河上守:
犯人を決める前に、ちゃんと犯行をまとめておこう。
僕らは、知らないといけない。
苗木誠:
そういえば、まだいくつか分かってない事もあるよね?
例えば、桑田君の服に付いた血とか。
葉隠康比呂:
『桑田っちの服を脱がせた』んだろ?
そんぐらい分かるべ。
河上守:
それは違うで!
……てかバカなんか、お前は……
脱がせてるわけないやろ……
葉隠康比呂:
え、そうなんか……?
石丸清多夏:
くくっ……
河上守:
……どうしたんや、石丸。
石丸清多夏:
いや、一連の動作に、不謹慎ながら少し笑ってしまった……
すまない。こういう立場なんだがな……
河上守:
……それじゃ、分かってない所も含めて、犯行をまとめるで。
ランドリーで事件が起きる前に、葉隠が9時に洗濯しに入ってきた。
そして9時半に桑田も同じく洗濯しにきたんや。
その時に、桑田は葉隠に占ってもらい、その結果を聞いて怒ったんや。
それに切れた葉隠はさっさと部屋を出て行ったそうや。
いつの時点で出て行ったかはわからんけど、
9時45分までには出て行ったはずや。
桑田はランドリーで一人になったところを、犯人は洗濯しにやってきた。
そして犯人はその数分後、桑田を思いっきり殴ったんや。
その拍子に、桑田は洗濯機に頭をぶつけて死んだ……
やけど、桑田の倒れた場所は自分の洗濯物が入った場所やった。
犯人は慌てて桑田を隣の洗濯機に動かした。そん時に引きずった跡ができたんやな。
その時、手に血が付いてもうたんやないか?
咄嗟に開けてはまずいと思って、何かで拭こうとした。
それであの洗濯機を何らかの手を使って開けたんや。
推測やけど、桑田のシャツの色は赤かったからな。
それで誤魔化せる思ったんやろ。
そした拭いた後は、偽装工作に取り掛かった。
正直、意味のない偽装やったけどな。
そして洗濯機の中の制服を取り出して、自分の部屋に戻った。
やけどその途中、江ノ島さんに目撃され、決定的な証拠となってしまたんや……
こっからは完全に推測になるんやけど……
部屋に戻ると、洗濯した制服はとりあえず乾かそうとしたんやろ。
自分の着ている制服に血が付いていて、洗っても血はとれんかったんやと思う。
そして仕方なく洗濯した制服を絞って乾かして、何とか着るまでにしたんやと思う。
これが正しいかどうかわからん。
不明な点がわからん以上、それをお前から聞くしかないんや、石丸。
石丸清多夏:
……最後の推測も、偽装工作も全てが正解だ。
しかも、偽装工作の意味の無さまで見極めるとは、お見事だ。
凄いな君は! 実は超能力者ではないのか?
河上守:
…………それで、洗濯機はどうやって開けたんや?
石丸清多夏:
なぁに。別に聞かなくても良いのではないか?
まあ実際、普通に開けて、血の付いた取っ手は桑田君の服で拭いただけだ。
河上守:
……なんで、殺したんや……?
石丸清多夏:
その前に犯人を断定せねばならない。
投票タイム、だったな。いつ始まるかわからんが……
モノクマ:
はーい! 今から始めますよ!
では皆さん! お手元のボタンを押して、クロを決めてくださいね!
投票の結果、誰がクロになるのか!?
その答えは正解なのか……はたまた不正解なのか!
それでは、張り切っていきましょーーッ!
犯人は、石丸清多夏だった。
学級裁判 閉廷
モ「大正解! 桑田君を殺したのは……絶対遵守風紀委員で有名な、石丸清多夏君でしたぁ!」
石「…………」
彼の表情は、一見無表情に見えたが……歯をかみ締めていた。
江「何でアンタが殺したのよ……一番、ありえないじゃん……」
霧「貴方の動機は……なんだったの?」
石「……簡単な理由さ。キレたから殴った。それだけだ」
最近の若者はすぐ切れる。そんな言葉を、ふと思い出した。
石「僕は、彼の不遜な態度に激怒した。あの自信たっぷりと、俺は天才だという不遜な態度に……殺してしまった……」
守「そ、そんな単純な理由で……?」
石「単純さ。僕は驚いている。現に、何故僕はここまで冷静なのかさえ驚いている」
霧「……プレッシャー、じゃないかしら」
石「プレッシャー?」
霧「貴方を観察してる時、使命感に突き動かされている感じだったわ。僕が中心に立たないと風紀が乱れる……そして殺したことによって、プレッシャーがなくなった。違うかしら?」
石「……確かにそうかもしれん。僕は、何も考えずに、ただただ皆が一致団結できるよう考えて動いていた。そして僕は……そうだな。それが……人を殺すという事が、プレッシャーの権化だったのかもしれない」
守「プレッシャーの……権化?」
石「僕は、みなの悲哀、恐怖、絶望に苛まれる姿を見るのが辛くて……そして、何も出来ない自分の姿を見ると、心底絶望していた。僕はもう、嫌だった。死んでしまいたかった。
そんな時に、僕は桑田君とランドリーで偶然会い、彼の発言が、彼の不遜な態度が、彼の嫌味ったらしい言葉が、僕の怒りが、有頂天に昇った様だった。僕は無意識の内に、風紀委員として有るまじき行為といえる、暴力に手を染めてしまった。挙句に、犯罪にまで染めたんだ。風紀委員として……一個人として、人としてやってはいけない行為なのに……僕は、桑田君を殺してしまった。
その時、ふと、本当にふと、無意識に思ってしまったんだ。
死にたくない、と。
おこがましいにも程があるが、僕は一心不乱に偽装工作、そして僕が犯人で無いという証拠と証拠隠滅を図った。しかし、それは失敗に終わった……」
僕は耐え切れなかった。石丸の、その気持ちに、僕は泣きそうになった。犯罪に手を染めた奴に、悲しんでしまった。
僕は……なんで泣いたんだろう?
石「……後悔している。本当に……なんで僕は……どうして……
…………どうしたのだ、河上君……」
僕は、石丸の横に立っていた。実際に横に立つと、身長差がかなり激しかったが、僕は精一杯、手を伸ばした。
石「──どっひゃっひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
紋「な、なんだぁ!?」
葉「ちょ、何やってんだ河上っち!」
石「や、やめてくれぇ! ひ、ひぃぃぃぃいいッ!!」
石丸は、笑っていた。ただ、笑っていただけだけど。
僕はもう数秒続けて、ようやく手を止めた。
石「ハァ……ハァ……」
石丸は疲れたように膝に手をついていた。
守「どうや? 笑ったか?」
石「……どうせ、こんなのでは寿命は延びないのだろ?」
そう言う石丸だった。微笑を浮かべながら。
守「伸びたで。少なくとも、このやり取りの少しの間だけ……」
石「はは……そうだな」
僕らは、何となく笑っていた。不思議な気持ちだった。
僕と石丸は、こんな学園生活ではなかったら、友達になれたかもしれない、とふと、本当にふと、無意識に思った。
石「……守君。ありがとう」
守「……ああ。清ちゃん……」
石「はは……あだ名なんて、久しぶりだな……」
モ「熱い友情で傷心に浸っているところさ、そろそろおしおき開始したいんだけど? みんな待ってるんだしさ」
その言葉を機に、石丸は目から
石「はぁあ……死にたく……ないなぁ……」
モ「風紀委員である君が、秩序を乱したのに命乞いなの?」
石「…………っ」
モ「というわけで……今回は超高校級の風紀委員である石丸清多夏君の為に、スペシャルなおしおきを用意させて頂きましたっ!」
モノクマは残酷な無残な、処刑開始宣言をした。
石「くっ……くっそぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
モ「それでは、張り切っていきましょうっ! おしおきターイム!」
そうするとモノクマは、自身の後ろから木槌を取り出して、怪しげなボタンをそれで叩く。
『イシマルくんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。』
清ちゃんはどこかへ連れ去られた後、僕らは裁判所にあるモニターでの映像を見る事になった。
こんなの、見たくなかった。しかし、彼の最期を見ないと、彼の為にならない。そう言い聞かせながら、僕はモニターを見ていた。
そこに映し出されたのは、大勢の人、と
そして選挙カーがやってくると、台の上に清ちゃんが立っていた。
その顔は笑顔で手を振っていたが、とても笑っているようには思えなかった。
そして突然『石丸清多夏首相就任パレード』のプラカードが画面全体を覆った。
すぐにそれは離れて、選挙カーが前に、ゆっくりと進んでいく。
ゆっくりと。ゆっくりと。ゆっくりと。
その時、石丸の顔がドアップで写され、顔の周りに円と円の中に十字が書いてある、まるでロックオンでもされたかのような感じだった。
そして突然画面は真っ黒に染まり、少しずつカメラが離れていくと、選挙カーを背景にモノクマが銃を片手に横を向くと、タバコを
モ「いえぇぇい! さいっこうにクールだぜぇぇぇ!!」
その凄惨な映像は消え、僕は無気力になっていた。
これが、絶望。これを絶望と言わずとして、何が絶望と言えようか。
山「あわ……あわわわわ……」
千「もう……嫌だよ……」
腐「なななな、なんなのよぉ……」
千「こんな事をまだ続けるなんて……もう嫌だよ……!!」
モ「それが嫌ならさ……外との関係を完全に打ち切って、ここでの一生の生活にを受け入れることだよ。それが、オマエラに出来るかどうかは、話は別だけどね……うぷぷ……うぷぷぷぷぷ! ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
どんな薄気味悪い声が響き渡る。
永遠の地獄へ、奈落の底へ突き落としても、そんな笑い声が聞こえそうだった。
紋「テメェの目的は何なんだ……!」
モ「ちょっと。そんな中二病みたいなこと言わないでよ。ボクは君達を思って絶望を分け与えているだけだよ」
山「言っている事が、異質ですな……」
モ「あー! ボク傷ついちゃうよ? 傷ついちゃったよ? あーあ。ヘコむなー」
守「どの口が言うんや……!」
モ「大体さ。石丸君が桑田君を殺した原因って、君達のせいでしょ?」
守「……は?」
モ「石丸君、どんだけ傷ついただろうねー。何をしても誰かに否定されて……しかもさ、君達が出たいなんて思わなければ、石丸君もあそこまで傷つかずに済んだんじゃないの? だったらオマエラが悪いジャン! ジャン!」
腐「あ、あんたが悪いんでしょ! こ、こんな……訳分からない所に閉じ込めて……」
モ「ふーん。
『ここで一生暮らせるなんて幸せだ』ってね!」
僕は歯をかみ締めていた。もし、ここで言えれば、何かが変わるかもしれないのに。しかし、それは言えない。言ったら、僕が殺される。それは……嫌だった。
霧「随分意味深な事を言うのね。さっきもそうだけど……」
モ『熱い友情で傷心に浸っているところさ、そろそろおしおき開始したいんだけど? みんな待ってるんだしさ』
霧「あなたの言う
モ「うぷぷ。さあね。そこからはシークレットゾーンだから言えないなぁ。まあ、
何人かの反逆者を除いてはだけどね! ショートケーキを最後に残すように、楽しみは最後に取らなくちゃ! ぶっひゃひゃっひゃひゃ!」
そんな笑い声を残して、姿を消した。
悪夢のようなリアルを置いていって……
モノクマから開放された後も、僕らはその場から動けずにいた。
誰一人、動く事が怖かった。
一人になる事が、怖かった。
その後、誰かが戻ろうと言い出し、一人一人減っていった。
最後に残ったのは、江ノ島さんだった。
江「……何だろう……この気持ちは」
僕に対して言ったのか、自分に対して問うたのかは分からない。僕はただ、聞くだけだった。
江「私、こんな虚しい気持ちを持ったの……初めてなのかもしれない……」
ミリタリーオタクの彼女は、そんな事を呟いた。
オタクは、その時その時は本当に楽しいけど、いざ現実に戻ると凄く虚しいくなる時がある。学校で話し友達ができた時は、何故だか趣味だけで生きるより、ずっと楽しかった。
趣味は良い。だけど、極めすぎた趣味は虚しい。
一人が、寂しいのかもしれない。
独りは別に嫌じゃない。孤立は、嫌だ。
そんな思いが、あるのかもしれない。今の彼女の、戦刃むくろには。
江「……あたしも帰るわ……」
そう言って、江ノ島さんも出て行った。
独り残される僕。孤立になった僕。
守「絶対に……絶対に……! 絶対にお前をぶっ倒すかんなぁッ!!」
そんな虚しい叫び声を上げて、僕も裁判所から出て行った。