕は知らないよ。大神さんが初恋の人を守りたいと思って殺人をしたんでしょ? どーして原因が僕にあるわけ? 意味わかんなーい!」

さ「黙れぇぇッ!!」

 

 初恋の人、と聞いて一瞬「そうだったの?」って思ったが、すぐさま大神さんが怒声を放ち、思考をストップさせた。

 

さ「貴様が、殺人を犯さねばケンイチロウを殺すと言った! 同時に殺人を犯したらケンイチロウを助けると甘言に惑わされた! 我は何としてでも守らねばならんと思った! 貴様の言った期限が刻々と過ぎていくうちに、我はどうしようもならないほど混乱した! 殺人を犯すか、犯さぬか! 頭がおかしくなりそうだった! もう殺すしかないと思った! でなければ! ケンイチロウが……死んでしまう……」

 

 次第に大神さんの声が小さくなっていった。

 

さ「…………奴と戦うことができなくなってしまう……。だが、もう二度と、会うことさえも、出来なくなった……」

 

 涙を啜る音だけが裁判所に響き渡る。

 

さ「しかし……しかしそれは……仕方のないことだ。我は人を殺したのだ。あやつに合わせる顔もない。もう、何もかも壊れた……」

 

 その言葉を言った直後、裁判所には甲高い音が鳴り響いた。

 気付くには一瞬時間を要したが、どうやら朝日奈さんが平手打ちをした音だった。大神さんの身体を後ろに向けさせ、朝日奈さんが怒った顔で殴った。

 

朝「被害者面しないでよ……!」

 

 その言葉は、今までにない朝日奈さんの言葉の重みだった。

 

朝「舞園ちゃんを殺して、反省すればいいと思ってるの……? 何よそれ……わけがわからないよ。それで舞園ちゃんが帰ってくるの? 反省して、自分だけが被害者みたいに言って……なんなのよ……なんなのよッ!」

 

 突然、声が裏返るほど朝日奈さんは大きな声を出す。

 

朝「もう無理なんだよ! 舞園ちゃんは戻ってこない! 私を優しく気遣ってくれた舞園ちゃんも、話すときはいつも楽しそうに話し相手になってくれた舞園ちゃんも、一緒に趣味を話したり、恋バナしたり、喧嘩したりしてくれると思ってた友達が、もういないんだよ! あんたのせいで! あんたのせい……で…………」

 

 大きな声で喋り続けた朝日奈さんだったが、息切れしてきたのか、肩を上下に動いていた。

 

さ「……すまない…………すまない…………」

 

 涙まじりの声で何度も何度もすまない、と言い続ける大神さん。

 大神さんを掴んでいた朝日奈さんの手は重力に従うように落ち、、朝日奈さんは顔を手と逆に大神さんに向ける。

 

朝「…………大神ちゃんも、大変だったんだよね……」

 

 僕は場違いながらも、何かへんな違和感に気付いた。

 ()()ちゃん?

 そういえば、朝日奈さんはゲームじゃ大神さんの事を「さくらちゃん」と呼んでいた気がするんだが……。……そういえば、さっきからあまり親しいという感じも出していなかったような気がする。

 何だろうこの違和感は。

 

朝「大神ちゃん、大好きな人を守るために、あいつに脅迫されてやったんだよね」

さ「我は……ケンイチロウに生きてほしかった。決して死なずに……いつか戦える日が来る事を信じて。……しかしこうなった以上、我は生きてはおけぬ。罪を償うことも出来ぬ……」

朝「うん……」

葉「だったらさ……俺が伝えてやるべ!」

さ「……?」

 

 首を傾げる大神さん。葉隠の言った意味が理解できない様子だった。

 

葉「だからさ、オーガは最後までその恋人の気持ちを最後まで思い続けて死んでったってことをだ!」

 

 恥ずかしいのか、顔を赤くしながらいつもより少し早口で喋る葉隠。

 

さ「そ、それだけは……」

 

 赤面する大神さん。それに便乗して皆もしゃしゃりでてくる。

 

江「そうだよねー。あんだけ悪い事したんだし、そんぐらい我慢しなさいよ」

葉「そうだべ! これは俺が責任持って告げるべ!」

山「しかしケンイチロウ氏は大神さくら殿が戦いを挑んでも負けるレベル。はたして葉隠康比呂殿が無事生還できるかどうか……」

葉「ちょ、待てって! んなこと言うなよ!」

山「霊長類最強と言われる大神さくら殿が勝負を挑むほどの相手……どのような怖いお方なのでしょうか……」

葉「やめろー! 自分で振っといて責任重大すぎんべ!」

霧「良いんじゃないかしら。貴女は覗き魔でしょう? それぐらいするべきよ」

腐「そういえば、そうだったわね……」

葉「それを引き合いに出すなぁ!」

セ「当然の結果ですわね。同時に山田君と十神君も推薦しましょうか」

山「なんでですかー」

十「……フン」

紋「そん時は俺も着いていくぜ。どんな奴かみてぇし、お前らが逃げださねぇ為にもな!」

 

 そんな楽しい会話が繰り広げられ、まるでこれから人が死ぬなんてあるわけないような雰囲気だった。

 僕はいつの間にか、先程の違和感も気にしなくなっていた。

 

朝「ねぇ大神ちゃん。ちゃんとその人に言うからね。大神ちゃんの想い」

さ「……無理をさせて……すまない」

 

 濁声(だみごえ)ながら大神さんはそう言った。よくみたら表情が少し笑っているようにも見えた。

 

紋「別に無理なんかしてねぇよ。皆分かってるって」

山「そうですぞ。葉隠が命を削ってでも思いを伝えると言ったのですから、気遣いの言葉は無用ですぞ!」

葉「お前そういう意味でオーガは言ったんじゃねぇよ!」

モ「ねぇねぇ。さっきからうざいんだけど」

葉「え──」

モ「なんだよその仲良しこよしの掛け合い漫才。正直ツマラナイよ。M-1だったら第一回戦で敗退してるレベルだよ」

 

 突然そんな辛辣な物言いを放ったのは、モノクマだった。

 

モ「オマエラを裏切った人を守っちゃうって、偽善者っぽくない? 良い人の振りって、皆に好かれるからね。気持ちがいいもの」

 

 つまらなそうに鼻を穿(ほじ)る様な動作をして、そう言ってくるモノクマ。この状況を快く思っていないのは見るからに分かった。確かにモノクマからしたら嫌な状況なのかもしれない。

 モノクマは示しをつかしたのか、両手を仕方ないなぁ、のポーズ(肘を曲げて手と肩が平行になるやつ)をとって咳払いをする。

 

モ「おほん。実はとても言いにくいことなんですがー、実はケンイチロウ君はもう死んじゃったんだくま」

 

 ……は? 何を言っているんだ?

 あまりの突拍子のなさすぎる告白に、僕は唖然とした。いや、僕だけじゃない。ここにいる全員だ。

 

モ「そんな『お前なに言ってんの?』みたいな顔しないでよ! その雰囲気の顔は、トラウマものだよ! 僕は事実を言っただけなのに!」

 

 いやいや。事実って。

 事実って、なんだ?

 ケンイチロウが死んでいる事か? 嘘だろ?

 

朝「ちょっ、死んでるって……」

葉「まさか、また()めたのか……?」

紋「何の悪い冗談だよ……」

 

 皆意味が分からないような顔で現実を受け入れて切れなかった。まだ登場さえしていない人物に対し、えらく感情移入しているな、とは思ったが違った。皆が怯えていたのは大神さんのことだ。

 僕は大神さんの顔を横目で見た。

 

さ「…………」

 

 それは、目を見開いており、口元はうっすらと開け、何をしでかすか分からない程の強靭なオーラが出ていた。

 なんだこの化物はと。冗談抜きで怖かった。

 

さ「…………」

 

 大神さんの口は声を発していなかったが、微妙に動いていて、何かを呟いているような様子だった。ただそれだけだったのに、それは恐ろしいことのおきる前兆と直感で感じ取れた。

 そんな事が一分ほど続き、モノクマがそう言った。

 

モ「布団で寝てるところを見てたらね、死んじゃってたんだよね! もう驚きだったよー」

 

 その言葉を皮切りに、大神さんは目に留まらぬ速さでモノクマを殴りつけた。ドゴォーン! と重い音が鳴り響き、一瞬何が起こったかわからなかった。気付いた時にはモノクマの居た席に大神さんが居て、大神さんの手は椅子を殴っていた。

 モノクマはそこから居なくなっていた。

 と思ったら突然別の場所から、具体的には大神さんの立っていた場所にモノクマは立っていた。

 

モ「もー! 驚かさないでよ! もうちょっとで壊れるところだったよ?」

さ「うおおおおおおッッッ!!」

 

 大神さんの咆哮が裁判所に共鳴する。全てを破壊尽くさん限りの吼えだった。

 

モ「これ以上言っても聞いてくれないか……悲しいですなぁ。それじゃあそろそろ、皆さんお待ちかねの、あれ、やりましょうか。おしおきターイム!」

 

 どこから出たか分からない木槌を取り出し、いつの間にか定位置に戻って、出てきたスイッチを木槌で叩いた。

 

『オオガミさんがクロにきまりました。

 おしおきをかいしします。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何の変哲もないただ広大に広がる寂しい荒原が、画面に映し出された。カメラは徐々に下がっていき、次第に大神さんの頭、背中、足と姿を現していった。

 そうすると突然、荒原のど真ん中に一体のモノクマが出現した。ひょこひょこと大神さんに近寄ってくると、それを一発で殴りかまし、ぶっ壊れた。また静かになった荒原に、武装兵が一体、また一体と次々に武装したモノクマらしきものたちが現れた。始めは武士や戦士、侍が対峙し、大神さんはそれを次々と薙ぎ倒していった。しかし数は減るばかりか、増えていく一方だった。

 黒い服装の魔法使いや迷彩服の自衛隊、しまいには宇宙人らきし生き物まで現れ、広大に広がる大荒原は、何故かぎゅうぎゅう詰めになっていた。

 大神さんはそれをぶっ飛ばしていくも多勢に無勢なこの状況に次第に適わなくなり、ぎゅうぎゅう詰めにされて、埋もれていった。気付いた時には大神さんの姿はなく、ただ武装兵がぐちゃぐちゃにいるだけだった。

 大神さんがいた位置から少し離れると、武装兵達がひっきりなしに動き、まるである位置に動いているように見えた。

 カメラが上空に移動して視点が上空からの撮影していた。そしてようやくその武装兵達が動いていた意味がわかった。

『銀河まるごと超決戦』

 そう並んでいた。

 そして若干カメラが下に動いたら右下に『完』と言う文字が並び、映像は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モ「エクストリィィィィィィムッ!」

 

 歓喜の声がただ一体。他は声さえ出なかった。

 また一人、人が死んだ。あんなに仲間を信じてきた人が、人を殺して、殺された。なんだよもう、なんなんだよ。なんなんだってんだよ。

 こんな軽い調子がまだ、続くのか。

 

紋「お前ェッ!! 騙してやがったなッ!!」

 

 大和田は自分の机を叩き、モノクマに抗議する。

 

モ「は? 騙す? 何のこと? ボクワカラナ~イ」

紋「ごたごた抜かすんじゃねぇよ!」

 

 大和田の怒声は鼓膜が破れそうなほどでかく、正直何を言っているか辛うじてしか聞けなかった所もあったが、それでもそれを責めることはしない。ていうか僕にはそこまでの気力はもう持っていなかった。

 大和田の主張を聞いたモノクマは、今尚朗らかな顔のままでいた。そうするとモノクマは衝撃的なことを言い出す。

 

モ「別にいいじゃない。大神さんが死んだおかげで、これから人を殺しやすくなったでしょ? もう暴力的現状死守派はいなくなったんだし」

紋「っ……!?」

モ「大事なインパクト要素がなくなっちゃったけどね! 仕方ないね」

守「それが目的やったんか」

モ「は?」

 

 僕はあまり主張の激しい人間ではない。だから始めに喋る時にどうしても緊張してしまう。それでも僕は勇気を振り絞り、そう言った。僕の発言に、モノクマは意外そうな顔を見せたが。いや顔と言ってもわからないが、雰囲気だ、雰囲気。

 

守「大神さんはモノクマ自身、この学園生活の脅威と感じたから、早めはやめに始末した。とかやないんか?」

 

 ゲームの話になるけれど、大神さんはその時内通者として、学園生活を脅かす裏切り者として存在していた。おそらくそれは今回の件でも同じだろう。実際、そうなってしまったのが、今回の事件だ。

 何故大神さんが裏切り者として動いていた理由は、黒幕による脅迫だ。確かゲームでは、殺人を犯さないと道場は潰されるのが理由だった。しかし今回は、ケンイチロウを人質にとり、二つの選択肢を渡された。

 仲間を殺してケンイチロウを守るか、現状維持を貫きケンイチロウを見殺しにするか。

 最悪の選択肢だ。

 何故モノクマがそこまでするのかと考えれば、大神さくらはモノクマ側にとって脅威となる存在だからだ。なんたって、優しく、強く、正しいから。その折に触れて黒幕を暴かれるまで行ってしまったら、このコロシアイ学園生活は平和的に終了してしまう、という結果に陥ると考えたのだろう。だから早めに潰したのだと、僕は推測した。

 僕はそれをモノクマに対して言った。勿論、ゲーム関連のことに関しては伏せてだ。そしたらモノクマは、

 

モ「オマエ何言ってんの?」

 

 まるで完全にバカにしたような言い方で始まり、

 

モ「んなわけないじゃーん! そこまで考えるなんて、河上君って、中二病なんだね? そうでしょ? 僕には分かるよー。僕も昔こじらせていたからさ。そんなバッカバカしい事ばっかばっかりだったよ」

 

 終いにはバカバカと言い続けた。完全に小ばかにされた。

 

モ「まあ、脅迫したのは事実だけどね」

 

 そこだけを認めたようだ。しかしだとしたら一つの疑問が出てきた。それを言おうとしたら、霧切さんが先に言ってきた。

 

霧「ならばどうしてあなたは動機なんかを作ったのかしら」

 

 そう。最初から脅迫するのであれば、動機なんて皆に配らなければ良い。なのにどうして動機作りをする必要があったのか。答えは普通だった。

 

モ「だって、動機作らないと、殺人が起きないじゃん」

霧「……いやだから、最初から大神さんを脅迫するつもりなら、何故動機を私達に作らせたの?」

モ「え?」

 

 今のモノクマの「え?」は、おそらく本気の「え?」だったんだろう。根拠はない。完全に僕の勘だ。

 モノクマは少し間をおいてから再び喋りだす。

 

モ「……そういえばなんでだろうね。何となく大神さんを野放しにしたら危険な気がしたから、なんだけど……あれあれ~?」

霧「自分でやっておいて、わからないの?」

 

 苛立ったような言う霧切さん。

 それに引き換えモノクマは、腕を組みながら、本当に分からなくなっているようだった。どうしたんだ? 何だか本調子じゃなさそうだけど……。

 

モ「うーん……これは失敗だったなぁ……。まさか動機を皆に配っておいて、特定の人を完璧な動機で固めるなんて失態、まるで気付かなかったよ……いやマジで。これじゃコネで入れられた子供と変わりようがないよ……」

 

 そんな社会人の皮肉を言いながらモノクマは続ける。

 

モ「そうだね。じゃあ、オマエラのトップシークレットである、”恥ずかしい過去”や”誰にも言いたくない秘密”は、バラさないことにします! これはボクの完全なミスだから、これぐらいはしないといけないからね。一番偉い人が責任を取るのが、常識なのですッ!」

 

 どうやら、僕らの秘密(僕の場合はうそっぱちだけど)は心の中に収めたままになるようだった。

 

モ「それじゃ、今回の学級裁判はこれにて終了です」

霧「ちょっと待って。訊きたい事があるの。」

モ「えー、まだなにかあるの?」

霧「あなたは毎回、ずいぶんと手の込んだ処刑をするのね? それは、なぜかしら?」

モ「おお? 気に入ってくれましたか? なにせ、これはオマエラだけのおしおき……オマエラだけの絶望じゃないからね……」

 

 そして一拍置くような間をあけ、

 

モ「これは全人類へのおしおきであり、絶望でもあるんだよッ!」

 

 愉快そうな口調で、そういった。

 

霧「大袈裟なのね……」

モ「大袈裟なんてあるもんですか。これは、”すべての希望を絶望に変えるおしおき”なんだよねッ!」

紋「どういう意味だッ……!」

モ「意味? イミ……忌み……意味意味意味意味意味! なんだよ意味って! オマエラなんで意味ばっか気にするんだよ! 意味不明なんですけど!」

十「どうでも良いじゃないか。勝つのは俺なんだからな」

守「モノクマ。その意味ってのは、外の世界と関係するんか?」

十「なに……?」

 

 怪訝に僕の顔を睨む十神。気にしない。気にしたところで気に障るだけだ。

 

モ「…………河上君は、本当に嫌な奴だよねー。一々核心つくっぽい感じに言ってくるから、最高に絶望的なんだよね~」

 

 軽い口調でそう言った。その口調は、何だか江ノ島盾子を思い出す喋り方だった。

 

モ「その通り! 今の意味とは、外の世界と関係するおしおきとも言えるのです! これ以上言わないよ! じゃあね!」

 

 開き直ったと思ったら乱暴に話を切り上げ、モノクマは去っていった。

 

十「おい河上。さっきの質問の意味はなんだ」

 

 前の仕事は暗殺をしていたんじゃないかというぐらい僕を睨む十神。

 

守「モノクマ、何かと外の世界とくっつけたがってたかんな。なんとなく聞いてみただけや」

十「……本当だろうな」

守「ああ、ほんまや」

 

 僕と十神は睨み合いをしながら会話していた。

 長い間沈黙が続いたあと、誰かが戻ろうと言い出し、十神との睨み合いは終わった。

 学級裁判は、これで終了した。

 だけど、学園生活はまだまだ終わりの兆しを見せなかった。僕らに巻き起こる数々の絶望は、次々に襲い掛かってくる。

 何が起きるかわからない。不安に(さいな)まれる学園生活に犯されながら、僕らは生きなくてはならない。どうしようもなく、生きていかなければならないのだ。

 悪夢はまだ、覚めない。

 

 

 

 

 


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