リリカルなのは~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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生ステラ聞いたらこんなのできた。東方の大英雄さんは争いを収めたのに、何やってるんですかねぇ……


ありえなかったなのはさんの全力全開

 

 この話は81の終わり辺りでなのはさんが後先考えない全力を出していたらどうなっていたかを書いたIF話です。本編には一切影響しません。それでも読みたいと思う方だけどうぞ下へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拳を握る。柔らかく、卵すら潰せないほどに柔らかく。

 脱力。全身から必要以上の力が抜け落ち、水のように柔らかく。

 しかし荒れ狂う魔力の奔流。今なのはが立つミッドチルダと、周囲に存在する星。さらには隣接する世界からすら魔力が集まり、無理矢理になのはの身体に詰め込まれていく。

 リンカーコアを通さない無限とすら思えるほどの魔力によってひたすらに強化され続けるなのはの身体は、なのは自身の魔力光に染められた淡いピンク色に輝いていた。

 

「……それは」

わかってる(・・・・・)

 

 シュテルの言葉を断ち切って、なのはは微笑む。同時にぴしりとその身体に皹が入り始める。

 時間が無い事を互いに理解している二人は、お互いにより自身の力を引き出すように魔力を振るう。

 世界中から、それどころか世界すら超えて集めた魔力を圧縮し、練り上げ、身体に叩き込むなのはと、自前の身体能力と魔力、そして気によって強化することでそれに匹敵するだけの力を得ているシュテル。なのはの方はともかく、シュテルの方は設定されている能力の限界値を拡張してまでの行動であり、どちらもこの一撃が放たれればただでは済まないことを確信しているようだった。

 そんな中で、なのはは囁くように言の葉を紡いだ。

 

「―――陽のいと聖なる主よ」

 

 それは、かつて自身を闇の底から引き揚げてくれた神のような存在に対しての言葉であった。

 

「あらゆる叡智、尊厳、力をあたえたもう輝きの主よ。」

 

 誰もそのことを知らない。家族ですら、なのはがこうして当たり前のように笑っていられるのはその男の力によるものが大きいということを知らず、そして今も地球に存在している分身とともに笑いながら過ごしている。

 

「我が心を、我が考えを、我が成しうることをご照覧あれ」

 

 そんな相手に、今の自分の全てを見せられる。今の自分の全力を。全霊を。周囲に対する影響や被害などを一切考えない、ただひたすらに威力を上げた一撃を。文字通りの意味で自身の全てを叩き付けられる。そんな機会を、なのはが我慢できるわけがなかった。

 

「さあ、月と星を創りしものよ」

 

 人から。大地から。星から。宇宙から。ありとあらゆるものから吸い上げ、結集させた魔力をなのはが自身に装填させる。それと同時にシュテルは両の掌を合わせ、反発するエネルギーを無理矢理に統合させた莫大なエネルギー塊を作り上げる。

 

「我が行い、我が最期、我が成しうる聖なる献身(スプンタ・アールマティ)を見よ。」

 

 全身を太陽よりも眩く輝かせるなのはと、あらゆる光を飲み込むような漆黒の力場の中にエネルギーをため込むシュテル。お互いの力の臨界点が近いことを、なのはとシュテルは誰が言うでもなく理解し、察していた。

 

「この渾身の一撃を放ちし後に―――」

 

 故にこそ、なのはは自身の限界以上を振り絞り、収集し、統括し、自身の知る最強の存在の一角に叩き付けたくなる欲求を抑えることなく、身体が徐々に崩壊していくのも構わず準備を終える。

 

「―――我が強靭の五体、即座に砕け散るであろう!」

 

 そして、ついにその時がやってきた。

 

「────流星一条(ステラ)アアアァァァァァァ!」

 

 一閃。秒速にして50km以上と言われる彗星すらも置き去りにするほどの速度を以て、なのはは地を蹴り突撃した。

 地を蹴る度に蹴ったリングが粉砕される。一瞬の間に大気の壁を何十も突き破り、風を超え、音を超え、熱を超え、シュテルへと近付いていく。

 シュテルもただ待ち受けているだけではなく、ひたすらに突貫してくるなのはを迎撃するために砲撃を行おうとしていた。それこそ、砲撃の反動だけでなのはと同等の強化を行う必要が出てくるほどに強力な砲撃を。

 シュテルの掌に挟まれていた小さな黒い球場の空間がほつれ、内部に押さえ込まれていた異様なエネルギーが吐き出された。

 

 二つの閃光が衝突する。星をも砕く魔弾と、銀河を貫く大砲が接触し、空間が、世界そのものが軋みを上げる。

 そんな中で、なのはは今まで自身が歩んできた人生を思い返しながら、さらに前へと進み続けていた。

 

 魔力に耐えられなかった髪が半ば液化し、周囲の髪と溶け合いながら砕けて消える。シュテルの攻撃を突破するために突き出された左手の骨肉が吹き散らされるように砕け、肘から先は既に形を失っている。

 顔に罅が入り、踏み出す足は既にどちらも脹脛の半ばまで消し飛び、しかしそれでも空気を踏んで加速し続ける。

 フラッシュバックする人生。友人の顔。両親の顔。最近したばかりの約束。繰り返し繰り返し様々なものが思考を掠め、その度になのはは加速する。

 やがてなのはの身体はシュテルの砲撃を突き破る。普段見せることのない驚愕の表情としてその眼を大きく開いたシュテルの顔に、砲撃の中でも必死に守り続けた右の拳を振るう。

 

 時の止まったような静寂。モノクロですらない白と黒だけの世界で、なのはは確かにシュテルが笑うのを見た。

 再び世界は軋みを上げ、ついに世界を構成する何かが砕け散るような甲高い破砕音が響いた。

 

 空間に皹を入れ、あるいは引き裂きながら、シュテルの両腕が動く。まるでなのはがこの攻撃を抜け、致命の一撃を放つことを理解していたかのようななめらかで無駄のない動き。それを見せられて初めてなのはは自身の行動が誘われたということに気づく。

 だが、今更攻撃をやめることも、ましてや止めることもできはしない。盆から零れ落ちた水はけして返らず、砕けた星は二度と生命を宿さない。なのはは止まるどころか、さらに加速しながら拳を振り抜いた。

 

 砕けながら突撃するなのはを見つつ、シュテルは動く。普通に動いていては間に合わないからと世界の抵抗をたたき割りながら掌をなのはの拳に合わせ、力を受け流す。物理的な威力の大半は足を通して地面へ。間に合わなければ空気を弾くようにして威力を散らし、それでも残った衝撃はなのは本人へと返す。ただただまっすぐと突撃するだけの相手ならば、それがどれだけ強くとも、それがどれだけ速くとも関係はない。それを見せつけるような一手。

 誤算があったとするならば、そうして散らしたとしてもなのはの拳が出した威力が高すぎたことだろうか。足場から流された威力は闘技場を砕き、地盤に皹を入れるどころか陥没させ、マントルを揺らがせ小規模ではあるものの地殻津波を引き起こす。大気に散らした衝撃は半径にして2km以上の大気を弾き飛ばしてその場を真空にし、地殻津波と合わせて周囲を生き物が住めるような状態ではなくしてしまった。

 そしてなのは自身の身体は反動と受け流された衝撃をもろにくらったことで跡形もなく消し飛び、その残骸とも呼べるものがバリアを突き破って観客席を蹂躙する。一瞬にして作り上げられた地獄によって誰もが意識を失うか死んでいたせいで誰一人として苦しんだ者はいなかったが、間違いなくこの場には地獄が広がっていた

 

「……やっべ」

 

 

 

 

 

「……あの後俺が消し飛んだ空気を補充したり歪んだ地面を元の形に直したり死んだ観客を死にたての観客と取り換えて蘇生したり記憶と記録を改竄したりしなかったらなのちゃんは今頃務所暮らしだったかもしれんな」

「勘弁してくださいよさくらさん。確かにあのときはちょっとやりすぎて残しておいた分身にまでダメージが行っちゃったりしましたけど、もうあんな無様な暴発はしませんって」

「……ママがなんか凄いこと言ってる」

「気のせいだから飯食ってていいぞヴィヴィっ子」

 

 


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