ダンガンロンパ リアルの絶望と学園の希望   作:ニタ

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episode 2 パート3 (非)日常編

 僕の過去の話なんて、正直話したところで面白みはない上に、どこにでもあるような、有触れた話かもしれない。しかし、僕の面白みのないどこにでもある有触れた過去の話を話したところで、一行二行で終わってしまう。なので、生まれた時の話からしよう。

 え? 幾らなんでも過去すぎる?

 過去は過去。別にどこから話をするとは言っていない。けど、それで飽きられたら僕は困っちゃうので、なるべく簡潔に、なるべく簡単に説明する。

 僕が生まれたのは、九月七日の朝八時だった。何の病気もなく、健康体だったらしい。

 そして数年、幼稚園へ入園。勿論この頃のことなんてこれっぽっちも覚えていないけど、両親から聞いた話だと、僕はモテていたらしい。たらい回しにされていた訳じゃなさそうだけど、それなりに好かれていたんだと思う。幼稚園生活もそこそこ楽しかったような気もするけど、やっぱり気になることはない。

 小学校へ入学すると、僕は結構うるさかったような記憶がある。ヤンチャ坊主って訳ではない。多分、初恋の子に猛アピールしていた記憶がある。

 高学年になってからアニメが好きになり、一番初めに大好きになったアニメはハム太郎だった気がする。女の子っぽいってよく言われたものだ。そして他にも好きなアニメとか増えていった。始めは朝アニメを好んでいった。プリキュアとかも再放送できよくみてたけど、中々小学生には熱くなるものがあった。下の方にだけど。

 中学に入ると、勉強をしなかったけど、始めの頃は点数は取っていた。次第に落ちぶれていった。正直、高校に入学できたのが驚くぐらい。とは言っても、そこまでアホではなかったけど。だから、高校に入学して実力試験で国語だけしかないが、学年一位になった時はえらく魂消(たまげ)たもんだ。それ以外は落ちぶれてるが。実はまぐれなのではないかと疑っている。いや、まぐれなんだろうけど。

 僕は基本、野外では遊ばないが、学校ではよく喋る友達とかはできた。所謂インドアというやつだ。

 

「今の話を聞く限り、凄い才能とか持ってなさそうだね」

 

 そう戦刃さんが言った。

 そうなのだ。僕は突出した才能も無ければ、何の功績さえない。だのに、僕がここにいる理由。それがどうしても分からない。

 

「……もしかして、私たちも知らない、超高校級の才能とかあったり?」

「知らぬ存ぜぬやな」

「……実は私達さえも君の事を忘れてしまったとか……?」

「……わからん。そもそも、僕は黒幕側の情報なんて、一切知りやしない」

 

 正直、皆がどうやって記憶を消されたか全然知らない。僕はゲームしかやってないんだから。

 

「……私達が考えても答えは出なさそう」

「せやな……」

 

 何となくボーッとしていると、戦刃さんから僕に話しかけてきた。

 

「河上君が好きな事ってなに?」

 

 話を大胆に変えてきたけど、正直今の話は暗くなるばかりだったので、良い話の切り替えになった。

 しかし、僕が好きな事か……あまり考えた事がない。

 

「……楽しければええんかな……?」

「楽しければ……?」

「うん。あんまり分からんからな。アニメとかもよう見んねんけどな。なかなか面白いというか、自分にピンとくる、目新しいアニメを見ることは少ないねん」

 

 でも、その目新しいアニメを見るときは、面白くて徹夜してまで見る時が多い。そこまでする魅力ってのは、結構簡単かもしれない。

 

「でも実際楽しいと思えたら、それが僕にとって好きな事なんかもしれん。実際問題、好きになる原理ってのは、そういうもんやと僕は思ってる」

 

 一目惚れとか吊り橋効果は有名な話だけど、見た目だけで判断しても、本性を知ってしまえばすぐに切ってしまう。

 自分にとって、楽しくないものだと判断するからだろう。そう考えると、悲しい話ではあるけれど。

 

「何だか難しい……」

 

 戦刃さんは分からなそうに首を傾げた。

 その彼女の仕草は可愛らしかったが、彼女の容姿については決して美人の部類に入るわけではないけど、ゲームで見るより、可愛い子だった。

 よくある話だけど、芸能人をテレビ以外で見たとき、つまり路上に芸能人がいた時、テレビで見るよりもリアルの方が何かが違うと思ってしまう。映える、と言うべきか悩みどころだけど、やっぱり印象は全然違ったりする。それと同じようなものかな?

 

「まあ、楽しければ楽しいし、楽しくなければ楽しくない、って事や」

「何だか、盾子ちゃんみたいな事言ってる」

「根本的に考えてることは違うやろ」

「まあ、そうだけど。大事なのは中身だからね、少し失言」

「でもその言い方やと、僕の外見に問題ありとしか聞こえん……」

「違うよ……別に蔑んでる訳じゃなくて、中身は外見より、大事だと思っただけ」

 

 大事なのは中身。

 

「確かに多くの人間は、外見を確認した上で付き合うかどうかを判断するけど、性格の不一致が発生すりゃ、結局分かれてまう。世の中、そういうもんや」

「……達観してるね」

「んなもんやない。人生経験なんて……人間関係なんて薄いし、そういうのはゲーム情報やったりする」

「にしても、今の説明は何だかしっくりくる」

「しっくりか。だとしたら、僕と戦刃さんは性格が一致してるんかもしれんな」

「よくわからないけど……性格が一致していたら、やっぱり付き合うの?」

「そうとも限らん。実際、性格が一致してても、不釣合いと思う事が多いと思うで。性格の相性がよくなけりゃ、やっぱり付き合うことはないやろ」

「性格の相性……? 性格の一致どどう違うの?」

「せやな……例えば、ツンデレ同士が対面したら、ぶつかり合う事は多いんかな……?」

「……ツンデレって何?」

 

 戦刃さんはこういうサブカルチャーに疎いのかもしれない。超高校級の軍人と言われるぐらいだ。もしかしたら人生をそれで歩んできたとしても納得できるかもしれない。

 

「ツンデレは──せやな……自分が素直になれない、って言えばわかるか?」

「うん」

「ツンデレってな、実は自分が嫌いっていう人が多い。自分は何故素直になれないか……という風に悩んだりしてり、思った事の裏返しの発言が多かったりする。そんな子同士が対面すると、素直になれなさに相性が合わず、話しかける事が少ない。なかなか仲良くはなれないねんな」

「そういうものなの?」

「まあ、今の説明も、かなり偏見を持った意見ではあるけど、あくまで分かりやすく説明するために引き合いに出しただけやからな……まあ、言わば持論や」

「そうなんだ。いつも女の子のことそんな風に観察してるの?」

「な……! んな訳ないやろ! 僕は健全で純然で整然たる思春期男子や!」

「健全で純然で整然たる思春期男子が、思春期で乱れないなんて凄いね」

「当たり前や! それが僕やからな!」

 

 訳の分からない弁解だった。いや、弁解さえなってない気もする。

 

「実際ツンデレを好きになる男子女子は、なかなかおらん。我侭(わがまま)やったり、自己中心的やったりするかんな。お近づきになりたがらない人が多い」

「何だかツンデレって、可哀想だね……」

「まあ兎も角。別に性格の相性がぶつかり合うのはツンデレだけやない。喧嘩っ早い同士が相対すればすぐに喧嘩するかもしれんし、根暗同士は話が続かないとか。まあ極端な例ではあるけど、性格の一致があっても、相性が違えば亀裂を生むし、逆もまた然りや」

 

 性格が似ている、という事もよくある話だけど、それは性格ではなく、考え方が同じなだけだ。

 例えば人類を滅ぼさんとす魔王を倒し、世界を救う為に勇者が退治に行くとする。しかし、魔王は人類を滅ぼす事によって世界を救おうとしていた。

 考え方としては同じだ。どちらも正しい答えと思っているが、やっている事は真逆。しかし、同じ考え方なために、それが正しい考えだと思ってしまえば片方は、もしくは両者ともそう錯覚する。

 

「だったら、性格が一致も、同じ考え方にならない?」

「確かにそうやけど、僕は似て非なるものだと思ってるなぁ」

「なんだか、凄く上から目線だね……」

「別にそんなつもりはないけど……実際、一致と言ってもやっぱり、似ていると変わらない言葉やと思うけどな」

「なんだか言ってる事が支離滅裂してる」

「……頭を使いすぎたせいかもしれん」

 

 とまあ、ここまで話したはいいけれど、どうして僕の好みを聞いてきた戦刃さんの話から、性格上での一致と相性について僕は語っているんだ? 僕ってそんなに女子高生女子高生したやつだったっけ……?

 まあ、別に僕は話をしていて結構楽しかったけど、のべつ幕無しに話をされた戦刃さんは退屈だったかもしれない。

 

「うん。退屈だった」

「そ、そこまで率直に言わんでも……」

 

 まさか彼女がここまで正直なお方だったとは思いもよらなんだ。

 

「持論を述べまくるのを聞く事ほど、退屈な事はないと思うよ」

「…………」

 

 確かに、一理ある。おそらく多くの読者は僕の持論を聞いてあくびをしたことだろう。あれ? どうして目から涙が……?

 

「今の読者のニーズは、いかに主人公が面白いかではなくて、ヒロインの行動を求めているんだと思う」

「僕の存在意義を否定すんなっ!」

「自分が主人公だと思うのは、私はどうかと思うけど……」

「いや、まあせやけど! 確かに自らを主人公とか謳う主人公ほど痛いもんはないけどな!」

 

 でも、ここでは僕は主人公なんや! やないと、もう僕でも僕がわからん!

 

「実際、多くの漫画やアニメじゃ、ヒロインの行動によって主人公の行動も決まってくるよ」

「あれ? サブカルチャーは詳しい方なの? でも確かに、主人公の生き様を語る上では、やっぱりヒロインの活躍は必須なんかもしれんな……」

 

 実際、ダンガンロンパ本編でも、舞園さんの、犯行という行動を取り、大きく誠ちゃんの心を動かした。活躍という訳ではないけれど、やはり大きくゲームを動かした人物ではある。言い返れば元凶という言い方も出来るが、あまりに酷だ。そんな風に考えたくない。

 だってそれは、清ちゃんにも当てはまることだから。

 しかし、不謹慎ながらも考えると、もしかして、このゲームの上では清ちゃんがヒロインにイコールされたりするのか?

 

「ヒロインは、必ずしも近くに居た人じゃなく、始めには気付かない、遠くの位置に居る事もあるかもね」

「気付かない遠くの位置か……」

 

 もしかしたら、本編でのヒロインは霧切さんだったかもしれない。近くにいた舞園さんでなく、遠くにいた位置にいた霧切さん。

 

「物語では主人公が居なくなると話が成り立たない。だから、主人公でなく、ヒロインの活躍が際立つ。というより際立たせるんだと思うの。現実での話だったら、主人公が例え死んでも、現実は成り立つだろうけどね」

「物語を面白くする上では、ヒロインの活躍は、死をも意味するという事なんか……」

「言い方は大袈裟だけど、そういうこと」

 

 ヒロインといっても実際はあまり良い役回りというわけでもなさそうだ。

 主人公の引き立て役でしかない、ということなんだから。

 

「でもそれは、主人公が活躍する上での話しなの」

「え、どういうことなんや?」

「つまりね、主人公が活躍する話は、ヒロインの行動で大きく変わるけど、ヒロインを活躍させる為に、主人公が行動することだってあると思うよ」

「えーと……何が違うんや?」

「生徒会の一存って知ってる?」

「あ、ああ──知ってるけど……?」

 

 何だか、濃厚なステマ臭がするけど、気にしないのが大人の嗜みだ。

 

「生存に出てくる主人公って、活躍する場面はあんまりないけど、ヒロインをよく魅せる為に、自分で行動していくよね」

「ああ、確かにせやな。そう言われると、凄く納得いく。自分は主人公にして脇役である、みたいな雰囲気なんかな」

「そう。脇役ってよく要らない子扱いされるけど、でも進行上では必要な人だったりするんだよ。ヒロインも、その脇役に当てはまったりするし、主役に当てはまったりする。結局は、主人公がどう行動するかによって、ヒロインの活躍が決まっていくってことなんだと、私は思う」

 

 確かに、主人公がどうするであれ、ヒロインの役割って結構大事な役なんだろう。例え嫌な役だとしても、厄だとしても受け入れるヒロインは、主人公の活躍、または引き立て役に欠かせない。

 ヒロインって、結構偉大な人なんだな……

 と、居ない人を想像するのは止して、一つ気になることがあった。

 

「戦刃さんって、結構多弁やな……」

「……いきなり何かと思った」

「サブカルチャーとか詳しい方なんか?」

「そこまではないけど……ここに来る前に、少しだけ勉強したから……」

 

 その妹に尽くす健気な姿は、なんとも儚げだった。本当に軍人だったとは見紛うほどだ。

 線が細く、薄い。影の子の存在みたいに薄い。もしかして今まで怪我をしたことがない理由は、それなのかもしれない。いや失礼極まりないけど。

 

「でも、勉強した甲斐があったよ」

「まあ、サブカルチャーに詳しい方が、その詳しい人と話が合う機会は多いしな」

「そうじゃ……ないんだけどな……」

 

 そう縮こまりながら小声で呟く。

 何だかよく分からないけど、僕のさっき言った事は違うらしい。

 

「じゃあ、どういうことなんや?」

「……こういうくだらない話を、誰かと話す機会ってなかったから……」

 

 そしてタイミングよく、タイミングが悪いモノクマアナウンスが夜時間を告げた。

 

「それじゃ、私は個室に戻るね」

「ああ、バレんように帰りや」

 

 そういって、僕は自分の頭を指差した。

 それに気付いた戦刃さんはベッドにおいてあったウィッグを取ってから部屋を出て行った。

 そして部屋の中が静かになった。寂しいほどに。

 

「……今日はもう寝るか」

 

 そういえば、僕はこの部屋で寝るのは初めてだったな。安眠できるかどうか判らないけど、明日はゆっくりするとしよう。

そんな、今日の夜だった。


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