ダンガンロンパ リアルの絶望と学園の希望   作:ニタ

25 / 38
episode 2 パート6 (非)日常編

「じゃあ十神は誘えなかったんだ」

 

 急ぎ足で食堂に戻ったあと、僕は朝日奈さんに料理の本を渡した。

 僕は、というのは、他の皆は手伝いに借り出されたか、自由行動に走った。まあ皆は基本マイペースだから案の定予想のついた結果ではある。

 なので、皆奔放中なわけで、僕は一人で朝日奈さんに頼まれていた料理の本を渡しに食堂にいるのだ。

 しかしながら何故か食堂には朝日奈さん以外に誰も居なかった。

 何やら休憩タイムにより、食堂の皆も自由行動に走ったみたいらしい。唯一食堂に残っていたのは、食堂で自由行動中の朝日奈さん一人だけだったのだ。

 僕が料理の本を渡した後、僕は十神の件について報告もした。

 

「断固拒否してたな。もうありゃ、これから絶対誘えんぐらいに」

 

 まあ、その責任として僕にも一端はあるんだけど、それについては説明していない。わざわざ話したい内容でもないからな。

 

「そうか……。まあ、仕方ないよね。無理に誘って嫌な思いするのは、誰だって嫌だろうし……」

 

 苦笑いをしながら、朝日奈さんは言った。

 

「そ、そんな風に思わんでええって……ここの連中って、特殊系の中二病を患っているだけで、孤高とかを何とかを気取っとるだけやから、別に心配せんでええよ」

 

 僕は慌てて、そんな朝日奈さんを励まそうと、手をあたふたしながらそう言った。我ながら、いい励まし文句だと思う。思ったのだけど、

 

「っぷ……」

 

 笑われた。苦笑いではなく、面白いものを見たときのような笑いだ。だけど何故だ……どうして笑われたんだ?

 

「あ、ど……どうしたんや?」

「いや、河上って、面白いね」

「お、面白い? それは、今のがギャグとして受け止めた上での面白いか、バカな発想で滑稽(こっけい)だと受け止めての面白いか……どっちなんや?」

「どっちでもないよ」

 

 どういうこと? じゃあ、どんな滑稽な面白いことなんだ? と、決めてかかるように自分の情けなさを曝け出していた。

 

「ただ単純に、ただ笑っただけだよ」

「……朝日奈さんって、笑い上戸なんか?」

「違うけどさ……まあいいか。それよりありがと。仕事やってくれて」

「いや別に大した仕事やあらへんて。精々本取りに行っただけやし」

「そりゃそうだよ。これから、ちゃんと仕事してもらわないと」

「え、そこって、ううんそんな事ないよ、的なことを言うシーンやなかったんか?」

「……? 言いたい事がよくわからないんだけど……」

 

 どうやらギャルゲー方式の会話シーン表現は、朝日奈さんには無理っぽかった。まあ、その色方面がある朝日奈さんなんて想像もできないけど。

 

「まあとりあえず、雑用係の仕事はこれからだからね」

「あいよ」

 

 そう言って、朝日奈さんは食堂から退場した。

 そして僕一人になった訳だけど、誰も居ないところで一人ぼっちって、結構寂しいもんだな。

 よし、誰かと一緒に時間でも過そうか。

 ゲームの誠ちゃんの思考内台詞を真似して、僕は食堂から出た。

 と、食堂へ出た目の前に、霧切さんの姿が目に映った。

 

「質問があるの。例の教室に来て頂戴」

 

 そういって、霧切さんは学園エリアへ向かった。

 ……何だか、僕、霧切さんに踊らされているような気がしてならないけど、僕は彼女に学園の事、外界の事をなるべく知らせたい。だけど、モノクマにより、それについて制限が課せられている。雁字搦めだ。

 僕は、霧切さんの跡を追って、例の教室へ向かう。道中誰も居なかったのが幸いした。いや、別に不幸になるわけでもないけど。

 僕は例の教室に着いて、その扉をあける。

 

「いつもながら、この教室は落ち着くな、キリキリさん」

「確かに、大抵この教室に来る事になるから気持ちは分かるけど、だけど、名前と教室の話は別で、私の名前はいつもストレスによる腹痛で悩ませているような名前じゃないわよ。私の名前は霧切よ」

「すみません……噛みました……」

「違う、わざとよ……」

「噛みまみた!」

「わざとじゃない!?」

「鍵掛けた?」

「ただの心配だったわ!」

 

 うん。僕の日本語能力も上がってきているかな?

 

「……このノリ、そろそろ大丈夫なのかしら?」

「どういうことや?」

「私たちのノリって、基本小学生と元吸血鬼のノリじゃない。そのノリをモロパクリをしているんだから、読者の方々も痺れを切らしてきている頃よ」

「え、これ別に漫画か小説になってるわけじゃないのに、何故読者?」

「あら、知らないの? 私たちって姿かたちは一切なく、台詞だけしか映し出されてないのよ?」

「マジなん!?」

 

 僕の今居る世界って、小説かなんかの世界だったのか!?

 

「まあ、その事実を知っているのは、私だけだと思うわ……」

「だとしたら、さっきの言葉は凄くうそ臭いやないか!」

「大丈夫よ。これから誰も知る事のない事実だし」

「信憑性がなくなってきとる!」

「河上君。貴方のツッコミなんかどうでもいいの。私は質問だけがしたいのに、話を逸らさないでくれる?」

「あれ? なんで僕、怒られてるんや?」

 

 閑話休題。

 

「それで質問よ。だけど、今までと違って、今回の質問は純粋な質問だけどね」

「純粋な質問……つまり、僕に何か聞きたいことでもあるんか?」

「……鋭いわね。その通りよ。まあ、再三言ってきたような質問の掘り起こしだけど」

「まあ、僕に答えれる質問なら、なんでもオーケーや」

「じゃあ、単刀直入に言うわよ。貴方は、どうやってこの学園に来たか覚えているかしら?」

「……わからん」

「そう。なら、学園に来る前に、何をやっていたかは?」

「確か……うん。ゲームをやってたな。ゲームを何日間通してやって、そして寝た。そして起きたら隣の教室で目を覚ました」

「……つまり、貴方にとって、希望ヶ峰学園との共通点は無いわけね」

「まあ、せやなんやけど……」

 

 正直、『ダンガンロンパ』をやったという上では共通点はある。しかし、正直言って僕がここに居る原因ははっきりしない。未だに手がかりがつかめない状況なのだ。

 だから、ある意味この質問は、僕にとって光のある質問かもしれない。霧切さんの答えによって導かれる、そんな事もあり得るかもしれなかった。

 

「なら次の質問。貴方はどうして希望ヶ峰学園内、外界の事について知っているのかしら」

「…………」

 

 今までと違い、かなり踏み込んできた質問だった。核心を突いてくるような質問。

 確かに学園の謎を何も知らない人物から取れば、学園の謎を何でも知っている人物は謎だろう。

 むしろ怪しい。

 怪しすぎる。

 路上でケータイさわりながら顔がニヤけているぐらい怪しい。

 いや、今の時代はスマートフォンか。時代に波に流されるのは嫌だから、僕はこれから死ぬまで一生、ケータイ一筋と決めている僕だけど、やっぱり時代の波に流され、いつかスマートフォンに乗り換える時が来るかもしれない。

 

「沈黙は許さないわよ。包み隠さず言いなさい」

 

 その辛辣な物言いに、僕は焦り始める。

 言うべきか。

 言わないべきか。

 正直、ダンガンロンパというゲームで知ったと言った所で、状況は変わりやしないどころか、冗談を言っているとしか思われないだろう。

 まあ、別に嘘をついてまで自分を繕う必要は正直言ってない。ただ僕が頭のおかしい変人さんと思われるだけだろう。

 包み隠さず言うほうが、動きやすいのは確かだ。

 まあ、これ以上隠したところで、いつかボロは出るだろうし、このタイミングがいいのかもしれない。

 

「……実は、ダンガンロンパ、っていうゲームで仕入れた情報やねん」

「……は?」

 

 案の定、何言ってんだこいつ顔だった。

 

「……まあ、このゲームをモチーフ、というかなんと言うか──に作られた推理アクションゲームやな。そこから僕はこの学校の現状を知る事になった」

 

 まあ、モチーフというより、ダイレクトなんだけどね。

 

「……それって、信用に値するものなの?」

「……んなもん、霧切さんが信じひんと、僕は何も言えん。それに、僕は別に細かく詳しく説明する気もないで」

「そう……。貴方の言葉に従えば、この学園生活はそのゲームをリスペクトしている、ということになるのだけど、そういうこと?」

「違うな。どっちかと言ったら丸写やろうな」

 

 丸写しているのは、この僕がいる学園生活が、ゲームにされた、というべきか。いや、やっぱりその逆なのか?

 わからん。

 

「つまり、この学園生活はゲームの内容と酷似、と言う事なの?」

「……いや、違うかな。……どういったものなんやろか……」

 

 何か違うんだよな……。この学園とゲームが似ている、というわけじゃないのは、僕は誰よりも知っている。だから、似ているとかそんな次元の話ではない気がするのだ。

 喋りながらでも、整理するのがいいかもしれない。

 

「うん。モノクマの説明、外界の事について、何て言ってたっけ?」

「……私が知っている、外界の情報と言っても、何もないわ。精々、世界は汚れている、というぐらいしか覚えてない」

「まさしく、汚れているんや」

「え?」

「……せやな。あんまり謎に踏み込んだ説明は、お叱りを受けるから自重せにゃあかんのか。」

 

 僕は監視カメラを見る。

 

「……つまりは、その汚れた世界は、まさしくこの状況で起きていることは違いないねんな。ゲームの内容も、まったく同じや」

「……そこまでモノクマは外界に手を出したと言うの? 全てを似せるために……?」

「ちゃうちゃう。モノクマが似せたんや無くて、そもそもがこれなんや」

「……そもそもが、これ?」

「直球に言えば、ゲームとこの世界は別物やなく、まったく同じの世界、と言う事や」

「……ごめんなさい。訳が分からないわ」

 

 話を止めて、腕を組んで考え始める霧切さん。

 

「……この世界はゲームと同じで、しかもまったく同じと断言できる証拠も、あるということなの?」

「……証拠は、あるっちゃあるんやけど、ないっちゃないわな」

 

 それこそ証拠といえば、霧切さんら本人が証拠そのものだと言える。だけど、そんな事を言った所で、僕自身にしか分からない証拠の上、変な疑いを掛けられるのは一目瞭然だ。

 この場合の証拠というのは、つまり外の世界の事だ。

 

「そこらへんは、霧切さん。あんさんの力で解明していく方がええ」

「……そう。わかったわ」

 

 とりあえず、納得してくれたみたいだ。これ以上は、禁忌に反することになるからな。

 ……まあ、結構空気読む人だな、と思った。

 

「……貴方の情報を踏まえて言えば、貴方の正体の選択肢は一つ増えた事になるわね」

「え? どういうことや?」

「貴方がただ単に学園に迷い込んだという選択肢と、『反逆者』である選択肢」

「……そういや、そんな設定あったな……」

 

 今の今まで本当に忘れていた。いや、つい最近使った単語かもしれないけど、正直本当に記憶の端に追いやっていた。

 裏切り者ならぬ、反逆者。

 

「……百歩譲って僕が反逆者ゆうても、僕は絶対に君ら生徒らに手を出す気はない。僕が、ここに居る理由は分からんけど、少なくとも僕は、皆を殺人なんて手段を選ばせん為に、僕はここにいると信じてる」

 

 あの十神の件は本当に失態だと言っても良い。いまさら悔やんでも仕方がないけど、もし何かあれば阻害したらいいだけの話だ。

 

「そう。じゃあ百歩譲ってその言葉を信じたとしても、私が信じたところで、皆が信じてくれると思う?」

「まさか。そう思わん。……もしかして、僕を餌にする気かいな」

 

 霧切さんは自分の為なら、どんな犠牲も(いと)わない。辛辣な言い方であるけど、彼女が彼女であるためならば、たとえ悪質な手段であっても、実行に移すほどの勇気がある。

 勇気が、ある。

 

「違うわ。貴方の事は、今後の為に、皆の為に秘密にべきであると思ったからそう言ったのよ」

「……そうか。ありがと」

「私は、貴方を餌にするんじゃなくて、貴方を皆に秘密にする事が目的なの」

「ほう。どうしてなんや?」

「……貴方って性格が捻くれてるし、嫌味ったらしい上に鬱陶しいけど」

「待って。何もそこまで言わんでもええやんか……僕のガラスのハートが滅多刺しにされたで……」

「それでも」

 

 そう僕の言葉を、強い語調で遮った。

 そして、今までと違う雰囲気で、オーラが違うと感じた。何かを決心した時のような、そんなオーラ。

 

「それでも、私は貴方を信用するわ」

 

 思わず首を傾ける僕。正直のところ、意味が分からなかった。何せ、信用に足りる要素、僕に持ち合わせてない上、そもそも脈絡がない。どうして僕を信用する事が、僕を秘密にする目的に繋がるんや?

 正直、理解できなかった。

 

「私の勘だけど、貴方は決して嘘をつかない、そんな気がするのよ。私としては、どうしてそう思うかは分からないけど……」

「……そうか」

 

 何故だろうか、僕はそれ以上答えれなかった。

 何かあるわけでもないし、何にもないわけでもないのに、答えるのが凄く躊躇うような、そんな気持ちが込み上げてきた。

 

「まあ、僕としては、反逆者呼ばわりされるのは嫌やからな。チクらんといてくれるんは嬉しいわ」

「……そう。なら、それでいいわ」

 

 何が『それで』いいんだろうか?

 それを訊こうとしたが、霧切さんが放つオーラ的なもので訊ける雰囲気じゃなかったため、何となく訊きそびれてしまった。

 

「質問は終わりよ」

 

 霧切さんがそう言った。

 

「え、質問は以上でええんか? もっと核心に迫る質問も来るかと思ったんやけど」

「まだ情報がまとまってないから今回しなかっただけよ」

 

 そういって、霧切さんは教室の扉を開ける。

 

「私は、この学園の謎を暴かなければならない。私もそんな志で動いているの。もし困った事があったら、私に相談して。役に立てれば、だけどね」

 

 そう言い残し、教室から退室した。

 ……少なからず、彼女は僕のことを信用してくれている、って事なのかな? だとしたら、凄く嬉しい事だった。僕はあんまり頼られる存在じゃないのは確かだから、そんな言葉を掛けてもらえることが、生まれて始めての経験だった。

 いや、この前僕のことを不安定とか言っていたな。もしかしたら、僕にああ言ってくれたのは、信用ではなくて、心配だからなのかもしれない。

 まあ何にしても、好意は(こころよ)く受けるべきだ。無下にするなんて事はダメだろう。

 というか、僕は少し疑いすぎだ。考えすぎだ。何でも言葉の裏を読みたがる習性があるみたいだ。

 もしかしたら、捻くれ嫌味鬱陶しいの理由は、ここから来ているのかもしれなかった。確かにこんな性格の人間とあんまり長い付き合いはしたくないな。むしろ近づくなと僕は言いたいけど。

 僕のネガティブシンキングはそろそろどうでもいいけど、休憩時間はそろそろ終わりだ。食堂へ早く行かないと朝日奈さんが激怒するかもしれない。

 パーティーか。そういえば、パーティだなんて始めてするかもしれない。いまさらな話だけど。

 話で聞く限り、とりあえず豪勢な感じでやるらしい。それぐらいはっちゃけた方が、楽しめれば言いと思う、というのは朝日奈談。

 僕も急いで戻らないと、皆が手伝いすぎて手伝えないかもしれない。

 そんな事を考えながら、食堂へ向かった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。