ダンガンロンパ リアルの絶望と学園の希望   作:ニタ

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episode 2 パート5 (非)日常編

 トイレから帰ってきて数分後、どうやらパーティの方針は決まったようで、別々に行動する事になった。

 料理班と飾りつけ班と雑用班に分かれる事になったが、僕は雑用班に任命された。理由は特に意味はないらしい。忙しくなったら、料理班や飾りつけ班を手伝うと言う、つまりお手伝い班だった。

 肝心の雑用班は僕以外に誰かというと、葉隠と霧切さん、そして腐川さんだった。

 葉隠は僕と同じ、おのずと決まっていたらしい。腐川さんと霧切さんは自主的に雑用班をやりたいと言ったそうだ。腐川さんは恐らく、馴れ合いとかそういうのが嫌で立候補したんだろう。霧切さんは学園の調査を進めるための判断だと思うけど、それを本人に訊いてみたら、

 

「違うわ。私も、舞園さんを勇気付けたいとは思っているのよ」

 

 そんな意外な事を言っていた。

 いや、意外といっても、僕と霧切さんが会ってもそんなに経ってもないし、失礼というもんだろう。しかし僕の思っていた事とは違ったのは確かだった。

 それについても、霧切さんに言ってみたが、

 

「私は別に人が嫌いと言うわけではないわよ……」

 

 と言われ呆れていた。

 まあ、最初は誰とも仲良くしなかったから、友達作るのは下手な人なのかなぁと思っていたが、ゲームをやる内にわかった事がある。先程の言葉の続きで、そう言っていた。

 

「友達を作ると、人間強度が下がるから」

「どこの元吸血鬼高校生や」

 

 と突っ込みを入れる僕。どうやら霧切さんは冗談が好きのようだった。

 しかしそれ以上の事を、霧切さんは口にしなかった。

 そんな食堂での出来事だったが、僕らはすぐに朝日奈さんから仕事を頼まれた。図書室で料理の本をとってくると言う指令だ。内容は何でも良いとの事だ。

 僕と霧切さんは、葉隠と腐川さんを誘い、図書室へ向かう事になった。

 

葉「料理の本か。しかし、一杯あったところで、結局また選らばにゃきゃいけねぇべ」

霧「それは彼女達が決めるでしょ。私達が探すのは、料理の作り方が分からなそうな奴よ。そう考えれば、楽になるかしら?」

腐「そうね……それで十分よ……」

 

 そんな会話があった。傍からそれを見ていたが、何となく思った事を言ってみた。

 

守「霧切さんに葉隠って、身長高いでな」

葉「おお。百八十センチぐらいだべ」

霧「そうね。私も、女子にしては高いほうかしら?」

腐「……そうね……私も、高いほうかしらね……」

守「いつも思うんやけどなあ、身長高い人って、いつも身長低い人をどういう風に見下してるんや?」

霧「見下す前提で話すの?」

 

 まあ、僕の身長は、霧切さんと比べたら、ちょっと低いのだ。そう、ちょっとだ。ちょっとだけだ。ちょっとしかない。ちょっともへったくれもないぐらいちょっとなのだ。

 

葉「まあ、河上っちは身長低いもんな。一番低いんじゃないか?」

守「…………」

腐「……見下すって意味は、そういうことね……」

 

 何かを理解した腐川さんだった。

 いや、まあ。僕も? 傷ついたけどさ? まあ、自業自得だし? 別に気にしないし?

 

霧「目が潤んでるわよ……」

守「墨汁やから気にすんな……」

葉「いや、気にしない方がおかしいべ……」

 

 何故僕は身長が低いのだろう。まったくもって神様はそこらの融通は利かせてくれなかったみたいだ。

 そんな楽しい世間話も素早く終わり、図書室に着いた訳だ。

 霧切さんが先頭に立ち、図書室の扉を開けた。

 図書室の明かりは(とも)っていた。というより、ある一点に光が集中して机から反射しているようだった。つまりスタンドライトを使っているようだった。

 そしてその使い主と言うのが、今回食堂に居なかった十神だ。

 

十「……何のようだ」

 

 案の定、彼は本を読んでいた。この状況で、よく悠長に本が読めるもんだと思うが、しかしながらそういう世界で生きてきた人間だ。今の状況なんて気にしないどころか、宇宙に空気はないぐらいの当たり前の普通のことなんだろう。

 そんな風に僕は十神を酷評しまくっていたが、言葉通り凄惨な性格でもあるが、褒めれるところなんてこれっぽっちもないが、十神は凄い人物でもあるのだ。いや、凄い人物とは言ったけれど、もう少し具体的に言ったら、運動神経抜群、博学才子(はくがくさいし)に容姿端麗。どれも引けを取らず、まるで絵に描いたような奴だ。超高校級の御曹司ではなく、超高校級の完璧、と捉えるのがいいかもしれない。

 過去にデイトレードで(詳しくはよくわからない。高校生だから)400億を稼いだ事があるらしい。どうやら株とかで稼ぐというのは、かなり難しいらしい。勉強してようやく手に入れれるものなのだが、しかし彼は生まれてから16年も経っていないにも関わらず、取引で400億稼いだのだ。挙句に暇つぶしとまで言うのだから目も当てられない。

 目も当てられないほど凄すぎる。

 それにプラスして、家系にも恵まれ、いや、恵まれずとも言うべきか悩みどころだけど、十神家の後継者を選ぶに当たって、実はかなりの人数がいたらしい。

 100人以上、だと言う。

 僕の記憶が正しいかどうかは分からないけど、恐らくそうだったような気がする。その100人以上いる後継者争いは、血で血を拭う争いだったのだろう。100人居る中で、唯一勝ち残る存在。

 十神白夜だ。

 そんな中で生き残り、勝ち残り、そして後継者となった十神も、高圧的で傲慢な性格になっても、おかしくない話である。

 しかし僕自身、別に嫌いなタイプではないが、大っ嫌いなタイプだ。上から目線は別にいいけど、人を見下したような事ばっかり言い、好きになれないタイプだった。

 

霧「……ごめんなさいね。読書中に。用事があってきたのよ」

 

 十神の高圧的な挨拶も物怖じとせずに霧切さんは返事をする。

 

十「早くしろよ。俺の邪魔は精々するなよ」

 

 そういって、本に目を落とした。

 僕らは例の本を探そうとするが、あまりに電気が暗いと思い、電気をつけようと考えた。だけど、流石にスランドライトを明かりにしてるだけあるんだ。十神に悪いかもしれないと思い、とりあえず訊いてはおくか。

 

守「読書中の十神さんや。図書室の明かりをめいっぱいつけるけど、目を悪くしないよう時間はこちらで割くから、十神の邪魔せんように最悪の事態をも避けるように時間を割くから、点けてもええか?」

十「……俺はお前の弱みでも握ってるのか?」

 

 いやいや、ただの皮肉ですよ。

 

十「どうでもいいから、勝手に部屋の電気でも点けとけ……」

守「十神様の命令とごあらば仕方あらへんなぁー」

十「…………ッ」

 

 噛み締めていた。この程度でイライラする十神君って、絶望的ィ!

 

霧「貴方よくあんなに踏ん張りできるわね……」

守「いやいや、霧切さんほどでもないで」

霧「それほどでもあるわよ」

 

 少し押し付け気味に言われた気がするけど、まあ気にしない方がいいだろう。

 

守「それよりさ、早く料理の本を探そう」

 

 その言葉を機に、皆は本棚に向かった。

 僕と霧切さんと葉隠は壁際の本棚を調べ、腐川さんは壁から離れた真ん中にある、小さな本棚を調べた。

 小一時間探した結果、10冊程度しかなかった。

 いや、うん。

 この図書室ってさ、思ってた以上に広かった印象があった。まあ、神のみの舞島高校とか、とあるレールガンの図書館とか。それとこの図書室と比べると、遥かに小さいのは確かだ。

 しかしもう少しバリエーションを充実させても、いいんじゃないかなって思うのもある。もしかしたら、この鎖された学園の他の場所にあるのかもしれないけれど。

 

霧「まあ、収穫としては少ないほうだけど、選ぶ分には心配ないでしょ」

葉「だな。まあ重たい荷物背負いながら帰るのは嫌だったからな。むしろラッキーだべ」

腐「い……一様持つってのは……考えていたのね」

葉「ん? どういうことだべ?」

腐「……いいわよ……どうせあたしの発言なんか……気にしさえしてないんだから……」

守「んなことあらへんて。僕はちゃんと意味は分かったで?」

霧「そうね。葉隠君がただのバカなだけだから安心しなさい」

葉「そんな酷いべ!」

十「酷いのはお前らだ! いい加減にしろ!」

 

 と十神はドンッ、と机を思いっきり叩く。それと同時に椅子からも立ち上がる。

 

十「俺の邪魔をするなといった筈だろ」

守「え、邪魔はしてへんで?」

十「机に料理の本をばら撒けながら、そしてある程度大きな声で喋っていれば、十分邪魔をしていると言えるだろう!」

守「それは思い過ごしや十神君。みんな、十神にもパーティーに参加して欲しいだけや」

 

 実は僕らは料理の本の調達のほかに、十神も一緒にパーティーに誘おうという懸案事項についてで来ていた。

 朝日奈さんが『全員でやるから良いんだよ。十神もちゃんと分かってくれる』との事で、僕らに図書室から料理の本の調達のほかに、十神のパーティーの参加も依頼されていた。

 結構無茶な依頼だった。雑用係にしてはそれはオーバーワークだろう。いや、学園仲間をパーティーに参加させるのがオーバーワークと言うのは酷薄な物言いだけど、彼の性格上、誘うのは本当に困難なのだ。それが懸案の理由なのだ。

 ネズミがライオンと一緒に食事を誘わせようとするぐらい懸案なのだ。

 仕事内容から超えるような仕事なのだ。

 

 

十「パーティだ? 腑抜けた事を抜かすな。参加するわけないだろう」

葉「で、でもさ……俺達も、十神っちと楽しみたい……てかさ……」

十「上っ面並べた言葉で俺を誘えると思ってるのか? バカバカしい……」

守「パーティ楽しいから一緒に行こうや!」

十「……誰が行くものか。どうせ舞園のご機嫌取りの為にするのだろ? あいつがやった事を正当化しようとする奴らと一緒にいたいわけがない……」

 

 何だよこいつ。マジで腹立つぞ。

 だけど、ここで帰れば、僕たちの、彼らの誘おうと考えた作戦がパーになるのはごめんだった。心を落ち着かせるのは大事な事だ。

 しかしこうなった以上、嘘の理由を言ったほうが、誘いやすいだろう。

 

守「……舞園さんは関係ない。これは僕らの懇親会や」

 

 だから僕は心を鬼にして、十神を落としにかかる。

 

葉「え、そうな──」

霧「黙ってなさい」

葉「…………」

 

 ナイスフォロー、霧切さん。流石過ぎるにも程があるけど。

 

守「僕らのやりたい事は、舞園さんの気持ちを(やわ)らげる事が目的や無くて、皆の気持ちと今の状況を(なご)ませようという事でやってるんや。その為には、十神みたいなカッコいい奴も来て欲しいねん。喜ぶ奴もおるからな」

十「……そうなのか?」

守「ああ。みんな十神の参加を待っているで」

十「俺は……参加しても、いいのか……?」

守「ああ。歓迎する。誰もお前も責めたりせんし、誰も僕らは責めたりせん。大丈夫や」

十「そうか……俺は……」

 

 いける! この調子でいったら確実に落ちるッ!

 と、僕は思っていたのだけど、予想以上の発言が、十神から聞こえてきた。

 

十「見事に騙されるところだったな」

守「せやで……は?」

十「そんな今時の詐欺師でも、典型的でも古典的でも使わんような常套文句で、俺の心が揺れるとでも思ったのか? 揺れるわけないだろう。お前らのような上っ面だけで生きているような奴と関わりを持つなど、虫唾が走る……」

守「……な、なんやどゴルゥァッッ!!」

葉「ひ、ひっぃぃぃッ! か、河上っちが……ひょ、豹変したべぇっ!」

守「さっきから細々とバカにしよってなぁ! そんなに気に食わんのかッ!!」

十「……貴様のような猿、相手にする気などなれんぞ」

守「だったら僕の気持ち考えろやッ! お前を誘おうとしたこいつらの事思えやッ! お前の脳は鍛えまくっただけで柔軟はしてないんかァッ! あぁッ!?」

十「お前は柔軟ばっかで脳を鍛えていないようだな」

守「知るか、んなこたァなッ!!」

十「大阪の人間は短気だと良く聞くが、まったくその通りだな。俺が参加しないと言っただけで、ここまで切れる類人猿は珍しいぞ」

守「関係あるか、んなもんはぁッ! お前のその気色悪くて気持ち悪い話し方の方が、世の中の忌み嫌われる者として、栄光の存在として永劫に(あが)められるやろな! さっさと(たた)れろや!」

十「……祟れるか。それは、どちらが祟られるだろうな」

守「あぁッ!?」

十「良いだろう。俺は別に崇められようが祟られようが構わん。そのつもりで、俺は生きてきたからな」

守「何が言いたいんやッ!」

十「俺と勝負しようじゃないか」

守「……は?」

 

 あまりの突拍子のなさに、僕の勢いは急ブレーキが掛かった。頭に血が上りすぎた所為で、十神の言っていた事が脈絡がない事に気付いたのは、すぐの事だった。

 

十「このコロシアイ学園生活でどちらが生き残れるかの勝負だ」

守「……誰かを殺す気か……?」

十「どうだろうな……。だが、俺はさらさら殺される気はない。俺は負ける事など、ある筈がないからな……」

守「…………」

十「次の学級裁判まで、楽しみにしておくがいい……」

 

 そう言って、十神は図書室から出て行った。

 そして台風は目に入り、周囲はあっけらかんとした空気が流れていた。

 

守「……あ、やってもうた」

 

 そして僕は、とんでもない口火を切ってしまっていた。

 

霧「……これじゃ、確実に誘えないわね」

守「……あ、あのー……あ、すみません。ごめんなさい。ついイラってしまもんで……」

葉「……こ、これが大阪人の迫力なんだな……」

守「あ、まって。そんなにビビらんといて」

腐「…………」

霧「これで十神君は、いつ行動に出るか判らなくなったわね」

 

 行動、という言葉で表していたが、その意味は、いつ誰かを殺してもおかしくないまでに火を点かせてしまった、という理由でもあった。

 いや、本当に面目ない限りの話だけど、でも、十神の態度を見てたら、いつの間にか切れてたんだもん。仕方ないもん。

 

霧「でも、少しスッキリしたわね。貴方が思いっきり言ってくれたおかげで、何だか晴れてきたわ」

葉「ま、まあ……気持ちはわからんでもないべ。……でも、これ以上厄介事はノーセンキューだべ……?」

守「本当にすまん……」

腐「すまん、じゃないわよ……もし本当に嫌われちゃったら……あぁあぁぁぁぁっ!」

 

 少し狂い気味な腐川さんだった。いやまあ、彼女の前で流石に切れすぎた感はあるけれど……。

 しかし本当に調子乗りすぎだ。何であそこまで言う事があったんだ。言いすぎにも度を超えていた。今になると、悪い気持ちで胸いっぱいお腹いっぱいだった。

 僕は心の中で、後悔の念で蹲る。

 もう何もかもが嫌になる気分だった。

 

守「……本当にすまん。気分、やっぱり悪くしたわな。挙句パーティーに誘えんかった言うんやから、大笑いの座布団一枚取りやで……」

葉「べ、別に気にしてないって。いや、気にしてるけどさ……」

霧「しかも、笑いを取れると確信している所も結構図太いわね」

守「…………」

腐「あ、あんたの所為で私が十神君に嫌われたら……どう責任とんのよ……」

守「……いや、その事については知らん」

腐「な、何よ……それ……!」

守「僕は人の恋路を邪魔する気は殊更あらへんし、二人の気持ちに介入する気はないで」

腐「な、何でそんなに……無責任なのよ……」

守「……まあ恋をしたんなら、例え悪印象でも、アタックすりゃええて。きっと仲良くやれる」

 

 まあ、これはゲーム則であるんだけど。

 ダンガンロンパのお話なんだけど。

 

腐「……まあ……あんたの、言うとおりだけどさ……」

 

 そして腐川さんは顔を思いっきりニヤケさせていた。いや、普通の顔は可愛いとは思うんだけど、ここまで崩壊したニヤケ顔は……うん、ちょっと、言いにくい物がある。

 

霧「そろそろ、戻ったほうがいいんじゃないかしら。結構良い時間よ」

 

 と、会話を遮り言葉を話した霧切さん。

 時計を見ると、料理の本を探しにきてから1時間半ぐらい経っていた。いい加減戻らないと、集団フルボッコにされるかもしれない。ある種、集団殺人よりも恐ろしいかもしれないけれど。

 

守「……急いで戻ろう。皆待ってるで」

葉「そうだな。遅れて向こうでも怒鳴られるなんて正直嫌だしな」

腐「……あたしもごめんよ」

守「よっしょ。じゃあさっさと行くべ!」

葉「お、俺のアイデンティティーを取るんじゃねーべ!」

 

 そして僕らは皆で均等に本を持って、図書室から急いで、パーティー会場である食堂へと走った。


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