ダンガンロンパ リアルの絶望と学園の希望   作:ニタ

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episode 2 パート7 (非)日常編

 僕らのパーティは、破綻に終わった。というと大袈裟に聞こえるかもしれないが、途中までは凄く楽しかったのだ。

 朝日奈さんが舞園さんを連れてきたときの様子は、とても陰鬱な雰囲気だったが、江ノ島さんや朝日奈さんのフォローも甲斐あって、皆とようやく打ち解けたような感じだった。その後は皆で乾杯して、テーブルの上に並べられたサンドウィッチや唐揚げや、挙句にマグロや蟹まである始末。

 いや、どっから持ってきたんだよ。

 僕らは料理を貪り、皆とゲームをしたり(王様ゲームとか。合コンじゃないぞ)、駄弁ったり、昔話をしたりと、皆で楽しくパーティを過していた。

 しかし最後まで十神とセレスさんは姿を現さなかった。

 しかもパーティの最後は、とても最悪な気分で終わってしまう。

 その理由は、モノクマの登場してからだった。

 

モ「うぷぷ。皆楽しそうだねぇ。僕も誘って欲しかったよ……」

苗「も、モノクマ!?」

 

 何故か誠ちゃんの真後ろから登場した。

 

モ「こんな美味しそうな料理、僕だけのけ者なんてずるいぞ! あ、十神君やセレスさんものけ者なんだっけ? はははー、のけ者仲間は僕だけじゃなかったんだね!」

紋「この野郎! 何しに出てきやがった!」

モ「もぅ! そんな怒鳴らないでよ! パーティーで叫ぶなんて、行儀が悪いよ? あ、行基が悪いわけじゃないよ?」

霧「何の用なの。わざわざ来るなんて事は、私たちにまた何かをさせる気?」

モ「正解だよ、霧切さん! 流石超高校級の……いやはや、危うくネタバレする所だったよ。ネタバレ:霧切さんは可愛い、なんてぐらいのネタバレの酷さだったよ。これは失敬失敬」

山「確かに眼鏡を掛ければさらに美しさが倍増されるやもしれませんが……」

朝「いや、そういうこと言ってんじゃないと思うよ……?」

霧「何の用なのか早く言いなさい」

モ「まったく……お役所仕事は大変だね。まあオマエラみたいな何も出来ない人たちに逐一説明するのが、役人さんの仕事なんだけどね」

苗「どういうことだよ……」

モ「僕はね、クロが出てくるどころか、パーティを開いちゃってるオマエラに飽き飽きしているの! だからさ、僕は面白い事を思いついちゃったのであります!」

 

 モノクマの手に持っていたのは、各々の名前が書かれた封筒だった。

 

守「おい……それってまさか、動機か?」

モ「おお流石河上君、鋭いよ! 日本刀ぐらいに鋭いよ! そう、今回の動機は、この封筒でーす!」

苗「ど、動機って……!」

 

 モノクマはそう言って、僕らの足元に封筒を放り投げた。

 そして一番封筒を手にした葉隠は中身を空けて確認していた。

 

苗「なっ……!」

舞「……え!?」

朝「な……何で!?」

さ「ど、どういうことだ……?」

葉「な、何でこんなこと知ってるんだ……?」

千「う、うそ……なんで……?」

 

 次々と皆自分の封筒を開けて確認する。

 そして次々に驚きの顔を見せる。驚愕していた。

 おそらく、皆が見ているのは、『自らの恥ずかしい思い出、知られたくない過去』が綴られている筈だ。

 そして僕にもその封筒があった。その内容は『河上守は女の子に夜這いをかけ失敗した上に、痛い目にあわされた』と書かれていた。

 いや、夜這いかけた覚えないよ!?

 そもそも僕の性格上、そんなの不可能だ! 女の子と手をつないだ事さえない僕が、夜這いなんて上級者にしか出来ないイケナイ行為、手に出せるわけないだろう! 葉隠のじゃないのか、これ!

 そもそも、僕の秘密なんて、どうやって知るんだよ。まさか、分からなかったからでっち上げたとか言うまい。……言いそうだ。

 

モ「オマエラが確認しているその紙には、周知の通り、自らの羞恥の昔話が書かれています! 恥ずかしい思い出や、知られたくない過去……人間生きていれば、だれしも経験することです。そんな秘密を、今から24時間後に世間にバラしちゃいまーす!」

 

 堂々とモノクマは宣言した。

 

モ「町中至る所に街宣カーでも転がしながら、怪文書をまいちゃうぜ~! いやーん、恥ずかしいですなぁ!」

守「…………」

苗「それが……お前の言う動機なのか?」

モ「はいそうです。嫌でしょう? バラされたくないでしょ?」

苗「いや、確かにバラされたくないけどさ……でも、こんな事の為に……僕らは人を殺したりしないぞ……!」

モ「な、なんですとぅ!?」

朝「そ、そうだよ! こんなことぐらいで、私達が殺人なんてするわけないじゃん!」

モ「うっそー……オマエラと外の世界とをつなぐ立派なキーワードだし……誰にも知られたくがないが故に……って事もあるはずだと思ってたのに……せっかく用意したってのに、水の泡じゃないか! はーぁあ……残念だな、これじゃ殺人はおきないんだ……」

 

 と、本気で悲しんでいるようにモノクマは言う。

 

モ「まあいいや……24時間後に、この秘密をバラす事で、ささやかな自己満足に浸るとするよ……ガックシトホホ……ほなバイナラ……」

 

 その落胆した様子のまま、モノクマは食堂から出て行った。

 

舞「……何だか、肩透かしを食らった感じですね」

朝「うん……でも、秘密をバラされるのは嫌だけどさ、恥ずかしいけどさ……でも流石に、人を殺す動機にはならないよね……?」

江「でもさ、もしもの時の為に、皆で過去の話とか教えあったほうが良いんじゃね? もし互いに恥ずかしい事しってたらさ、殺人なんて、おきやしないっしょ!」

十「どうだかな」

紋「と、十神ッ!」

 

 驚きの声を発した大和田。

 頑なにパーティーに来ようとしなかった超高校級の御曹司が、会場である食堂に現れた。

 あの(すか)した顔が気に食わない、全ての勝負事は俺が勝つと自身たっぷり絶対勝利のあの十神白夜だった。

 

十「話はモノクマから聞いてるぞ。どうやら、お困りのようだな」

 

 上から目線の話し方は相変わらず憎たらしい。

 

紋「お前に心配される覚えはねぇぞ、ゴルァ!!」

十「ふん、誰が心配などするか。お前らの吠え面を見に来ただけだ」

守「また、随分と悪趣味なこったなぁ」

十「貴様如きが口を開くな、下衆が」

守「…………」

 

 恐らく僕が温厚な性格でなければ、こいつの頭蓋骨は外に(あらわ)になっていただろう。

 よかったなあ十神! 僕が温厚でなあッ!!

 

十「……恥ずかしい思い出や知られたくない過去。その中には重い過去を背負っている奴もいるだろう。それを暴露する訳がないだろう」

江「む、昔の話を未だに気にする奴なんて、いるわけないじゃんか!」

十「気にする奴はいる」

 

 今までと違い、語調を強めて言った。

 

十「流石超高校級のギャルだな。男漁りばかりしてバカになっているようだな」

江「なッ……!?」

十「ならお前の言うように、まず誰から秘密を暴露をするんだ?」

 

 誰もかれも、口を(つぐ)む。

 それから数分、結局誰も言葉を発しない。そして十神が口を開く。

 

十「どうだ。結局誰も喋らないじゃないか」

紋「お、お前がそういう空気作るだからだろうがッ!」

十「お前らが勝手にそういう雰囲気になったんだろう。俺は鎌を掛けていただけだ」

紋「おめぇいい加減にしろよぉッ!!」

十「その威勢も、どれぐらい続くだろうな……」

紋「はあ?」

十「お前は超高校級の暴走族なのだろう? ならば、どれ程の悪行を重ねてきたのだろうな……いや、それ以上のこともしてき──」

紋「黙れェッ!!」

 

 突然、大きな声を張り上げて、周囲に緊張を走らせる。

 今までにないような声だった。本気の怒りの声だった。

 

紋「お……俺は、何もしちゃいねぇ……俺は……俺はッ!!」

 

 そう言いながら、大和田は自分の顔面を殴る。

 一瞬、僕らに何が起きたか分からなかった。だから、淡白な表現になってしまったが、それぐらい意表を着かれたのだ。

 大和田はそのまま数秒黙り、顔を上げて先ほどとは違い、怒りの顔でもなければ、通常の顔でもない。

 とても、生きている人間に出来そうにない、死んだような目と言うべきか、そんな表情をしていた。

 そして静かに大和田は言う。

 

紋「……部屋に戻る」

 

 とてもゆっくりな歩調で歩み、躓きそうになるんじゃないかというぐらい足元がふらつきながら、食堂から出て行った。

 

十「……ふん。つまらんな」

 

 そう言うと、十神も食堂から出て行った。

 

朝「……どうしよっか、これ」

 

 残された僕らは、呆気に取られながら立ち尽くしていた。

 

朝「……なんか、ごめんね、舞園ちゃん。こんなパーティになっちゃって……」

舞「い、いや、謝らなくていいよ……。私の為に開いてくれたんだから、朝日奈さんの所為じゃないよ……」

 

 そんな風にフォローし合う二人。

 こんな時にしょうもない事に気付いたが、そういえば舞園さんの喋り方で敬語以外聞いたのは始めてかもしれない。

 

葉「なあ……今日はもう、お開きにしないか? もうパーティーできるような雰囲気じゃねぇべ」

腐「あ、あたしも賛成よ……こんな奴と賛成するなんて、屈辱以外でもなんでもないけどね……」

葉「おお!? 賛成されてここまで悲しいのは始めてだぞ!」

江「でも、パーティーの雰囲気じゃないのは確かよね……こんな気分の悪いまま続けても、楽しくないしさ……」

朝「……じゃあ、片付けよっか」

 

 雰囲気をぶち壊した十神とこの場に結局現れなかったセレスさんを除いて、皆で片づけを開始した。

 その間、暗い雰囲気が残留し続け、今までの薄暗い状況から進展すると思いきや、大きく暗転してしまった。気持ちの悪い、あの雰囲気に戻ってしまった。もしかしたら、明日中に殺人が起きてしまうかも、という焦燥感に駆られながら、僕らは片付けをしていた。

 どう足掻いても、今から雰囲気を取り戻すのは不可能だった。

 残った食べ物たちは冷蔵庫に入れて、明日の朝食の残り物となった。

 その後片づけを終えた僕達は食堂から次々と食堂から出て行った。そして、一人取り残されたかのように、僕は食堂に残った。

 と思っていたが、どうやら客人が来たようだった。

 セレスティア・ルーデンベルクの登場だ。

 

「ふふ……わたくしも参加しようと思っていたのですが、皆さん暗いムードを纏いながら出てゆくものですから、何事かと思いましたが……モノクマさんの仕業でしょうね」

 

 そう一人で解決してゆくように語るセレスさん。

 

「しかし、モノクマのあの動機如きで、そうへこたれる人たちではないでしょうし、誰かが空気のブレイクでも(おこな)った、といった感じでしょうか? それなら、納得いきますわね。だとしたら、誰が犯人か納得いきますわね。蹴落としあうのが勝負の掟と考えるあの方の事ですから、自ら動機を荒立たせた、どいう感じでしょう」

 

 次々と言葉を並べていくセレスさん。

 まるで、自分もそこに居たかのように語っていく。

 その独り言は、誰にも向けず、僕に聞こえるような声で、聞き取りやすい声で言った。

 

「ならば気をつけねばなりませんわね。十神君の影響で、状況がまた逆戻りの可能性があります。どうすればいいのでしょうね」

 

 そして誰かに尋ねるような口調で、言う。

 

「結局また誰もが外の世界に出たいという願望を抱いたが為に、また悲しい事件が起きてしまうのでしょうか……」

「そ……そんなこと……」

「……なんでしょうか?」

 

 つい喋ってしまった。口車に乗せられたわけではないだろうが、どうしても我慢できずに、口を開いてしまった。

 

「そんなこと……なんでしょうか?」

 

 同じ事を繰り返して聞いてくる。精神的に追い詰められているかのようなさえ感じた。だけど、ここでへこたれたら、跪いてしまったら、僕は全てを失う事になる……かもしれなかった。

 だから、僕は『そんなこと』の続きを、口にする。

 

「そんなこと……僕がさせん……!」

 

 語調を強めて、今までに出したことのない、使命みたいな何かに突き動かされるように、僕は、そう言った。

 

「……あら、威勢がいいのですね。嫌いじゃないですわよ、そういう方」

 

 セレスさんはそう言った。

 そして、セレスさんはそう言う人だ。

 

「僕も、セレスさんは嫌いじゃないで」

「そう。では断らせていただきます」

「そこは認めてえや……」

 

 どうやら決してノリで言ってるわけじゃなかったらしい。まあ、そんなんじゃ超高校級のギャンブラーと謳われるほどの才能はないか。

 

「では、わたくしもおやすみしますわ」

「ああ。おやすみなさい」

 

 セレスさんは食堂から立ち去った。

 そしてまた僕は、一人ぼっちになった。

 だけど、独りじゃない。

 誰かに守られている、というわけでなく、信用できるというわけでもないんだろうけど。でも、気分が安らぐというか、少し心が落ち着いたのか。いや、どっちも同じか。

 しかしさっきまでの自分とは全然違った。

 今の僕なら、何でもできる気がする。

 そう思うほど、僕は高揚していた。

 そう錯覚するほど、僕は高揚していた。

 やはり僕が気持ちが高ぶったところで、結局は殺人が起きてしまった。僕が変わろうとしても、周りは変わらなかった。

 そんな事に全然気付かず、ただ気分がよくなっただけで僕は終わっていた。考えるのを、放棄していた。

 結局は、何も出来なかったのだ。

 そんな呑気な思考をしたまま、僕も自分の個室へ行き、眠りに着いた。




『モノクマげきじょう』

 皆さんお久しぶりです!

 いやあ、前のモノクマ劇場から、結構な日が経ちましたね。まあ、ボクらの凄く日数とリアルの日数とは多いな差異が存在しますが。しかし、それは気にしてはいけません。日数の違いなんて、僕らには関係ないでしょ?

 でも正直、ボクってなかなか出番がないから心配したよ……。
 だから、こうやって読者の方々とコミュニケーションを取れることを、ボクはとても光栄に、誇りに思えます。
 ボクの一方的なコミュニケーションでも、皆はちゃんと受け取ってくれてると信じているからね。いつでも喋れて、いつでも聞いてくれて言葉の間違いをあんまり考えずに喋れる相手って、ボクにはいないからね。


 だからボクはこうして、パソコンを前にコミュニケーションを図るのです。

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