ゼロ魔の方にも同じものを投稿しております。
イチカと永遠の別れを告げた私は、イチカを抱き締めながら眠るように息を引き取った。それが私に最後の記憶。それが正しければ、私はイチカを抱き、ジョゼフやイザベラの子供達に見守られながら死んでいったはずなのだけれど…………だとしたらここはいったいどこなのかしらね?
きょろきょろと周囲を見渡してみるけれど、どこまで行っても真っ暗な空間に取り残されているようにしか見えない。
とりあえず状況確認のために周囲を見渡してみたので、次に自分のことを確認しておく。
……と、すぐに違和感。死ぬ寸前の私は既に老いていて、激しい運動をしたら背中や膝に若干の痛みを感じていたはず。
それなのに今は何もなく、手入れは欠かしていなかったがやはり若干皺になっていた肌の感触などが若かりし頃のそれに戻っていた。
ひゅひゅんっ!と回し蹴りから同じ脚での後ろ回し蹴りを放ったが、自分の思っている以上に体が動く。
持ち物は生涯使い続けた私の杖と、腰元のホルダーに留められている始祖の祈祷書。そして右手の中指に填められている水のルビー。いったいなにがどうしてこんなことになっているのかはわからないけれど、とりあえず物取りの犯行という可能性は殆ど無くなったと言っていいだろう。じゃなきゃあからさまに金目のものである水のルビーを盗んでいかない理由が無いもの。
それで、ここはいったいどこだろう? イチカは近くに居ないようだけど、なんとなくどこかに居る気がする。
……でも、この暗さだったらたぶん寝てるわよね、イチカ。起こしちゃいけないからライトとかは使えないし、大声も出しちゃダメ、と。
それとついでにこの場所には上下がない。どこでも行けるしどんな風にも移動できる。フライみたいに移動するのも歩くように移動するのも自由。
そう言うわけで、私はイチカを探して歩き始めた。
……まったくもう。イチカってばどこに行ったのかしら?
始祖の祈祷書のページをペラペラと捲りながら、私はそう考えていた。
……死後の世界がこういう世界なんだったら、もしかしたらどこかにイザベラやジョゼフも居るかも知れないわね。イザベラにはビダーシャルが今でもイザベラを想い続けている事とか、色々話したいこともあるしね。
「……あのぉ……」
「ん?」
不意に背後から声をかけられ、私はくるりと振り向いた。
side なのは
ヴィヴィオが成人して、好きな人を連れてきて、翠屋を継いでもらって。
地球とミッドチルダを行ったり来たり、両方同時に存在してみたりした私は、もうすぐあの世からお迎えが来ます。
レジーもリシュも、私より先に逝って待っていてくれるそうです。フェイトちゃんやはやてちゃん、シグナムさんにヴィータちゃん、シャマルさん。みんな私より先に逝ってしまったけれど、みんな待っていてくれると言ってくれました。
私の前でヴィヴィオが泣いているけれど、もう声も聞こえない。泣かないように声をかけてあげたくても声でないし、ポロポロと溢れる涙を拭いてあげたくても手が動かない。
……ああ、もう、なにも感じない。最後まで私を支えてくれた波の異能も、最強とまで言われた魔法を振るうためのリンカーコアも、なにもわからない。
そんな中で聞こえてくるのは、私とさくらさんの出会いの曲。ヴィヴィオに教え、今ではヴィヴィオの十八番となっているその曲を、さくらさんが、シュテルちゃんが、レヴィちゃんが、ディアーチェちゃんが、楽器を奏でながら歌っている。
…………うん。やっぱり、結構幸せな人生だったかな。
私は、最後にそれだけを想い、眠るように息を引き取った。
………………はずなんだけれど、気が付いたらこうして真っ暗なところに一人で立っている。
服は着なれたバリアジャケット。背中には使い慣れた狂気の提琴。右手には待機状態のレイジングハート。そして姿は、写真と記憶の中にしか存在しない最盛期。
……うん、やっぱり外見変わらないとか色々言われてたけど、肌の張りとかキメとかは衰えてたんだね。魔力コーティングをしてなかったらいったいどんな風になってたことやら……。
……と、そんなことは置いておくとして、どうして私がこんなところに居るのかを考えよう。
私は死んでいる。これは確かなことで、そしてなぜか若返ってこんなところに。
…………なんだかさくらさんが関わっているような気がするので、とりあえずさくらさんを探すことにする。
耳を澄ませて、広範囲を探る。私の最大知覚範囲は次元世界数個分。それだけあればこの場所でもなんとかなると思っていたけれど……見つかったのはさくらさんではなく、おっとりした女の人。
だけど、その人の口からさくらさんの名前が出てきたので、私はすぐさまその人の近くに移動して話しかけた。
「あのぉ……」
「ん?」
くるりと振り返ったその人に見覚えはない。だけど、なんとなく私とこの人は似ていると思った。
……ついでに、アリサちゃんとよく似た声の人だな、とも。
「えっと……はじめまして。私、織斑なのはと言います」
「ルイズよ。家名は捨てたけど、オリムラの名前を新しく受け取ったわ」
…………ああ、なんとなく予想がついた。やっぱり平行世界に行く体験の一つや二つはしておくべきだね。
この人はきっと、私のいないどこかの世界でさくらさんと出会って、そして私と同じようにさくらさんに引かれていったんだろう。
そして私とルイズさんに共通することは、さくらさんと同じ名字を持っているということ。と言うことは、きっとさくらさんもどこかに居るんだろう。
考え事を一時中断して顔を上げてみると、目の前でルイズさんも全く同時に顔をあげていたらしく、目があった。
「……同じ結論に達したようね?」
「……そうみたいですね」
それに、どうやらこの人は独占したいというわけではなく(いや、たぶん本当はしたいんだろうけど我慢していると言うべきか)、さくらさんの近くにいたいだけだと言う雰囲気があるので安心できそうです。
「……それじゃあ、イチカを探しましょうか。お互い聞きたいことがあるかもしれないけれど、探しながらでいいわよね」
「そうですね」
私とルイズさんは、並んで歩き始めた。ルイズさんはなんとなくさくらさんの居る方向がわかるみたいで、私はそれについて行くばかりだけれど。
けれど、知覚範囲内に入れば私の番だ。そうなったら今度は私がルイズさんを連れていくことにしよう。
■ ■ ■ ■ ■ ■
「……誰?」
「むしろこっちが聞きたいところだけどね。誰よ貴女達」
私とルイズさんにそう聞いてきたのは、身長150くらいの女の子。髪をツインテールにしていて元気そうな雰囲気を受けとるけれど、どうしてか私はこの女の子に気圧されてしまっている。
なんと言うか……こう、私より存在の格が高いような……さくらさんに威嚇されているような……そんな感じの気分なんだけれど……ルイズさんはどうして平気なんだろう? 図太いから?
「ナノハ。今失礼なことを考えなかった?」
「『図太い』って誉め言葉ですよね?」
「……いい度胸じゃないの」
「突然喧嘩を売るルイズさんに比べれば、私の神経なんて蜘蛛の糸より細くなっちゃいますから」
にこにこ笑いながらルイズさんと見知らぬ女の子を眺めていたら、ふと女の子の方からのプレッシャーが掻き消えた。
かわりにルイズさんから圧力がかかっていますが、ルイズさんと私はどうやらおよそ同格程度らしいので特に苦しくはない。
「……『ルイズ』と、『なのは』?」
「そうよ」
「はい」
「……ふーん。ってことは、貴女達が一夏が言ってた『盟友』と『一番弟子』ね」
「さくらさんを知ってるんですかっ!?」
「さくらさん? …………ああ、そう言えばそう名乗ってたらしいわね。勿論知ってるわ」
その女の子は平然と答えて、それからくるりと後ろを向いて歩き始めた。
「一夏に会いたいんだったら、全身に愛情を漲らせなさい。愛さえあれば物理法則も世界の法則も正面から撃ち抜けるわ」
それだけ言い残して、その女の子は消えていった。
私とルイズさんは顔を見合わせて、それからすぐに精神を集中させる。
……さくらさんに、もう一度会える可能性が提示された。なら私は、迷わずそれに突き進んで行く。
だって、私はさくらさんのことが大好きなんだから。いくつになっても恋をしていて、いつになっても愛している。
……馬鹿みたいだけれど、しょうがない。だって好きなんだから。
何かが変わったような気がして目を開くと、そこにはついさっきまでいなかったはずの人達が私のことを笑顔で眺めていた。
そこにはさっきまで話をしていた女の子が居て、私と隣のルイズさんに向けて話しかけてきた。
「いらっしゃい、高町なのは、ルイズ。私は一夏の妻三号、織斑鈴音よ。私達は貴女達を歓迎するわ」
そこで言葉を切った鈴音さんの代わりに、その場に居たほとんど全員が口を揃えて言う。
『ようこそ、一夏の寝室へ』
私とルイズさんはそれを聞いて、ふつふつと喜びが湧いてくるのを感じます。
けれど、それより先にやるべきことがあるんです。
私は静かに奥の布団に近付いていって、そこに寝ていたさくらさんの手をとって額に押し付ける。
「……来ましたよ。貴方の元に」
……ああ、死んでしまってもう会えないと、手を繋ぐこともできないと思っていたのに……またこうして手を繋ぐことができるなんて……。
反対側では私と同じようにルイズさんが涙を流して再会を喜んでいます。
「……それじゃあ、新入りが来た事だし……皆でゆっくり寝ましょうか」
その言葉の直後、その場にいる全員が音もなく布団に滑り込む。
素早く、それでいて無駄に高度な技に吃驚しましたが、とりあえず私も真似をしてさくらさんの眠る布団に入り込みます。
「……ふみ?」
「み~…………」
あ、ちっちゃいさくらさんだ。
とりあえずちっちゃいさくらさんを抱き締めて、それから目を閉じる。すると即座にさくらさんと一緒に眠る時特有の眠気が私を襲い、やっぱりさくらさんと一緒に寝ているんだという気持ちにさせてくれた。
そんな暖かい気持ちの中で、私はぽつりと呟いた。
「……おやすみなさい……さくらさん」
「……おやすみ、なのちゃん」
……起きてるんなら起きてるっぽい行動をしてください。恥ずかしいじゃないですか。