ダンガンロンパ リアルの絶望と学園の希望   作:ニタ

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 モノクマのマ、はママの味


episode 2 パート9  非日常編

 絶望。

 そして悲しみ。

 僕らはそれを感じながら、舞園さんの、死体を眺めている。

 ただただ、見ている。

 

十「どうやら、死人が出たようだな……」

 

 そんな残酷な現実を口にしたのは、十神だった。

 死人。

 そう、死んでしまった。

 また、死んでしまった。

 どうして、死んでしまった。

 

朝「舞園ちゃぁん……」

 

 朝日奈さんは泣きながら舞園さんの横に寄り添うように座っていた。左手を取りながら、そして涙を流す。

 

守「くそ……くそ……ッ!」

 

 どうしてまた死人が出るんだよ。おかしいだろ。昨日まで皆楽しくやってたじゃないか。パーティで喚いてたじゃないか。舞園さんの歓迎だろ。どうして見放すんだよ。なんで人を殺せるんだよ……。

 そんな誰もか分からない犯人に、心の中で罵倒する。当てようもない怒りは、ただ自分のなかで処理するしかなかった。

 

千「……今朝も……あんなに元気だったのに……」

山「はわわわわ……」

腐「ひ、ひぃぃ……」

紋「……くそっ」

 

 そんな嘆きの声が女子更衣室に響き渡る。

 僕が女子更衣室に来た数分後、他の皆も女子更衣室に集まっていた。どうやら僕が走って二階に行くのを見た人が報告したのだろう。僕を見た人の迅速な行動によってそんなに時間も掛からず全員集まったのだ。

 その見た人というのは誠ちゃんだった。

 

苗「あ……ああ……ッ」

 

 そんな小さい悲鳴を上げながら、誠ちゃんは床に跪く。

 

江「だ、大丈夫? 苗木……」

苗「…………」

 

 江ノ島さんの声が聞こえてないのか、ただ一点、舞園さんに目を向けていた。現実を受け入れれないのかもしれない。

 いや、そりゃそうだろう。

 ゲームをやっていても良く分かったけど、二人とも両想いだったんだから。好きな人が目の前で死ぬなんて光景、残酷にも過ぎるだろう。

 

江「とりあえず、部屋に行こう?」

苗「…………」

十「待て。それならばもう一人着いて行け」

江「え……なんでよ?」

十「……お前らが苗木の個室へ向かう途中に襲われたら元も子もないだろう。その護衛ということだ」

さ「ならば、我が着いてゆこう」

 

 江ノ島さんと大神さんは苗木を担いで女子更衣室から退室した。

 三人が去ってから始めに水着を穿いた大和田が言う。

 

紋「また……やらねぇといけねぇんだよな……」

千「なんで……どうして……ッ」

 

 千尋ちゃんも同様に水着を穿き、上にフードを羽織っていた。

 しかし、どうしてこの二人は水着なんだ?

 

朝「なんで……なんでぇ……なんで舞園ちゃんが……」

 

 そんな心痛む泣き声を発する朝日奈さん。彼女も同じく水着を着ていた。どうやらスクール水着らしい。

 

十「いつまでも泣くな」

 

 強い口調で冷たい言葉を言い放つ十神。

 

十「泣かれているとこっちも迷惑なんだ……」

紋「あぁ!?」

守「どう言う意味やぁッ!!」

紋「大概にしとけよこの野郎ォッ!!」

 

 大和田と僕は十神に向け怒声を浴びせる。

 しかし、そんな僕らを朝日奈さんは止める。

 

朝「……いいよ、二人とも……そうだもんね……捜査の邪魔になるもんね……ごめんね……」

 

 そういって朝日奈さんは更衣室にある端のベンチに静かに座る。

 すると突然プール側の更衣室の扉が開いた。

 

モ「うぷぷ……とうとう起きましたねぇ、殺人事件」

 

 そこから現れたのはモノクマだった。

 

モ「僕はとても悲しいですよ……学級裁判が起こってしまうということが……」

十「御託はいい。さっさと例のものを渡せ」

モ「もー、前置きってのは大事なんだよ? 前置詞と同じぐらい大事なんだよ? 話のペースは、僕がやるんだよ?」

セ「学級裁判までの時間制限があるのでしたら、こちらも早めに事件の証拠集めを開始したいのです。早く渡してくださらない?」

モ「むむー……仕方ないなあ、もー……」

 

 そういってモノクマは後ろに手を回して、何かを取り出し、僕らの見えやすいように例のものを掲げた。

 

モ「ザ・モノクマファイル2!」

 

 そしてモノクマファイル2を僕らに配る。

 

モ「まあいつまでも僕がいたら事件の真相を打ち明けてしまうかもしれないし、それじゃ、学級裁判で、また会いましょう!」

 

 モノクマはプールの方へ行って消えた。

 モノクマが消えた事によって、周りが静かになり、悲しいムードが跋扈する。というより、虚しいムードなのかもしれない。

 舞園さんの死が、僕を虚空にする。

 僕らをからっぽにする。

 世界から切り離されたような気もした。

 

霧「……そろそろ捜査を開始しましょう。時間は無限じゃないのよ」

葉「そ、そうだべ! 俺はこんなところで死ぬ気はないべ」

十「ならさっさと動け。ハリセンボン」

葉「ふわっ!?」

 

 ……思わず笑っちゃったじゃないか。

 しかし、何もせずこのままでいたら、次は僕らが死んでしまう番だ。ここで立ち止まっていたら、舞園さんの死を解明しないと、僕らは死んでしまう。

 僕は生きる事を放棄していない。

 

守「まずモノクマファイル確認しようや」

セ「そうですわね。話し合いはここでしていても意味はないですし、今確認しておくのが良いでしょう」

腐「あ、当たり前じゃない……」

 

 そういって皆はモノクマファイルを開く。

 確認したのを、大まかに解釈すると『死亡時刻は2時40分』『後頭部に2回ほどの殴打の後あり』『右手首にカッターで切った痕あり。それに伴う大量出血』といった感じだ。

 しかしそこに書かれているのはそれだけで、それ以外は何も書いていなかった。

 

腐「ち……致命傷は……?」

 

 そう。舞園さんの死に至る原因となった致命傷が書かれていなかった。まるではぐらかしているようにさえ感じた。

 

霧「それも私達が解明しないといけなさそうね」

葉「はぁ? どうやって解明するんだ? そんなもん、調べようないって!」

十「果たしてそうか?」

セ「あら。何かわかりましたの?」

十「ああ。だが今は言わんがな。犯人はこの俺を少しでも面白いと思わせたんだ。このことに関して助言するつもりはない」

守「お、面白いって──」

朝「面白いって何よ……」

 

 僕に割り込んできた朝日奈さんは低い声でそう言い、ベンチから立ち上がる。

 

朝「人が死んで面白いって何よッ!」

十「お前にはわからんだろうな。まあしかし、犯人が簡単に分かってしまうということを考えてしまえば、単純な犯行とも言えるが、それを推理するまでが面白い──」

朝「話を逸らさないで!」

十「……逸らしてなどいない」

朝「……サイテーだよ、あんた……」

 

 二人の喧嘩はそこで止まり、冷戦状態とも言うべきかな、朝日奈さんと十神の間にイナズマが走るかのごとく威嚇し合っていた。

 

山「そ、そろそろ喧嘩は収めましょう……?」

 

 身体を震わせながらも二人の間に立つ山田。

 

山「今は、喧嘩している時ではないでしょうに……。早く捜査をしないと、学級裁判が開始されれば、我々が……」

十「ふん。わかってる。俺に説教するんじゃなく、朝日奈にしろ」

朝「な、何言ってんのよ! アンタの所為で──」

守「ええ加減にせぇぇッ!!」

 

僕は荒げ、大きな声で言った。最後は枯れたように声を発してしまったが、しかし、迫力はあったようで、皆は驚きの顔を浮かべながら僕の顔に注目した。

 

守「いちいち喧嘩なんかすんなや!! 調査進まんやろが、面倒臭いッ!! ええ加減自制利かせろやバカ共がッ!!」

 

 そして僕は思ったことを口が悪くとも言ったおかげで朝日奈さんと十神はそれ以上口出ししなかった。

 そして僕が怒り心頭に罵声を放った所為で、数分ほど誰も口を開かこうとしなかった。

 その時、更衣室のモニターの電源が入る。

 

モ「ねぇねぇ。いい加減喧嘩してないでさ、調査始めようよ。このままだと皆死んじゃうよ? わかってる? 怒ってばっかだとカルシウムが不足して、骨がカラッカラになっちゃうよ? そこんとこもわかってる? ちゃんと学級裁判後、皆が生きていたら、カルシウム食を用意してあげるからさ。それが分かったら、ちゃんと状況を理解しないと。それじゃ、いつ調査するの?」

 

 そして一拍置いて、

 

モ「今でしょ!」

 

 そんな事を言って、モニターの画面は暗転した。

 

霧「……そろそろいいわね」

 

 と、少しイラつきを見せながらも(先程の喧嘩もあるだろうが、一番はモノクマの今のギャグのことでだと思う。)霧切さんは調査を始める、という合図を切った。

 霧切さんはまず舞園さんの死体に近づく。

 

霧「……右手首の切り傷は、結構深く切ったみたいね。そして近くにカッター。リストカットするには最適な道具ね」

 

 まじまじと右手首の切り傷を見ながらそういった。

 次に霧切さんは舞園さんの頭部を持ち上げ、後頭部を見る。

 

霧「モノクマファイル通り、二回ほど殴られた痕があるわ」

 

 霧切さんはゆっくりと頭部を床に戻す。

 

十「俺は他を探すぞ」

 

 そう言って十神は更衣室から出て行く。

 

セ「わたくしも服に血の匂いが着くのは御免ですので」

 

 十神に続き、手を振りながらセレスさんも出て行った。

 

腐「わ、わたしも……!」

葉「お、俺も何か見つかるか探してくるべ」

 

 そして着いていくように腐川さんと葉隠も出て行く。

 

紋「……そいや、現場で残るやつはどうすんだ? 俺はいいとしても、今は大神がいねぇし、もう一人居たほうがいいんだろ?」

朝「私が残るよ」

紋「え……いいのかよ?」

朝「うん。少しでも、舞園ちゃんの傍にいれたらいいなって……」

紋「そうか……よし! じゃあ俺も気合入れてここの見張りをするぜ! まあ特にすることねぇってのがオチだけどな!」

 

 大和田は場を少しでも和ますように、そう言った。 

 

霧「それじゃ私は引き続きここの調査をするわ」

守「僕も手伝うで」

山「ならば、私はここらへんを調査しましょう」

千「うん。僕も山田君を手伝うよ」

山「な……なんですとぉぉッ!」

千「そ、そんなに驚く事かなあ……?」

守「千尋ちゃん……君は魔性なんや。だから、これが終わったら、明日から鍛えようと思う」

千「え、どうしたの急に?」

山「河上守殿。それは死亡フラグですぞ」

霧「それに、河上君の死亡フラグが立ってしまったら……」

守「うん。気にせんで調査開始しよう」

 

 無理やり話を絶ち、山田と千尋ちゃんは男子更衣室、更衣室前を調べることになった。

 

守「それにしても、あれなんやろな」

 

 あれというのは、女子更衣室の端にある、大きな麻袋のことだった。

 

朝「あ、それ私が来た時も気になってたんだ」

守「てことは、あれは元からあった物やないんか?」

朝「うん。今日気付いたの」

 

 じゃあ、これは事件に関連するものなのか……?

 

朝「あれ? でも前私が見たときは何かあったように見えたんだけどな……」

守「前見たとき?」

朝「私がね、更衣室に来た時には何か入ってる様子だったよ」

守「じゃあ一体どこに中身は移動したんや……?」

朝「私も今気付いたから、よく分かんないよ……」

 

 少し残念そうな素振りを見せながらも、そう答える。

 

霧「……河上君。ちょっと良い?」

守「ん、なんや?」

霧「河上君は、舞園さんは他殺されたと思う? それとも、自殺したと思う?」

守「え……?」

 

 そして僕は舞園さんの死体を見回す。

 そこには右手首には深い切り傷。そして右手の近くにカッターナイフ。

 何もおかしいところなんてないと思うけど……。

 

霧「よく考えてみて。彼女は大量出血するほど手首を深く切った。そしてカッターナイフの位置。これは、とても重要な事よ」

 

 それだけ言って、霧切さんは更衣室の他の場所を調べ始めた。

 ……一体どういうことだろうか……? しかし、今は考えている暇はないか。僕も色々探さないと。

 そして何分か探した結果、特にこれといった物はなかった。

 

霧「そうね。私は他のところを探ってくるわ」

 

 そう言って女子更衣室から退室した。

 

紋「……本当に、犯人が見つかるのか?」

守「まだわからん。やけど、僕らは絶対犯人を捜しださなあかんねん。ここで諦めたらアウトや」

紋「そうか。俺は知恵を働かすっつーことはできねーけど、頑張ってくれ。俺も何かあれば手伝うぜ」

守「あんがとな、大和田」

 

 ゲームでは怒りまくってた印象があるけど、大和田にも善良な部分はあるんだな。

 そう思うと、ふと僕は気になる事が出来た。

 

守「そういや朝日奈さん。ちょっと聞きたいことあんねんけど」

朝「ん? どうしたの?」

 

 顔を俯かせていた朝日奈さんは、僕に呼ばれてこちらに顔を向けた。ショックなのを隠そうとしてか、ぎこちない笑みを浮かべていた。

 

守「ああ。朝日奈さんは、どうして女子更衣室におったんや?」

 

 僕がここに来た時、無我夢中で来た時、うっすらとメロンパンが二つ見えたのを思い出したのだ。そこには四人ほど居たっぽいけど、メロンパンが二つ並んでいるのを思い出し、僕は朝日奈さんに問う。

 別に変態性から導き出した答えじゃない。正当な判断により問うてるのだ。

 

朝「うん。舞園ちゃんに呼ばれたんだ」

守「え、呼ばれた……?」

朝「うん。ちょっと待ってね」

 

 そう言って、朝日奈さんはロッカーに向かう。ドアを開けて中を探っている様子だった。

 

朝「ああ、あった。これだこれだ」

 

 そういって、僕に一枚の紙を渡された。

 

守「えーっと、なになに……?」

 

『今日の3時頃、一緒にプールで泳ぎましょう。

少し遅れるかもしれませんが、待っていてください。

それと、この事は秘密にしておいてくださいね

 

                  舞園さやか 』

 

守「ほんまや。舞園さんやな」

朝「うん。だから私、3時ぐらいにプール来たんだけどね、舞園ちゃん、少し遅れてたみたいなんだけど、でも……まさか私が来た後に……」

 

 それ以降の言葉を、朝日奈さんは口にしない。おそらく『殺された』と言おうと思ってたんだろうけど、それ以上に舞園さんが死んだという事を認めたくないのだろう。

 

朝「あ、ごめんね。変なとこで句切って……」

 

 朝日奈さんは俯きながら謝る。

 どうやら、僕が思ってた以上にショックを受けていた様子だった。ゲームで大神さんが死んだ時は、怒鳴りまくってたけど、今は傷心しまくっていた。

 

朝「……あれ? なんだろう、これ」

 

 そういって、朝日奈さんは舞園さんの腰の下に手を伸ばした。

 

紋「ん、どうしたんだ? 何かあんのか?」

朝「いや、何か紙が落ちてて……」

 

 どうやらクシャクシャになった紙を取ったようだった。舞園さんの腰で紙を踏んでいて気付かなかったけど、どうやら舞園さんが持っていたものらしい。

 

朝「ん? 何だろう、これ」

 

 朝日奈さんはその紙を広げた。そしてそれを読んで少し疑問を持った様子だった。

 

紋「なんだ? 何書かれてんだよ」

朝「うん。これだよ」

 

『今日の2時半頃、一緒にプールで泳ぎにいこう。

少し遅れるかもしれないけど、待っててね。

それと、この事は秘密にしておいてよね。

 

                        』

 

守「……? あれ? 何か朝日奈さんの文面と似てへんか?」

朝「うん。そうなんだよ。ていうか殆ど一緒だよ」

 

 そう言って朝日奈さんはさっきの手紙も広げる。

 

紋「『今日の2時半頃、一緒にプールで』……マジだな。時間以外類似しすぎだろ」

守「いや、でも朝日奈さんのは名前が書かれていたけど、舞園さんが持っていたほうが書かれていないどころか、破れてんで、これ」

 

 そう。クシャクシャになった紙切れはまるで手で千切ったかのように、下の方が破れていた。

 僕は舞園さんの腰を持ち上げ、朝日奈さんが途中で破ったのではないかと見て見たけど、何もなかった。

 

朝「……どういうことなんだろう?」

紋「名前だけ破れてるって、何かあんだろ」

守「犯人が破り捨てたんかな……?」

 

 それに、一体誰の名前が書いていたのだろうか?

 分からない事が多いな、おい。

 すると突然、更衣室の扉が開かれた。

 

千「あ、あの……ちょっといいかな?」

 

 扉を開けた主は、千尋ちゃんだった。

 

紋「おう。どうした、不二咲」

千「うん。ちょっと気になるものがあって……」

守「気になるもの?」

千「うん、ちょっと来てほしいんだ」

守「せやな……大和田や朝日奈は行けんかんなぁ……僕が行くわ」

千「男子更衣室だよ」

 

 そう言って、僕は千尋ちゃんに男子更衣室に連れて行かれる。

 

山「ほほう。河上守殿だけですかな」

守「そうや。僕だけや。他の可愛らしい女の子は来てへんがな」

山「じぇじぇ!?」

 

 どこの海女だよ。やはり山田も流行の言葉とかを使いたがる性格なのか? 山田も、ということは、つまり僕もそうなんだけどね。

 じぇじぇじぇ。

 

山「それはそうと、まあ些細な事なのやもしれませぬが、気になる紙切れがあったのです」

守「紙切れ?」

山「これなのです☆」

 

 山田がポケットから取り出したのは、小さな紙切れだった。その紙切れには『朝日奈葵』と書かれている以外、それといった特徴はない。

 

守「これがどうしたんや?」

千「何かおかしい感じがするんだよね」

守「おかしい感じって? まあ確かに紙切れがロッカーに入ってるのは分からんけどなあ」

千「うーん……そうなんだけど、違うんだよ。なんで、朝日奈葵って名前が書かれている紙切れが、ここに残ってたか気になるんだ」

守「え? それって、破れたとか、そんなんやないんか?」

千「まあ、そうだと思うけど……。でも、何か気になるんだよね……」

 

 まあ考えてみれば、女子の名前が書かれた紙切れが男子更衣室にある理由は、思いつかないな。何か理由があるのかもしれない。一様念頭に入れておこう。

 

山「とまあ、収穫といえばこんな感じですな」

守「……紙切れ如きなら普通に手渡しで済むやんか……」

山「RPGでもよくあるでしょう? 重要な物ほど、重要な場所で直接渡すのですぞ……」

守「まあ、せやけど……」

 

 一々呼び出された事に文句を言っても仕方がない。これ以上に不毛な言い争いをするのも時間が勿体無さ過ぎる。

 とりあえず路線変更して、事情聴取をやってみたほうが良いだろう。

 

守「なあ、山田と千尋ちゃんは事件が起きる前、どこにおったんや?」

山「僕は個室にいましたな。特にやる事もなかったので、執筆をやっておりました」

守「特になし、と」

山「Kちゃん、クールだねぇ……」

千「僕はプールにいたかな。大和田君と大神さんと朝日奈さんで遊んでたよ」

守「なんか、えらい面子やな」

千「まあね、大神さんが来たのはビックリしたよ……」

 

 うん。まあ君も海パン一丁でいたら僕以外の連中もビックリするだろうけどね。

 

千「その後に朝日奈さんが来たんだけどね、一度更衣室に入ったんだけど、その時に叫び声が上がったんだ。僕が気付いた時には、大神さんと大和田君も女子更衣室に行ってて、そして僕も向かったんだ。そしたら舞園さんの死体があって……」

守「そしてモノクマアナウンスか……」

 

 まあ、別段おかしいところはないのかな。一様、裏付けのために他の人たちにも聞いてみるか。一番近いのは大和田と朝日奈さんのところか

 

守「ありがとう、山田、千尋ちゃん」 

 

 僕は男子更衣室から出てまたや女子更衣室に入る。

 しかし、そこにいたのは大和田だけで、朝日奈さんはいなかった。

 

守「あれ、朝日奈さんは?」

紋「ああ。ドーナッツ食べに行くって言ってたぞ」

守「なるほど」

 

 どうやらドーナッツ中毒は健在のようだった。

 

紋「んで、どうしたんだよ」

守「ああ。実は訊きたい事があるんや」

紋「訊きたい事?」

守「事件が起こる前は、大和田は朝日奈さん、大神さん、千尋ちゃんと4人でプールにおったんやな?」

紋「ああ」

守「その話を詳しく聞かせてほしいんや」

紋「ああ。まあ俺に出きる事なんてそれぐれーだしな。いいぜ、答えてやるよ。

  俺と不二咲は2時ごろにプールに来てたんだよ。不二咲の練習に付き合うって事でな。これがまた結構な運動音痴で教えるのには苦労したぜ……んで、確か3時ごろだったか。朝日奈が来たんだよ。さっきも言ってたけどよぉ、あいつ舞園と待ち合わせしてたんだとさ。それを聞いた後、何か焦ってたけどよ。んで、すぐ後に大神もやって来たんだよ。大神はトレーニングをする為だとか言ってたっけな。とりあえず、スゲェ泳ぎだったぜ。もうあれ……人間じゃねぇよ……

  んでもって、朝日奈が舞園が30分も遅刻するなんておかしいって言い出して、更衣室に入ったんだ。そしたら悲鳴を上げてよ。驚いたから不二咲を泳がせてたのも忘れて更衣室に飛び込んだんだ。確か、大神も一緒だったな。そして覗いてみたら、舞園の死体があったわけだ」

 

 と、ボリュームたっぷりの事情だった。

 要約すると、大和田と千尋ちゃんは先にいて、3時に朝日奈さんと、すぐ後に大神さんが来た。そして朝日奈さんは舞園さんを探しに更衣室を渡ろうとしたら、舞園さんがそこで死んでいたというわけだ。

 

守「そしてモノクマアナウンスが鳴ったんやな」

紋「ああ。そうだな。……あれ? そういえば、朝日奈や大神がいた時に鳴ってたか……?」

守「千尋ちゃんもおったんちゃうんか?」

紋「ああ。そういやそうなんだけどさ……まあ別に気にする事でもねぇか」

 

 何か気になるけど、しかし僕に考える暇を与えられなかった。

 キーンコーンカーンコーン

 そして女子更衣室にあるモニターにモノクマが映る。

 

モ「そろそろ捜査し終えたかな? ボク早く学級裁判を開きたくて、うずうずしてるのさ。それはもう、どこかの村の症候群がレベル5並に達しているほどうずうずしてるんだよ。というわけで、オマエラ。これより学級裁判を開きたいとおもいますので、学校エリア1階にある、赤い扉にお入りくださーい! じゃ、またねー!」

 

 とうとう、学級裁判が始まってしまう。

 

紋「くそっ……ついにきやがった……」

守「ついに……始まるんか……」

 

 舞園さやか。

 超高校級のアイドルで、やはり生徒の大半は好かれていた。だけどそんな彼女はゲームではチャプター1で死んでしまった。

 だけど、僕が学園に来て、彼女は始めの事件では未遂だったものの、死ぬという運命から逃れたのだ。だけど、舞園さんの殺人未遂は、自他共に蔑まれる行為であるはずだった。しかし、彼女のことを考えた朝日奈さんは、パーティを開こうと、皆にもう一度打ち解けれるようにと開いたのだ。

 しかし、今日の事件によって、そんなものは何の意味も成さず、ただ舞園さんが死んだという事実だけが後に残っただけだった。

 舞園さやかのことは、僕にはいまいち分からない。ゲームでもあんまり自分を出すシーンというのはなかった。ただ、アイドルの事は、彼女のヒエラルキーの中で一番であり、ここから出たいと思っていたはずだ。

 しかし、その夢は叶わず、死んでしまった。

 って、僕さっきから死んでしまったって何回言っただろうか。正直、嫌になってくるけど、それ以上に、僕は悔しかったのだ。

 また人が死んでしまったという事に。

 だけど、この学級裁判でまた人が死ぬ事になる。それはもう、必然だ。

 僕はまた、僕らはまた、決めなくちゃならない。この極悪で非情で悪辣なモノクマの催した、コロシアイ学園生活の一環としての、学級裁判を。

 クロを決める、学級裁判を。


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