誠ちゃんが言っていた殺人の現場は、ランドリーと言っていた。誠ちゃんは他の人も呼びに行くということですぐさま退室した。
僕もすぐに現場に向かいたかったが、腕の怪我の痛みで立ち上がることさえままならなかった。戦刃さんに手伝ってもらって何とか立てたが、その後も走れた訳じゃなかったので、手に負担を掛けないように骨折する時のように首から包帯で吊るしてゆっくり歩いた。その時も戦刃さんは傍にいてくれて、少し心強かった。
その途中で、モノクマの死体発見コールがなったが、その時気にする余裕はなかった。
僕らがエントランスへ着いた時には、石丸、セレスさん、千尋ちゃん、舞園さん、山田、葉隠、がいた。
セ「とうとう、起きてしまいましたわね」
山「はわわぁ……っ!」
舞「ど、どうして……」
石「何でこうなるんだ……!」
千「うぅぅ……」
葉「こ、これはきっと夢だべ……そうに違いないべ! という訳で、俺は寝る!」
葉隠はそのまま寄宿舎の方へ向かった。
セ「……この状況下、へまをすれば自分に矛先が向いてしまう。あまり下手な手を打たないのが定石と言うものです」
セレスさんは葉隠を眺めながらそう言った。
守「……学級裁判か……」
嫌になってきた。何で、こんな事になるんだ……皆を、全員を生還させると誓ったのに……どうしてこんな惨い状況になるんだ……
僕は、これから皆と学級裁判を行うことになる。
セ「何故、知っているのですか?」
守「え……」
あ、やばい。早速下手を打ってしまった。
どうする……変に繕うと、僕が反逆者と思われかねない。それだけは絶対に避けたい。
江「アタシが教えたのよ。起きた時にね」
そうすると、戦刃さん──江ノ島さんがそんな事を言った。
その時、横目で江ノ島さんと目が合うが、すぐに離れる。
セ「そうですか……わかりました」
そういって納得したのか、セレスさんはここから立ち去った。
江「(後でちゃんと説明するから大丈夫よ)」
守「(ありがと)」
後で学級裁判のルールを教えてくれる約束をした。一様、知ってるっちゃ、知ってるけど。
守「ここに……桑田がいるんやな」
山「は、はい……」
舞「…………」
舞園さんは、とても悔しそうな顔をしていた。同時に、泣きそうにもなっていた。それを何を意味するかは、僕には今一わからなかったけど……
なんだか、全員の表情は暗い。当たり前だと言えばそれまでだけど、しかし、今までに見せたことのない、絶望したような表情だった。
そんな皆の様子を見て、僕は何も考えず、ただ現実を見るだけだと自分に言い聞かせ、ランドリーに入っていった。
そこに居たのは──
さ「……河上か」
始めに大神さんが声を掛けてくれた。
十「ふん。お前はまだ死んでいなかったのか……」
紋「おいコラァ……よくお前平然とそんな事を──」
さ「よさぬか。今は争う時ではない」
紋「……あーってるよ……」
そういうと、大和田は十神から一歩引く。
霧「……腕の調子はどう?」
守「うん、静かに動けば痛みはないな」
本来、こんな状態になったら動けないほど酷い事になるかもしれないけど、でも、最新技術を行使したらしい悪名医者の腕に自身はある、とは戦刃むくろ談。
十「世間話をしている場合ではない。俺達の命が関わっているんだぞ」
江「い、いーじゃんか別に……っ!」
十神が突然場所を移動すると、そこには桑田の死体があった。丁度皆の身体で隠れていたので、大和田、霧切さんの間に桑田が倒れていた。
守「…………っ!」
本当に死んでしまったという事実に、僕は驚いた。いや、さっきから驚きっぱなしだけど、僕は死体を見て、その現実を受け入れてしまった。
桑田怜恩は死んだ。
そんな単純なリアル。
十「これでわかったか」
江「……ええ」
僕は色々なことを、思い出した。桑田の想っていた思いを。
僕は桑田の前に近づいた。
守「……くそっ……」
小さな声で、噛み締めて、悔しくて、悲しくて、そう言った。
守「……霧切さん。何か分かったことってあるんか?」
霧「……『モノクマファイル』に書かれているのは、死亡時刻は10時頃。右頬に殴られた痕があり、頭部を洗濯機に強打し、脳の損傷により即死、だそうよ」
守「……即死か」
抵抗の余地は、なかったのかもしれない。それでも、生きていてほしかった。軽薄な彼でも、死んで欲しくなかった。
十「主な外傷はそれだけだった。他はまだ調べている途中だ」
守「そうか……」
僕は洗濯機をゆっくりと見渡す。そして、あることに気付いた。
守「……何か洗濯機の中に入ってる」
十「……確認するぞ」
そういうと、僕が見ていた方向に十神が向かうと、二つの洗濯機を開けた。
十「……洗濯物だな。別々に洗濯しているに思えるが……」
少し思案している様子だった。
十「……このシャツは桑田のかもしれんな……」
そう言って片方の洗濯機からシャツを取り出す。
シャツには、赤い刺繍だけでなく、『血も着いていた』。
十「…………血でも拭いたのか……」
物言わぬ顔で、平然と、マジマジと見ていた。
その次に、隣の洗濯機からも洗濯物を取り出す。
十「これは……腹巻だな。そしてタンクトップや短パン……葉隠ので間違いなさそうだな」
どうしてそんな物が洗濯機にあるんだ? もしかして、犯人は葉隠の線もあるのか?
そんな疑問をよそに、十神は話を進める。
十「葉隠に話を聞かなければならないな……何をしている霧切」
霧切さんに目線を向けて話していると、僕も同じくそっちに視線を向けると、霧切さんは、死体を整然と、慎重に調べていた。
霧「死体を調べているのよ」
十「……気持ち悪いぞ」
確かに、それはとても理解できることではあった。僕なら平静ではいられないだろう。
霧「……? 何かしら、これ」
霧切さんは、桑田のズボンのポケットから紙切れを取り出す。少し、血で濡れていた。
霧「……『舞園さやかのメモ』ね、これ」
十「なに?」
霧「…………どうやら桑田君は、舞園さんから呼び出しを受けていたみたいね。呼び出し『時刻は11時』ね」
十「ふっ……なにやら面白くなってきたじゃないか……」
紋「どういう意味だコラァ!!」
さ「やめんか!」
そんな光景を見ている。しかし、わかっていなかった。
どうして……舞園さんのメモがあるんだ……?
ゲームでも殺人を犯そうとしたのは舞園さんだった。でも、結局は失敗に終わり、桑田君に殺された。今回はその成功ルートなのか?
そんな傍ら、霧切さんは桑田の死体と洗濯機を交互に見ていた。
霧「……『引きずったような跡』があるわね」
状況というと、桑田が倒れている洗濯機と、その左の洗濯機には、血が横に動いたような跡があった。それに、桑田が倒れている所の地の量と、左の洗濯機の血の量が、遥かに『左の洗濯機の方が血が大量』にあった。
紋「一体誰がこんなことできんだよ……」
守「どういうことや?」
紋「こんな大量な血、頭を打っただけで出るわけねぇだろ……」
十「人間の頭部は血流が良いからな。ナイフで軽く切れば、結構な血が出る。恐らく少しの間放置されていたが為に、ここまでの量の血が溢れたか……それか頭を何度も叩きつけられたのかもしれん」
紋「ま、マジかよ……」
質問の答えを言った十神は平然と、質問の答えを聞いた大和田は戦慄していた。
僕は他にも何かないかと調べていたら、倒れていた椅子が少し気になった。
……椅子の脚の側面に、血が着いてる。どうやらそこだけらしいけど、どういうことなんだ?
他にも、机の上の雑誌も開かれている状態で仰向けにされていた。なにやら表紙が少し赤い何かがついていた。恐らく血だとは思うけど、一体なんでだろうか……?
霧「私は他を探すわ」
そういうと、霧切さんはランドリーから出て行った。僕もこれ以上ここに居たくなかったので、さっさと退室した。
僕は何をすれば言いか今一わからなかった。なので、ゲーム内で誠ちゃんは何をしていたか考えてみる。
……そういえば、誠ちゃんは基本事情聴取していた。それが一番手っ取り早い策なのかもしれない。
とりあえず、まだエントランスにいた山田に話を聞いてみる。
守「なあ山田。お前が犯人か?」
山「唐突に何をおっしゃりまするかぁ!?」
あ、こういう質問の仕方はダメなのか……
守「うーん……あっ! そうそう。山田は犯行が起きる前何をしてたんや?」
山「まるで何事も無かったの如し訊いてきますなぁ……まあいいでしょう。僕は別に何もしませんからね!」
踏ん反り返ってそう言った
山「実はですね……僕は『9時半ごろに、桑田怜恩殿がランドリーに入る姿を目撃』したのです」
守「え、そうなんか?」
山「ええ。食堂へコーラを取りにいっていました」
守「え……そうなんか……?」
山「……三点リーダーを入れるだけで、言葉のニュアンスはここまで変わるのか!」
何か訳の分からないことを叫ぶ山田。
山「それよりも……実はそれ以前にも他の誰かが入って行くのを見ましたな」
守「え、それって……?」
山「葉隠康比呂殿です。9時ごろでしたかな……洗濯物を持ちながら、ランドリーに入る姿を見ました」
葉隠が9時ごろに……? 確かランドリーの洗濯が終わる時間は、45分ぐらいだった筈だ。
9時に向かった葉隠が、9時半に行った桑田と出くわしている可能性は格段に高い。後で何があったか葉隠に聞いてみる必要がありそうだ。
守「それで、その9時ごろ、山田は食堂で何をしてたんや?」
山「もはや決め付け!? そこまで分かっているのならば分かるでしょうに!」
守「……二杯も飲んだか……」
山「…………何だか、申し訳ないの至りでござる……」
山田は落ち込んだ。
仕方ない。他の人には当たるか。次は千尋ちゃんに訊いてみるか。
守「千尋ちゃんは、何か知ってることとかあるか?」
千「……ごめん……その時部屋にいたからわからなくて……」
千尋ちゃんは、少し潤んだ目をしていた。
守「わわ! ごめん! そういうことやないんや! ほ、ほら! 事件でよくある事情聴取ってやつや!」
僕は色々繕うために言い訳を言いながら考えたが、千尋ちゃんはそうじゃない、と言った。
千「違うんだ……何にも役にも立てない自分が……情けなくて……」
守「……そうか……」
千尋ちゃんは、あるコンプレックスを抱えている。ただ、今話すべきではないので、何も説明しないけど、千尋ちゃんは、そのコンプレックスで、色んな事に傷ついてきた。その事情は僕は知らない。知るわけもない。
僕も、コンプレックスみたいなのはあるから、気持ちは分かる。だけど、今は傷心に浸っている場合じゃない。
守「ま、今は落ち込む事やない。落ち込むのは、学級裁判の後か、僕の胸で泣いて構わん!」
千「……ふふ」
可愛らしい顔で微笑んだ千尋ちゃん。……マジ天使。
千「ありがと……少し勇気が湧いたよ」
守「ああ。それでええ」
千「でも、今気付いたけど、いつの間にか僕のこと、凄くナチュラルに名前を呼んでたね」
守「……好きだ! 付き合ってくれ!」
千「ええ!? どういうこと!?」
守「冗談や。ただ何となく、そう呼びたくなったんや」
千「そうなんだ……じゃあ今の付き合ってくれって──」
守「よし千尋ちゃん。僕は事情聴取があるから、また後でな」
千「え、ちょっと待って! 僕も河上君に事情聴取したいことがあるのに!」
そんな千尋ちゃんを傍目に、僕は次の人に事情聴取をすることにした。
石「…………」
石丸に訊こうと思ったけど、かなり落ち込んでいた。殺人が起きたことに、相当ショックを受けたみたいだった。
石「あ、すまない。少し自分の世界に入っていた」
僕に気付いたのか、石丸が僕に話しかける
守「犯行が起きる前、何をやっていたか訊きたいんやけど……」
石「……うむ。僕は個室にいたぞ」
守「うーん……石丸も個室か……」
石「すまない……力に出来なくて……」
石丸はいつも以上に悔しそうに言っていた。相当傷ついたことが窺えた。
そして僕はふと石丸の制服に目が行った。
守「なんや石丸の服、えらく
石「え? ああ。実は先ほど、制服に大量に水を零してしまって……風呂で絞っていたんだ」
石丸はドジっ子だったことが判明した。
守「なんやそれ、おもろいなぁ!」
僕は笑いを堪え、いや、引き笑いになったが、それでも堪えるよう頑張った。
石「な、何がおかしい!」
守「あー、すまんすまん。あー、笑った笑った。大分元気出たわ。恐らく半世紀分取り戻したで」
石「…………」
石丸は唖然としていた。不思議がっていた。
石「……笑うと、元気になるのか?」
守「まあ、せやな。気持ちは楽になるな。実際、一秒笑えば寿命が結構伸びるって言うぐらいやし」
石「そうなのか……僕も笑ったら変わ──ひゃっははははは!!」
そういうと石丸はめがっさ笑っていた。なぜならば──
石「ひぃいいい! や、やめてくれ……っ! 河上君……っ! はっはははは!」
守「ほれほれほれー!」
僕は石丸の脇をこちょこちょしていたのだった。
僕は石丸は大いに笑っていた。その表情は、とても笑っていた。笑っていただけだったけど。
僕はすぐにくすぐるのをやめた。石丸は、なにやら息切れをしていたが。
石「こ……これで……寿命を、延ばせるのか……?」
守「アホか。こんなんじゃ伸ばせるわけないやん」
石「だ、騙したなぁ!」
守「へっへーい! 笑えば寿命を延ばすのは本当やから、騙してないもんなー!」
石「くっ! 言い返せないではないか!!」
そんな他愛もない会話をしていた。……いや、すんなよ。事情聴取しろよ。
守「くそ……石丸のせいで無駄な時間を……」
石「ぼ、僕のせいなのか、それは?」
守「まあええか。石丸も笑ったことやし、これで満足や」
石「…………とことん嘘つきだな、河上君は」
石丸は、さっきまでの硬い表情とは違い、微笑を浮かべていた。
守「せやな。ならばミステリー少年と、呼んでもらいたいな」
石丸は首を傾げた。よく分かっていなかったようだ。
僕はそこで会話を切り上げて、最後にエントランスにいた舞園さんに話しかける。
舞「…………」
舞園さやか。ダンガンロンパ本編で、最初の被害者にして、事件の加害者である人物。
桑田の懐には、一枚のメモが入っていた。それは、舞園さやかの言葉だったと、僕は言いきれた。ゲームの時と、状況は遥かに似ていた。時刻は知らないけど、とりあえず、僕は舞園さんが犯人だと、僕は思った。
舞「…………」
舞園さんは、表情がないような表情……とでも言うのか、凄く無気力な雰囲気だった。
守「……あの、舞園さん?」
舞「ごめんなさい。今は一人にしてください……」
そう言って、舞園さんは寄宿舎へと向かった。僕に止めるということは出来ずに、そのまま個室に入るのをただ見守っていた。
……あの言動と行動。なにやら隠したいことがあるみたいだった。明らかに、怪しかった。
僕は何となく舞園さんの部屋へ行って……ん? あれ?
守「……『プレートが逆』や……」
まさか、ここまで同じとは思えなかった。舞園さんの犯人の線が、急激に高くなった。ゲームと今の状況重なってきたことから、そう物語っていた。
とりあえず、先ずは葉隠から話を訊きたいので、僕は葉隠の部屋へと向かった。
葉「……河上っちか……」
少し暗いムードの葉隠が部屋から登場した。
身長差からか、僕は少し怖気づいたが、勇気を持って、事情を聴取する!
守「あ、あのさ……葉隠は犯行が起きる前……何をやってたんや?」
葉「ん……ああ……実は俺は、そうだな……9時ごろにランドリーに向かったんだ」
ここまでは山田と一緒の証言だった。
葉「そしたら、桑田っちも洗濯しにきたんだ。桑田っちが凄く暗いムードだったから、元気付けようと、占いをしたんだべ」
あれ。何だか嫌な予感がする。
葉「そしたら桑田っちに結果を教えたら何て言ったと思う? うるせぇ! でてけぇ! の一点張りだったべ! 本気で腹立ったから、俺もランドリーから帰ってきたんだべ! そしたらあいつは本当に死んでて、ビックリしたべ……」
守「本当に死んだ……?」
どういうことだろうか。何だかアホな話な気がしてならない。
葉「ああ。占いの結果、今日中に桑田っちが他界するって言ったんだべ。まったく……本来は金を貰うぐらいの占いなのに……なんで切れられんだ……」
……いや、そりゃ切れるだろう。
そんな事を言おうとしたが、葉隠の雰囲気が許してはくれなかった。
葉「大体あいつは前からいけ好かなかったんだべ! そもそもあいつは……」
そんな話が、5分ほど続いて、僕は収拾が着きそうにないと判断して、次は食堂へ向かった。
食堂に向かってみたら、案の定朝日奈さんが座っていた。
守「や、朝日奈さん」
朝「ん……? 河上!? 大丈夫なの、その怪我!」
守「あ、ああ……」
僕は勢いに飲まれそうになった。
守「一様大丈夫や。負担さえ掛けなければ、普通に歩ける程度やし……」
朝「そっか……よかった……」
どうやら、彼女も彼女なりに心配していてくれたらしい。
守「ありがとな、心配してもらって」
朝「当たり前のことだよ……それに、あんなの見て、心配にならない訳ないじゃん……」
朝日奈さんは、とても感情移入しやすい性格のようだ。殆どの皆が、僕のことを心配してくれていた。それが朝日奈さんには、顕著に現れていた。
守「そういえば、朝日奈さんに聞きたいことがあるんや」
朝「……結構、唐突だね……」
少し戸惑っていたようだが、深呼吸をしてから、彼女はドン! と胸を叩いた。
朝「私に出来ることなら、なんだって協力するよ!」
守「ならば早速……胸を揉ませてほしい」
朝「私に出来ることは、人を半殺しにすることだよ!」
守「そ、そんな殺生なぁ!!」
朝「サイテーな事に気づいてないの? 河上は!」
普通に怒られていた。そして、僕は軽率なセクハラはしないことを命じられた。現代稀に見る武力によって。いや、この子、僕が怪我してること忘れてるんじゃない?
朝「ったく……これだから男は……」
守「誠に申し訳ありませんでした」
朝「……まあ、もういいけど……」
ため息をつく朝日奈さんだった。
朝「それで? 何か聞きたいことあったんじゃないの?」
守「ああ、せやせや。……殺人が起きる前、具体的には9時から10時の間、何をやってた?」
朝「うん? うーん……そうだな……」
左上を向きながら、彼女は思考回路を必死に働かせていた。
朝「いま、何か失礼なこと思わなかった?」
守「滅相もない」
朝「……まあいいや。そのときはね、確か紅茶を飲んでたよ。何だか妙に眠れなくてさ……食堂に来たんだよ。厨房で紅茶を入れているときに、舞園ちゃんが入ってきて、私は紅茶に夢中だったからわからなかったけど、気付いた時には、後ろの包丁がなかったんだ。はじめ見た時はあった筈なんだけど……」
……もう、舞園さんの犯行としか、僕には考えられなかった。
しかし、それを解き明かすのは、学級裁判の時だ。
守「ありがとう。為になったわ」
朝「うん。私に出来ることなんて、ほんの一握りさえないけど、それでも力になれたのかな」
守「おう! 目の保養にもなってるから安心してええで!」
殴られた右頬を。
……ん? 右頬? あれ……なんだろう。何か思いつきそう──
守「ぎゃひっ!!」
その前に僕は床に叩きつけられた。その振動で、腕にも激痛が走った。
うわ、マジいってぇ! なんだこれ! 思わず関東弁なるくらいマジやべぇって!!
朝「次は腕を殴るわよ……?」
目が本気だった。怖い。朝日奈さんモノクマより怖い。
そんな恐怖で、僕の心に打ち付けられていた頃に、放送が始まった。
モ「皆さん。捜査ははかどってますか? 初めての捜査に、少し浮かれていませんか? そんなんじゃ、金メダルは取れないぞ! 浮かれる前に、初心を忘れべからずだよ! それじゃあ、これより、学級裁判を行いますので、学園側にある、赤い扉に入ってください! 早くしないと、激おこぷんぷん丸だからね!」
そう言って、放送は終わった。
朝「……そういえばさ、河上は、学級裁判のルールは……」
守「ああ。ちゃんと聞いてる──いや、江ノ島さんに聞くから大丈夫や」
朝「?」
危うく失言するところだった。少し怪訝そうに見ていたが、僕は特に気にせず、僕は桑田の死を思い出す。
彼は中々のチャラ男で、どこにでもいるチャラ男で、軽薄なチャラ男だった。そんな彼の夢はミュージシャン。憧れる人物はマスミみたいな桑田ではなく、ケイスケの桑田になりたかったらしい。その理由は、美容院のお姉さんに好かれる為だ。
超高校級の野球選手。彼の野球の才能の開花は、野球をやってからだ。今まで練習なんて殆どしてこなかった。モテる為に続けてて、それ以外に価値はなさそうなことを言っていた。勿論ミュージシャンも同じだ。
軽い奴だった。
もう頭薄くなれば良いのに。
そんな風に思ったこともあった。しかし、
『俺、この学校やめて、前の学校に戻るわ』
彼は、チームメイトに頭を下げるとまで言っていた。許してくれるかも分からないのに。自分の軽さを判って、自分の薄さを判って、それでも、野球が好きだった。
彼は何よりも、誰よりも、生まれてからずっと、野球が好きだったのだ。だからこそ、才能に恵まれたのかもしれなかった。
練習は終始嫌いだったっぽいけど。
そんな桑田にも、人生はあった。このダンガンロンパで、桑田の思いを、想いを理解していた人がいるかどうかは分からない。でも、僕は知っている。最後はそういう風に、逝ってしまったけれど、僕は絶対に、桑田の為に……皆の為に……犯人を暴かなくてはならない。これ以上、モノクマの好きにさせない……!
次回、推理パート! とはいかないので、言霊まとめと、学級裁判ルールを説明となります。