リリカルなのは~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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 このお話は、とある年の『クリスマスパーティが終わって子供たちが寝た後の話』です。


とある年のクリスマス

 

 子供たちとのクリスマスパーティも終わり、今はもう大人の時間。もう子供とは言えない年齢の者は、パーティの名残と言える様々な飾り付けや料理の乗っていたお皿の洗浄などを終わらせ、静かに晩酌と洒落込んでいた。

 その場所にいるのは五人。

 

 地上本部の意見番。『高町なのは』

 管理局の黒い死神。『フェイト・T・ハラオウン』

 腹黒セクハラ子狸。『八神はやて』

 夜の一族のお姫様。『月村すずか』

 地球最大企業の御令嬢。『アリサ・バニングス』

 

 彼女達はなのはの作ったつまみを食べながら、それなりに高いけれど美味しいお酒を楽しんでいた。

 

「んく、んく……ぷはー!やっぱりお酒は地球のが一番やね!身体に合っとる言うんか? あーもーともかくウマイ!」

「はやて……オヤジ臭いよ?」

「ええやんええやんそのくらい!どーせみんな男の影も無いんやろ? ほんならうちのことをどーこー言える立場やないで?」

 

 カラカラと笑いながらグラスの中の琥珀色の液体を胃の中に流し込んでいくはやては、触れてはならない場所に触れようとしていた。

 

「そやなぁ……みんな、ちゃんと結婚とかできそか? ちなみにうちは周りに雲があるせいで男供が怖がってちかづいてこん。こーんなに可愛い娘ぉが待っとるのになぁ……」

「あ、あはは……シグナム達に認められなくちゃいけないんだもんね……はやて、結婚できるの?」

「むりやろな」

「目が怖いよ!? 光が無いよ!? 怖いよ!?」

 

 はやては光の消えた瞳でフェイトを見つめながら考える。フェイトだって自分と同じ……ではないけれど執務官で仕事は忙しいし、いろんな所から子供を引き取ってシングルマザーやってるしで男の影は無い。

 なのに、今は結婚とか考えていないだけでその気になったらすぐにでも結婚できそうな気がするのはどうしてか……。

 

「……乳か? やっぱり乳なんか!? 乳なんて手で覆うより少し大きいくらいあれば十分やろ!なんで男共はいつもいつも大きいのを求めるんや!?」

「そうだよね。こんなの大きくても良いことなんて無いよね。下着も可愛いのがないし、肩は凝るし、普段着で激しく動こうとすると揺れて痛いしバランス崩れるし、良いことなんてなんにもないよ」

「くっそぅフェイトちゃんの天然発言が痛いわ……ちくしょう……ちくしょう…………」

 

 大丈夫? などと声をかけてくるフェイトの胸がたゆんと大きく揺れるのが目に入り、はやては目頭が熱くなるのを感じた。

 

「……そんで、月村カンパニーのお嬢様はどうなん? 結婚できそか?」

「婚約者もいるよ?」

「マジか!? どんな奴なん!?」

「うーん……優しくて、仕事はそれなりだけど大きな失敗はしなさそうな人、かな? まあ、家で決められた婚約者だしそんなものだよね。悪い人じゃないよ?」

「はー……お金持ちってのも大変やね。アリサちゃんは?」

「似たようなものよ。あーあ、女同士で結婚できればすすかと結婚するんだけどなー」

「問題発言やなそれ。新手のプロポーズかいな。……これ聞いてすすかちゃんはどう思う?」

「アリサちゃんならいいんじゃないかなー?」

「よっしゃカップル成立やな!ミッドやと最近女の子同士、男同士で子供作れるようになったって話やし、ミッドに越してきたらどない?」

「「それは無理」」

「無理かー残念やなー」

 

 本当はわかっていたことを聞いて、わかりきっていた答えを聞いて、用意しておいた言葉で返して、そしてみんなで笑い合う。

 

「まったくもう……子供達が起きちゃったらどうするの? もう少し静かにしようよ」

「大丈夫やって!防音しっかりしとるのは知っとるし、こっそり魔法で音が漏れないようにしとるんやろ? 地上本部のレジアス大将の許可もあるんやろ? 知っとるて!」

「そうだけど、風が通るようにしてあるから少しだけ漏れちゃうんだよ。あんまり大きな音だと魔力消費も結構かかるしさ」

「そんなもんかー……」

 

 ふとはやては自分のグラスに中身が殆ど無いことに気付く。初めは結構な大きさの球体の氷があったのだが、いつの間にやら綺麗に溶けて親指の先程度の小さなビー玉のようになっていた。

 そこに適当な場所に置いてあった酒瓶を取ってふたを開け、どぼどぼとグラスの八割くらいまで注ぐ。

 

「で、なのはちゃん」

「ん? なに? はやてちゃん」

「なのはちゃんは結婚できそか? ヴィヴィオを引き取ってシングルマザーやっとるけど」

「……ん? …………あれ?」

「ん~? どしたん? 余裕あると思っとったら意外に相手が少なかったことにびっくりしとるんか?」

「…………あ~……うん、そう言えば直接は言ってない……? と言うか直接伝えたのって……」

「……もしもーし? なのはちゃーん?」

 

 突然ぶつぶつと呟き始めるなのはを訝しんではやてはそう問いかけるが、なのはからの返事はない。しかし数秒後、ふとなのはが顔を上げるとそこにはなのはの顔を覗き込む四人の顔があった。

 

「……で、何があったのよ?」

「ん~、大したことじゃ……あるね。まあ、私にとっては大したことだけど、皆にとってはそこまで大したことでもないと思うけど、聞く?」

「聞かせて?」

「うん、わかった。まあ本当に大した内容じゃないと思うから、お酒でも飲みながら聞いてよ。

 

 私、もう結婚してるんだ」

 

 ぶふぅっ!!? とお酒を吹き出す音が重なる。それは本当に大したことじゃないんだと考えていたはやてと、まあ飲みながら聞いてと言われたために本当に飲みながら聞こうとしてしまった天然なフェイトの物であり、そして吹き出されたお酒はなぜかアリサの顔面に吹き付けられた。

 

「目がっ!? 99%のアルコールを少しだけ薄めた推定96%くらいのアルコールが霧状になって眼球にぃっ!? 目がぁぁぁぁ!?」

「あわわわわわわアリサちゃん!? ティッシュティッシュ!」

「ごごごごめんアリサ!えっとえっと、これ!」

「それ着替えの下着やん!そんなんで目ぇ拭いたらえらいことになるで!?」

「いやそれよりも洗面台に連れて行くべきだと思うよ。こっちこっち」

「目がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

「ちくわ大明神」

「今の誰や正直に言ってみい!」

「いやいやそんなことよりこっち!」

「目ぇぇぇぇぇぇがぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」

 

 

 

 数分後。五人は元いた場所に座ってジトリと爆弾を落としてきた本人に視線を向けていた。その本人は憎らしいことに何でもないように笑顔を浮かべていて、それどころか用意していたピーナッツのバター炒めをあてにスピリタスをちびちびと飲み続けていた。

 

「……酷い目に遭ったわ」

「まさかこんなことになるとはね。お釈迦様でもわからないよ」

「いや予想できることやろ。あんな爆弾発言ぶっこんどいてよく言うわ」

「だって、もう二年位前の話だよ?」

「「そんな前!?」」

「……え、なに、なのはあんた伝えてなかったの?」

「うん。忘れてた。ちゃんと言ったと思ってたんだけどね。本編の後日談の最後あたりで」

「本編? 後日談?」

「ああ、フェイトちゃんは気にしなくてもいいよ。多分気にしてもわかんないだろうし」

「メメタァ」

「すずか!?」

「メメタァ」

「フェイトちゃん!? 誰から聞いたんそれ!?」

「「こう言っておけばいいかな」ってすずかが」

「すずか!?」

「すずかちゃん!?」

「てへぺろ」

「可愛いけど腹立つ!」

「ひひゃいひひゃいよはいはひゃん」

 

 いきなり爆弾が放り込まれてからの深夜のガールズトークは、どんどんとヒートアップしていった。

 

「そんでなのはちゃん!相手がどんな人か教えてもらおか!」

「別にいいけど語るよ? 恋愛結婚だから滅茶苦茶語るよ? 良いところも悪いところも糖度マシマシカロリーマシマシで語るよ? 未婚には辛いと思うけど本当に聞く? わかったそれじゃあ話してあげるね。名前はさくらって言って、昔々に出会って私を助けてくれた人なんだ。当時から私はさくらさんのことが好きだったんだけど出会った当時私はまだ小学校にも行ってないくらい小さくてね。その感情がどういうものなのかわかってなかったんだけど、ある程度大きくなってからきっと恋だって気付いたんだ。それが確か九才くらいの頃で、さくらさんと再会したのもその頃だね。ちなみに以前さくらさんって呼んでた子供を機動六課につれていったけどあれがさくらさんだね。変身魔法とか一切使わずに身体と顔を変えられる体質なんだって。お陰で色んなところの情報がもらえて私はこうやってミッドの一等地にお店が建てられるくらいの資金を手に入れることができたわけなんだけれどそこで私はさくらさんと同棲を始めたんだ。それからずっと何年も一緒に暮らしてきて、お店で働いてくれる子たちも増えてこのお店も有名になって普通に黒字でお店を回せるようになったんだよね。それからももちろん営業努力は欠かさなかったわけだけどその裏ではさくらさんが私のことをずっと支えていてくれてねもうさくらさんってば普段は私のことを好きとかあんまり言わないのにふとしたタイミングで甘えてきたり好きだって言ってくれたりするからもう私骨抜きにされちゃってね。まあもう骨なんて残ってないと思うじゃない? でもいくらそう思っていても骨は次から次に抜かれて行っちゃうんだよね。いったい私の身体のどこにこんな量の骨が隠れてたのかってくらいにさ。でもしょうがないよねさくらさんかっこいいんだもん。タイミングはいいし最悪の状況になりそうなときは助けてくれるし頼りになるしでも完璧すぎないからお世話のし甲斐があるし―――」

 

 ひたすらに続くなのはの話に、はやては冷や汗をかきながら己の失敗を悟った。これ、きいちゃあかんやつやった、と。

 結局なのはの話は終わることなく朝を迎え、ひたすら語り続けたのにむしろつやつやしているなのはと、妙にげっそりとしたはやて。そして若干二日酔い気味になっているアリサ、すずか、フェイトの三人の姿があったそうだ。

 

「あ、話の続きはまた今度するからね?」

「勘弁してぇな」

 


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