ダンガンロンパ リアルの絶望と学園の希望   作:ニタ

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episode 2 パート2 (非)日常編

 学級裁判の終了後、僕らが帰ろうとする前にモノクマがこう言った。。

 

『ああ、そうそう。()()()()()はキレイに掃除しておいたからね! なぁに、お礼するほどでも無いさ……だってボクは君達の笑顔を見れればそれだけでお腹が満腹だよ!

 それにさ、腐っちゃったりしたら、目も当てられない事になるし、健康な生活にも支障をきたすからね。 にょほほほほ~!!』

 

 結局一番遅れてエレベーターに乗ったけど(というか、一人ひとりが勝手に登っていくシステムではなかったらしい)、地上に着いた瞬間にすぐにランドリーに向かった。

 そこには、まるで何事もなかったかのように、白い洗濯機が並び、椅子もちゃんと戻され、何より死体なんてなかった。綺麗さっぱり。

 最初から、事件なんてなかった。

 そう錯覚させるかのようさえ思った。

 その後皆で明日の朝、食堂で話し合おうという事になった。

 その朝になって、僕はもう一度、ランドリーに赴いた。だけど、やっぱり普通の状態で、血なんて一滴も無く、どこにでもあるランドリーの姿だった。

 何となく、僕は桑田の倒れていた場所に立つ。しかし、何もない。何もおきない。何でもない。

 ただの地面だった。

 彼の気持ちは、最後は野球が好きだと、やりたいと言っていた。その気持ちを汲んでやることもできず、僕はただ、保健室で寝ていただけだった。

 無力だ。

 何もできやしない。

 そんな言葉だけが、僕の心に疼く。

 どれくらい経っただろうか。僕は結構な時間そこに居た。僕が我に返ったのは、モノクマアナウンスで、僕らを体育館への呼び出しをされてからだった。

 

「新たな動機の件かな……」

 

 そんな風に思い、戦慄しっぱなしの僕らを巻き込む形で、朝の恒例、健康維持には打って付けのそれは始まった。

 

モ「うぃっちに! さんしっ! ごうろっく! しっち、はっち!」

守「にぃにッ! さんしッ! ごぅろっくッ! しっち、はちッ!」

 

 果たしてそこではラジオ体操第一が繰り広げられていた。

 

モ「次はからだを前後に曲げる運動! はちきれんばかりに前に倒して、後ろの敵に隙を見せないように背中を後ろに曲げるッ!」

守「いっちにっ! さんしッ! ごぅろっくッ! しっち、はちッ!」

 

 朝に身体を動かす事は、ネガティブモードからポジティブモードに強制変換するから、たまにする事がある。

 今はネガティブモードなので、少しでも自分に元気付けようとラジオ体操をしていたわけだ。

 腕は大丈夫なのかって? そんなの、最新の医療と細心の注意があれば、痛みなんてないも同然さ!

 という訳で、みんなもようつべで検索して毎朝やってみよう!(宣伝乙)

 

モ「深呼吸ですっ! マナリア海溝よりもふかーく息をすってーはきまーす。いっちに、さんし、ごうろっく、しちはち」

 

 僕はモノクマの号令に合わせて深呼吸をする。両手を前に上げて、横にゆっくり落とす。

 

モ「繰り返してー。いっちにっ、さんし、ごうろく、しち、はーーち……」

 

 そこでラジオ体操の音楽は終了した。

 僕は両手を真っ直ぐ下に伸ばして、上半身を前斜め30度に倒す。

 

守「ありがとうございましたっ!」

モ「ありがとうございました!」

紋「ありがとうございましたじゃねぇよ……」

 

 一日の朝の恒例(今日始めてしたけど)を終えて、僕は身形(みなり)を整える。

 

守「で、何の用や。まさかラジオ体操するために呼んだわけやあるまいな」

腐「それをやっていた奴の言う事じゃないわよ……」

モ「でも、運動って気持ちいいでしょ? インドアばっかだと、身体がなまっちゃうからねッ!」

葉「自分で閉じ込めてよく言うぜ……」

モ「細かい事は気にしない、モノクマモノクマ♪」

 

 何かもう、色々ぶっこみすぎだと思う。

 

さ「それで、用件はなんだ? 本当にラジオ体操の為だけに呼んだわけであるまいな?」

モ「ラジオ体操……だけ? だけって言った? ラジオ体操を笑う者は、ラジオ体操に泣くんだぞッ! それに、ラジオ体操第一は、なまった筋肉を伸ばして血の流れをよくする運動なんだ! バカにしてると、老人になった時は知らないぞ!」

江「健康には良いんだろうけどさ……」

セ「実はラジオ体操は100年、90年ぐらい前でしたかしら。当初はブリーフパンツ一丁でやっていたらしいですわよ」

山「な、なんですとぉぉぉぉぉぉ!! 皆様方! 今すぐやりましょう! ラジオ体操は身体の健康を作る上で史上最強の運動ですなのだからぁッ!!」

朝「何一人で興奮してんのよ……するわけないじゃん」

霧「それもそうね。下心丸見えの人がいる所でするおバカは居ないんじゃないかしら」

山「お、おのれぇぇぇぇぇぇ!」

守「二次元にしか興味ないんちゃうんか……」

山「それはそれ、これはこれですからなっ!」

守「…………」

 

 その言葉だけの意味としては、とても正しいことを言っているけど、しかし、元が下ネタだけにあって、別に踏ん反り返ってまで言える様なことじゃないはずだ。

 

苗「いいから、そろそろ答えろよ……本当に、ラジオ体操の為だけによんだのか?」

モ「まあ奥さん! わたくしそこまでヒマじゃないですわよぉ!」

 

 どこのおばちゃんだお前は。

 

モ「それでは発表しますッ! この希望ヶ峰学園、学級裁判を乗り越える度に『新しい世界』が広がるようになっております!」

葉「新しい世界……?」

モ「オマエラも、一生ここで暮らしていくのに、一変の刺激もないと困るよね? それにお前らの白けた世代はすぐブーたれるし! てな訳で、学級裁判後の世界の探検はご自由に! 思う存分堪能してくださいねーッ!」

 

 そんな一方的な説明を残して、モノクマは僕らの前から姿を消した。

 その後、僕らは話し合いの結果、新しい世界──学校エリア二階への探索を開始した。

 しかし、ゲームと同じく、階段のすぐ左にプールがあり、奥に図書室もあって、かわり映えしなかった。

 図書室には、壊れたパソコンと古ぼけた手紙があった。手紙については割愛するけど、やはりそれ以外には何も無かったというのがオチだ。

 次にプールと更衣室だけど、やはり同じだった。何も違いがない。女子更衣室のドアにも、ちゃんとガトリングガンが設備され、更衣室にはトレーニング器具とかも充実していた。プールもそこそこの大きさで、ひと泳ぎにしては疲れるで……と思うほど広かった。

 その後、僕らは食堂へ集まり、二階の報告会を始めるが……

 

さ「だが結局、出入り口らしきものはなかったな……」

 

 そこは徹底的。穴一つさえ無いほど密閉されていた。他の収穫としては寄宿舎にあった。

 

江「実はさ、寄宿舎の倉庫と大浴場も入れるようになってたんだよね。しかも、倉庫に食料や衣類とかが大量にあったしね。いや、あの多さには本当に驚きだけどね……」

守「じゃあ小腹が空いた時は便利になるな」

セ「ですが、『夜時間は出歩き禁止』です。お忘れなく……」

 

 しかし、こっそりでもいいから、夜食には打って付けと言うわけだ。

 結局、それ以外の収穫はなかったけど、僕らは『新しい世界』を手に入れた。これからどう動くかは、やっぱり皆次第だ。僕は、それを止める役割を担っている……かもしれない。

 正直、胸張って言える訳じゃない。だけど、そうしないと、次の殺人が起きるかも知れない。僕はそう、終始考えていた。

 結局は、その後も出入り口に関する情報も方法も無かったため、今日は解散した。

 気付いたら、もう十分でか夜時間になろうとしていた。

 解散後、僕は自分の個室へ向かう途中、江ノ島さんと会った。恐らく、先回りして待ち伏せしたんだろう。

 

「あのさ……」

 

 口ごもって、言いづらそうにしていた。なんだろうか。もうそろそろおねむの時間なんだけど……

 

「……どうしたんや?」

「あ……アンタの話、少しだけ聞きたいんだけどさ……ちょっと、アンタの部屋で話さない……?」

 

 ……ヌボー。恐らくそれが今の僕の顔の効果音だった。

 は? 何? 僕の部屋で二人っきりで話さないかって?

 …………。

 

「……お嬢様。ささ、こちらへ」

「え、ちょ……」

 

 すかさず僕は自分の部屋の鍵を外してドアを開ける。

 

「どうぞお部屋へ」

「はい……どうも……」

 

 江ノ島さんは僕の部屋に招きいれ、ちゃんと江ノ島さんが奥へ入ったら、僕は()()()()()()()

 

「ちょ、マジ何やってんの……?」

「さぁ……朝まで語りつくそうではないか……!」

「ちょ、本気でやめて! 私そういう目的で来たわけじゃないの!」

 

 本気で嫌がっていた。それはもう、身体全体でそれが溢れ出ていた。

 

「そうなんか……なら仕方あらへんな……」

 

 僕はとりあえず扉から離れて江ノ島さんの正面に立った。

 その時の僕の顔の向きは、上を向いていた。

 …………。

 

「あれ……結構河上って、ちいさ──」

「それ以上言うなァッ!! 俺が許ざねぇだッ!!」

 

 そう言って、僕は数歩江ノ島さんから瞬時に離れる。

 

「口調が……」

「ふしゃー……ふしゃー……」

「何でロボ超人みたいな息遣いしてんのよ……」

 

 そんなロボ超人は、たったの身長の事だけで息を荒げていた。

 

「でさ──あのね、話があるの」

「ふしゃー……え?」

 

 僕はようやく正気に戻り、話を聞けるようになるまで回復した。

 その時の江ノ島さんは、既に戦刃さんになっていた。口調を変えると同時に、ウィッグも取っていた。

 

「貴方の素性が知りたいの。教えてくれる?」

「……普通、素性なんて言葉を使わんと思うけど……」

 

 そして何を思ったのか、戦刃さんは無言で僕の近くに来て、そして少しかがんでから、そう言った。

 

「……教えて。貴方の事」

 

 上目遣いで。

 何で? 何で? 何でこの子、わざわざかがんでまで上目遣いしてるの? 可愛いけど、ちょっと悲しいよ、僕……。

 

「わかった……わかったから……教えるから、その体勢やめて……」

「良かった……盾子ちゃんお言ったとおりだった……」

「…………」

 

 え? あの上目遣いからかがむところまで言ったとおりだったの?

 くそっ! 全部あいつの手の平に踊らされてばっかりやないかッ!!

 

「……もういいや。で、知りたい事ってなんや?」

「うん。河上君の前までどんな生活をしていたか教えてほしいの」

「どんな生活をしてたか?」

「うん。端から端まで。全て。何もかも。須らく教えて欲しい」

「いや、何か色々と怖いねんけど……そして、須らくの意味わかるか?」

「うん……全てって、意味だよね?」

「それは間違いやで」

「え、そうなの?」

「全て、って意味やなくて、当然、って意味やねん。元はすべしって言葉から来てるんや。ほら、よく言うやろ? 勉強すべし、とか走るべし、とか。つまり、須らくは、すべしが少し変わったバージョンで意味は何々するべきである、という意味なんや」

「そうだったんだ」

 

 納得したかのように顔を頷ける。

 

「じゃあ、須らく教えて欲しいって言い方は、当然教えて欲しいって言い方になってしまうから、日本語がおかしいんだ……」

「そういうことや。日本語は難しいからな。僕だって間違える時だってある」

「日本語って、難しいんだね」

 

 少し頭よさげアピールをするが、見事にスルーされてしまう。

 

「じゃあ、河上君。私に河上君の情報を須らく教えるべきよ」

「……何やこの揚げ足取られたような気分は……」

「河上君は私の足を取ったでしょ? 揚げてなかった足を揚げるなんて、間抜けだね」

 

 揚げ足の取り合いだった。

 日本語は難しい。

 

「それで、僕の事情を聞きたいんか?」

「うん。聞きたい」

 

 ……まあいいか。今の掛け合いも楽しかったし、そのお返し、という事でええか。

 そして、僕はこれから、僕の生活していた、僕の私生活を端から端まで。全て。何もかも。須らく教えることにしよう。

 


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