ダンガンロンパ リアルの絶望と学園の希望   作:ニタ

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episode 1 非日常編 学級裁判3

河上守:

  犯人を決める前に、ちゃんと犯行をまとめておこう。

  僕らは、知らないといけない。

 

苗木誠:

  そういえば、まだいくつか分かってない事もあるよね?

  例えば、桑田君の服に付いた血とか。

 

葉隠康比呂:

  『桑田っちの服を脱がせた』んだろ?

  そんぐらい分かるべ。

 

河上守:

  それは違うで!

  ……てかバカなんか、お前は……

  脱がせてるわけないやろ……

 

葉隠康比呂:

  え、そうなんか……?

 

石丸清多夏:

  くくっ……

 

河上守:

  ……どうしたんや、石丸。

 

石丸清多夏:

  いや、一連の動作に、不謹慎ながら少し笑ってしまった……

  すまない。こういう立場なんだがな……

 

河上守:

  ……それじゃ、分かってない所も含めて、犯行をまとめるで。

 

 

 

  ランドリーで事件が起きる前に、葉隠が9時に洗濯しに入ってきた。

  そして9時半に桑田も同じく洗濯しにきたんや。

  その時に、桑田は葉隠に占ってもらい、その結果を聞いて怒ったんや。

  それに切れた葉隠はさっさと部屋を出て行ったそうや。

  いつの時点で出て行ったかはわからんけど、

  9時45分までには出て行ったはずや。

 

  桑田はランドリーで一人になったところを、犯人は洗濯しにやってきた。

  そして犯人はその数分後、桑田を思いっきり殴ったんや。

  その拍子に、桑田は洗濯機に頭をぶつけて死んだ……

  やけど、桑田の倒れた場所は自分の洗濯物が入った場所やった。

  犯人は慌てて桑田を隣の洗濯機に動かした。そん時に引きずった跡ができたんやな。

 

  その時、手に血が付いてもうたんやないか?

  咄嗟に開けてはまずいと思って、何かで拭こうとした。

  それであの洗濯機を何らかの手を使って開けたんや。

  推測やけど、桑田のシャツの色は赤かったからな。

  それで誤魔化せる思ったんやろ。

 

  そした拭いた後は、偽装工作に取り掛かった。

  正直、意味のない偽装やったけどな。

  そして洗濯機の中の制服を取り出して、自分の部屋に戻った。

  やけどその途中、江ノ島さんに目撃され、決定的な証拠となってしまたんや……

 

  こっからは完全に推測になるんやけど……

  部屋に戻ると、洗濯した制服はとりあえず乾かそうとしたんやろ。

  自分の着ている制服に血が付いていて、洗っても血はとれんかったんやと思う。

  そして仕方なく洗濯した制服を絞って乾かして、何とか着るまでにしたんやと思う。

  これが正しいかどうかわからん。

  不明な点がわからん以上、それをお前から聞くしかないんや、石丸。

 

 

 

石丸清多夏:

  ……最後の推測も、偽装工作も全てが正解だ。

  しかも、偽装工作の意味の無さまで見極めるとは、お見事だ。

  凄いな君は! 実は超能力者ではないのか?

 

河上守:

  …………それで、洗濯機はどうやって開けたんや?

 

石丸清多夏:

  なぁに。別に聞かなくても良いのではないか?

  まあ実際、普通に開けて、血の付いた取っ手は桑田君の服で拭いただけだ。

  

河上守:

  ……なんで、殺したんや……?

 

石丸清多夏:

  その前に犯人を断定せねばならない。

  投票タイム、だったな。いつ始まるかわからんが……

 

モノクマ:

  はーい! 今から始めますよ!

  では皆さん! お手元のボタンを押して、クロを決めてくださいね!

  投票の結果、誰がクロになるのか!?

  その答えは正解なのか……はたまた不正解なのか!

  それでは、張り切っていきましょーーッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             犯人は、石丸清多夏だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        学級裁判  閉廷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モ「大正解! 桑田君を殺したのは……絶対遵守風紀委員で有名な、石丸清多夏君でしたぁ!」

石「…………」

 

 彼の表情は、一見無表情に見えたが……歯をかみ締めていた。

 

江「何でアンタが殺したのよ……一番、ありえないじゃん……」

霧「貴方の動機は……なんだったの?」

石「……簡単な理由さ。キレたから殴った。それだけだ」

 

 最近の若者はすぐ切れる。そんな言葉を、ふと思い出した。

 

石「僕は、彼の不遜な態度に激怒した。あの自信たっぷりと、俺は天才だという不遜な態度に……殺してしまった……」

守「そ、そんな単純な理由で……?」

石「単純さ。僕は驚いている。現に、何故僕はここまで冷静なのかさえ驚いている」

霧「……プレッシャー、じゃないかしら」

石「プレッシャー?」

霧「貴方を観察してる時、使命感に突き動かされている感じだったわ。僕が中心に立たないと風紀が乱れる……そして殺したことによって、プレッシャーがなくなった。違うかしら?」

石「……確かにそうかもしれん。僕は、何も考えずに、ただただ皆が一致団結できるよう考えて動いていた。そして僕は……そうだな。それが……人を殺すという事が、プレッシャーの権化だったのかもしれない」

守「プレッシャーの……権化?」

石「僕は、みなの悲哀、恐怖、絶望に苛まれる姿を見るのが辛くて……そして、何も出来ない自分の姿を見ると、心底絶望していた。僕はもう、嫌だった。死んでしまいたかった。

  そんな時に、僕は桑田君とランドリーで偶然会い、彼の発言が、彼の不遜な態度が、彼の嫌味ったらしい言葉が、僕の怒りが、有頂天に昇った様だった。僕は無意識の内に、風紀委員として有るまじき行為といえる、暴力に手を染めてしまった。挙句に、犯罪にまで染めたんだ。風紀委員として……一個人として、人としてやってはいけない行為なのに……僕は、桑田君を殺してしまった。

  その時、ふと、本当にふと、無意識に思ってしまったんだ。

  死にたくない、と。

  おこがましいにも程があるが、僕は一心不乱に偽装工作、そして僕が犯人で無いという証拠と証拠隠滅を図った。しかし、それは失敗に終わった……」

 

 僕は耐え切れなかった。石丸の、その気持ちに、僕は泣きそうになった。犯罪に手を染めた奴に、悲しんでしまった。

 僕は……なんで泣いたんだろう?

 

石「……後悔している。本当に……なんで僕は……どうして……

  …………どうしたのだ、河上君……」

 

 僕は、石丸の横に立っていた。実際に横に立つと、身長差がかなり激しかったが、僕は精一杯、手を伸ばした。

 

石「──どっひゃっひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

紋「な、なんだぁ!?」

葉「ちょ、何やってんだ河上っち!」

石「や、やめてくれぇ! ひ、ひぃぃぃぃいいッ!!」

 

 石丸は、笑っていた。ただ、笑っていただけだけど。

 僕はもう数秒続けて、ようやく手を止めた。

 

石「ハァ……ハァ……」

 

 石丸は疲れたように膝に手をついていた。

 

守「どうや? 笑ったか?」

石「……どうせ、こんなのでは寿命は延びないのだろ?」

 

 そう言う石丸だった。微笑を浮かべながら。

 

守「伸びたで。少なくとも、このやり取りの少しの間だけ……」

石「はは……そうだな」

 

 僕らは、何となく笑っていた。不思議な気持ちだった。

 僕と石丸は、こんな学園生活ではなかったら、友達になれたかもしれない、とふと、本当にふと、無意識に思った。

 

石「……守君。ありがとう」

守「……ああ。清ちゃん……」

石「はは……あだ名なんて、久しぶりだな……」

モ「熱い友情で傷心に浸っているところさ、そろそろおしおき開始したいんだけど? みんな待ってるんだしさ」

 

 その言葉を機に、石丸は目から一縷(いちる)の涙を流した。

 

石「はぁあ……死にたく……ないなぁ……」

モ「風紀委員である君が、秩序を乱したのに命乞いなの?」

石「…………っ」

モ「というわけで……今回は超高校級の風紀委員である石丸清多夏君の為に、スペシャルなおしおきを用意させて頂きましたっ!」

 

 モノクマは残酷な無残な、処刑開始宣言をした。

 

石「くっ……くっそぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

モ「それでは、張り切っていきましょうっ! おしおきターイム!」

 

 そうするとモノクマは、自身の後ろから木槌を取り出して、怪しげなボタンをそれで叩く。

 

『イシマルくんがクロにきまりました。

 おしおきをかいしします。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 清ちゃんはどこかへ連れ去られた後、僕らは裁判所にあるモニターでの映像を見る事になった。

 こんなの、見たくなかった。しかし、彼の最期を見ないと、彼の為にならない。そう言い聞かせながら、僕はモニターを見ていた。

 そこに映し出されたのは、大勢の人、と(おぼ)しきモノクマ達が、プラカードを持っていた。そこには、『石丸首相万歳』『石丸首相就任おめでとう!』と、そんな言葉が書かれていた。

 そして選挙カーがやってくると、台の上に清ちゃんが立っていた。

 その顔は笑顔で手を振っていたが、とても笑っているようには思えなかった。

 そして突然『石丸清多夏首相就任パレード』のプラカードが画面全体を覆った。

 すぐにそれは離れて、選挙カーが前に、ゆっくりと進んでいく。

 ゆっくりと。ゆっくりと。ゆっくりと。

 その時、石丸の顔がドアップで写され、顔の周りに円と円の中に十字が書いてある、まるでロックオンでもされたかのような感じだった。

 そして突然画面は真っ黒に染まり、少しずつカメラが離れていくと、選挙カーを背景にモノクマが銃を片手に横を向くと、タバコを(くわ)えていた。さながら、かの有名な、暗殺者のように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モ「いえぇぇい! さいっこうにクールだぜぇぇぇ!!」

 

 その凄惨な映像は消え、僕は無気力になっていた。

 これが、絶望。これを絶望と言わずとして、何が絶望と言えようか。

 

山「あわ……あわわわわ……」

千「もう……嫌だよ……」

腐「なななな、なんなのよぉ……」

千「こんな事をまだ続けるなんて……もう嫌だよ……!!」

モ「それが嫌ならさ……外との関係を完全に打ち切って、ここでの一生の生活にを受け入れることだよ。それが、オマエラに出来るかどうかは、話は別だけどね……うぷぷ……うぷぷぷぷぷ! ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 

 どんな薄気味悪い声が響き渡る。

 永遠の地獄へ、奈落の底へ突き落としても、そんな笑い声が聞こえそうだった。

 

紋「テメェの目的は何なんだ……!」

モ「ちょっと。そんな中二病みたいなこと言わないでよ。ボクは君達を思って絶望を分け与えているだけだよ」

山「言っている事が、異質ですな……」

モ「あー! ボク傷ついちゃうよ? 傷ついちゃったよ? あーあ。ヘコむなー」

守「どの口が言うんや……!」

モ「大体さ。石丸君が桑田君を殺した原因って、君達のせいでしょ?」

守「……は?」

モ「石丸君、どんだけ傷ついただろうねー。何をしても誰かに否定されて……しかもさ、君達が出たいなんて思わなければ、石丸君もあそこまで傷つかずに済んだんじゃないの? だったらオマエラが悪いジャン! ジャン!」

腐「あ、あんたが悪いんでしょ! こ、こんな……訳分からない所に閉じ込めて……」

モ「ふーん。()()()()()ねぇ……でも、この学園の全てを知った時、君達はこう思うはずだよ。

  『ここで一生暮らせるなんて幸せだ』ってね!」

 

 僕は歯をかみ締めていた。もし、ここで言えれば、何かが変わるかもしれないのに。しかし、それは言えない。言ったら、僕が殺される。それは……嫌だった。

 

霧「随分意味深な事を言うのね。さっきもそうだけど……」

 

モ『熱い友情で傷心に浸っているところさ、そろそろおしおき開始したいんだけど? みんな待ってるんだしさ』

 

霧「あなたの言う()()()って、一体誰のことを指してるの?」

 

モ「うぷぷ。さあね。そこからはシークレットゾーンだから言えないなぁ。まあ、

何人かの反逆者を除いてはだけどね! ショートケーキを最後に残すように、楽しみは最後に取らなくちゃ! ぶっひゃひゃっひゃひゃ!」

 

 そんな笑い声を残して、姿を消した。

 悪夢のようなリアルを置いていって……

 

 

 

 

 

 

 




 モノクマから開放された後も、僕らはその場から動けずにいた。
 誰一人、動く事が怖かった。
 一人になる事が、怖かった。
 その後、誰かが戻ろうと言い出し、一人一人減っていった。
 最後に残ったのは、江ノ島さんだった。

江「……何だろう……この気持ちは」

 僕に対して言ったのか、自分に対して問うたのかは分からない。僕はただ、聞くだけだった。

江「私、こんな虚しい気持ちを持ったの……初めてなのかもしれない……」

 ミリタリーオタクの彼女は、そんな事を呟いた。
 オタクは、その時その時は本当に楽しいけど、いざ現実に戻ると凄く虚しいくなる時がある。学校で話し友達ができた時は、何故だか趣味だけで生きるより、ずっと楽しかった。
 趣味は良い。だけど、極めすぎた趣味は虚しい。
 一人が、寂しいのかもしれない。
 独りは別に嫌じゃない。孤立は、嫌だ。
 そんな思いが、あるのかもしれない。今の彼女の、戦刃むくろには。

江「……あたしも帰るわ……」

 そう言って、江ノ島さんも出て行った。
 独り残される僕。孤立になった僕。

守「絶対に……絶対に……! 絶対にお前をぶっ倒すかんなぁッ!!」

 そんな虚しい叫び声を上げて、僕も裁判所から出て行った。

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