ダンガンロンパ リアルの絶望と学園の希望   作:ニタ

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episode 1 パート 5 (非)日常編

「オマエラ、おはようございます!

 朝です、7時になりました! 起床時間ですよ~!

 さぁて、今日も張り切っていきましょう~!」

 

 そんなモノクマのモーニングコールが流され、驚きのあまり上半身を起こす。少しぼーっとしていると頭が覚醒し、色々と思い出す。

 やっぱり、夢じゃなくてリアルだったのか。

 何だか未だに実感が湧かない。こんな場所にいるという事実は。

 

「おはよう、守君……」

 

 同じく目を覚ましたのであろう誠ちゃんが、少し虚ろとしながらの朝を挨拶をしてくれた。

 

「おはよう、誠ちゃん」

 

 挨拶を軽く終わらせると、僕は背を伸ばしてから立ち上がると、布団を畳む振りをしてもう一度寝ることにした。

 

「いやいやいや」

「ん、どうしたんや?」

「何か、布団を畳んでいたように見えたけど……」

「うん。嘘」

「どゆこと!?」

「いや、何となく形だけでも起きる動作をすれば目を覚ますかなって。でも眠たかったし、二度寝しようと……」

「わざわざいらないと思うけど……」

「いらないと思わせるのが心地よい」

「…………」

 

 言う言葉もなかったらしい。流石僕、捻くれてるぅ! 嬉しくないけど。

 

「まあいいや。僕は少し散歩してくるよ」

「あいよ。わかった」

 

 誠ちゃんは軽く身支度を整えると、部屋から出て行った。

 

「うん、警戒心なさすぎ」

 

 まあ僕の気にする範疇ではないか。

 僕は毛布を被り、もう少し寝ようとしたその直後

 

「コラァー! 起きろー!」

「ぬあぁあ!?」

 

 突如どこからか謎の声により叩き起こされた。

 僕は心臓をバクバク言わせながら、あたりの状況を見ると──

 

「まったく……それじゃ遅刻しちゃうよ、河上君」

「モ、モノクマ……」

 

 まさか、モノクマがモーニングコールだけでなく、幼馴染が部屋に入ってきて起こしに来る、という状況まで手に出すとは……どこまで自分の株をモノクマファンの読者に上げる気だ。勝手な想像だけど。

 色々ツッコミどころ満載な想像力だけど、頭の小さい容量で、何を聞きたいか思い出す。

 ん、そういえばさっき遅刻って言ってたな。

 

「……遅刻ってなんや?」

「ん? 幼馴染が部屋に入ってきて起こしに来るシチュエーションと言えば、いつまでも寝ている主人公を遅刻すると言って起こす為にする催促の言葉でしょ?」

「…………」

 

 僕も大概アホやけど、モノクマは僕のプラスワンされていた。

 

「で、何の用や」

「うん、昨日の味噌汁なかなか美味しかったねぇ。僕の舌はまるで楽園のようだったよ!」

「そこまで絶賛してくれるんか。嬉しいな。で、それだけなん?」

「うん」

「…………」

「…………」

「え、それだけ?」

「うん。それだけ」

 

 なんだこの期待感を裏切る状況は。

 僕てっきり、何か良くないことを起こすから、君も気をつけろ的なことでも言うかと思ったんだけど……

 

「僕は本当に昨日の味噌汁の礼だけで来ただけだよ」

「なんかうそ臭い……」

「コラー! わざわざお礼を言いに来てくれている人に対して言う言葉じゃないだろ!」

「う、まあ、そうやけど……」

「まったく……これだからゆとり世代は……ゆとりな心の持ち主は、何でゆーとーりの事以外のことを考えるんだろう……」

「…………」

 

 僕含む全面的にゆとり世代をバカにしていた。捻くれ者は僕以外にいないというのに!

 支離滅裂。

 

「ボクはお礼を言いに来たんだよ。その言い草はないじゃないか……」

「あー、ごめんごめん。ありがとな、モノクマ」

「うん。そう言ってくれると、未だに手をつけてない味噌汁の入った鍋に示しもつくよ」

「…………」

 

 殺そう。いつか殺そう。

 

「それじゃ、君も生活サイクルを狂わせずに、さっさと起きろよ~」

 

 尤もらしいことを言いながら、モノクマは部屋からさっさと出て行った。

 もう一度寝ようと考えたが、あんな起こされ方をされると、寝ようにも寝れなくなってしまう。二度寝は僕の生活リズムを支えてはいたけど、健康には良くないらしいし、僕もさっさと起きて散歩でもするか。

 次こそは本当に布団を畳んで、僕は部屋から出た……のはいいけど、何をしようか。

 舞園さんと誠ちゃんは護身用武器を仲良く手をつないで探しにいってるだろうし、江ノ島さんとは昨日のことがあるから、迂闊(うかつ)に会うと僕の首はぶっ飛びかねないし……セレスさんに会いに行こうかな。セレスさんのことをもっと聞いてみたいし。

 うん、そうしよう。

 しかし、セレスさんはどこにいるんだろう。部屋にいるのか? ふん、まあ無難に食堂にでも探すか。

 僕は誠ちゃんの部屋から離れ、食堂に早足で向かう。

 食堂に入ると、そこには十神と不二咲さんと霧切さんがいた。しかし、セレスさんの姿はそこにはなかった。

 

「あ、河上君」

 

 僕に気付いた不二咲さんが小動物がごとく小走りで僕の方へ寄ってくる。

 

「よっす、不二咲ちゃん」

「どうしたの? こんなところで」

「ん。あー、実は昨日作った味噌汁飲もうと思ってな」

「え……あのお味噌汁、河上君が作ったの?」

 

 何だか不二咲ちゃんは怪獣ゴジラを目の前で目撃はしたが、実はただの張りぼてだった時みたいな驚きな顔だった。

 

「もしかして、河上君って超高校級の料理人だったりする?」

「ふえ? いや、違うけど……」

「そうなの? 何か意外だな……」

「え、どういうこと?」

「貴方の料理はとても美味しかったということよ」

「え?」

 

 突然霧切さんの声が聞こえてきたので、僕は反射的に彼女を見る。

 

「味噌汁だけであそこまで美味しいと思えたのは生まれて初めてよ」

「ああ、ありがと……」

 

 つい余所余所しく言ってしまう。こういうとき、気の利いた言葉を言えたらいいんだけど、どう接したらいいかわからない。

 

「僕も美味しかったよ。何だか、久しぶりにお味噌汁を飲んだ感覚になったよ」

「私も同じ。彼もそう言ってたわ」

「……何故俺を引き合いに出す」

 

 突然振られた十神は、心底嫌そうな顔をしている。

 

「ふん。まあまあな出来だと思うがな」

 

 十神なりに褒めてくれているだろうか? ゲームをしていると、残虐非道的な性格が出るから、何だか意外だった。

 

「……何を見ている」

「いや、何だか嬉しいなーって思ってな……」

「……部屋に戻る」

 

 十神は早足で食堂から消える。……なんだあれ。もう完全にツンデレじゃないか。あのゲームの頃の冷えあがったツンドラ地帯はどうしたんだ。

 

「……まあ、皆絶賛していたわよ。あなたの味噌汁のこと」

「そうなんか。それは作った甲斐があったな」

「そう。またいつか作るの?」

「いや。松崎しげるの歌を聴くまで作らんつもりや」

「どうしてそれまで作らないのよ……」

 

 霧切さんにツッコミを入れられるのは、何だか興奮した。

 いや、スケベも甚だしいな、おい。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私は霧切響子よ」

「フランソワーズ・デカブリオや」

「本名を言いなさい。本名を……」

「ホン・メイ、って名前の方がええんかな?」

「誰が本名で名前作れっていったのよ。私は貴方の名前が知りたいの」

「river up save」

「日本語で」

「河上守や」

「そう」

「せやで」

「…………あなたは、どんな超高校級なの?」

「……黙秘権を行使します!」

「裁判所に言っても答える気がないのね」

「え、どうして教えてくれないの……?」

「…………そうやな……なんて言えばいいか……」

 

 不二咲さんは、どうしてなのか不思議そうに腕を組んで考えている。

 あんまり、記憶喪失ってことを言いふらしたくないけど、言うべきなのだろうか。しかし、良い言い訳が思いつかないし、そもそも大抵は記憶喪失だと公言してしまっている。それしか言うことがない。

 

「……えらく歯切れが悪いわね。私の時は気前よかったくせに」

「実はな、僕、記憶喪失やねん」

「!」

 

 霧切さんが一瞬目を見開いたが、すぐに表情が元に戻る。

 

「だから、超高校級のことについて、覚えてなくてな……」

「そう……そういうこと……」

「?」

 

 ぶつぶつと呟く霧切さんだったが、すぐに顔を僕の方へ向けなおす。

 

「後で、私の部屋に来て頂戴」

「…………!? ええの!? 個室で二人っきりなるん!?」

「別に何もないわよ……」

 

 呆れ顔をしていた。どうしてだろう?

 

「とにかく、午後2時に話があるから」

 

 そういうと霧切さんは食堂から出て行った。

 

「……どうしよう不二咲ちゃん。こんなこと、マクドナルドの店内でフライドポテト一本を床に落とした時以来の衝撃や……」

「結構小さいね……」

 

 苦笑いを浮かべる不二咲ちゃんだった。

 

「なあなあ不二咲ちゃん。パンツ何色」

「今日はみず……何言わせるのさ!」

「大丈夫や。お兄さんに任せとき……な?」

「顔が変質者だよ!」

 

 ついでに僕の今の体勢は、中腰で両腕を肩まで挙げて、手を不二咲さんに向けて手をワキワキさせていた。

 完全な変態だった。

 

「ま、冗談はさておき」

「……冗談には見えなかったよ……」

「まあ、ごめんな。悪気が無かった訳じゃないんや。」

「悪意はあったんだ……」

「まあな」

「しかも認めちゃった……」

「うん……」

「…………」

 

 …………ダメだ! 不二咲ちゃんはツッコミ苦手っぽい! 凄く不安そうな顔だもん! 罪悪感半端ないよ!

 

「そ、そういえばさ、不二咲さん。コンピューター系のことに関して秀でてるって聞いたけど……」

 

 強引に話を変える。この話題なら何とか話をつなげることは出来るだろう。

 

「え、うん。そうだよ。子供の頃からやってたかな……」

「子供の頃からか。どうして始めるようになったんや?」

「う、うん……実はね……」

 

 少し言いづらそうだった。やっぱり自分のコンプレックスって、言いにくいものだ。あんまり公言するようなことではないだろう。

 

「昔の頃から僕って身体が弱かったんだ。だから友達と外で遊ぶっていうことが出来なくて、いつも一人でいたんだ。それでよく家に居て、パソコンとか弄ってて……それが思った以上に楽しくてさ……でね、お父さんがシステムエンジニアで、色んなプログラムを仕事を組んでたんだ。それでね、作成途中のプログラムがあったから、勝手に改造して遊んでたんだ。そうやって出来たのが、最初に、自分で組んだプログラムなんだ」

 

 ……凄い。普通遊びでプラグラムを改造できるか? いや、できないだろう。不二咲ちゃんが、不二咲千尋だからこそできたことなのだろう。それが超高校級のプログラマーとしての才能の所以なのか。

 生まれ持った才能。

 それが、超高校級。

 

「どんなプログラムを作ったんや?」

「自動応答システムだよ」

「……自動応答システム?」

「ユーザーとの対話を通して、言葉を理解して、ユーザーが求める情報を見つけ出すシステムだよ」

「つまり、キーボード入力以外の方法で、コンピュータとのやり取りが出来るシステムだね」

 

 それを子供の頃に作ったって……流石にも程があった。しかし、キーボード入力以外の方法でやり取りできるシステムか……

 

「……音声入力ってやつか?」

「うん、そうなんだ!」

 

 笑顔が眩しい!

 

「応答の声に自分の声を使ったら、それと会話してるのが面白くってね……なんか、自分の声じゃないみたいだもん。夢中で色々やったてら、出来ちゃった」

 

 無邪気にそう言う不二咲ちゃん。

 

「にしても凄いな。今の話を聞いている限り、日本語同士で会話してるってことやろ?」

「うん。日本語って複雑だから、なかなか出来なくて苦労したんだ……」

「それは、完成したんか?」

「しかも、完成した直後にお父さんに改造したところを見つかって……怒られるかと思ったんだけど……逆に、すっごく褒められたんだ! あのシステムは、自然言語理解も取り組んでいて、それによる対話型情報絞込みをやってたんだけど……その操作性が凄く良かったみたいで、情報検索の歴史が変わるぞとまで褒められたんだ!」

「あれ、でもそれって不二咲ちゃんの子供の頃の話やな? あんまりそういうの聞いたことないけど……」

「まだコストの問題で、普及には至ってないんだ……でも、それ以来プログラムを組むのに夢中になってさ……こんな自分でも人を喜ばせられた事が、嬉しくって!」

 

 不二咲ちゃんは笑顔でそういった。

 根っからコンピューターが好きなんだろう。始めの頃の反応の違って、凄く意気揚々としていた。

 

「……あ! ごめんね! なんか勝手に一人で喋っちゃって……」

「いいや、別にええよ。不二咲ちゃんの話、すっごいおもろかったで。また聞かせてな」

「う、うん! またお話しようね!」

 

 今まで見せた笑顔の中で、一番の笑顔を貰った。そして不二咲ちゃんは食堂から出て行った。

 

「…………」

 

 どうして、こんな事になってしまったんだろうか。どうして、殺し合いなんてしなければならないんだろうか。

 皆、希望ヶ峰学園に来る時は、新たな人生を歩み、新たな志を胸に、そして何より楽しみにしていた筈だ。なのに、この仕打ちはなんだ。どうして……こんな状況になったんだ……。

 自分とは全然違う友達を作り、遊んで、ケンカして、悪いことして、怒られて、励ましあって、絆を作って、仲良くなって。

 そんな人生があったかもしれない。

 でも、それとは縁遠い、僕の考えていたこととは全然違い、殺し合いと言う、人生を台無しにさえすることだった。

 僕に何か出来ることなんてのは、恐らく何もないかもしれない。でも、何か出来るという可能性があるのなら、僕は、最後まで黒幕に抗う。こんな状況を作り出した、絶望の(かて)に生きている輩に抗うために、僕は戦う。絶対に負けやしない。

 そんな志を胸に、僕は食堂から出て行く。

 




 もう少し続くんじゃ

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