僕は、放送の指示通り、赤い扉の前までやってきていた。
「…………」
不気味に佇む、禍々しい真紅の扉。雰囲気からして、あまり良い印象は受けない。そんな扉だ。
この扉を抜けたら、学級裁判が始まる。もう、引き返せる状況ではない。ここを進まないと、話が、進まなくなって、終わってしまう。
それだけは、避けなければならない。僕は、ここで終わったらダメなんだ!
熱意の決意を胸に、僕は扉を開ける。
☆
僕らはエレベーターに長い時間揺られていた。
その時間、僕は舞園さんを何度も見ていた。今回の犯人も、やはり舞園さんなのだろうか。今までの状況から考えるに、十分あり得るだろう。
しかし、それを確定するのはここではない。学級裁判だ。
学級裁判で、結論付ける!
学級裁判 開廷!
モノクマ:
まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう!
学級裁判の結果は、オマエラの投票によって決定されます。
正しいクロを指摘できれば、クロだけがおしおき。
だけど……クロではなく、クロ以外の人物を間違って指摘した場合……
クロ以外の全員がおきおきされ、
皆を欺いたクロだけが晴れて卒業となりまーす!
苗木誠:
本当に……この中に犯人はいるんだよな。
モノクマ:
当然です!
葉隠康比呂:
じゃあどうやって犯人を特定するんだよ?
モノクマ:
それを君達が議論し合うんだよ。
霧切響子:
……ちょっと良い?
モノクマ:
はい、なんでしょう?
霧切響子:
あれは……どういう意味?
河上守:
(霧切さんが指差したのは、
一つの席だけ、遺影みたいに桑田の写真が置いてあった。)
モノクマ:
死んだからって、仲間はずれは可哀想でしょ?
友情は、生死を飛び越えるんだよ!
山田一二三:
せいしが……飛び……超える!?
河上守:
下ネタをいきなり爆裂さすな!
江ノ島盾子:
てか、もうグダグダじゃね?
不二咲千尋:
はは……
モノクマ:
前置きはそれぐらいにして、そろそろ議論を始めよっか!
まずは、事件のまとめからだね!
それじゃ、始めてくださーい!
河上守:
(とうとう学級裁判が始まってまう……
皆の救う手段は、もうこれしか残されていない
何が何でも、絶対に犯人を暴いてみせる!)
朝日奈葵:
事件のまとめからって言われても、どうすればいいんだろう……
山田一二三;
そもそも、我々にはこういう経験は薄いですからなぁ……
何から始めればいいのか……
葉隠康比呂:
犯行に使われた凶器は何かを確認するとか……?
石丸清多夏:
あそこで使われていた凶器と言えばなんだ?
大和田紋土:
凶器なんて、あの『倒れていた椅子』だろうよ。
実際に脚に血が付いていたしよ。
河上守;
それは違うで!
大和田紋土:
は?
河上守:
モノクマファイルによれば、桑田は洗濯機に強打し即死って書いてあったやん。
だから椅子を使ったとは思えんねん。
大方、偽装工作やろうと思うけど……
大和田紋土;
……まんまと犯人に騙されたな……
十神白夜:
そんなもの、すぐ考えれば分かる事だ。
お前の小さな脳味噌では理解できなかったようだがな……
大和田紋土;
んだとゴルァ!!
大神さくら:
お主らはどこまで喧嘩をすれば気が済むのだ……
朝日奈葵:
じゃ、じゃあさ……あの右頬の殴られた痕ってなんなの?
苗木誠:
……桑田君は、右半身が洗濯機に寄り添っているように倒れてたんだ。
右頬を殴られた後、そういう風に倒れてしまったんだと思う。
山田一二三:
ふむ……まさにそこで喧嘩が起きたのかもしれませんな。
大神さくら:
しかし、右頬以外に傷と言う傷はなかったな……
葉隠康比呂:
それじゃ、犯人は男だべ!
犯人が思いっきり殴って洗濯機にぶつけるなんて、男しかできないべ!
十神白夜:
果たしてそうか?
葉隠康比呂:
え? 一発でしとめるなんて、女子に出来ると思えんけど……
十神白夜:
女でも出来る可能性の奴は多い。
例えば大神、朝日奈とかの可能性もある。
朝日奈葵:
ちょ、私たちを疑う気!?
十神白夜:
俺が言いたいのは、例えひ弱そうな身体に見えても、
実はそれなりの筋力があると言っているんだ。
そうだろう? 舞園さやか。
舞園さやか:
……え?
葉隠康比呂:
ちょ…………そうなのか……?
十神白夜:
超高校級のアイドル。アイドルは体力がかなり必要な仕事だ。
アイドルをする為に、ずっと前から鍛えていてもおかしくはない。
怠慢はすぐに堕落するというのが芸能界だからな。
舞園さやか:
わ、私は犯人じゃありません!
十神白夜:
では、お前は何故桑田を呼び出したんだ?
舞園さやか:
…………
十神白夜:
桑田のポケットから、お前の名前が記されたメモが出てきた。
そこには念入りにお前の部屋に来て欲しい事と、その時間が書かれていた。
呼び出し時刻は11時と書いていた。桑田が殺されたのは10時だが、
ランドリーで桑田を見つけた時に、いや、逆か。
桑田に見つかってしまったから予定を早めようとしたのだろう。
桑田は軽薄な奴だ。お前が色目を使って寄りかかれば簡単に殺せる。
犯人はお前だ、舞園さやか!
舞園さやか:
色目なんて使ってません! 『私は自分の部屋』にいました!
そんなこと、出来るわけないじゃないですか!
苗木誠:
……っ!
河上守:
それは違うで!
舞園さやか:
え……?
河上守:
実は、誠ちゃんと舞園さんの部屋のプレートが逆やったんや。
これは、二人が部屋を交換したってことやないんか?
舞園さやか:
…………ち、違います!
交換なんて……してません……
セレスティア:
……えらくこじ付けな考えですが、苗木君、そうですの??
苗木誠:
…………交換したよ……
山田一二三:
なんと羨ましい!
江ノ島盾子:
アンタは黙ってなさい!
苗木誠:
でも、舞園さんが犯人じゃないよ。
河上守:
え……?
苗木誠:
だって、舞園さんと部屋を交換したのは、10時になる直前だったから。
河上守:
そうか…………交換したばっかやのにランドリーに直行はおかしいし、
大体殺すとしたら、誠ちゃんの部屋で殺す筈や。罪を擦り付けるには打って付けやし……
朝日奈葵:
ちょ、何言ってるのさ河上!
セレスティア:
確かに、筋は通ってますわね。
朝日奈葵:
セレスちゃんまで! そんな筈あるわけ──
セレスティア:
では何故舞園さんは部屋を交換したのでしょうか。
そして桑田君を自らの部屋に呼び出し、挙句にプレートまで交換していた。
これでは、殺人をする為のアリバイ作りとしか思えませんわ。
舞園さやか:
…………
十神白夜:
しかし、そのアリバイ工作は失敗したと言うわけか。
だが、そのアリバイを行った上で、ランドリーに向かい、殺した可能性もある。
舞園さやか:
だ、だから私は何もしていませんって!
十神白夜:
しかし、舞園の姿を誰も見ていないのだろ?
その時に殺った可能性もある。
舞園さやか:
そんな……
葉隠康比呂:
ということは、舞園がそのアイドル時代の有り余る筋力で『殴って殺した』んだべ!
苗木誠:
それは違うよ!
葉隠康比呂:
な、なんで?
苗木誠:
舞園さんは、厨房から包丁を持ってきていた筈だ。
葉隠康比呂:
ほ、包丁!?
苗木誠:
そうだよね、朝日奈さん。
朝日奈葵:
あ、うん……舞園ちゃんが厨房に来た時に、始め見た時は包丁は揃ってたんだけど、
舞園ちゃんが帰ったら、もう包丁は無くなってて……
十神白夜:
ならば、動機は確実にあったと言う訳だな……
苗木誠:
でもさ……舞園さんは何で包丁なんか持ち出したんだと思う?
葉隠康比呂:
殺すためなんじゃないのか?
苗木誠:
確かに、舞園さんは桑田君を殺そうとしたかもしれない。
でも、そもそも舞園さんが腕力だけで殺せるなんて最初から思っていなかった。
だから、舞園さんは包丁を持ち出して、僕と部屋を交換して殺そうと企てた。
舞園さやか:
…………
河上守:
せやろな。
そもそも今まで作ったアリバイがいきなり予定変更にするなんて横暴、
してもうたら、その時点で簡単にバレてまう。
そもそも舞園さんが、ランドリーに行ったと言う可能性はなんて薄いし……
山田一二三:
ということは、舞園さやか殿は犯人ではないですな!
十神白夜:
ならば俺が間違えたということだな。
後はお前らに任せる。
河上守:
(……何だか十神のやつ、えらくアッサリやな……
このダンガンロンパじゃ、十神は優しいんか……?)
モノクマ:
まーだー? ボクもう疲れたよ……
江ノ島盾子:
まだ始めたばっかでしょうが……
朝日奈葵:
……そういえばさ、ランドリーの中って……どうなってたの?
私、怖くてとても入れなかったから……
江ノ島盾子:
そういえば、洗濯機に何か入ってたよね?
山田一二三:
それは、女性用の洗濯物とかですかな……?
江ノ島盾子:
今すぐ通報できればいいんだど……
セレスティア:
それで、洗濯機に入っていた物とは一体?
江ノ島盾子:
確か……血の付いたシャツが入ってたかな……
石丸清多夏:
血だと……!?
江ノ島盾子:
何でそこに血があったか分からなかったけどさ。
ああ、後もう一つあったかも……
確か……タンクトップに短パンに……あ、そういや腹巻もあったわよ。
山田一二三:
は、腹巻?
葉隠康比呂:
あー! すっかり忘れてたべ!
朝日奈葵:
ちょ、いきなり叫ばないでよっ!
葉隠康比呂:
ああ、すまんべ……っじゃなくって!
それ俺んだべ! そういえば持ち帰るのすっかり忘れてたべ!
セレスティア:
……それは、どういう意味の持った発言なのでしょうか?
葉隠康比呂:
え、だから桑田っちと喧嘩した時に忘れた俺の洗濯物だって……あ。
山田一二三:
……ボロが出てしまいましたな。
葉隠康比呂:
え、いや、あの──
石丸清多夏:
君だったのか! 桑田君を殺した犯人は!
葉隠康比呂:
いや、だから違うって──
腐川冬子:
いつかやると思ってたわ……
葉隠康比呂:
お、お前に言われたくないべ!
腐川冬子:
……!?
苗木誠:
本当なの? 本当に……葉隠君が殺したの……?
葉隠康比呂:
た、確かに俺は桑田っちと喧嘩したけど、俺は犯人じゃないべ!
セレスティア:
信用性に欠けますわね。
葉隠康比呂:
本当だ! 嘘じゃない! お願いだから信じてくれ!
十神白夜:
犯人ほどよく吼える、とは言ったものだがな。
葉隠康比呂:
違うって…………なんで、そうなるんだよぉ!
次回へ続く!