ダンガンロンパ リアルの絶望と学園の希望   作:ニタ

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episode 2 パート8 (非)日常編

「オマエラ、おはようございます!」 

 

 いつもの調子でモノクマアナウンスのモーニングコールだった。

 モノクマが毎日朝7時に起こす理由って学生の本分を忘れさせない為にしているんだろうか? 正直起こされたらいつも「もう学校か……」と思ってしまうから、そんな癖が残ってしまっているから、気付いた時の虚しい気持ちが溢れかえる。

 まあ、いつまでもそんな暗いムードを出していたら、ムラいムードを出す時に難しくなるかもしれない。

 ……いや、何となく語感が似てるから言ってみたけど、これ酷いな。何だよムラいムードって。思いつきで喋ると(ろく)なことないな。

 とまあ自身のギャグセンスの無さを今更嘆いても仕方なかったので、僕はさっさとベッドから立ち上がり、シャワールームへ行って顔を洗う。

 そういえば、久々に顔を洗った気がする。いや、何となく汚いイメージを思われてしまうかもしれないけど、僕は別に不潔人間という訳じゃない。ただその時間が取れなかっただけの話であって、決して面倒臭いからいつもやっていない、とかそんな理由じゃない。

 ……まあいいや。

 洗顔を終えて、僕は食堂へ向かう。

 何となく食堂へ向かうと言う事は、僕もこの学園生活に慣れてしまったという事なんだろうか。

 ここ最近何も無かったからいいけど、昨日の動機の所為で、ゲームでは千尋ちゃんが死んでしまった。

 殺されてしまった。

 無意識に食堂へ向かったのだけど、よくよく思い出せば、この日に既に殺されてしまっている可能性があったのだ。不二咲千尋のコンプレックスに自ら折り合いをつけようと頑張ろうと大和田に頼んでしまえば、そこでおしまいだった。昨日の時点で死んでしまったかもしれない。

 しかし、その瞬時に出てきた不安は、瞬時に安心に変わった。

 

千「あ、おはよう。河上君」

 

 食堂に入ると、舞園さんと大神さんと千尋ちゃんが居た。そして一番に千尋ちゃんが挨拶をしてくれる。

 そういえば、昨日大和田は十神に対し異常なほどの怒りを見せていたな。いや違う。

 自らの弱さを、出してしまったのか。

 その後大和田は個室に戻ってしまい、男の中の男である大和田を誘えなかった千尋ちゃんは、そのまま個室に行ったか、一人で練習したのかもしれない。

 そう。大和田が千尋ちゃんを殺すことは昨日の時点でなくなったのだ。

 千尋ちゃんが死ぬなんて事象はなくなった。

 それを理解してから、僕は嬉しかった。

 もしかしたら、もう少し頑張れば、こんなコロシアイ学園生活も店じまいになるかもしれない。そんな希望的観測を抱いた。

 そして何より、千尋ちゃんの生存が、嬉しかった。

 だから僕は気付かなかった。いや、起きたばっかだから感覚がまだ寝ていたのかもしれなかったけど。

 僕は泣いていた。

 それぐらい、嬉しかった。

 生きているというのが、生きられているということが、ここまで嬉しい事はなかった。

 

千「え、ええ? どうしたの河上君、どうして泣いてるの……?」

 

 戸惑いを見せる千尋ちゃん。

 ああ、何でこんなに嬉しいんだ。まるでお店にあるようなお堅い小説並に滑々(つらつら)とした文章の淡白さを、自分自身が同じように表現しているようにさえ感じる。

 いや、意味が分からないけど。

 別に面白くない、というわけじゃないよ?

 

守「…………」

 

 僕はそんな感動が渦巻いた。千尋ちゃんの挨拶なんて気にも留めず、千尋ちゃんの生きている、と言う事にしか気に留めていなかった。

 

舞「あ、あの……どうしたんですか?」

 

 そんな中、舞園さんは心配したのか、僕に話しかける。

 そういえば、久々に舞園さんの顔を見た感じがする。昨日見ていたはずなのに。朝の顔、ということなんだろうか。

 しかし流石に泣きっぱなしは僕も恥ずかしいので、顔を隠して涙を拭う。

 

守「……あー、いや……なんでもあらへんよ。最近水分の取りすぎで全身の穴という穴から水分が湧き出ているだけやから……」

舞「そうですか」

 

 いつも通りの口調で笑顔のまま、僕から二歩下がった。

 ドン引かれた。

 何だかすごく怖い。

 これが、アイドルの威圧と言うものなのか……?

 

守「……まあ、別になんでもあらへんて。思い出し泣きってやつや」

舞「それを言うなら、思い出し笑いじゃないですか?」

守「いやいや舞園さん。やっぱ過去の話というものはなあ、悲しい話もあれば、面白い話もあるねん。だから思い出し笑いという言葉があるんなら、思い出し泣きという言葉もあってええと思うんよ」

舞「そうなんですか。まあ、河上君の過去は、私には知りませんが」

 

 心にグサッと来た。グングニルの槍が何本もハートを抉った。

 あれ? 舞園さんって、僕に何か恨みがあるのかな? 

 

舞「冗談はさて置き、どうして河上君は泣いてたんですか?」

守「あ、冗談やったんか……」

舞「ええ。私もあそこまで酷いこと言いませんよ。何となく、河上君だったから言っただけです」

守「それもそれで、心に来るもんがあるんやけどな……」

 

 どうやら無意識の攻撃のようだった。

 

さ「それで、どうして河上は泣いておったのだ?」

守「あ、ああ……まあ、ちょっと映画の内容をふと思い出してな。つい感動が再来してしまっただけや」

千「映画? どんな映画なの?」

守「え、えーと……」

 

 うわお。なんて言ったらいいんだ。僕そこまで考えてなかったよ。完全に口から出任せだったよ? こうなりゃ、適当に言うしかないか。

 

守「ダンガンロンパって奴や」

舞「ダンガン……ロンパ……? 聞いたことないですね……」

 

 まあ、映画じゃないし。ゲームだし。

 そもそもこれ自体が『ダンガンロンパ』だし、どうせわからんやろうからつい本編のタイトル言ったけど、まあそうそうなことがない限り、まず大丈夫だろう。

 

千「どんなお話なの?」

守「まあ……せやな……そもそも僕、あんまり話がうまくないから、何ていったらええか、よう分からん」

千「うーん……気になるなあ……」

さ「(しか)してそのダンガンロンパとやらは、感動できるものなのか?」

守「うーん……まあ、感動ものやないなあ……確かに、泣ける話ではあるねんけど……」

 

 バッドエンドでホープエンドだからなあ。どう説明したらいいかよく分からない。

 

さ「思い出し泣きをしたのであらば、ダンガンロンパと内容が一致したとか、そういうのではないのか?」

守「いや、違うねん……どちらかって言ったら、内容に一致してなかったから泣いたんや」

さ「……? それでは、思い出し泣きと言わんのではないか?」

 

 あ、しまった。失言した。というより、言い間違えた。

 ダンガンロンパという内容を推測できるような話を露見させてしまったということでなく、ただ言葉を間違えたという事実。

 は、恥ずかしい……!

 

守「ま、まあ! 別にこの話はええやんか! ほら、そろそろ朝食にしようや!」

 

 僕は誤魔化すように話をそこで無理やり中断させた。

 その後、朝日奈さんがやってきて、その次には江ノ島さん、山田と続き、なだれ込むように食堂に皆のおはようの顔をのぞかせた。がしかし十神と大和田は結局姿を現さなかった。

 十神は兎も角、大和田はやっぱり昨日のあれで堪えてるのかもしれない。今は人と交わりたくないとか、そんな感じの理由で来なかったのだと思う。まあ、まだ大和田も高校生だし、色んなことに悩む年だろうし、部屋に篭るってのは典型かもしれない。すぐに外に出れたのなら走り回っていたんだろうけど、この状況下、そんな事できるわけがない。

 まあそんな考察を述べたところで、結局何も変わりやしない。しかし、殺人の可能性は低くなったのは確かだ。

 僕は朝食後、一旦部屋に戻り、ラジオ体操をしてみた。

 血の巡りがよくなってか、体操後凄く身体が軽い。これなら50メートル走を7秒台で走れるかもしれない、とよくわからない希望を抱きながら、僕はベッドの横になった。

 何となく、それとなく今の状況を考えてみる。

 僕は、かのゲーム内で有名な希望ヶ峰学園で生活をしている。

 ただの生活じゃない。コロシアイ生活だ。

 人が人を殺す事がいつも隣り合わせの生活。

 ご近所に殺人鬼。

 ライトノベルのタイトルにしたら、結構受けそうなタイトルだ。まあご近所に殺人鬼住んでいる隣に住む一般市民の方々は気が気でなくなってしまうだろうけれど。所詮フィクションなんだから、それぐらい妥協しろと言う事なんだろうか。

 なんと酷薄な作者なんだ。酷すぎる。

 まあ、僕が考えたんだけど。

 責任転嫁してるかさえ意味不明だった。

 まあ事実、本当にご近所に殺人鬼さんがお住みになってらっしゃるから、冗談でも笑えない事実なんだけどね。

 っていかんいかん。つい脱線してしまった。

 つまり、僕が今いるのは、コロシアイ生活が行われている希望ヶ峰学園に巻き込まれてしまったのだ。

 理由は見当がつかない。

 全然見当たらない。

 ただ唯一の共通点といえば、ダンガンロンパを希望ヶ峰学園に迷い込む前にやっていたという事だけだ。それ以外皆目見当がつかず、八方塞だ。

 僕がゲームを終えて寝た後、一体何があったのだろうか? 本当に、人類史上最大最悪の絶望的事件に巻き込まれ、何らかの理由で希望ヶ峰学園に赴いたのだろうか。

 いや、だとしたらこの個室がなかった理由と、モノクマが僕を知らなかった理由が分からない。

 僕が人類史上最大最悪の絶望的事件を終わらせるため、とかその他の理由でも、希望ヶ峰学園に赴く前に、絶望に侵食された人たちを払いのけるのが関の山だろう。

 僕は弱い。というと千尋ちゃんみたいに感じてしまうかもしれないけれど、そもそも僕にそこまでの気力を持っていると思えない。希望ヶ峰学園に行く前に、家で挫折して終わりだ。

 それ以前に、どうやっても先ず希望ヶ峰学園に侵入するのは不可能だろう。シェルター化計画だったかなんだったか、名前は忘れたけれど、その計画でまず僕が入れないだろう。僕がその絶望に侵食された者かもしれない奴を不用意に入れるのは自らの命を終わらせようとしてるしか思えないし、絶望に侵食されなくとも、超高校級の絶望が僕をすぐに抹殺するだろう。僕に人類史上最大最悪の絶望的事件の終止符を打たれたらおしまいなんだから。

 だとしたら、どうして僕がここにいるのかますます分からなくなる。

 まさか、最初から僕は希望ヶ峰学園の生徒でありながら、黒幕の手により記憶を消されたのかもしれない。

 いや、それでもやっぱり個室が無いのはおかしいし、僕のことをモノクマが知らなかったのはおかしい。

 結局始めに戻っただけか……。

 もういっそ、僕は超能力者と証明できれば全部解決できるのに。

 まあ無いもの強請(ねだ)りをしても得るものは無いのは明白だ。考えるのはまた明日にしようか。

 とりあえず、個室から出て僕は寄宿舎の散歩をすることにした。

 そしたら偶然にも、いや、こんな狭い閉鎖空間にいるんだから、偶然というのはおかしいけど、ともかく大神さんを見かけた。

 廊下に佇んでいるのが気になるし、大神さんと話してみようか。

 

「大神さん、何やってんねんや?」

「……おお、河上か。ただの散歩だ」

「へー、そうなんや。大神さんって、365日24時間年がら年中トレーニングをしているもんかと思ったんやけど、散歩もするんやね」

「我はコンビニではあるまいし、そこまでトレーニングを積んでも筋力が蓄積されるわけではない」

「え、そうなんか? じゃあどうやって筋肉なんか付けるんや?」

「筋肉を作るには、まず筋肉細胞を破壊しなければならぬのだ」

「破壊するって物騒やな……大丈夫なんか?」

「別に問題はない。休養を取れば時期に回復し、さらに強い筋肉を作ろうと筋肉細胞は活性し、筋肉はつくのだ。この一連の動作が、筋肉トレーニングなのだ」

「へー。そうなんや。知らんかったなあ。じゃあ、筋トレ何十回かして、そして10分程度の休憩を何度も繰り返したら、強靭な肉体が作れるんか」

「いや、そうではない。休養を取るには、かなりの時間が必要になる。何度も筋トレ、休憩、筋トレ、休憩を繰り返してばっかりだと、筋肉細胞の再生が追いつかなくなり、次第に体調不良を訴えるようになってくる」

「そ、そんなにやばいもんなんか……?」

「やりすぎは禁物、ということだ。何に関しても行き過ぎれば体調を崩す事になる」

「やりすぎは禁物か……」

 

 そういえば、こっちへ来る前にもゲームやりまくってたな。正直、疲れて眠たくなるまでに陥ってたけど。確かにほどほどで済ませるのが一番なんだろう。

 

「これを機に、河上も筋トレをやり始めてみてはどうだ? 見たところ、アスリート並みの筋肉の付き方をしている。鍛え上げればオリンピック出場も夢ではないかもしれぬぞ」

「え、ええ? いや、別にそこまでするつもりあらへんて! そんなにやってもうたら、娯楽コンテンツに有りつけることができんくなってまう!」

「色々ツッコミを入れるべきなのであろうが、冗談だ」

「ま、まあ……せやな。冗談に決まっとるわな……」

「ああ。オリンピックに行くには難しいのは確かだろう」

「え? アスリート並なん、僕?」

 

 驚きの新事実だった。

 

「ていうか、見るだけで筋肉の付き方とかも分かったりするもんなんか?」

「うむ。実は口から出任せなところもあってな。見た目で判断するなど不可能に近い」

「端から端まで冗談かいなっ!」

「なに。河上風に言うのであらば、身体を隅から隅までペタペタしたら分かる事だ」

「僕風に言うな! ていうかんなこと言ったことあらへんわ!」

「で、どうするのだ? 身体を隅から隅までペタペタして判定してやってもよいが……」

「そのうねうねとした際どい手つきをやめんか! 嫌でもしてもらいたく無いわ!」

「そうか……とても残念だが、仕方があるまい……」

「な、何をもっての残念なんや……? ……いや、やっぱり言わんといて、何となく聞きたくない」

「そうか。それがよかろう」

「…………」

 

 何で大神さんは含んだ言い方ばっかするんだ……おっかない事この上ないな。

 

「それで河上よ。お前はここで何をやっていたのだ?」

 

 話を切り替えて、僕の行動を聞いてくる大神さん。

 

「僕も散歩やな。学園の調査を名目にやってる散歩とも言えるんかな。皆が脱出できる出口はないかって感じやな」

「そうなのか……」

 

 相槌を打ちながら顔を俯ける大神さん。何か悲しい事でもあったのかな?

 

「どうしたんや?」

「ん……ああ、いや何でもない。ただの考え事だ」

「考え事?」

「……我はこれで失礼する」

 

 そう強引に話を切り上げると、大神さんはさっさと自室へと入っていった。

 うーん……? 何であんなに急いでたんだろう? もしかして、僕何か悪い事でしたのか?

 だとしたら、謝ったほうがいいだろうな……。だけど、そそくさと自分の部屋に戻ったところを見たら、あんまり僕と話したくなさそうな印象だったし、今は行かない方がいいのかもしれない。

 

「あれ、河上。どうしたの? そんなところで突っ立って」

 

 後ろから声が聞こえたので振り向いてみると、そこには朝日奈さんが立っていた。

 

「あ、朝日奈さん。どうしたんや、こんなところで僕を呼びかけて」

「いや、河上が何で突っ立てるのか質問したんだけど……」

「ジョークやジョーク。セーブジョークや」

「いや、初めて聞いたし」

「さっき大神さんと話してたんや」

「そうなんだ。ボーッとしてどうしたのかなって思ってたけど」

「うん、ちょっと不機嫌ぽかったかんな……もしかしたら僕が何かやったんちゃうか、って思ってな」

「ん? 何か悪い事でもしたの?」

「ああ、いやいや。ただプライベートに踏み込み過ぎたんかな、って思っただけや」

「まあプライベートにガツガツと土足を踏み込むのは確かにいけないよね」

「うん、せやな……」

 

 んん? 何だか朝日奈さんの言い方に違和感がある。何だか他人行儀というかなんというか……、喧嘩でもしたのかな?

 

「ん? どしたの河上」

「え……ああ、いやいや、何でもないで」

 

 と僕は手を振りながら、そして手をわきわき動かしながら誤魔化す。

 

「……何してんの?」

「いやいや、ただ僕は二つのメロンパンを思い出すとついついこんな手つきになってまう疫病で──」

 

 疫病の『疫』で僕は平手打ちされた。

 それはもう、痛かっただあ。それはそれは、もぅ凄く痛かっただあ!

 

「サイテー!」

 

 そういって朝日奈さんは寄宿舎から姿を消した。

 

「……うん、やりすぎたか」

 

 そういえば、朝日奈さんは下ネタが大の苦手だったのだ。僕はついつい巨大なメロンパンを目にして頭がおかしくなったのだろう、誤魔化す筈の手つきが際どくなってしまったのだ。

 これに関しては僕は悪くない。悪いのは、全て僕の煩悩だッ!

 とまあ責任転嫁もし終えたので、僕は大神さんが言っていた筋トレをすることにしたのだが、これが小一時間と続いた。

 腕立てに腹筋、スクワットと逆立ちやらをやりまくっていた。

 疲れた頃には僕はベッドに横になっていて、そこで7時間ほど寝ていた。えらく熟睡していたようで、数分ぐらい、僕は寝ていたことさえ気付いていなかった。

 

「あ、あれ……?」

 

 そういえば今、何時なんだろうか。というか、個室に何故か時計がないんだよなあ。時間を確認しようとしても確認できないのが面倒臭い。

 仕方ないので、食堂へ行き時計を見に行く事にした。

 食堂へ入ると誰もいなかった。

 あれ? どうしてだ?

 誰一人として道中にさえ見かけないと、たまに僕がこの世界で孤立してしまったんじゃないかと異常なほどの孤独感を感じてしまう。しかしそれは単に寂しさを抱いているだけの事が多く、そんな事は良くあることなのかもしれない。

 とりあえず僕は時計を見てみたが、時刻は3時半を指していた。食堂が開いている事から、深夜ではないことは確かだった。

 しかし、寝すぎた感じはあった。7時間も寝てしまっていたら、10時に寝れるだろうか今から不安だった。

 僕は気持ちを安らがせる為に、厨房に行って水を飲みに行く。

 

「ピンポンパンポーン……!」

 

 ……へ?

 

「死体が発見されました! 一定の自由時間の後、『学級裁判』を開きまーす!」

 

 は?

 ええ?

 なになに?

 えっ……えっ?

 なにがおこったの?

 なにがはっけんされたの?

 なんでいまあなうんすがなったの?

 どうしてがっきゅうさいばんをまたやるの?

 困惑。

 惑う。

 そして、絶望。

 いや、まだこの時点では絶望とは感じていなかった。

 しかし、僕は急いで殺人現場に心当たりがあったので、そこへ向かうために走った。

 全力で、走った。

 まさか、千尋ちゃんが、また、死んでしまったのか。

 ただそんな暗鬼が巡りまくる。

 不安が巡り、恐怖が巡り、死体が巡り、絶望が巡る。

 巡り巡って、結局絶望に終息する。

 焦燥に駆られながらも僕は今までに無いほどの走りで2階の女子更衣室へと向かう。

 途中で誰かとすれ違った気もするけど、気にせず走る。

 そしてプール前ホールに着いた時、女子更衣室の扉が開かれていた。

 僕は早足で女子更衣室を覗いた。

 覗いてしまった。

 死体が覗かせた。

 そこには、死体が横たわっており、生気は感じなかった。

 今朝はあんなに陽気だったのに、何故今になって死体になっているのか、僕にはさっぱりわからなかった。

 さっぱりわからないまま、こんな夢は覚めて欲しかった。

 僕は喚かず叫ばず、ただただ呆然としていた。

 

 

 

 

 

 舞園さやかが、死んだということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     episode 2 哀夢争吏と千休さん 非日常編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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